静かなる恐怖
「とにかく水崎さん!助けてもらってこんなこと言いたくないんだけど、今仕掛けている植物を全部撤去して!」
「おや?何故ですか?良かったらカードを差し上げますよ?」
「うっ。それは・・・。だ、だけど!部外者の人が引っかかったらどうするの?ルール違反で水崎さんが反対にゲームオーバーになっちゃうんだよ?」
すると水崎は嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしを心配してくださるのですね。分かりました。桜さんがそこまで言うのなら。」
ぱちん、と水崎が指を鳴らすと、地面にぽっかりと口を空けている植物が急激に小さくなり、種になって水崎の手に収まった。それと同時にぼとぼとと、空からあの植物に食われていた参加者達が落ちてきた。
「うっ。」
むっとするような腐臭と、目を覆いたくなるような光景がそこにあった。
全員が男で、肌は完全に焼け爛れており、筋肉等がむき出しになっている。
「さて、ここはもういいでしょう。行きましょうか。」
「あ、うん・・・。」
2人はひとまず路地を後にした。
「さて、いつも一緒にいるあのお2方は?」
「うーん、携帯が繋がらないから分からないけど、きっと大丈夫だよ。」
「なら心配は無用のようですね。ところで、桜さん。現在何枚カードを集めました?」
桜は苦笑いをしながら、手で『3』を示した。
「3枚ですか?ですが、もう1時間近くたっていますよね?」
「どうせあたしはカード集めは下手くそだもん。」
「いえ、そうは言っていませんよ。ほら、駅がありました。ほかの方々に取られる前に早く。」
「一緒に行ってくれるの?」
「もちろん。」
にっこりと笑う水崎に、桜はちょっぴり水崎を見直した。
駅にはやはりたくさんの人々。そこから隠されたカードを探せ、というのは苦難である。
「桜さんの能力で見つけられないのですか?」
「できるみたいだけど、やっぱりこんな人がいたんじゃ、やっぱり暴走したり混乱しちゃうよ。まだちゃんと使いこなせてないし・・・。」
「では、手分けをして探しましょう?まだまだ時間はあります。」
「・・・ありがとう。」
桜は言うと、水崎と駅の改札口前で別れた。そしてそれぞれカードを探していく。
「やっぱり、さっきの駅みたいにはいかないか。すぐには見つからない・・・。」
「何かお探しですか?」
やはり駅員が声をかけてきた。桜はやはり断るが、駅員は食い下がってくれない。
「あ、あの・・・トランプカードぐらいの大きさのカード、見かけませんでしたか?絵柄が手と剣の・・・。」
「ああ!それなら事務室にありますよ!ホームのいたるところに大量にありましてね。我々が回収していたのですよ。良かったら全て引き取ってくれませんか?」
「よ、喜んで!」
思わぬ収穫である。これなら、水崎のカードも足りるし、きっと自分のカードも全て揃うはずだ。水崎を探す前に、桜は駅員に案内されて事務室へ行くことになった。
しかしどこかおかしい。駅員は気づいていないようだが、桜の鼻にわずかに鉄臭い匂いがした。
「あの!あたしだけで行きますから・・・!もうここでいいです。」
「え・・・でも・・・。」
「あなたも忙しいでしょっ?早く!」
桜は無理やり駅員を帰すと、自分はゆっくりとした足取りで事務室へと向かった。
足を進めていくたびに、鉄臭い匂いが増していく。すると、事務室の明かりが何故か赤になって通路を照らしている。
「・・・。」
桜はきつく口を閉じて進む。鼓動がどんどん速くなっていくのが分かった。
「・・・っ!」
事務室前に来た時、桜は思わず目をそらしていた。事務室を覆うガラス張りの窓が、赤い血で真っ赤に染めていたのだ。鉄臭い匂いはこれだったのだ。中は見なくても想像は出来る。だが、中に入らなければカードは取れない。
「水崎さん呼んでくれば良かったぁ・・・!」
