新たな事件
電車に揺られながら、桜はぼんやりと窓に寄りかかり、外の景色を眺めていた。まだ永遠と青々しい田園が続いている。帰りはきっと深夜になるだろう。
「疲れた・・・。」
だが、色々なことが知れた。帰ったら砂時にでも話してしまおうと、考えていると鞄の中の携帯が震えた。メールがいくつも届いており、どれも砂時や番長からだった。
「どうしたんだろう?」
ぱちぱちとボタンを押してメールを開く。が、どれも同じ内容だった。
『テメー今どこにいる?!見たらすぐメールしろ。我妻リコが動き出したぞ!』
『姐さんへ。我妻リコの襲撃だ。姐さんを探しているが、気をつけろ。見たらメールしてくれ。京一より。』
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水崎はいつものように、教会庭の植物の世話をし終わり、中に戻って来た。すると、キリスト教の前に誰か立っていた。
「・・・珍しいお客様ですね。」
「・・・。」
その人物ががゆっくりと振り返った。
「確か・・・シズさんと?」
「そういうあんたは水崎悠也だね。」
人懐こく笑うのはシズだったのだ。水崎は特に驚いた様子も見せず、こつこつとシズに近寄る。
「何か御用でしょうか?」
「ここは・・・教会なんだろ?」
「ええ。」
するとシズはほっとしたように、そのままそこに座り込んでしまった。
「どうされたのですか?確かあなたは・・・研究所にて・・・。」
「死んでなんかないさ。僕は自力で逃げ出したんだからね・・・。あんな場所で死ぬのはごめんさ。長谷川は?」
「今は不在です。」
「何だ・・・いないのかよ。助けてもらおうと思ったのに・・・。」
「わたくしでよければお力になりますが。」
「あんたも相当お人よしだね。元々敵だった僕にそんなこというなんてさぁ。本当に馬鹿だね。もしかしたら・・あんたを殺そうと企んでるかもしれないよ?」
にやり、と笑うシズに水崎はにっこりと笑顔で返す。
「教会へ来た方を追い出すようなまねはしませんし、その力になるのが神父の役目です。今日はどうされたのですか?また誰かを惨殺したのですか?それとも・・・どこか怪我でもなさっているのですか?」
「話は後でするからさ・・・ここ、血が止まらないんだ。どうにかしてくれる?」
見るとシズの首からは血が流れており、それでジャージを赤く染め上げている。
「まずはお座りなさい。」
シズはゆっくりとした足取りですぐそばにあった長椅子に座った。水崎はその前にかがむと、懐から1つのケースを取り出した。その蓋をかぱっと開けると青色のジェル状の薬がそこにあった。何となく甘い香りがする。
ハンカチでシズの血を拭き取り、その青色の薬を素早く塗りつける。
「痛ッ。」
「我慢して下さいね。」
すました顔でそれを続け、一通り塗り終わった後、3つの錠剤をシズに差し出す。
「何これ。」
「飲んでおくとよろしいですよ。貧血の薬ですから。」
「普通3錠もいる?」
不思議そうにしながらも、それを水なしで飲み込む。
「それで・・・誰に追われているのですか?」
「何だ、分かってたの?」
「ええ。」
シズは苦笑しながら言う。
「シャルルに追われてるんだ。」
「シャルル・・・。」
水崎は頭の中でシャルルという人物を探す。
「あの金髪の長身の女性ですね。」
「そうだ。僕を殺そうと追いかけてきてる。ねぇ、あんた強いでしょ?助けてよ。」
半分笑いながらも、その目はすがるような色が混じっている。水崎は迷わず頷いた。
「困っている方を放ってはおけないでしょう。」
「ふふん。」
するとシズはぶるっと身震いをした。
「きた!きたよ・・・!」
「・・・囲まれてしまいましたね・・・。」
水崎は教会の十字架が飾られている小部屋にシズを入れると、自分は何食わぬ顔でキリスト教の前に跪いた。そして首の十字架のペンダントを握り、
