研究所にて&シズ
からんと音をたてて、シキの手から剣がするりと抜けて床に落ちた。それと同時にがくっと膝を折り、ぜえぜえと息をするのもシキだ。それを見下ろしながら笑っているのはシズだ。
「僕を止めるんじゃなかったのかい?」
「そのつもりやったけど・・・やっぱりシズ、強いわ。めっちゃ辛い・・・。」
本当に辛そうにしながらシキはシズを見上げて笑った。
「シズ!もう止めて・・・!」
たまりかねた桜がシズに向かって叫んだ。
シズはナイフを手にしながら桜の方を向いた。
「震えているね。怖いの?」
「違う・・・。ねぇ、シズ・・・。もう止めよう?仲間同士でこんなことして・・・何もならないよ・・・。」
するとシズはわずかに眉をひそめてぺっと口にたまっている血の塊を吐き出した。
「仲間?反吐が出るね。」
「長谷川!ええから早よう逃げろ言うたろが!」
「ちょっと黙って!」
桜の声でしんとその場が静まる。
「シズ、ねぇ・・・どうして『地獄遊戯』に入ったの?ゲームを楽しむため?それとも自分の欲求を満たすためだけ?」
「どういうことさ。」
「分からないのなら良い・・・。」
悲しそうに桜は顔を伏せた。
「シズあのね・・・。」
桜が話を続けようとした時、通路のずっと奥から爆音が聞こえた。その衝撃がこっちまで伝わり、まるで地震のように研究所全体が揺れた。
「今や!『白死遊』!!」
シキが『白死遊』達を呼んだ。音もなく『白死遊』達は現れ、桜とシキを囲むと、煙になってそこから消えた。シズは舌打ちをしたが、ここはもう崩れそうなので一旦避難をするために奥へと走って行った。
一方、桜達は小さな部屋に移動していた。あれほど自分達を囲んでいた『白死遊』達は消えてしまっている。
「ここは・・・。」
「ここならシズも見つからんやろ・・・。それにちょっとの間あの襲撃も防げる・・・。」
「襲撃?」
「そや。平山と青山がここに来てるん。」
シキは苦い顔をしながらそばにあった机に腰掛けた。
「・・・どうして助けたの?」
「なら・・・君もあの時どうして俺を助けたん?」
「それは・・・っ。」
「俺も君と同じ理由や。それ以上のことなんて何もない。」
じゃきっと剣を元の十字架のバッチに戻すと、それをコートに付けた。
「桜、あの時何て言いかけてたん?」
「えっ?」
「シズに何が言いかけてたやろ。何て言いたかったん?」
桜は少し黙ってから続けた。
「シズは寂しかったんじゃないかな。」
「寂しかった?」
「多分・・・。あたしの思いすごしかもしれないけど。だから『地獄遊戯』に入って自分と同じ境遇の人に会いたかったのかもしれない。それは・・・自分の欲求を満たすためでもあったみたいだけど・・・。」
乾いた笑みをもらした桜は泣きそうになって、ごしごしと目を拭いた。
その時、目を瞑っている桜にある風景が飛び込んできた。
どうやら研究所の通路を誰か歩いているようだ。その誰かがゆっくりとこちらへ向かっている。そして自分達のいる部屋のドアを開けられ・・・。
「っあ!青山がこっちに来る!」
「何やねん、突然。」
「今見えたの!青山がこっちに来る!早く逃げて!」
「そない言っても・・・誰もおらんって・・・。」
シキが半信半疑の中、部屋のドアが開けられた。
「ちぃーっス。」
そんな陽気な声を出しながら入ってきたのは、変に笑みを貼り付けた青山だった。
+++
爆音は今だに止まずに、研究所は崩れ去る運命にあった。それを悟ったシズは、崩れかけた通路を歩きながら出口を目指していた。
「シキとゲームしている暇なんかなかったな・・・。」
すると1匹のこうもりが横切り、それをシズは目で追った。前を見るとこうもりを従えたシャルルがそこに立ってシズを見ていた。
「シャルルじゃないか。良かった。ここはもう崩れそうだからね・・・外に連れてって。」
「・・・。」
しかしシャルルは立ったままシズを見下ろしている。
「どうしたんだよ?」
「シズ・・・『地獄遊戯』はお終いだ。」
「分かってる。だから。」
「シズはリーダーだ。リーダーの失態は部下である私が取らなければいけない。」
シャルルの目が黄金色に光り出し、歯がくわっと牙のように尖った。
「しゃ、シャルル・・・?」
シズが初めて動揺の色を見せた。シャルルに指示だろうか。こうもり達がシズの回りに集まり、逃げられないようにしっかりと身体にまとわりつく。
「な、何するんだよっ!離せ!」
「リーダーの失態は私が取る。それで良いだろう?」
ぺろ、とシャルルが自分の牙を舐めた。
「ま、まさか・・・。止めるんだ・・・!」
がらがらと通路などの天井が崩れる中、シズの声はシャルルの耳には届いていない。ぎらぎらと目を光らせながらシズに近づいて行く。
「どうして・・・シャルル。」
「愚問だな。」
ふっとシャルルが笑う。
そして身を少しだけかがめると鋭く尖った牙を、シズの首筋に押し当てた。
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