突然の再開
ここは街角の喫茶店『秘密の穴』。
砂時が経営する地味に人気のある場所である。しかし、今は昼前だというのに、扉の前には『準備中』の札がある。
そしてカウンターには、本来客が座るべきばしょに、砂時はぐたっとしていた。シャツは床に脱ぎ捨て、足は氷水につけている。
「あっつい・・・。」
確かに喫茶店だというのに、むっとした暑さがこもっている。ただ単にクーラーが壊れたのだが。
するとちりん、と客の知らせの小さな鈴が鳴った。
「店主、夏バテ中につき本日営業終了ー。」
ぐったりと手を上げて砂時が言う。
「もう何してるの?」
「あん?」
振り返ると、そこには呆れ顔の桜が立っていた。
そして上半身裸の砂時を見てうげっと顔を歪ませる。
「ちょっと服着なよぉ。だらしないなぁ・・・。」
「暑いんだよ。冷房の野郎が俺を裏切りやがった。」
「もー何言ってるの。」
呆れながら、桜が床に落ちているシャツを拾い上げた。
「クーラーが壊れたなら修理に来てもらえばいいじゃない。それと窓開けなよね。」
砂時は何も言わずにひらひらと手を振った。
「後もう少しで番長も来ると思うから・・・。」
「本当か。よし、でかい氷を作ってもらうぞ。」
椅子を引っ張って桜は砂時の隣に座った。
「で、我妻リコはどうしたんだ?あれから。」
「とりあえず家に帰るって。普通に良い子だったよ。」
「ぬいぐるみはどうしたんだ。」
「あぁ・・・それはちゃんと持ち主に返してきた。」
+++
桜はリコと別れた後すぐにゾーンの作り主、雫の所へと向かった。
ぐったりとしたぬいぐるみを手渡すと、雫は大切そうにそれを抱きしめた。
「あなたを憎むようになったのは『D』にそそのかされたせいらしいの。」
「じゃあ・・・あたしのせいじゃないのね?」
桜が頷くと、雫は安心したように堅かった表情を和らげた。
「あたし、自分で作った子に嫌われたら・・・すごくショックだもの・・・。でも良かった。もう自分の身代わりなんかにしないからね・・・。」
いつもは気丈な態度の雫も、ゾーンに対しての態度は柔らかかった。桜に笑顔を向けられていることに気づくと、雫は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「ま!あんたには感謝してるわ!ありがとう・・・。」
「どういたしまして。」
「これからデッドゲームを続けるのね。せいぜい死なないように頑張りなさいよっ。」
+++
「テメーもお人よしだなぁ。そいつにカード返せば良かったじゃねぇか。」
「別に良いよ。苦痛じゃないしさ。」
苦笑しながら桜が言う。
するとちりんと音がして中に鈴華が入ってきた。
「お久しぶりね。」
「鈴華さん!」
「あんたも来たのか。」
砂時は顔だけ少し上げて鈴華の姿を確認した。むわっとする空気に鈴華は顔をしかめながらも、近くにあった椅子を引き寄せて座った。
「ここに来たらいるんじゃないかと思いまして。」
「研究所以来会ってないけど、元気だった?」
「ええ。桜ちゃんも元気そうね。」
鈴華は嬉しそうに微笑むと、鞄からシンプルな花柄の扇子を取り出し、自分を仰いだ。
「最近全然『D』から音沙汰ないですわね。」
「出来ればずっとこのまんまで良いぜ?」
砂時が珍しく大きな溜息をついた。
「そういや桜。砂依に頼んでみたけどよ、長瀬の行方は分からなかったらしい。」
あ、と桜は思い出す。
白崎の話を聞いて、もしかしたら長瀬からもっと詳しい話が聞けると思ったのだ。だがどこにいるのかさっぱりだったので、砂時から情報屋の砂依に頼んで探してもらった。
しかし、成果はなし。桜は表情にこそ出さなかったものの、内心がっくりと落ち込んでいた。
「長瀬冬夜さんは・・・桜ちゃんのお兄さんなのよね?」
