研究所にて&プール
「ぎょえっ。」
ぼふっと桜は柔らかい物に受け止められた。それはやんわりと葉を広げる双葉の植物だった。すぐに水崎もぼふっとそこへ落下する。
「種をまいておいて正解だったようですね。」
「ありがとう、水崎さん。」
すとんとその植物から下りた桜は当たりをぐるっと見回す。
「大きいなぁ。」
そこはよく港のそばにある倉庫のような場所だった。天井が非常に高く、ダストシュートの穴がいくつも開いていた。
「桜さん。あそこ・・・何でしょう?」
水崎が指差す方向には水色に輝く物があった。近づいて行ってみるとそれはプールのようだった。何故ここにプールがあるのだろうか。そう思ってプールを覗いた瞬間、桜は戦慄した。
「これは・・・人間?」
プールの底には驚くほどの数の人間が沈んでいた。全員が衣服を身にまとっていない。
「ここはゴミ同様に捨てられた人間達でしょうね。実験に失敗した人間達をここに沈めたんですね。」
水崎の言う通り、底に沈む人間達は皆が異常な姿をしていた。
腹から手が生えているものもいたし、上半身を切断され、そこからまた別な上半身が付けられている人間もいた。
「あまり見ない方が良い。」
身動きが取れなくなっている桜を抱き寄せるようにして、プールから遠ざけた。
「これ全部・・・あの人がやったんだ・・・。」
「井口・・・昴ですか?」
桜は無言で頷いた。
2人は気づいていなかったが、プールに沈む人間の1人がかっと目を開けた。
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「シズ、長谷川桜達がこちらへ向かっているそうだ。」
「うーん、やっぱり来ちゃったか。面倒なことになりそうだから、ミランダ。潰してくれ。」
「分かったあぁ。」
ミランダは髪を広げてそこから姿を消した。
「シズ・・・お前に言いたいことあんねんけどええか。」
壁に寄りかかっていたシキが突然言った。シズは驚きもせずににこ、と笑って頷いた。
「もう止めぇや。」
「どういうこと?」
「『D』に逆らったこと。あらあかんわ。平山と青山も動いてるしな。もう降参しようや。」
するとシズから笑顔が消えた。そしてナイフを弄ぶ。
「怖いの?」
「違う。俺はシズのことを思って言うてるんや。このままやとシズも俺も、シャルルもミランダも・・・ここにおらんようになるで。せやから・・・。」
ひゅっとシズのナイフが投げられた。ナイフはシキの頬をかすめ、びいんと、音をたてながら壁に突き刺さった。シキは驚くようでもなく続ける。
「すぐ怒る癖も止めぇ。こっちまで不愉快になってくるわ。お前異常なんや。どっかおかしいねん。」
「君に言われたくないよ。」
「俺はお前とは違う。シャルルもや。シズ、お前ほんまに異常やで。自分でおかしいと思わんの?」
「思うさ。でも・・・人を殺した時の快感が止められないんだ。泣き叫ぶ声、ナイフが肉に食い込む音、噴出す血。僕にとって全てが快感なんだ。」
狂った笑みを浮かべるシズを見て、シキは猛烈な吐き気に襲われた。
「大丈夫か、シキ。顔色が悪い・・・。」
ずっと黙っていたシャルルが言った。
「もうあかんわ。俺・・・シズについてけへん。俺これで『地獄遊戯』抜けさせてもらうわ。俺かてこんな生活ずっと続ける気なかったしな。」
「僕を裏切るの?」
辺りが静かになった。
シキはやっとのことで笑う。
「先に裏切ったのは自分やろ。」
「確かにね。」
そう言うシズの手には血に染められてきたナイフが握られていた。
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「ここから出た方が良さそうだ。行きましょう、桜さん。」
「う、うん・・・。」
死人プールに背を向けた時、後ろからざぱっという音がした。嫌な予感がする。2人は同時にゆっくりと後ろを振り向いた。
「ア・・ガぁ・・・。」
首から小指が突き出た人間が起き上がって、虚ろな目で桜と水崎を見つめていた。
「ど、どうして・・・?!」
それを合図にざぱっ、ざぱっと次々にプールから死人が起き上がる。
「まだ生きていたというのですか・・・?」
さすがの水崎も後ずさりをする。
「ひひひっ!見つけたぞおぉ!」
「ミランダ!こんな時に!」
ミランダが髪の毛を天井いっぱいに張りながら笑っていた。目の前のプールからはたくさんの死人達が起き上がり向かってくる。
「・・・桜さん先へ行って下さい。ここはわたくしが食い止めます。」
「そんな水崎さん・・・っ。」
「あそこにドアがあります。あそこから出られるでしょう。さぁ、早く。わたくしもすぐ後を追います。」
「・・・。」
桜は心配そうな目で見たが、水崎はにこりと微笑んだ。
「任せた!」
「ええ。」
桜はドアを開けてそこから脱出をする。それを見届けた水崎はくるりと前を向いて微笑を浮かべた。
「ここからはわたくしがお相手してさしあげましょう。」
「勝てると思っているのかあぁ?」
とん、とミランダが地へ降りると水崎は余裕そうに言う。
「勝敗は全て神が決めること。わたくし達はただそれに従うだけなのです。Amen。」
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