研究所にて&シズ2
「久方ぶりっスね。シキ。」
「こちらこそ。」
嫌味たっぷりに言う青山にシキは、苦笑いを浮かべた。
「つか・・・まぁたあんたっスか?もう会いたくなかったつーのに。」
「いきなり現れて勝手なこと言わないでよね!あたしだってあんたになんか会いたくなかったつーの・・・。」
最後らへんはぼそぼそと聞き取りずらい声になってしまった。
しかし何はともかくシキは間違いなく、青山に殺されてしまうだろう。桜はそう思うとさりげなくシキの前へ進み出た。
「おっと・・・。俺はあんたには用はないんスよ。後ろにいる奴に用があるんス。」
「裏切り者だから?殺すの?」
すると青山は少しだけ驚いたような顔をして、すぐに笑った。
「・・・まあそうっスけどね。」
「悪いが・・・そう簡単に消される俺やないで。」
シキはもう剣を準備していつでも攻撃できる姿勢になっていた。
「シキ!」
「本人も消される気満々のようっスし・・・。あんたも邪魔するなら一緒にここで死ぬっスか?」
ぐっと言葉に詰まると青山は思い出したように言った。
「そういえば・・・シャルル・・・あいつは責任感が強すぎるから、今頃はリーダーのシズの失態を拭っているころだろうなぁ。」
青山の言っている意味が分からず桜は首を傾げた。
「桜、お前シズを探してきてくれへんか・・・。」
「えっ。」
「シャルルはシズを消そうとしてるかもしれへんのや。せやから・・・。」
桜は言い終わらないうちに頷くと、テレポートを使ってそこから消えた。
「面白いことになりそうっスねぇ。」
言いながらシズの身体が変にゆがみ始めた。
「さて、俺もこっから本気でいくっスよ。」
「・・・『細胞人間』が・・・。」
不敵に微笑む青山にシキはわずかに汗をたらした。
一方、
「シャルル!」
桜が叫んだ。
前方にはこうもりに囲まれたシズとシャルルがいた。シャルルは牙をシズに突きたて、シズはぐったいりと抵抗する力を完全に失っていた。
「止めて!」
すぐに駆け寄ろうとしたが、こうもりの大群が襲い掛かる。
「邪魔!」
するとぎーんという耳鳴りに近い音が廊下に響いた。
「んっ?!」
その音を聴いたとたん、こうもり達は方向感覚を失ったように、じぐざぐと飛び、シャルルは頭を押さえてうずくまった。
「シズ!」
支えが無くなったシズを桜は急いで抱きとめた。顔を見ると生気がなくなったように、真っ青になっている。身体も驚くほど冷たいし、虫の息となっていた。
「今、何を・・・。」
頭を押さえながらやっとのことでシャルルが起き上がった。額には脂汗が浮かんでおり、呼吸も荒くなっていた。
「超能力の1つ、テレパシー。というより、超音波に近いと思う。あなたはこうもりと同じみたいだから効いたでしょう?」
「・・・ふん。」
その間にもがらがらという音は止まない。ここもそろそろ崩れてしまうだろう。
「ねぇ、どうしてこんなこと・・・。」
「シズはリーダーだ。リーダーの失態は部下である私がとらなくてはいけないのだ。」
「だからってこんな・・・。仲間なんでしょう?」
「仲間だからなおさらだ。」
ぱちんと指を鳴らすと、今まで別々な方向に飛んでいたこうもり達が、揃ってシャルルの元へ集まった。
「仲間だから・・・シズを助けたかった。」
「・・・。」
「シズはまだ16だ。まだ子供だというのに、こんなことに縛られては可哀相すぎる。だから・・・。」
顔を伏せたシャルルだがすぐに桜を見る。
「ここが井口昴の研究室だということは知っているな?」
「う、うん・・・。」
「井口はここで秘密の研究をしていた。そう、自分の能力を完全に開花させるため。人体実験を繰り返していた。」
桜はあのプールに沈んでいた人々を思い出す。
「井口の力は物質と物質を結合させる『人形師』と呼ばれていた。しかし、力の発達は乏しく、デッドゲームに勝てないと判断した。そして彼はここで研究をし続けたのだ。だが、実験は失敗し続けた。」
「それで・・・?」
「試行錯誤の中、初の成功者が現れた。それは・・・私だ。」
シャルルは自分のことを指差した。
「えっ・・・?」
平然として言うシャルルに桜は唖然としている。
「驚くのも無理はない。彼は人間とほかの動物やら植物やらの細胞をくっつけることに成功したのだ。私は同じ哺乳類である『こうもり』の遺伝子をくっつけられた。だからこうしてこうもり達と共にいる。」
「そ、そんなことって・・・。」
唖然としている桜にシャルルはふっと笑みを零した。
「不思議なものだろう?元々私は普通の一般人だったというのにな・・・。」
「憎くないの・・・?」
桜は自分の腕の中で小さく呼吸を繰り返しているシズの服を握り締めた。
「憎んではいない。怨みや憎しみはないのだ。井口も私には特別な感情は抱いていないだろうな・・・。だから私が怨む必要もない。」
「難しくてよく分からないわ。」
「分からなくて良い。」
ばさっと黒いコートをはためかせ、シャルルが背を向けた。
「ここはもう離れた方が良い。またいずれお前とは会うことになるだろう。」
シャルルはこうもり達に囲まれながら通路の奥に姿を消した。
