暗い部屋
「『植物園』に行ってないだと?駄目だ!ここは通さんぞ。」
「ちょっと何でよ!ただでさえ、遅れてるっていうのに・・・。」
「『暗い部屋』に入るには『植物園』を経由してから来い。それ以外の入室は認めん!」
暗い部屋に到着したものの、部屋の前には黒スーツの男が立っており、行く手を塞いでしまっていた。どうやら植物園の階にも行かなくてはいけなかったらしい。
「デモ・・・そんナのルールに無カッタよね。ヒョヒョヒョ・・・!」
「そうだよっ!」
「決まりは決まりだ!」
そう言い張る黒スーツに2人は顔を見合わせる。
「お兄サンって何歳?。」
「何だ、急に・・・。」
柳はにこにこ笑いながら続ける。
「イイから答エて。」
「27だが・・・。」
「じゃあ全然大丈夫かナ。三十路越えちゃウと結構不味くナルんダよー。」
黒スーツは何を言っているのか分からない、という表情をしていたが、桜には柳が言う言葉の意味がしんしんと伝わってきた。
「この子・・・人肉鬼だから・・・。食べられない内にそこ開けて下さい。」
「な、なにっ。」
黒スーツは動揺したようで、何かメモのような物を取り出し、さっと顔を青ざめさせた。そしてすぐにご丁寧にドアを開けてくれた。
「親切な人でよかったネ。」
「う、うん・・・。」
入るとすぐに後ろでドアが閉まった。
「うわ・・・ここ何?」
「機械ばっかり・・・。」
病院の中とは思えぬ場所だった。どこかの機械工場かと思うほど、広く、たくさんの機械が置かれている。無駄に広いが足元に転がっているコードが邪魔である。少し薄暗いが、それのせいで不気味さを感じる。
「ナガタニガワサン。見て!」
「あっ。もしかして屋上の階段?」
あえて柳には突っ込まずに言う。部屋の端には非常階段らしき物が見える。そこへ向かおうとした時、かつん、と杖をつく音が聞こえた。
「ちょい待ちなァ。そう簡単に上へ行かれちゃ困んだよなァ?」
「あ・・・!井口!」
杖をつきながら現れたのは井口であった。すると隣の柳がぶるっと震えた。
「和響君・・・?どうかした・・・?」
「ヒョヒョ・・・!」
ぶるぶると震えながらも笑っている。怒りで震えているのか、恐怖で震えているのか、桜には分からなかった。
「おっとォ、柳和響か?久しぶりだぜぇ。」
「知ってるの?」
すると柳はカプセルが大量に入った小瓶を取り出すと、中のカプセルをわしづかみし、井口へと投げた。カプセルは2つに割れ、中の液体が降り注ごうとした。しかし、井口は慌てた様子を見せずに不敵に笑った。
白杖を振り出すと、それに触れた液体はいくつにも分かれて床に滴り落ちた。
「甘いぜえ?俺ァ物質を結合させることも出来るが、物質を切り離すことも出来んだぜィ。それが『人形師』ってもんだろォ。」
「だ、黙れッ!」
柳が初めて取り乱したように叫んだ。が、笑顔はやはりそのままだ。
「和響君?」
「おい柳ィ。そっちの嬢ちゃんに自分が何やってきたか・・・教えてやんなァ。」
柳はすがるような目を桜に向ける。
「ちょっと井口!和響君が何したっていうの?」
「ふふん。そいつはなぁ、昔俺の金稼ぎ道具だったんだよ。」
「金稼ぎ・・・?」
にやっと笑ってから井口は続ける。
「見世物小屋って知ってるかィ?偏屈な人間が集まって観客を楽しませる、ちょっとした小屋だ。そこにな、こいつを売ったんだ。両手両足を切り離してなァ。」
「えっ。」
桜は驚いて柳を見た。手足はちゃんとあるし、動いている。
