針と白
完全になった廃墟になった駅。
しかし、その形を保っていた。中は暗いが、太陽の光がかろうじて差し込んでいる。だが異常に蒸し暑い。
「はっ。ようやく見つけたぜ、テメーら『地獄遊戯』だろうが?」
静かなホームに砂時の声が響いた。それはひどく息遣いが荒く、片手で強く下腹部を押さえている。右足は血が滲んでおり、引きずって歩いていた。
「あー・・・、確か『針人間』の宮元?負け犬がまーだ生き残ってたんだ。」
「ふん。くそガキが何ほざいてんだ?さ、その手に持ってるカード、よこしてもらおうか。」
奥のベンチにはシズが座っており、ぽーん、ぽーんとカードを投げてはキャッチし、もてあそんでいた。砂時は低く笑うと、ホームの屋根を支える柱に寄りかかる。
「けっ。俺としたことが、テメーらの親分にやられるとこだったぜ?聞いてねぇ。」
「さぁ?あの人は気まぐれだからな。さて、どうする?ここで死にたい?」
「反抗するならテメー、ここで再起不能にしてやっても良いんだぜ。」
「はは、無理無理。でも僕はあんたとやり合うわけにはいかない。仮にも『地獄遊戯』のリーダーだしね。」
ひゅっとカードをベンチの後ろへ投げた。ぱしっと誰かがカードを手に取る音がした。
「任せたよ、シキ。」
「了解。」
カードを受け取ったシキが面白そうに言った。
「ん?テメーもこいつの仲間か。真っ白な服着やがって、白装束かよ。」
「いんや。ただ白が好きなだけや。」
気が付くとシズの姿はもうなかった。
「ここで君を食い止めなあかん。このカードが欲しいんやろ。なら、死ぬ気で奪ってみせろや。」
「望むところだぜ、おっさん。」
「おっさんちゃうわ。お兄さんやろ!」
シキは憤慨したように叫んだ。
「どっちでもいいがよ・・・。」
「良かないわ。ま、ええわ。すぐに黙らせちゃる。」
フードについている十字架を1つ取り、鋭い音をたたせて刃を4つ出す。そしてくるくると器用に回してみせる。
砂時は両手の掌から針を2本づつ出す。
「いくぜ。」
砂時は体制を低くしたまま、シキへと突っ込んで行った。そして大きく針の出した腕を振るう。シキはにやりと笑うと、自分に振り上げられた針を剣で阻止する。金属のぶつかり合う音と、擦れ合う音がホームに響く。
「ええ腕しとるやないか。」
「そりゃどうも。」
「せやけど、スピードは遅すぎる。」
背後からゆっくりとした声が聞こえ、砂時はばっと後ろを振り向く。が、そこには誰もいない。
「さっきの兄ちゃんの方が動きは良かったで。」
今度もまた背後から。砂時は背中から針を長く突き出した。するとそれを弾く音がし、砂時はまた後ろを振り返った。
「甘いっちゅーねん。」
もうシキが目の前まで接近していた。
「っ!」
一瞬ひるんでしまった。そのすきを見逃さず、シキは砂時の血の滲んでいる下腹部を、勢いよく足で蹴り上げた。ぬぷっと靴の先が傷口にめり込む。
「・・・っうアァァッ!」
激痛が身体中を駆け巡り、汗がぶわっと吹き出る。一瞬意識が遠のくが、シキがそれをさせない。身体を支えている砂時の軸足を蹴り、わざと転ばせた。
「―・・・っは!く・・・ッ!」
横に転がり、痛む傷口を強く抑える。じくじくと熱を持ったように激しく痛むそこからは、また新しい血が流れ出し、床に水溜まりを作った。荒い呼吸を繰り返しながら、何とか立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
「手ごたえないなぁ。」
そんな砂時をシキが冷たく見下ろしながら言う。
「がっかりやわ。期待はずれもええとこや。」
「はっ・・・。」
シキに砂時は顔をゆがめながら口を動かそうとすうるが、声は出てこなかった。
「もう少し俺と遊ぼうや。な?宮元・・・。」
くるくると剣を回しながら、びっとその剣先を喉元に突き立てる。
「ふざけんじゃねぇ・・・。」
やっと声を絞り出し、息も絶え絶えになりながら、シキを睨みつける。そして懐から煙草を出すと、ライターで火をつけた。独特の香りが辺りに立ち込める。
「未成年のくせして、随分きっつい煙草吸ってんのやな。」
「そう言うおっさんは、おっさんのくせして煙草もろくに吸えねぇのかよ。」
馬鹿にしたように言う砂時に、ぴくりとシキの眉が動いた。
「下らんおしゃべりはここまでや。ほら、どうしたん?抵抗せんの?」
「いや?するぜ・・・?」
すぱっと煙を吐き出し、砂時は笑った。
その瞬間砂時の口から鋭く尖った針が飛び出した。
「なっ?!」
それに反応できず、持っていた剣を大きく弾かれた。
驚いて固まっているシキをよそに、砂時はゆっくりと、震える足で立ち上がり、口から伸びた針を引っ込ませた。
「予告はした・・・。」
「忘れとったわ。君、自由に身体のどこからでも針を出せるんやなったな・・・!」
「そう言うおっさんは一体どんな力を隠し持ってるんだ?」
するとシキは弾かれた剣を拾い上げながら、笑った。
「おっさんちゃうわ。俺な、実は特別な能力はないねん。」
「どういうことだ?」
「せやから。俺は持ってへんねん。武器はこれだけ。」
