針人間対殺人鬼
「ねぇ、その松田って人どこにいるの?」
「さぁな。適当に歩いてれば会えるだろ。あっちも俺を探してるだろうからな」
それからは会話もなくただ2人で街中を歩き回っていた。しかし一向に相手は現れず、時間だけが過ぎていった。このまま会えないのではないかと桜が内心心配していると、いつの間にか河川敷の道を通っていた。
「いたな」
砂時が1人でに呟き、河川敷へと降りていったのだ。
桜も滑り落ちないようにしながら砂時の後に続く。
「よう。こんな所にいやがったな。殺人鬼ィ」
「わざわざ殺されに来たのか?」
工事中の橋の下に松田と思われる男が1人立っていた。
砂時よりも背がずっと高く、体格もずっと良い。この男に砂時が勝てるのかどうか、桜ははらはらと2人を交互に見つめていた。
「テメーはここで見てろ。間に絶対入ってくんじゃねぇぞ」
「分かった…」
「随分と紳士だなあ、宮元砂時」
すると砂時は挑発するようににやりと笑った。
「俺はさっさと終わらせて家に帰りてえんだ。悪いがゲームオーバーになってもらうぜ」
そう言い終わるや否や、すっと砂時の手から5本の針が飛び出し、数メートル先にいる松田に突き刺さった。実に鮮やかなもので、静かな音をたてて手足の間接部分へ4本、残りの1本は脳天へ見事に貫通していた。松田は立ったまま動かなくなったが、にやりと口元を歪めたのが分かった。
「これで俺を殺ったと思ったのか?」
「何?」
間接に針が突き刺さっているにもかかわらず、松田は手を動かすと針を勢いよく引きちぎるように身体をひねった。
「…ぁ、ぐっ!」
砂時が呻いた声を出す。
「くそっ!」
「砂時!」
桜は砂時に駆け寄り絶句した。
針が出ていた手の皮膚がさらに剥がれ、松田のおかげで肉が抉られていた。
「ひ、ひどい…」
「大丈夫だ。こんくらいすぐに戻る。それよりお前は早く離れてろ!」
「おしゃべりしてる暇なんざないぜ!」
あの体格をしていながら、素早く松田は砂時の腹に拳を打ち込んだ。鈍い音とともにバキッと嫌な音が桜にも聞こえた。そのまま砂時は後ろに吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「砂時!」
「ごほ…っ」
口から大量の血が盛大に吐き出された。桜は口元を両手で隠し言葉を失った。砂時はまだ咳き込みながらもよろよろと立ち上がった。
「ちくしょ…」
「ほう、俺の拳を受けてもまだ立ち上がるとはな」
ゆっくりとした足取りで、松田は砂時に近づいて行く。
「俺は異常に力の能力が発達しててよ。1番はじめに発揮したのは5歳だったな。近所の犬や猫を殺したんだ。ちょっと握るだけで、血吐いてよ。目玉も一緒に飛び出してくる奴もいたなあ」
「…テメー頭イッてんじゃねぇの…」
砂時が憎まれ口を叩いた。
「動物だけじゃあきたらねぇ。人もたくさん殺した。くくっ、楽しかったぜ?盛大に血吐き出して、目ぇひんむいて死んでくんだぜ? ありゃ最高だったな…。内蔵がつぶれた音も俺には良い癒しの音楽だった」
「はっ…。キモいぜ」
「何とでも言え、針人間」
にや、と笑いながら松田は拳を握った。
またあのパンチを繰り出す気だ。桜は走り出し、砂時をかばうように立ちはだかり、大きく両手を広げた。
「やめて」
「あぁ?」
「ください…」
最後の声がわずかに震えてしまった。すると松田は面白そうにひひ、と笑った。それだけで十分怖い。桜は相手を睨みつけることしかできない。
「さ、桜よせっ」
後ろの砂時がくぐもった声で言った。
しかし桜はそれを無視すると、怯えを隠して松田に気丈な態度で振舞う。
「ガキ、そこをどけ」
「駄目。あたしが助太刀に入る。参加者同士の助け合いはルール違反じゃないでしょ」
「面白い!」
直後に腹部に鈍い痛みが走ったのだ。
小さな桜の身体は簡単に吹っ飛び、砂時と同じく地面に叩きつけられた。
「…げほっ! げほっ、げほっ!! うえ…っ」
松田なりに手加減したらしく、血も出なかったし骨も折れなかったもののひどい痛みが桜の身体を走った。どうにか立ち上がろうとするが、がくがくと身体が痙攣して思うように動いてくれない。
「桜! テメーやりやがったな!」
「女のことより自分を心配したらどうだ」
再び松田が振りかぶった。
「やめて…っ」
桜が叫んだ。
すると驚くことに松田の姿が突然消えたのだ。砂時も桜も何が起こったのか理解できず、ただぽかんと口を開けたままでいた。
「砂時! あそこ!」
松田は何故かずっと離れてしまった工事中の橋下にいたのだ。本人も驚いているらしく、きょろきょろと辺りを見回している。
「何が起こったのかは知らねえが…」
ひゅっと一段と長い針が飛び出し、工事中の橋の上部に突き刺さった。そして指先を少し動かすと、もろかった橋が崩れ始めたのだ。
「あばよ、松田総一郎」
次の瞬間、工事中の橋が崩れ、無数のコンクリートが松田に降り注いだ。
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