「手足を切ってそれを売りにするんだよなァ?その笑い方も客を楽しませるためだろぉ?」
「・・・っ!」
「で、違法で捕まりそうになったから、またくっつけてやんだんだ。その夏なのに厚着してんのは、結合部を見られないようにだろォ?」
「ヒョヒョ・・・!」
「和響君・・・。そ、そんなこと!今の和響君には関係ないでしょ!今更過去を掘り返すようなことしないで!」
すると井口は声を上げて笑った。
「お前さんもつくづく親切な姐御だねェ。」
「よ、余計なお世話・・・。」
「だがなァ、そいつにとっては過去は過去でも消せないんだよなァ。」
井口が柳にそう語りかけると柳は素直に頷いた。
「言うようニ・・・ボクにとっては消せナい過去。だカラ井口を殺しテ全部忘れてやル。」
「やれるもんならやってみなァ?おっと・・・その前に新しい同士を紹介しとくぜぇ?」
「同士?」
井口がかつん、と白杖を叩くと機械の間をすり抜けて、1人の男が2人の前に現れた。その男を見て、桜は絶句した。
「や・・・山田、さん・・・?」
山田広海、『コロシアム』で負けてゲームオーバーになった『雷男』だ。
桜は驚きでそれ以上何も言えずに、ただ呆然としていた。
「あん時はこいつは傷1つついてなかったしな、折角だから入れてやったってわけ。だよなぁ?」
「・・・は、はぁ・・・。」
やはり頼りなさそうな表情で頷いた。まだ髪を縛っているために裏の性格ではないようだ。
「上に行きたきゃ・・・こいつを倒してから行きなァ。ヘリの鍵を持ってるのもこいつだしな。」
そう言って井口はさっと背を向けた。
「チョット・・・!待・・・!」
「わっ!和響君!」
いきなり柳が走り出したので、桜手錠を引っ張られて前のめりに倒れた。
「あ・・・ッ。大丈夫?」
「う、うん・・・。」
視線を前に戻すと井口はもうそこからいなくなっていた。桜の前で柳は悔しそうに唇を噛み締めていた。
「和響君・・・。」
するとばちっという音がし、すぐ横の床に大きな焦げが作られた。それが山田の仕業だと知ると、桜は驚きの顔のまま山田に問いかけた。
「どうして・・・?」
「し、仕方がなかった・・・。従わなければ・・・殺される・・・。」
「でも・・・!河上さんは・・・!」
「彼女は・・・。」
ぐっと言葉につまり、山田は苦々しい表情を浮かべた。
「あの時・・・助けてくれた君には・・・感謝している。本当はそれを仇で返すようなまねはしたくないのです、が。」
ばりばりと近くにあった機械が音をたてた。山田は無言で自分の髪を解いた。
「ここで死んで貰う!」
桜は雷が自分達を狙ってることに気づくと、井口の消えて行った方を見ながら立っている和響を連れて部屋の隅へと避難した。そして桜の予測通り、山田の身体から放出された電気は、機械達を通じて天井へと溜まった。そして山田の合図とともに、上に溜まっていた電気が一斉に降り注いだのだ。
「ヒョッ・・・!」
「きゃっ!」
鼓膜を突き破るような轟音と突き刺すような光。この部屋が吹き飛ぶのかと思うくらい、すさまじい衝撃が襲った。しかし、それはすぐに終わった。うっすらと目を開けて見ると、床全体が真っ黒く変色している。
「・・・和響君・・・大丈夫?」
「ヒョヒョ・・・!」
大丈夫なようだ。まだちかちかする目をこじ開けて、耳鳴りのする耳を押さえながら立ち上がった。
「繋がったままじゃあ・・・上手く戦えねぇだろうが・・・。」
皮肉っぽく山田がせせら笑った。
「お願い止めて!」
「やらねぇと俺が反対に殺されんだよ。ここでやめるわけにはいかねぇ・・・。」