「神よ・・・どうか哀れなる民人を救いたまえ。黒き悪魔よりお守り下さい。確かに愚かな行為を繰り返し、たくさんの人間の命を奪いました。ですが、彼もまた、哀れな人間なのです。どうか、彼の罪を許し、悪魔よりお守り下さい。Amen。」
十字を切った瞬間、全ての窓ガラスが割れ、そこから大量の黒いこうもりが中に入ってきたのだ。あっという間に水崎は囲まれたが、笑顔を崩さなかった。
聖書の1枚ページを破くとそれを回りに撒き散らす。破れたページは床に落ちて、強烈な香の匂いを発する。
「祈りは終わったか?教会の神父よ。」
そのこうもりの大群から吸血鬼、シャルルが姿を現した。
「あなたはシャルルさんですね?神聖なる教会に何か用でも?」
「シズがいるはずだ。どこにいる?」
「さぁ?そんな方は来ておりませんが。何かの間違いでは。」
シャルルは鋭い目つきで辺りを見回す。それと同じくこうもり達もせわしなく動き回っている。
「・・・香で匂いを消したな。」
「何のことでしょう?」
「とぼけるな。・・・鼻が効かない。」
シズの匂いを追っているのだろうか。水崎がさっき散らした聖書の香の香りで分からなくなっているのだ。そのすきに水崎は、シズを隠した小部屋の前にこっそり移動する。
「ここにはいないと言ったでしょう?用がないなら、この黒い悪魔を連れて立ち去りなさい。」
「・・・いや、1つだけ匂いが違うのがある。」
水崎は表情こそは崩さなかったものの、手汗を握ってしまった。
「・・・この香の香りとは違う。薬の匂いがする。」
「・・・。」
しまった、と水崎はますます小部屋のドアに背中を押し付ける。先ほどシズにつけた薬の匂いを嗅ぎ分けられてしまった。
「私に嘘をついても無駄だ。お前は神父だというのに、神の御膳でよく嘘をつけるな。」
「罪なき人間を守るため。神もお許し下さるだろう。」
ペンダントを握り十字を切る。
「何故シズさんに執拗に執着するのです?」
「シズの失態を拭うのは私だ。部下の私が責任もってシズを葬らなければいけないのだ。」
「シズさんはそれを望んでいないようですが?」
シャルルは顔を伏せた後再び水崎を見る。
「これはシズを助けることにもなる。」
「助ける、とは?」
「シズは精神病を患っている。それにシズも苦しんでいるはず。だから私がそれを取り去ってやるのだ。」
「精神病と・・・。やはりそうでしたか・・・。ですが、その心配はもうありませんよ。」
「・・・?」
「先ほど、貧血の薬と精神安定剤を与えました。彼の場合は昼から夜。つまり8時間の間だけ精神が安定性を失い、殺人欲が抑えられなくなる。ですが、その薬を与えることによって、それは抑えられます。」
笑顔を浮かべて水崎は続ける。
「それに、正式に『地獄遊戯』は解散したのですから、あなたが責任を負う必要はないと思いますが、どうでしょう。」
「・・・そうか。だが、私は綺麗に片付けないと気になってしまうのでな。」
こうもり達がぶわっと水崎を囲む。
「どうやら、あなたを止めねばいけないようですね。」
聖書を持ち直し、水崎は走り出す。
「追え。」
シャルルはこうもり達に指示を出し、こうもり達は水崎を追いかける。それにシャルルもゆっくりと続く。
「どこへ行くつもりだ。」
「わたくしの庭へ。」
水崎は反対側にあるドアに手をかけようとした。すると背中に大きな衝撃が走る。
「くっ!」
背中にこうもりが喰らいついたのだ。慌ててそれを払い除けるが、少量の血を吸われてしまったと確信した。
「吸血こうもりとは・・・。」
「最も気高い生き物だ。血を吸い、満月夜の空を飛ぶ黒。」
「あいにくですが、わたくしは悪魔の翼を持つ生き物は好きませんね。」
「何とでも言うがいい。」
ぱちんとシャルルが指を鳴らすと一斉にこうもり達が、まるで黒いカーテンのように水崎に襲い掛かった。
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