朝に
「さっちんの力は『超能力』だ!」
「は?」
いきなり早朝に押しかけられ、玄関先でそう言われたら誰でもそう言うだろう。
昨日は松田のカードを回収してから、2人で喫茶店に戻った。桜は酷い打撲程度で済んだが、砂時は折れた骨が内蔵を傷つけており、軽傷とは言いがたい状況だった。にもかかわらず、砂時は病院には行こうとせず、自分の部屋で完治させると言い張ってきかなかった。
砂依は何とか病院へ連れて行こうとしたようだが、下手に動くと悪くなるだけなので、放っておくことにしたらしい。
「あのさあ…今何時だと思ってる?」
「午前5時。寝起きも可愛いじゃん、さっちん」
まだ太陽は姿を現していないというのに。桜は疲れたように溜息をつくと、仕方なく砂依を家の中に通した。
「適当に座って。はい、お水」
「えー…。こんだけ? もっとおもてなししてよ」
「馬鹿」
うるさいので緑の野菜ジュースを出してやったら嬉しそうに口に運んだ。
「で、何の用だったっけ?」
「そうそう。昨日はさっちんが帰った後、砂時と話をしたんだ。んで、さっちんの力が超能力だって確定したわけ」
「超能力?」
SF番組や映画でよく聞く言葉だ。
「昨日松田を一瞬で移動させたのはさっちんだ。俗に言うテレポート。瞬間移動能力。超能力者の力の代表とも言える能力じゃん」
「テレポート?」
「聞いたことあるだろ? 一瞬で物を移動させる力だ。」
「そう言われても実感ないな…」
いきなり超能力者だと言われても、桜にはいまいちピンとくるものがなかった。そう言うと砂依はけらけらと笑った。
「能力を持っている人ほど実感なんてないもんじゃん」
「でもね、あたしその力を使おうって思わなかったんだよ。ただ、砂時を助けたくて。それしか頭になかったなあ」
「そう! まず注目すべき所はそこ。それはさっちんがまだちゃんと自分の力をコントロールできてないからじゃん。無意識に力を使っただけ。あの時もしかしたら移動されたのは砂時だったかもしれないんだぜ」
砂依は残ったジュースを一気に飲み干した。
「無意識ってことは日常生活にも少しだけ影響することになるじゃん」
「どういうこと?」
「今はテレポートしか使えないみたいだからいいけど…。自分が勝手に移動しちゃったり、他人を移動させちゃったりするかもしれないってこと」
「え! あたしそんなの困る!」
「しょうがないじゃん。自分の能力だし」
砂依は座っていたソファから立ち上がると、玄関へ向かった。
「だんだんと馴れていくしかないぜ。それまでは頑張って使わないようにしな」
「そんなあ」
「俺はしばらく消えるじゃん。また色々情報を集めてくるからな! じゃ、さっちん元気で!」
「あ、待ってよ!」
慌てて砂依を追いかけたがもう姿はどこにも見えなかった。
「聞きたいこといっぱいあったのに…」
少しだけ寂しい気もした。そして自分が裸足であることに気づき、急いで家の中に戻ろうとした。
「…」
郵便受けの前でふと足を止めて中を覗き込んだ。中にはやはり黒い手紙が新聞と一緒に入っていた。
「また…」
封を開ける。
拝啓
長谷川桜様。
対戦相手の不注意で佐伯直人がルール違反となりました。
あなたの不戦勝ちということで、佐伯直人のカードを同封いたしました。
おめでとうございます。
では、これにて失礼。
その手紙と一緒に佐伯のだと思われるカードが1枚入っていた。
それを握り締め、桜は何も言わずに手紙をくしゃくしゃに丸めた。
「『D』…あなた一体何がしたいの…?」
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