手に持っている剣と、コートについている十字架のバッチを指差す。
「じ、じゃあ・・・何故『D』の所にいるんだ。」
「スカウトされてん。うけるやろ。」
「ちっ。面倒臭せぇ・・・。何でだよ。『地獄遊戯』の奴らは全員そうなのか?」
「そうでもないで。」
けらけらと笑いながら剣を構える。
「じゃ、そろそろいこか。」
「ふん。」
しゃきしゃきと出した針をすり合わせ、砂時は一気にシキとの合間をつめた。そして左手で十字架の剣を弾き、右手でびっと針を突き出す。
「ちっ!」
シキは弾かれた剣を放っておくと、コートについているバッチを取り、また刃を出した。そして自分に迫ってきている針を阻止する。がきっと音が再び響く。剣と針の間で2人のにらみ合いが続いた。
「もう観念しろ。」
「君がな。」
それから互いに弾きあい、そのまま激しい打ち合いが続く。
「ぅらあっ!」
「ふん!」
暗い中に火花がほとばしる。
「そこや!」
またシキが砂時の傷口を狙った。しかし、それを予測していたかのように、砂時はステップを踏みながら、後ろへ下がると、針を振るった。
「・・・痛っ。」
つっとシキの頬に長い亀裂が走り、そこからつっと血が伝った。
それを手で取りながらぺろりと舐めた。
「やるやん。」
言い終わるとシキは、ぱちんと指を鳴らす。
「行け!白死遊!」
すると後方から、あの白コート達が、身体をびらびらとさせながら、砂時を取り囲んだ。
「何でこいつらがここにいるんだよ。」
「俺がこいつらの指揮官、リーダーなんよ。名前は『白死遊』や。」
「で、こいつらに俺を始末しろ、と。」
「そーや。もう俺疲れてん。そら。」
シキが十字架のバッチを投げると『白死遊』達はそれを掴んだ。といっても、コートの中から腕が出ているわけじゃない。十字架の剣が不安定に浮かんでいる形となった。
「俺帰りたいねん。せやから早ようけりをつけなあかん。」
「一斉攻撃ってわけか。最悪だな・・・。」
シキは苦笑した。
「怨まんといて。」
+++
「今の音は何?」
ようやく目的の駅についた桜は驚いて叫んだ。
「もしかしたら、砂時かも・・・。」
「とにかく行こう!」
階段を駆け降り、桜達が見たのは、シキと激しく打ち合う砂時の姿だった。
「砂時!」
回りには、太い針が刺さった『白死遊』達がいた。
「苦戦しているようですが・・・。」
「む、あいつ怪我してるぞ!」
「砂時・・・。」
桜は割り込んで良いか迷った。すると、戦っている2人から、ずっと奥のホームに人影らしきものを桜は見た。
「砂時!危ない!」
桜の声に反応して、砂時がびっくりして桜達の方を見た。
「前、前!!」
「前・・?」
2人が桜に言われた通り、自分達よりずっと奥のホームを見た。
「な、何やねん!お前何やっとんの?!」
シキがそれを見て仰天したように叫んだ。しかし、奥にいる人物は耳障りな笑い声をたて、しゅるしゅると何かを這わすような音をきかせた。すると突然、そこから駅名を表示する巨大なプレートが飛んできたのだ。
「ちっ!!」
砂時は間一髪で避けたが、シキが次にきたプレートに当たった。がんっという音が辺りに響く。
「ぐっ。」
当たったプレートが床に落ちるとともに、シキもがくっと膝を折って頭を押さえた。押さえた手を見ると、血がべっとりとついていた。
「こりゃ切れたな・・・。」
そう言うシキにまた巨大なプレートが迫ってきていた。桜は反射的に駆け出し、叫んだ。
「サイコキネシス!!」
びたっとシキの目の前でそれが止まり、スピードをなくしたプレートは音をたてて床へ落ちた。いつの間にか奥にいた人物は消えている。
「・・・消えちゃった?」
「長谷川・・・。」
首をかしげる桜にシキが呆然として呟く。
「何で助けたん?俺敵やぞ?」
「えっと・・・何でって言われても・・・困るんだけど。」
桜は困ったように頭に手をやってから、制服のポケットからハンカチを取り出した。
「使えば?」
「変な子・・・。」
ハンカチを受け取るシキを見ていた砂時は気に入らなさそうに針をしまった。
「命拾いしたな、おっさん。」
「砂時もひどい怪我!ほら、砂時も使って。」
じわじわと染み出している血を痛々しい目で見ながら、桜はもう1つのハンカチを取り出した。
「砂時さん。」
「げっ。変態神父じゃねぇか・・・。それに番長。生きてやがったのか?」
「口は減らないようだな。」
番長が明らかに不服そうな声を出して言う。
「長谷川、ほんまに俺なんか助けて良かったん?後から後悔しても知らへんで。」
「そんなこと考えなかったよ。とにかく助けなきゃって思ったから。」
「立派な考え方やな。」
シキはよろよろとした足取りで立ち上がると、転がっていた剣をバッチに戻してコートに付け直した。
「ほんなら、礼に秘密でも教えよか。」
「秘密?」
「そや。聞きたいやろ・・・?」
ようやく血が止まったようだ。シキが全員の顔を見回してにやっと笑った。
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