シキの話
水崎と番長は嫌がる砂時を無理やり押さえつけ、傷に薬を塗っていた。砂時の呻き声が木霊中、桜は真剣な顔をしてシキの話に耳を傾けた。
「前にデッドゲームがあったっていうんは、聞いてるやろ。」
「うん。」
「デッドゲームに出た参加者は、ゲームオーバーになったら、世間から存在を抹消される。それは前世代のデッドゲームとも同じや。せやけど、デッドゲームをクリアした参加者でも存在を消されるって知っとったか?」
桜は驚いたように首を横に振った。
「別に殺されるわけじゃないで。全てのデッドゲームをクリアした参加者は『D』の部下になる。」
桜は前、図書館で青山に会った時のことを思い出した。青山も元々参加者だったと聞いた。
「それが君の家族の記憶がないということに繋がってるんや。」
「それは・・・!」
「そや。君が今考えている通りや。何故君の家族の記憶がないのか。」
静まり返るホームにシキの声が響く。
「君のご両親、デッドゲームの参加者やで。君もうすうす気づいとったんやろ。」
しかし桜は目を見開いたまま固まってしまっていた。
「おい、しっかりしいや。」
「え?あ、うん・・・。ごめん、トリップしてた・・・。」
大きく溜息をつきながら桜は髪をかきあげた。
「じゃあ・・・あたしのお母さん・・・お父さんは生きてるの?」
「それは俺の口からは言えんのや。俺は途中からスカウトされただけやし、詳しいことは何も分からん。君のことを調べてこのことが分かったようなもんやしな・・・。」
「そう・・・。」
桜はぴょっぴり残念そうに俯いた。
「それともう1つ。長瀬、知ってるやろ。」
「うん。」
「君の実兄やで。」
「「何だとっ!」」
会話を聞いていたのか、砂時と番長の声が重なった。
「やっぱり・・・そうなんだ。」
「いつから気づいとったん?」
「初めて会った時、すごく懐かしい感じがしたから。もしかしてって思ったり、違うって思ったりしたけど・・・やっぱりそうなんだ!」
桜はショックを受けているのか、確信が持てて嬉しいのか、声が弾んでいた。
「ならもう分かるやろ。」
「長瀬の記憶がねぇのも、長瀬が元々前のデッドゲームの参加者だったからだろ。」
砂時がシキの言葉を受け継いで答えた。
「そや。詳しいことは長瀬が知ってる。会う機会があるなら、聞いてみることやな。」
そう言ってシキはくるりと背を向けた。
「帰るのか?」
「ああ。せやけど・・・帰りたくないわ。」
意味ありげに言ってから、シキはふっと姿を消した。後ろに転がっていた『百死遊』も跡形もなく消えていた。後はカードの束が残っているだけだった。それを拾い上げ、砂時に必要な枚数を渡す。
「危なかったな・・・もうすぐで日没だったぞ。」
番長が安心したように桜に言う。
「姐さん?大丈夫か?」
「うん・・・。何だか急に寂しくなった。」
切なそうに言う桜に2人は黙った。
「帰りましょう。」
ずっと黙っていた水崎が3人の背中を押した。
+++
「どういうつもりやねん。」
シキが怒鳴るようにして、大きく開けたホールにいるシズ、シャルル、ミランダに詰め寄った。
「どういうつもりねぇ・・・。シキもどういうつもりなんだい?長谷川にあんなこと教えちゃってさ。」
「ほんまのことやろ。しかもそれとこれとは話が別や。ミランダ、何で俺まで攻撃したん?」
シキは端の方でくつくつと笑っているミランダに怒りの矛先を向けた。
「貴様が、さっさと始末しないからだあぁ。だからあたしがけりをつけてやろうと思ったのだあぁ・・・。」
「誰もそないなこと頼んでおまへん。余計な口出しせんといて。」
「お前もだ、シキ。何故許可なく長谷川桜に事実を教えた。」
「はっ・・・。許可、か。許可取る必要あるんかいな。」
するとシズが笑顔をなくしてシキに尋ねる。
「『地獄遊戯』のリーダーはこの僕だ。僕の許可なく勝手な行動はするな。」
ますますシキはおかしそうに笑った。
「リーダーねぇ・・・。たかがひよっこが生言うと痛い目みるで。」
「そんなこと言って良いと思ってるの?」
「ただの狂った殺人鬼のくせしてよう言うわ。」
かっとシズが目を見開き、素早くナイフを手に装備したが、シャルルに手を掴まれた。
「よせ、シズ。ここで争うべきではない。」
「・・・。」
シズは黙ってナイフをしまった。しかし目だけは鋭くシキを睨んでいる。
「そない目ぇしても怖いことあらへんわ。」
「シキ、お前もいい加減に止めろ。」
「シャルル、何でシズが機嫌悪いか分かったで。シズ、君、殺し足りないんやろ?」
わずかにシズの肩が反応する。
「そうだったらどうするのさ。」
「あんま大人怒らすもんやないで。今俺も頭が痛とうてかなわんのや。あんまイライラさせんといて。」
するとしゅるっとミランダの異常に長い黒髪がシキに向かって伸びた。しかし、シキは指を鳴らし『百死遊』達を呼び寄せると、自分の回りを囲ませた。
「ミランダもいい加減にしないか。」
「・・・。」
シャルルが睨みつけるとミランダは不服そうに髪を戻した。
「シズ、シキの言うことにも一理あるだろう。だが今は無差別に殺人をするのは止めろ。それとシキ、今度勝手なマネをしたら許さんぞ。」
「胆に命じときますわ。」
そして最後にシズの耳元で囁く。
「今度部外者殺したら、俺も君を殺しにいくで。」
シキは小馬鹿にしたようにせせら笑うと『百死遊』とともに姿を消した。
+++
それから『D』の手紙によって第5次予選は終了とされた。桜は大怪我を負っている砂時とともに病院へ向かい、手術を受けたが、受けたのは砂時だけだった。
桜の傷は水崎が塗ってくれた薬によって完全に塞がっていたからであった。医者も不思議そうにしていたが、それ以上追求することなく、暴れる砂時を連れて手術室へと向かったのだった。
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