氷男対水女
―高校校門前―
番長と叶
「水が氷に勝てるものか。」
「あら、それは分からないわよ?」
叶はくすくすと笑うが、番長は余計にいらついくばかりだった。
「あたしの水で全て流してあげるわ。」
「俺の氷で全て凍ってしまえ。」
番長は少しだけ合間をとって、叶がどんな攻撃を仕掛けてくるのか様子を見る。一方叶も番長の様子をじりじりとうかがっている。しばらく2人だけのにらみ合いが続く。
「お馬鹿さんね。」
「・・・?」
にやっと叶が笑った。
その笑みに番長は、はっとして背後を振り向いた。そこにはこぽこぽと水柱があり、今にも番町に襲い掛かろうとしていた。
「ちっ。」
瞬間、ぱきっと音がしてそれが凍る。
「これは囮か・・・!」
と、叶の姿を探すが見当たらなくなってしまった。番長は全ての感覚を研ぎ澄まし、叶の気配を察知しようとする。と、耳にわずかな水の音が聞こえてきた。
「そこか!」
びゅっと氷が投げられるが、番長の当ては外れて校門に氷が突き刺さった。
苦い顔をしたが、目は叶を探してる。
「鈍い子ねぇ。」
「っ・・・!」
叶の声がしたかと思うと、番長の足元に水がたまり出した。凍らせようとしたが、時に遅く、水は人の手の形のように変形し、番長の身体を掴むと、そのまま地面に押し倒した。
「かはっ!」
水の癖にありえないくらいの重さが伝わってくる。
番長は慌てて水を凍らせようとするが、首元を叶のヒールが踏みつけた。
「う゛、ぁ・・・っ。」
たでさえ、水で呼吸も苦しいというのに、余計に呼吸がしずらくなった。もがいていると、すっと叶が足を乗せたまま顔を近づけてきた。
「所詮は子供、ってとこかしら?」
ぎりっと足をひねると番長は咳き込んだ後、苦しそうに呼吸を繰り返した。額には脂汗が浮かんでおり、力の入っていない手で足を掴んだ。
「あら?抵抗のつもり?可愛いわね。」
にっこりと叶は微笑むが、それとは裏腹にさらに首に体重をかけた。
「ひ・・・ぐっ!」
ひゅっと喉の奥から悲鳴が漏れた。
「もう終わりなのかしら?このまま窒息するまでこうやってるのも何だし・・・さっさと終わらせる?でもそれも楽しくないわよね?」
「・・・!」
番長は精一杯叶を睨みつける。
「何その目は?」
今まで笑顔だった叶の表情が一気に冷めた。
「あたしはね、弱い癖そう強情で威張ってる奴が大嫌いだわ。弱い奴は弱い奴で、強い奴にひれ伏して大人しくしていれば良い。なのに何故あなた達は必死になるの?」
「お゛・・・っ。俺、は!・・・かはっ!」
番長は口元を吊り上げて叶を罵るように続けた。
「弱く、なんか・・・な、い・・・・っ!」
「今にも意識が飛びそうになってる子の言い訳かしら?」
「貴様の言っていることは・・・!所詮。負け・・・っ、惜し、みだ。」
ぴくっとその言葉に叶は反応した。
「負け惜しみ、自惚れ、勘違い・・・・全て貴様に当てはまる・・・!」
すると、自分を押さえつけていた水の手がぎゅうっと番長を地面に押し付けた。
「あ―っ!」
みしみしと骨が悲鳴を上げている。
「もう面倒くさくなってきたわ。これで終わりにしましょう。」
ぱしゃり、と叶の右手に水の塊が出来、それは鋭い刃となった。
「楽に逝かせてあげるわ。」
「愚か者・・・。」
番長が嘲るように言った。
叶は首を傾げたが自分の足に異変が起こっていることに気づかない。
「愚か者はあなたよ。」
と、番長の首を踏んでいた足を一気に振り下ろした。
「ぐ・・・ん゛っ!!?」
どっと鈍い音がし、番長の喉が潰された。口にごぽっと血が溢れたが、すぐにそれを吐き出す。
「っ?」
それと同時に叶はぐらっと体制を崩して前に転んでしまった。そのすきを狙って番長は喉を押さえながら、水の呪縛から逃げた。
「がはっ!ゴホッ、ゴホッ!」
かすれた声に大きく咳き込む中、叶をじっと見つめていた。
叶は何故自分が倒れたのか分からないのできょとんとしている。そして立ち上がろうとするのだが、立ち上がれない。そこで叶は初めて気づいた。