入りたくないけど、入らなければいけない。
桜を支配するのは恐怖と焦りだった。つっと桜の頬を汗が伝っていく。
「よ、よし!!」
何故がガッツポーズをし、自分に気合を入れると、恐る恐るだが、事務室の扉に手をかけた。ごくり、と唾を飲み込む。
「はぁ・・・。」
そしてがちゃりと扉を開けた。
むっとする熱気と血の匂いが襲う。桜は顔をしかめると、事務室内を見回した。
まさに惨劇。事務室は赤い部屋となっていた。全ての血は床や机の上に転がっている事務員のもの。桜は床に転がっている死体を見ないようにしながら、カードを目で探した。血まみれの机には小さな封筒が。
桜は急いでその封筒を開けた。
「あ、あった!」
何十枚に重ねられたカードが入っていた。
桜はほうっと息をついた。その瞬間、がしっと足をつかまれた。
「キャアアァッ!!」
血まみれの手が、しっかりと桜の足を掴んでいた。桜は封筒を握り締めたまま、大きくよろけ、乾いた血の上にしりもちをついてしまった。
「ア、ガ・・・ッ・・。だ、だ、ずけで・・・・ェ。」
目は血走り、身体中は切り裂かれたように、皮膚が裂け、赤い肉が見え隠れしていた。桜は金縛りにあったように動けなくなり、ただ、自分に助けを求めてくる目の前の人物を見ていた。
「あーあ。」
呆れたような声がし、桜の足を掴んでいる事務員の背中にどすっと勢い良く何かが刺さった。
「ぐえ・・・ぇ。」
押し潰れるような声を出し、身体を反らせながら目を見開き、ずっと力尽きたように倒れた。背中にはずっぷりと、銀色に光るナイフが柄まで刺さっていた。
「あ・・・。」
「あらら?腰抜かしちゃったか?情けないなぁ・・・。」
気づくと事務室の入り口付近に古びたジャージを来た少年が立っていた。腕組されている手にはナイフが握られていた。
「あ、あなたは・・・。」
「そう!『地獄遊戯』のシズ。君、僕達の会話をその超能力で聞いていただろ?」
何故分かる。
桜はどきりとしたが、きっとシズを睨みつける。しかし、シズは余裕そうに微笑むだけだ。
「ふーん。その反抗的な目、ぞくぞくするね。ねぇ、君はどんな声で僕に啼いてくれる?こいつらの声はすごく汚くてさ。やっぱり君の声が聞きたい。」
「あんたの目的は何?!」
「目的っ?あははっ!今更何言ってんの?同じこと何回言うつもりだよ、長谷川。楽しむ、ためだぜ?」
「どうしてこんなことするのかって聞いてんのよ!」
肝心な所で桜の声は丁度良く裏返った。
「だからあ、同じこと何回も言わせんなって。今ここで殺してもいい?」
いきなり笑みを消し、凶暴な目で桜を見た。手のナイフが不気味に光る。
「やれるならやってみなさいよ・・・。返り討ちにしてやる!」
「勝気な性格だねぇ。面白い。じゃあここで殺るか。」
シズがナイフを構えた。
「おやめなさい。」
「水崎さん・・・っ。」
事務室の外でいつものようににこにこ笑っている水崎がいた。しかし、笑っていても、その目は笑ってはいなかった。シズをまっすぐに見つめている。
「『植物人間』の水崎だね。よーく知ってるよ。」
「では、わたくしとここでゲームをしましょうか?」
「冗談!」
シズはおどけたように笑う。
「軽くあんたとゲームをするような間抜けじゃないぜ、僕は・・・。」
「ほう。では早々に去りなさい。」
「はいはいっと。」
ナイフをジャージのポケットにしまうと、シズはゆっくりとした足取りで出て行った。そして振り向き様に桜に笑いかけた。
「また会おう、長谷川。」
シズは静かにその場を後にした。
「桜さん、大丈夫ですか?」
「・・・え、うん・・・。」
「さぁ、ここを出ましょう。」
桜は足を掴んでいる手を外した。まだ、生きていたぬくもりがわずかに残っていた。
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