ばりばりと電気の音がする。そしてびかびかと光った雷が直進に桜と柳のもとへくる。
「サイコキネシス!」
ばっと手を前に差し出し、念力を使う。ばちっと雷は弾かれ大きく傾き天井に激突した。
「あっつ・・・。」
しかし桜の差し出した掌は、火傷のように赤く腫れていた。
「チョット大丈夫?」
「え、うん・・・。ごめんね。」
柳は笑いながらまたカプセルを取り出した。しかし今度は青色ではなく黄色のカプセルだ。
「ヒョヒョッ!自分の力に対抗しテみなよー!」
カプセル数個投げつけると、ぱかっと2つに割れてそこから液体が飛び出す。その瞬間、轟音とともにそこに落雷が直撃した。光は山田のより弱いが、収まると山田はもろにそれを喰らったらしく、身体にがわずかに痙攣を起こしていた。
「な・・・っ!ガキ・・、な、なんで・・・。」
「ボクは異端者。何デモ作れる。ヒョヒョヒョヒョ・・・!」
すると山田は理解したように鼻で笑った。
「ま・・・雷を出したことは驚いた。だが俺には効かんぜ。」
先ほどの痙攣が嘘のように直っており、すぐに雷を呼び起こす。
「刺激的に死にな!」
ばりばりと電気がはじける。そのせいでざわざわと静電気が発生し、抵抗をじわっと感じる。
「電気に弱いのって何?!」
「さァ・・・。金属とカ・・・ゴムとか・・・石とかジャナイ?」
「もー!」
悪魔で冷静な柳を引きずって、桜は襲い掛かってくる雷から避ける。ばつっばつっと雷が床に直撃するたびに、そこが黒焦げになった。
「さぁ!俺様の雷を刺激的に喰らいなっ!」
「きゃっ!」
「おひょっ?」
どん、と雷を間近に落とされ、2人はその衝撃のせいで派手に転んだ。
「いったぁ・・い!あ・・・鼻血出た・・・。」
顔を打ったらしく、桜から鼻血が出た。血がべっとりと手についてしまっている。
「ざまぁねぇなあ。」
「っ!」
手で鼻血を拭い、桜は山田に向かって叫んだ。
「よく平気で『D』の仲間になれたね!」
「何?」
「奥さんと子供さんが死んだのだって『D』のせいなんだよ?どうしてなの・・・!」
すると山田はきっと唇を強く噛んだ。
「だったらお前はどうする?!入らなければ殺される!確実にだ!死を目の前にして、断われるのかよ!」
「あたしは絶対にそんなことしない!山田さんなら・・・それが出来るでしょう?」
すると一気に辺りが静かになった。何も音が耳に入って来ない。山田が何か叫んでいるが、ソレも聞こえない。代わりに耳に入ってきたのは、物静かな山田の声だった。
『妻とガキを生き返すなら・・・俺は何でもやるんだ。例え憎いあいつ等の仲間になろうとも、俺は妻さえいれば良い・・・!』
それだけが耳に入って来た。そしてすぐにそれは終わり、耳に普通に音が入ってくるようになった。
「奥さんが生き返る?そうなの?」
明らかに山田は動揺したようだった。思っていたことを口に出されたのだ。
「ごめんなさい。あの・・・読心しちゃったの・・・。」
言うと山田はあぁ、と納得したように俯きながら笑った。あれほど強くな鳴っていた雷の音が自然と止んでいく。
「ソンナことも出来るンだ?すごイネェ、ヒョヒョヒョ・・・!」
「無意識だけどね。」
桜は苦笑いを浮かべた。
そして山田に向き直って再度、問いかける。
「どういうこと?奥さんが生き返るって・・・。」
山田は渋ったように首を横に振ったが、すぐに口を開いた。
「『D』が俺様に言った。仲間になるなら・・・生き返してやるって。」
|