病院にて&屋上にて
桜は全身の毛が逆立った。
ばさりと自分の顔にかかっていたのは人の髪だ。しかも異常に長く、毛先はベッドの下まで続いているのが見えた。
とたんに桜の動機が激しくなり、呼吸も荒くなる。冷やせが背中を伝い、がたがたと全身が震えだした。
「・・・ゃ!」
声を出したくても出せない。
「あ・・・!」
目が離したくても離せない。そして桜は見てしまった。髪の毛の持ち主の顔を。
女で、髪を天井に張り付かせ、濁った黄色い目をかっと見開いて桜を凝視している。今度こそ桜は悲鳴を上げたかった。しかし、出来ない。
恐怖でかちかちと奥の歯が鳴っている。その女はふぅっと風のように桜の目の前まで下りてきた。
「ひぃっ!」
押し潰れた声を出すがやはり悲鳴にはならない。
このさい誰でもいい!『D』でも、憎たらしい青山でも、リコやゾーンでもいい!!
誰か・・・・!
「あ・・・あ・・・。」
女は灰色の顔をさらに桜に近づける。灰色の肌とは違い、口の中は血でも吸ったように真っ赤だった。
「は・・・ぁ。」
女の喉の奥から空気の通る音が聞こえた。その口が奇妙に曲げられ、多分笑ったのだろうが、ひどくそれはおぞましいものだった。
「ぎ、ひひっ!ぎひはははっ!」
まるで変声機でも使ったかのような耳障りな声。
そこで桜の金縛りがついに解けた。
「あ!」
そこで桜は自分の喉が枯れるくらいの悲鳴を腹の底から上げた。
「一体何があったの長谷川さん?!」
桜の異常な悲鳴を聞きつけてくれたナースステーションの看護師が病室に飛び込んで来た。後ろからもほかの看護師がぞろぞろと入って来る。
「あ・・・。」
桜はただ震えるばかりで、明るい光と看護師の顔を見た瞬間、ベッドから飛び出し、看護師に抱きついた。
「どうしたの?」
「・・・。」
しかし桜は答えることも出来ずにただぶるぶると震えていた。
見ると腕についていたはずの点滴針が取れ、液体が床に水溜りを作っていた。
+++
「おい、ミランダ。さっきのはやりすぎじゃあないの?」
屋上で4人が月明かりを背に話をしていた。
ミランダと呼ばれた女性がくすくすと笑う。長い黒髪をしており、肌の血色が死人のように悪い。長い前髪で隠れた目を光らせて言う。
「あのくらいぃ、別にいいぃ・・・・。お前はどうなんだああぁ、シズうぅ。」
妙にビートがかかった声で女性のものとは思えなかった。
シズと呼ばれた少年は呆れたように両手を挙げた。こちらは変わって普通である。きれいに流れるような青髪に、古びたジャージを着ていた。何故がジャージの裾をまくっている。
「僕は君に協力してやっただけだっつーの。やりたくてやったわけじゃないし。不可抗力ってやつ?なあ、シャルル。」
シズは今度は隣にいるシャルルという長身の女性に語りかけた。
シャルルは全身黒尽くめに、似合わない金髪オールバックが特徴の女性である。シャルルはシズの問いかけにふんと鼻をならした。
「私は女性に恐怖という感情を抱かせるのは好きではない。だがあの人の命令とあれば仕方あるまいな。」
「シャルルはほんまお堅いやっちゃなぁ。」
「あ、いたんだ、シキ。」
シキはわざとらしく溜息をついた。
シキは3人とは対称に真っ白な髪、真っ白なコートで身を包んだ男性だった。フードや首にはじゃらじゃらと金色の十字架のバッチをつけている。
「俺、場違いみたいやん。集会スタイルで来てしもうたわ。」
「別に似合ってるからいいんじゃん?」
シズが笑う。
「ま、これも集会のようなものだからな。」
「だがあぁぁ、実に退屈だあぁぁ・・・。」
「退屈であの子を脅かしてたんかい。ここはお化け屋敷かいな。」
「もー!そんな話は後々!今は大事な集まりなんだぜ?」
全員が全員の顔を見るようにそれぞれの顔を動かす。
「そうやったな。記念すべき『地獄遊戯チーム』の結成なんやからな。」
「あ、それ今僕言おうと思ってたのに!」
シズがあっと叫ぶと、シキはしてやったりと口元を歪めて笑う。
「私こんな所に入って良かったのだろうか。」
シャルルが不満気味に眉をしかめる。
「あたしはあぁぁ・・・別にかまわないぃぃ。」
ミランダが嬉しそうに(?)にやぁと笑う。
その会話は誰も聞かれることもなく、ただ、シズとシキがふざけ合う狂ったような声だけが屋上に響いていた。
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