残された桜はシズの顔を見た。
「シズ・・・。生きてる?」
「・・・何だよ。」
桜の問いかけにシズはわずかに肩を揺らした。
「馬鹿。」
「うるさいよ。」
意識が朦朧としているはずなのに、言葉だけははっきりとしていた。
「馬鹿。本当に馬鹿。」
「・・・。ふん、いいさ別に。僕はここで死ぬ運命だったんだ。」
「あんたらしくない。運命じゃないよ。判断の違い。あの時止めていれば、こんなことにはならなかったのに。」
「それを言うなら、僕も言わせてもらうけど。」
シズは桜の腕の中を逃げ出すと、よろよろと立ち上がった。
「僕を止められなかった君にも非はある。」
「馬鹿なこと言わないで。」
桜はそっけなく言うと折っていた膝に手をついて立ち上がった。目の前にいるシズは相変わらず顔は青白く、ふらふらとしている。きっとひどい貧血を起こしているのだ。
「・・・はやく、逃げればいいだろう。」
「でも・・・。」
「僕はいい。ここで死ぬ。」
抗議をしようと桜はシズを睨みつけたが、ひゅっとナイフが投げられ、後ろの壁に突き刺さった。
「腕は鈍ってないんだ・・・。」
「今度は当てる。僕が君を殺す前に早く逃げれば・・・?」
一瞬だけ桜は顔を歪ませたが、身をひるがえすとシズに一言だけ言って走った。
「さようなら。」
そして壁に突き刺さったままのナイフを抜くと、急いで廊下を走り去った。
桜がいなくなったことを確認すると、シズはがくっと膝を折って倒れこんだ。そして大きく咳き込むと、口から一緒に血が吐き出された。
「・・・無様な死に方だ。」
自分を自嘲した。
+++
「あ、ぐっ!」
「もう終わりかよ?たいしたことねぇな。」
くすくす笑う青山の足元にはシキが口から血を吐き出しながら膝をついていた。
肩、足、胸にかけてひどい出血を表すかのように、その部分が真っ赤になっている。必死で立とうとするががくがくと、膝が痙攣して立てない。
「ははっ。こうやってみると、ただの人っスね。」
「ガキが・・・。」
するとがしっと髪をつかまれて、引き寄せられた。
「ただのガキだと思って甘くみねぇで下さいよ。ねぇ?」
青山の腕の部分のスーツが破れ、そこから鋭い爪が飛び出ていた。
そしてその爪を勢いよく振り下ろし、足のアキレス腱を断ち切った。
「あっ!アァ―ッ!!!」
「あははっ。」
ぶちっという音がシキの耳に聞こえてきた。
ひどい痛みに一瞬だけ意識が飛んだ。
シキは襲い掛かってくる痛みに耐えられずに悲鳴を上げながら床に転がった。足をぐっと押さえると服に赤い染みが広がった。脂汗が全身から吹き出し、口からはとめどなく悲鳴が漏れる。
「大の大人が情けないっスね。」
やれやれと青山が溜息をついた。
「く、そ・・・ぉ!殺したるわあぁ!!」
剣を取ろうと腕を伸ばすが届かない。
「もっと苦しんでから死んで下さいよ?」
再び爪が振り下ろされようとした時、身体に何か絡みついてくれるものがあった。
「・・・?葉っぱ?」
瞬間、青山の腕に植物の茎が絡みつき、一瞬にして腕を切断してしまった。ただびっくりしている表情の青山をよそに、腕はぼとっと音をたてて床に落ちた。
「弱い者をいじめるのはいけませんね。」
ドアを開けて入ってくるのは、笑顔のままの水崎。やはり頭の天辺には花を咲かせている。
「何スかその頭。」
「深くは突っ込まないでいただきたい。」
「別に何でも良いっスけど・・・。」
シキはぽかんと水崎を見た。
「兄ちゃん誰や・・・?」
「名乗るほどの者ではありません。桜さんの友人です。」
「あ・・・ちょっと何してるんスかぁ・・・。腕取れちまった・・・。」
そこで水崎は目を見張る。
血が噴水のように吹き出し、切断された肩の部分から新たな腕が生えてきているではないか。
「これは・・・。」
「俺、『細胞人間』なんスよ。細胞を自由に変えられるし、こうやって時間をかければ、再生も出来るんスよ。便利な力っしょ?」
けたけたと笑う青山に水崎は微笑み返す。
「まぁ、まずそれは置いといて・・・あんたも邪魔するなら殺すっスよ。」
「わたくしはあなたには用はありませんので。」
「俺だってねぇよ。」
するとぽむっと音を出して水崎の頭に咲いていた花が、胞子を飛ばした。
「でも、あんたも長谷川の仲間なんスよね。俺に用がなくとも殺しておかないといけないっスね。」
「おや・・・何故ですか?」
「脅威になるからっス。」
腕が完全に再生し、そこから再び刃が生えた。
「どっちも殺してやるっス。」
「それならわたくしも抵抗でもしましょうか?まぁ、男性の方と戦っても何も面白くもないのですがね・・・。」
その言葉に青山は反応する。
「やはり女性の方とが良いですね。桜さんとか。」
「え、長谷川桜とやりあったんスか。」
「ええ・・・。1度だけですが。あれはとても楽しめました。やはり桜さんはわたくしのコレクションになるにふさわしい・・・・。」
水崎が熱っぽく語り出した時、ドアが突然開けられて桜がそこから飛び込んできた。そしてそのまま水崎の背中に飛び蹴りをした。
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