病室にて
「長谷川さん、あなた無理に身体を動かしたりしませんでしたか?」
「え?特には・・・。階段上がったり・・・。」
「何度同じことを言わせるんですか。あれほど動くな、と言ったでしょう?!折角縫った傷口が開きかけてますよ。全く・・・よくこんな状態で平気でいれましたね。」
いつもの検査の時間。医師が桜の背中と腹の縫い傷を見ながら顔をしかめていた。
巻きつけられた包帯にはわずかに血が滲んでいる。何だか最近痛いと思っていたら、傷口が開きかけていたという。桜は心の中で後悔した。
「臓器等には異常はないようですが、とにかくまた手術します。」
「そんなぁ!」
「麻酔無しでここでやってもいいんですよ。」
怖い顔で言う医師に桜は大人しく従うしかなかった。
点滴をまた腕につけられ、桜はとぼとぼと病室へ戻った。病室の扉を開けると、見慣れない後姿がった。椅子に座って桜のことを待っていたようだ。
「誰?」
そう呼びかけると、その人物がくるりと向いた。
「あ・・・。」
「久しぶりだな。」
長瀬冬夜だ。
今回は腰には刀は身につけていないようだった。桜は突然の来客に戸惑いながらも、ベッドに戻った。
「調子はどうだ。大丈夫なのか。」
「え・・・は、はい。」
桜は傷口に手を当てて笑顔をつくった。
「元気そうだな。」
「い、いえ・・・。あの、どうしてここに?」
すると長瀬はふんと笑った。
「俺がここにいてはいけないというのか?」
「そ、そんな!でもあたしなんんかのお見舞いになんか珍しいなって・・・。」
しどろもどろしていると、長瀬が呆れたような目つきで見てくる。桜は大人しく点滴を近づけてベッドに寝転んだ。
「桜、お前は・・・もう予想はしているのだろう?」
「え?」
急に真面目な顔つきで長瀬が桜に問いかけた。
「俺が一体誰なのかを。」
「・・・実を言うと・・・でも、最初は違うって思ってた。けど・・・。」
「言わなくて良い。今はな・・・。できれば一緒にいてやりたかった。」
悔しそうに言う長瀬に桜は黙って顔を俯かせた。
「怒っているか?」
「どうして?」
「質問を質問で返すな。」
厳しい声に桜は言い直す。
「怒っているかって・・・それはあたしには分からない。だってあたしの中には・・・。」
そこまで言って桜は黙った。そして笑顔になると戸棚にあった差し入れのプリンを差し出した。
「折角来てくれたんだもの。はい、これあげる。」
「いや、俺は別に・・・。」
「いいから。持ってって。」
桜は半ば無理やりに長瀬に手渡した。
「いつでも来ていいから。」
長瀬は黙って頷くと、桜にもらったプリンを手にすると、瞬きする間にそこから消えていた。桜は夢でも見ている気がしてならなかった。
「あの・・・。」
見ると病室のドアからこちらを見ている美恵子の姿があった。
「あ、どうしたの?」
「お姉ちゃん・・・今誰とお話してたの?」
「えっ?ここにいたでしょう?」
桜は長瀬が座っていた椅子を指す。しかし美恵子は首を横に振った。
「誰もいなかったよ・・・?」
だが確かに戸棚の中のプリンはなくなっていた。
+++
「手術は28日の夜6時から始めます。」
「に、28日?!」
「何か予定でもあるんですか?」
「い、いえ・・・。」
28日はデッドゲームの日だ。夜までに間に合うだろうか?テレポートで手術の時間まで行けば大丈夫だろうか?
などどと考えながら病室に戻ると、またしても誰かの影がそこにあった。もう面会時間など過ぎているはずなのに。
「誰っ?」
「わっ!」
桜の声に驚いたらしく、その影は思い切りがだんっと転んだ。急いでぱちっと電気をつけると、床には頭を押さえて座り込む少年の姿があった。
「そ、草太君?!」
そこには久しぶりに見る草太の姿があった。
「ちょ、何でこんな所にっ?」
「あ!お、お久しぶりです、桜さん!」
草太は立ち上がると恥ずかしそうにしながらぺこりと頭を下げた。
「わ・・・ちょっと背伸びた?」
前は桜より小さかったのだが、今は目線が同じくらいまである。
「あ、はい・・・。色々あって・・・。で、あの、今日は桜さんが入院したという知らせを聞いて。」
「誰に聞いて来たの・・・。」
「砂依さんっていう人から・・・。」
「砂依さんから?!」
また以外な人物の名前が出て来た。砂依の陽気に笑う声が聞こえてきそうだ。
「でもよくここまで入れたね。」
「はい。ずっとここに忍び込んでましたから、話すチャンスは今しかないと思って。」
「忍び込んでたんだ・・・。」
桜は草太を椅子に座らせると、自分はベッドの脇に腰掛けた。
「あの、その怪我大丈夫なんですか?」
「うん、まあ大丈夫。このくらいはすぐに治るからね。」
心配そうに言う草太を安心させるように、桜はにっこりと微笑んで言った。
「草太君は?」
「え?」
「最近はどう?」
「色々な所に行って!色々な人に会って・・・すごく楽しいです!」
「そっか・・・。良かった。」
桜がそう言って笑うと、草太もつられて笑った。
「じゃあ・・・僕はもう行かなくちゃ・・・。」
「もう行くの?」
「ずっと同じ場所にいるわけにはいかないし、それに・・・それに看護婦さん達に見つかっちゃいますから・・・。」
桜は戸棚からプリンを取り出し、椅子から立ち上がった草太に持たせる。
「いつでもまた来て。」
「は、はい!」
草太は元気良く言うと静かに病室を後にした。
「あれ、何だかデジャヴでも見たような気分・・・。」
だが今日は色々な人に会えた。桜は満足そうに1人で微笑むと、ベッドに潜り込み、ゆっくりと目を閉じた。
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