「うん・・・。そうみたい。」
早く会って色々聞きたい。
桜は何とか次のゲームが始まる前に長瀬に会っておきたかった。
「ま、見つからなかったもんはしょうがねぇ。同じ場所に住んでんだから、いつか会えるさ。」
「うん。ありがと、砂時。」
砂時はにやっと笑うと、椅子から立ち上がった。カウンター側に回るとそれぞれティーカップを用意し始めた。
「アイスティーで良いよな?」
「お願いするわ。」
「あたしもそれで良いよ。」
熱い熱いと言いながらも砂時はせっせと手を動かしてアイスティーを作り始めた。
「そういえば、水崎さんの教会にシズ君が現れたらしいのよ。」
「えっ。そうなの!?」
「よく分からないのだけど、教会が全壊状態でね。あたしもさっき片付けを少し手伝ってきたの。」
「ふうん。水崎さんも大変だなぁ。」
「良い気味だ。」
聞いていたのか、砂時が鼻で笑った。
「おら、出来たぞ。」
「ありがとう。」
白いティーカップが置かれる。
砂時はそれを一気に飲み干し、大きく息をついた。桜と鈴華は苦笑しながらアイスティーを口に運んだ。
「桜ちゃん。前に上手く超能力が使えないって言っていたけど、今は制御できるようになったのですか?」
「あー・・・。」
考えてみれば、まだまだコントロールが足りないと思う。瞬間移動はどうにか上手く使える。念力もそれほど大変ではなくなってきた。が、ほかのものがいまいちというか、全然駄目だった。
曖昧な返事をした桜を見て砂時は提案を出す。
「何か物を相手にして練習してみれば良いんじゃねぇの?」
「物かぁ・・・。」
「その辺の石とか。」
練習などしたことがないが、そう言われると何故かやる気が出て来た。紅茶を飲み干すと桜は意気揚々と立ち上がった。
「あたし練習してくる!」
「テメーはいつも突然だな・・・。」
「砂時!アイスティーありがとう!鈴華さんまたメールするね!」
「気をつけてね。」
鈴華はくすくすと笑いながら、喫茶店を飛び出して行った桜を見送った。
「相変わらず面白い子ですわね。」
「退屈はしねぇよ。」
+++
「まずは石を置いてと・・・。」
桜は人気のない公園にいた。ベンチに小石を置き、少し離れた場所に立つ。
「よし!頑張るぞ!」
1人で意気込みを入れて構える。
「サイコキネシス!」
と、手を突き出し、目の前の小石に向かって叫んだ。
しかし、何も起こらない。
「ねえ、あのお姉ちゃん何してるのー?」
「見ちゃ駄目!」
しかも、ずっと親子が桜の様子を見ていたらしい。桜は急に真顔になり、ベンチにうな垂れるように座った。
「あ、あたしは・・・何て恥ずかしいことを・・・。もう高校生なのに・・・。」
小石は浮かばずに、かなりの醜態をさらしてしまった。
恨みがましい目で小石を見て、つんと指先でつつく。
「あそこは浮かばなきゃ駄目じゃないのよー。」
するとわずかながらに小石が浮いた。
「こういう時ばっかりだなぁ。肝心な時に使えなくなったらどうしよう。」
浮かんでいる小石を横目に桜は溜息をついた。
するとミントのような香りが風とともに吹き抜けた。するといつの間にか桜の前に、1人の青年が立っていた。
「・・・久しぶりだな・・・。」
「な、長瀬さん・・・・?」
腰にはトレードマークの刀。
長瀬がいつもの通り無表情でそこに立っていた。桜は突然のことに、ぱちくりとして長瀬を見つめていた。浮かんでいた小石がこつんと音を立てて落ち、それで桜は我に返った。
「どうして・・・。」
「どうしても・・・話しておきたいことがあった。時間は大丈夫か?」
桜はすぐさま頷いた。
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