勝者は桜と水崎
「く・・・っ。私としたことが、油断してしまった・・・。」
シャルルが気づいた時には、目の前が真っ暗になっていた。あの強い閃光のせいで、一時的に視力を失ったらしく、目の奥がずきずきと痛んだ。だが、身体が消えなくて良かったと思う。こうもり達は閃光によって消えてしまったらしく、辺りはしんと静まり返っていた。
「・・・神父よ!どこにいる?!」
視界が晴れないままシャルルは立ち上がった。
「うっ!ゴホゴホッ!全くあの人も無茶するよなぁ・・・。」
シズの声が聞こえた。シャルルは声がする方に耳を向けた。
シズは入れられていた小部屋からやっと脱出していたのだ。瓦礫のせいで出れなくなっていたらしい。時々咳き込みながら瓦礫をかき分けて前に進む。
「シズ。」
「あ・・・。シャルル・・・生きてたんだ。」
やっとシャルルの視界が晴れてきた。
「さすがというべきか・・・吸血鬼はちょっとのことでは死なないんだね・・・。」
感心した声だが、やはり恐怖が少し入り混じっていた。シャルルは表情を崩さず、無言のまま視力が回復するのを待った。
「やっぱり・・・心臓刺さなきゃ死なない?そもそも吸血鬼って何で死ぬんだっけ・・・?」
「強い光とは、あの神父も考えたな。だがそれだけでは私は死なん。」
牙をかっと開き、目を真っ赤に染める。爪も牙と一緒に伸び、その姿にシズは恐怖した。
「ま、また僕を・・・殺す気なんだねぇ・・・。」
「今度は血を全て吸い尽くしてやる。痛いのは最初だけだ。」
やっと回りが見えるようになってきた。
するとシャルルは驚愕の表情を浮かべた。自分を取り囲んでいたのは、ひたらすら緑、緑、緑、緑・・・・。
化け物のような花を咲かせた植物、まさに植物園と化していたのだ。
「お目覚めになられましたか?」
丁度、キリスト教の前に水崎が立っていた。顔は青白くなっていたが、笑みはそのままである。
「これ、気持ち悪いんだけど・・・。」
「おや、そうですか?美しいではないですか。」
「僕の趣味じゃないね。」
やれやれとシズは溜息をついた。
「貴様・・・。」
「吸血植物達です。あなたはどう戦いますか?」
ふふ、と笑いながらぱちんと指を鳴らした。すると今まで静かにたたずんでいた植物達がシャルルに牙を向いた。
「くっ!私に勝てるものか!」
シズの言った通り、さすがシャルルは素早い動きを繰り返し、植物達を切り裂いていく。
シャルルの戦う姿を見て水崎は満足そうに微笑む。それを不思議そうに見ながらシズが、瓦礫の山を登り、水崎に問いかけた。
「どうしてひとおもいに殺さないのさ。」
「あの方は・・・わたくしのコレクションにふさわしいと思ったからですよ。」
「コレクション?」
「黄金色に輝く髪。青いほど透き通った白い肌。閑静な顔立ち。すらりとした身体。」
明らかにシズは引いていた。顔を引きつらせて、わざと水崎の声を聞かないように務めた。
「神父のくせに・・・変態・・・なんだ・・・。」
「いえ、変態ではなくわたくしの趣味ですので。」
「なおさらキモいよ!」
水崎は怒りもせずに微笑んだ後、シャルルに目を向けた。
「では・・・そろそろ美しく散っていただきましょうか。」
一粒の種を取り出し、それをシャルルの足元へ投げた。
「んっ!」
床にその種が触れた瞬間、2つに裂けてそこから緑色の蔦が飛び出た。そしてシャルルに絡みつくと、そのまま縛ってしまった。バランスを崩したシャルルは仰向けに倒れこむ。
「わたくしの勝ちですよ・・・吸血鬼シャルルさん。」
「がぁっ!」
その蔦は鋭い棘があり、それが全てシャルルの身体に突き刺さった。するとゆっくりとだが、そこに白い薔薇がいくつも咲いた。
「あ・・・っ。」
その突き刺さった棘はシャルルの血を飲んでいた。シャルルの血を飲むたびに、白い薔薇と蔦が赤く染まった。
「・・・ふ、ん・・・・所、詮は神には・・・勝、てんというこ、と、か・・・。」
シャルルは諦めたように言った後、静かに目を閉じた。
シャルルの身体にまとわりつく蔦と薔薇が完全に真っ赤に染まった頃、シャルルはぴくりとも動かなくなっていた。
「安らかに眠れ・・・。Amen。」
十字架のペンダントを握り、十字を切った。
シズは静かに無表情で、シャルルを見つめていた。
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「これは貧血用、これは精神安定剤。必ず食後に2錠。飲んで下さい。」
「分かったよ。色々世話になったね、えせ神父。」
手厳しい、と水崎は笑った。
もはや全壊という名にふさわしい教会の前でシズは、貰った薬箱を鞄の中にしまった。
「どこへ行かれるつもりなのですか?」
「さぁ・・・。どこにでも・・・。今は『D』達に見つからないように隠れなきゃ。そういえば、シャルルはどうしたの・・・?」
真面目な顔つきのシズを見て水崎は笑顔を向ける。
「墓地に丁重に埋葬いたしました。」
「コレクションにするんじゃないの?」
「ばれたら、桜さんに殺されるかもしれませんからね。」
長谷川ね、とシズは苦笑した。
「じゃあ・・・僕はもう行くよ。あんたがお人よしで良かった。長谷川によろしく。」
「ええ。あなたも気をつけて。」
シズは軽く手を振った後、人間の少年とは思えぬ足の速さでその場を立ち去った。
残された水崎はぼろぼろになってしまった、自分の教会を見た。
「さて・・・後片付けをしましょうか・・・。」
箒を片手に、水崎は扉がなくなった教会へ入り、掃除を始めた。
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