誘拐の男は神父
雨が窓を叩く音がする。
「う・・・。」
ひどく頭がぼんやりしていけない。桜はだるい身体を起こすと、目を擦ろうと手を伸ばした。つもりだった。
「えっ?これ・・・。」
両手が前で手錠でかっちりと固定されているではないか。そして桜は先ほどのことを思い出した。そうだ、自分はあの時黒尽くめの服を着ていた男に何かの匂いを嗅がされて・・・。
しかし、そこまでしか思い出せない。だが拉致されたのは事実だ。桜は改めて周りを見た。
「あ・・・。」
桜の目の前には教壇。十字架に縛られた男、イエス・キリストがいた。
「神様・・・?」
ここはどうやら教会のようだ。結構でかい教会らしく、回りにはたくさんの椅子が並び、天井のガラスは全て綺麗なステンドグラスで出来ていた。
「神様の目の前で置き去りにされている私って一体・・・。」
桜はがっくりとうな垂れる。何はともあれここから逃げ出さなくては。都合の良いことに足だけは自由だ。何とか桜は立ち上がろうとする。すると教会の扉が開いて1人の男性が教会の中に入って来た。
「し、神父さん・・・?」
それは黒い服にコートを羽織った神父だった。首には十字架のネックレスをつけており、右手には聖書が抱えられてある。にこにこと笑った人の良さそうな神父で、長い黒髪を後ろで軽く縛っていた。
「あ、あの・・・。」
「目が覚めましたか?」
桜はその言葉の意味を理解するまで時間がかかった。
「まさか・・・あたしをここまで連れてきたのって・・・。」
「そう。わたくしです。」
桜はガーンとなった。教会の神父がそんなことをするなんて。
「じゃああの写真を送りつけたのもあなたね!」
「よくお分かりで。あ、あまり動くと肌に傷がつきますよ。」
神父が桜を固定している手錠を指差して言う。
「わたくしは水崎悠也。この教会の神父であり、デッドゲームの参加者でもあります。」
「デッドゲーム?!」
水崎という神父はにこにことしながら桜に近づいて来る。
「あなたのことは以前から知っていましたよ。長谷川桜さん。」
「・・・っ。」
「わたくしの目の止まった女性の1人です。」
水崎は桜の目の前にひざまずくと桜の髪を触った。
「いい。非常にあなたは美しい。」
「はっ・・・。」
桜は一瞬ぽかんとしてしまう。美しいだなんて16年間生きてきた中で始めて言われた言葉だ。
「ですが少し細すぎですね。これではすぐに壊れてしまう。」
「ちょ・・・何言ってるの!」
桜は慌てて水崎から離れた。
「超能力で逃げ出そうとしても無理ですよ。あなたに嗅がせた香りは力を抑えるものですから。今のあなたは力は使えない。」
「な・・・っ。」
桜は絶望的にショックを受けた。
そして心の中で思う。
(あぁ・・・あたしはこれで殺されて終わるんだ・・・。何て悲惨な人生だったんだろう。)
そして目の前のイエス・キリストを見る。
(神様・・・どうかお助けを・・・。こんな所で死にたくありません。)
そう願った時だった。
桜にとっての神が教会の扉を蹴破って入って来たのだ。
「桜!」
「えっ!砂時?!」
雨の中急いで来たらしく、砂時はぐっしょりと雨に濡れていた。
「テメーこのストーカー野郎め・・・。」
砂時は水崎と桜を見比べて眉間にしわを寄せた。
「ロリコン趣味か、おっさんよ。」
お得意の憎まれ口を叩くが、水崎は相変わらず笑顔のままだ。
「桜さんを取り巻く方ですね。初めまして、水崎と申します。」
「んなのどうだって良いんだよ。桜を離せこら。」
「砂時!気をつけて!その人能力を奪う薬を持ってる!」
桜が叫んだ。
「ちっ!」
じゃき、と砂時が指先から針を出し、それを水崎に向ける。
「ほう・・・。」
砂時は針を出したまま水崎に向かって突進し、刺し貫こうと、両腕を突き出した。しかし水崎は慌てなかった。ごそりと小さな種を取り出すと、それを砂時の足元にばら撒いた。