「あぁっ!」
ぎょっと目を見開いた。自分の足が片方砕けていた。
「あ、足が・・・・!足があっ!」
番長は自分の首に置かれていた足を凍らせておいたのだ。すぐに凍るわけではなく、じわじわと凍り始めていく。そして叶はそれに気づくことなく、もろくなった氷の足を力いっぱい踏みつけたのだ。凍っていた部分は全て氷になって砕け散っていた。
まだ生身の足からは驚くことに血は流れていなかった。そのかわりに叶に激痛が走った。
「いたあアァッ!くそっ!くそっ!」
「んぐっ、ゴホッ・・・。馬鹿、め・・・。」
番長は最初に自分の声が予想以上にかすれていることに驚いた。
「何っ!何で凍っていくのよぉおっ!」
砕けた足からじわじわとだが、叶の身体が凍り始めていくのだ。血管を凝結させ、筋肉と脂肪と順番に凍っていく。
「嫌っ!」
氷を溶かそうとしたのか、水を自分に覆いかぶせるようにした。
待っていた、と言うように番長が少し哀れな目を向けた。そして自分の氷を溶かそうと必死な叶の腹に手を当てた。そして呟く。
「凍れ。」
「・・・い・・・。」
叶の言葉が途切れ、水を被った叶は全身が氷付けになって動かなくなってしまった。
「もし・・・その中で生きていれば・・・水で溶かせるだろう?」
かすれた声で氷付けの叶に語りかけるが、当たり前だが返事は返ってこない。
「自分のしてきたことの天罰だ。」
と、再び氷に手を触れるとそれは粉のように細かく砕け散った。
「もろいな。」
さらさらと消えていく叶を見ながら番長は呟く。
「もろい・・・。」
気づくと行く手を塞いでいた水柱が消えている。番町はすぐに身をひるがえして学校へと向かった。
―商店街―
砂時と青山
「1度はテメーと戦ってみたかったんだ。腕が鳴るぜ?」
「ま、せいぜい俺を楽しませて下さいよ?」
その後、激しい打ち合いが始まった。砂時は両手の細長い針で、青山は腕の刃で。激しく打ち合うと時折火花が散った。
しかし、砂時の方が力が強いのか青山は押され気味である。にもかかわらず、青山は不敵な笑みを浮かべている。
「よっと。」
「おっとっと・・・。」
互いを弾いて、やっと金属音が止まった。
「このまま戦うのは面白くないっスよねぇ・・・。」
「?」
「じゃあちょっくら、あんたの友達にでも変身するっスか。」
ひらっと青山が身をひるがえすと、そこに立っていたのは青山ではなく桜だったのだ。服は黒スーツのままだが、顔と身長までが全く同じだ。
「これでどう?」
声までもが桜と同じである。砂時は一瞬ひるんだが、青山が細胞人間であることに気づく。
「外見はそれでも、中身は違ぇだろうが。そんなんで俺が動揺すると思ったら、大間違いだぜ。」
「そうっスか?」
声は違うが、しゃべり方は同じだ。
「ま、やってみるっスか。」
刃が生えたままの腕を砂時に向けて突進する。それを砂時は5本の針で受け止め、再びあの激しい打ち合いが始まる。
「・・・。」
こうしていると、何故か本当に桜と戦っているような気がしてきた。錯覚だろうが、青山は本当に桜になりきって戦っているため、仕草や癖なども一緒に出ていた。
「所詮はテメーは男だろうがよっ。」
と、足で青山の腹を蹴ると大きく針を振るった。すると、青山がにやっと笑い桜の声で叫んだ。
「砂時!止めて・・・っ!」
「ぁっ?」
そのためか反射的に振り上げた手が止まってしまう。
それを見逃さず、青山は身体にひねりを入れながら足で砂時のわき腹を蹴った。ばきっという音ともに、砂時はそのまま地面に叩きつけられた。
「ち、ちくしょう・・・テメー・・・卑怯じゃねぇか・・・。」
「ゲームに卑怯もくそもないっスよ。使える手段は使っておかないと。」
ぺっと血の含んだ唾を吐くと、砂時は立ち上がった。
「もう容赦しねぇぜ。」
「どうっスかね?」
青山は以前として余裕の表情をしていた。
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