静かな最後の世界
桜はある場所に立っていた。
「あれ・・・ここどこだろう。」
夜明け前のような水色の空に包まれているかのようだった。一面が水色で浮かんでいるのか、立っているのかすら分からないくらいだった。
「まあいいか・・・。考えるの面倒臭いし・・・。」
桜はそのまま座り込もうとした。するといきなり景色が変わり、足元には水で浸され、水色の空は変わらないままだったが、桜は大きな岩に腰掛けていた。そばには1本の枯れた木がある。
「・・・気持ち良いかも。」
澄んだ空気にどこからか聞こえる水の音。心が安らいでゆくようだ。
「君は誰?」
「?」
その声は突然発せられた。
見ると、枯れた木の枝に1人の少年が座っていた。真っ黒なマントに身を包み、少年の身長より背が高いと思われる、不似合いな大鎌を手に持っていた。
「あたし・・・?あたしは・・・桜。」
「桜・・・。ふーん。」
少年は笑顔のまま相槌を打った。
「僕はここの世界を支配する死神だよ。」
「死神・・・?」
「そうさ。君は死んだんだ。おっと・・・正確には意識だけがこっちに来ちゃったんだね。本体がこっちに来るまで待ってなよ。」
死神が言うことは桜は理解出来た。背中をそっと触ってみると、制服のシャツが真っ赤に染まり、深々とナイフが柄まで刺さっていた。
「まだ死にたくない?」
死神が問いかける。
「別に・・・どっちでも良い。でも、このまま死ぬのも良いかも・・・。」
虚ろな瞳で言う桜に死神は考える。
「意識だけこっちに来てるから上手く考えられないんだね。よし、暇つぶし程度に僕と遊ぼうよ。」
「あなたと・・・?」
「そう。僕と遊んで、僕が君を気に入ったら現実に返してあげる。でも気に入らなかったら、このままここに残ってもらうよ。良い?」
「良いよ・・・。」
すると死神は嬉しそうににっこり笑うと、木の枝から降りて、鎌を持ちながら桜の手を握った。
「こっちにおいで。」
桜は死神に導かれながら進み始めた。
するとまた景色が変わった。どうやらここは部屋のような場所で、巨大な鏡が目の前にあった。
「ここに立って。」
桜は言われた通りに鏡の前に立った。すると鏡の中の桜が急に泣き出したではないか。
「・・・?」
泣き崩れた桜は、困惑と恐怖が入り混じった表情で鏡の前に立つ桜を見上げた。それが酷く滑稽に見え、桜は思わず目をそらした。
「へぇ。こんなの初めて見た。ここに来る奴はたいがい、笑っているか、獣のような顔になっているか、悪魔になっているはずんだけどな。」
鏡の中の桜は消えて、今度は何も映し出さなくなってしまったが、何が映っているのかは死神だけが見えているらしい。
「ふんふん。へぇー。君、デッドゲーム参加者だったんだね。部外者をかばって、相手の術中に堕ち、後ろからナイフでずぶり、かぁ。酷いことするなぁ。」
「・・・別に。」
桜は今はそんなことどうでも良かった。
「別に悪いことをしてるわけじゃないね。じゃあ、次はこっちにおいで。」
そう言うやはり急に景色が変わり、今度は真っ白な通路にいた。通路の両側には白い椅子があり、そこにたくさんの人々が座っていた。全員が眠るように目を閉じている。通路の最奥には白い机があり、白い紙が重ねられていた。
「ここは・・・?」
「最後の審判だよ。最後の分かれ道なのさ。ほら、君の知り合いもいるはずさ。」
桜は改めて椅子に座っている人々を眺め回す。そして1人の女性が目に入った。
白いシャツが赤く染まっていたが、桜は構わず近づいた。
「誰だっけ・・・?」
するとその女性がぱちりと目を開けて、青白い顔で笑った。
「桜ちゃん。」
聞き覚えのある声。
だが誰だか思い出せない。
「まだここに来るのは早いのではないかしら?」
「はぁ・・・。でも、なんか今はどーでも良くて・・・。」
すると女性はくすくすと笑う。
「現世のあなたはまだ生きようとしているわ。見て。」
女性が指差す方向を見ると、白い壁が薄くなって、液晶画面のようになった。
桜がベッドの上で医師に馬乗りにされ、左胸を押されている。それを見ていると、ぼんやりとしていた桜の意識がはっきりとしてきた。
「その人の言う通りだよ。君はやはりここにいるべき人間じゃない。」
桜の後ろでは死神が笑っていた。
「君と遊べて楽しかったよ。また会おう。」
「待って・・・!」
微笑む死神と女性の顔に靄がかかっていく。
そして桜は何も分からなくなった。
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