砂時対???
「一体何なのあの人!」
桜は先ほどのシキを思い出しながら、いつも通っている商店街を走っていた。次なる駅へ向かっているのだが、今の時間、桜は病院にいることになっている。誰かに見られたりでもしたら、もう説明が出来ないのだ。しかも腹の傷がずきずきと痛んできた。
「痛ぁっ!」
一旦立ち止まり、腹を押さえた。幾分かは痛みは治まったが、じわり、とシャツに血が滲んでいた。桜は肩で息をしながら、きょろきょろと辺りを見回す。そして人気のない路地を見つけた。ここを通っていけば早く駅につくし、人目も気にしなくて良い。
そう思い、路地に入ると急いで駅へ向かった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!」
桜は再び立ち止まると、壁に手をついて荒い呼吸を繰り返した。
「ん・・・?甘い香り・・・。」
ふわふわと甘い香りが桜の鼻に匂ってきた。何故か吸い込まれるようなその香りに、桜はふらふらと匂いの元をたどっていく。そして路地の地面を踏みしめた時、
「うっ?!」
地面が突然縦に割れたのだ。そこから真っ赤な口を開けた穴が広がった。たくさんの白い歯がびっしりとついており、底に何か液があり、何かが浮かんでいた。
「い、いやぁあっ!」
そこへまっさかさま、と思いきや、桜の腕をしゅるしゅると伸びてきた緑色の蔦が掴んだのだ。桜は不安定なまま、ぶらぶらとそこに揺れるだけとなった。一時はほっとしたが、真下の液を見て仰天した。
「うっ!」
緑色の液からは確かに甘い香りがした。それと同時に肉が腐ったような腐臭も立ち込めていた。よく目を凝らしてみると、緑色の液に浮いていたのは、肉がどろどろに溶けた人間達だった。男達の身体が溶け合いながら混ざり合い、むき出しになって浮かんでいる眼球が、じっと桜を見つめていた。
「うぐっ!」
こみ上げてきた吐き気を抑えながら、何とかそれらから目をそらした。
「おや、誰かと思えば桜さんではありませんか?」
「あ!あなたは・・・!」
真っ赤な穴を通して、向かい側に神父服姿の水崎が立っていた。
「危ない所でしたね。さぁ、こちらへ。」
桜を掴んでいた蔦が、ゆっくりと水崎の方へ移動し、桜を地面に降ろしてくれた。
「し、死ぬかと思った・・・。」
「こんな所で何をしているのです?」
「それはこっちの台詞だよ!水崎さんこそ何してるの?」
すると水崎はくすくすと笑った。
「待っていたんですよ。餌が来るのをね。」
「餌?」
「はい。この植物は食虫植物ですが、人間用に飼育したものです。特有の香りを出し、誘われてきた人間をこの液に入れて、溶かして養分を・・・・・・。」
「く、詳しい説明はも良いです・・・。」
聞いているだけで気分が悪くなってきそうだ。ただでさえ、傷が痛むのに。
「でもおかげで36枚のカードが集まりましたよ。」
「えっ!もうそんなに?だって開始から2時間もたってないでしょ?」
「ほかにも、これと同じ系統の植物を置いているんです。」
「部外者の人に当たったらどうするの?」
「それは不可抗力ですね。神の下した審判なのです、Amen。」
「お祈りなんかしなくても良いから・・・。」
十字を切る水崎を引きつった笑みを浮かべて桜が言う。
「おや・・・誰かにやられたのですか?」
急に真面目な顔つきになり、水崎が桜の腹を指差した。見ると、先ほどよりも出血が多くなってきている。派手に動きすぎたらしい。
「違うよ。多分・・・傷口が開いたのかも・・・。」
「失礼します。」
水崎はかがむと、桜のシャツをめくり上げた。そして腹に巻いてある包帯を解いていく。
「ちょ・・・!」
「ふむ・・・。そんなには酷くないですが、出血が多少ありますね。薬を塗っておきますよ。」
水崎が言い終わると、腹部に冷たいものが塗られた。
自然と痛みはひいてくる。水崎は薬を塗り終わると、新しい包帯を懐から出し、それを桜に巻きつけた。
「これでしばらくは持つはず。痛みはありますか?」
「え?な、ない・・・。」
「そう。それは良かった。」
いつもの笑顔に戻ると水崎は嬉しそうに言った。
思ったりより悪い人じゃないかもしれない。
「あ、ありがとう・・・助けてくれて。」
「いえ、女性に対する最低限のことをしたまでです。それに、桜さんが苦しんでいる姿も見たくはありません。」
「あはは・・・。」
そこで、水崎がさっきまで自分に巻かれていた包帯をこっそりとしまうのを桜は見た。
「いい加減にしないと訴えるからね。」
冷たく言うが、水崎はにこにこと微笑むだけだった。
+++
「ちっ。時間食っちまったじゃねぇか。」
砂時が右手を真っ赤に染めながら悪態をついた。足元には1人の男が倒れている。
「ありがたくカード、いただくぜ。」
砂時のカード所有数は47枚。今、これで丁度10枚である。まだまだ足りない。
「くそ。携帯はつながんねぇし・・・。あいつら大丈夫なんだろうな。」
ぶつぶつと呟きながら人気のない街中を歩いていると、前方にスーツを来た人影が見えた。一瞬平山に見えたが、違った。表情は柔らかで、砂時を見て微笑んでいる。
「・・・?」
不信に思った砂時は足を止めて、その人影を見つめた。
「名乗れ。テメー・・・参加者じゃあねぇようだが・・・。」
言うが、それはにこにこと笑うだけだった。
「ふざけてんのか?」
「ふざけてなどいませんが。」
それが初めてしゃべった。しかし、砂時はその言葉を聞いて仰天した。
「テメー!何で俺の声・・・っ!」
その人影の声は砂時の声だったのだ。
異様な空気がそこに漂い、砂時は思わず針をびしゅっと出して、その針先を人影を向けた。
「身の程知らず、という所でしょうか?」
いつの間にか前にいた人影は自分に背後へ移動していた。
瞬間、砂時の目の前を血が舞った。
「あ・・・てめ、ぇ・・・!」
がくっと膝が折れ、砂時からは鮮血がぽたた、と地面を濡らした。
ぼやけていく意識の中、やっとのことで振り向いた時、その人影はにっこりと笑っていた。そしてその手からは、砂時と全く同じ針が出ていた。
「どうですか?自分の能力にやられた気分は・・・?」
砂時の声でくすくすと笑う耳障りな声が響いた。
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