その瞬間に種が爆発的に成長したのだ。
「うぉっ。」
緑色の太い茎。まるで木のような植物だ。教会の天井を突き破りそうないきおいまで成長すると、蕾から気味の悪い真っ赤な花を咲かせた。
「さぁ・・・どう遊んでくれますか?」
「化け物め・・・。」
真っ赤な花の中心がぱかっと割れ、血のように赤い口が現れた。そして茎から生えた何本もの蔓が砂時を叩き飛ばそうと暴れ回る。
「くっ。」
砂時は針を最大まで伸ばすと、襲い掛かって来る蔓を片っ端から切断する。
「もうやめて!」
「おや?彼がわたくしに挑んできたのですよ?脅威は今の内に叩き潰しておかなければ。」
にこりと微笑んだ笑みに桜はぞっとした。しかしじっとはしていられない。桜は何とか立ち上がると急いで砂時のもとへ駆け寄ろうとした。
「どこへ行くのです?」
「は、離して!」
ぐいっと腰を引かれ、本来なら突き飛ばすものの、手が使えない。桜はどうしようもなく、砂時の戦いを見ているだけになった。
「くそ・・・!うざい植物め・・・。」
「あぁっ!!砂時!危ない!」
瞬間、砂時の身体は太い蔓に吹き飛ばされた。
教会の椅子を破壊し、そのままその花は砂時を壁に叩きつけた。
「が・・・ぁっ!」
「さ、砂時ぃ!!」
桜は絶叫して駆け寄ろうとしたが、水崎に押さえられて動けない。
「離して!!」
「嫌だと言ったら?」
「・・・っ!」
桜は精一杯の憎しみを込めて水崎を睨みつけた。
「ち、くしょ・・・。」
砂時は何とか息を吐き出し、水崎を見て口元を歪めた。
「テメー・・・何故そんなにそいつに執着すんだ?そいつは胸もなけりゃそんなにいい女でもねぇぜ。」
「ちょっとぉ!!」
桜は顔を真っ赤にして今度は砂時を睨みつけた。
「聞きたいですか?」
「・・ぜひな・・・。」
苦しそうに砂時が言う。
そこで水崎は熱っぽく語り始める。
「わたくしには少し変わった趣味を持っておりましてね・・・美女コレクターなのですよ。」
「は?」
砂時と桜の声が重なった。
「桜さんはまだ高校生とまだ幼い。ですが、大人の身体としては十分合格です。肌も白くきめ細かい。髪も漆黒の黒髪で何も施されていない自然の髪だ。容姿としても申し分ない。目も澄んでいて何にも汚されていない・・・。そう最高の芸術品です・・・!」
熱っぽく語る水崎に桜と砂時は呆れるというより、引いていた。
「テメーもうしゃべるな。桜がドン引きしてんぜ。ちなみに俺もな。」
桜は無言のままに砂時の言葉に頷いた。
「やはり美はわたくしのそばに置いておきたい。だがいずれは汚れ、老いてしまう。だからわたくしが施しをして永遠の美を差し上げるのです。」
「まさか・・・。」
「まあ悪く言ってしまえば・・・剥製にするということですね。」
その言葉で一瞬でその場が氷付いた。
「あたし・・・こんな変態な人見たことないよ・・・!」
「俺もだぜ・・・?」
「何とでも言いなさい。」
水崎は大して気にしていないようだった。
「こんな状況で余裕なのも後わずかですよ。」
「そりゃこっちの台詞だ!」
ざくっと砂時の身体から、茎よりも太い針が飛び出した。そして植物を真っ二つに切り裂くと、水崎に飛び掛かった。
「死ね!」
「ふ・・・。」
何故か水崎は笑った。
そして聖書を開くとばっと砂時の顔の前にかざす。すると本のページの中から紫色の霧が噴出した。
「うっ・・・!」
思わず鼻を覆ったが、砂時はバランスを崩して並べられている椅子に派手に突っ込んだ。
「さ、砂時・・・!」
「く、っそ・・・。痛てぇじゃねぇかよ・・・。」
崩れた椅子に寄りかかりながら砂時はよろよろと起き上がる。
「この匂い・・・まさか・・・!」
「そうですよ。あなたに嗅がせたものと同じ。彼もこれで力は使えません。」
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