ドロー
がぎっと桜の真横に刀が深々と突き刺さっていた。刀は堅いコンクリート壁にもかかわらず、すっとひびも入れずに刺さっている。
桜は驚いて刀を見てから、自分を見つめる長瀬を見た。
「何で・・・。」
「・・・。」
ずっと刀を引き抜くと、かちんと刀を腰の鞘に戻した。
「殺せるわけないだろうが・・・!」
怒鳴るように桜に言ってから長瀬は溜息交じりに顔を俯かせた。
「俺はどうしてもお前だけは殺せない・・・。」
「・・・どうして?」
「どうしてもと言っただろう。何度も言わせるな。」
長瀬は呆れたように言いながらも、桜の腕を一方的に引っ張って起こしてくれた。
「・・・あなたは・・・きっと前にあたしに会ってる。絶対に。」
「何故言い切れる?」
「別にこうって理由はないけれど・・・。でもあなたを見てるととても懐かしい。あなたきっと悪い人じゃないわ。」
そう言って笑う桜に長瀬は目を伏せて無言のままだった。
「『D』!聞いてるんでしょ!」
『おや?何か?』
桜がステージを囲む黒スーツ達にも聞こえるように叫んだ。
「あたしと長瀬さんはリタイアしない!でも勝者と敗者を決めることもしない!言ってる意味分かるわよね?あんたもそこまで馬鹿じゃないでしょう?」
ざわざわと黒スーツ達がざわめく。
『お静かに。』
『D』の声でしん、とそこが静まった。
『ドロー・・・つまり引き分けということですね?ルール上問題ありません。ドローしますか?』
桜もにや、と笑うと無言で頷いた。
『では『超能力者』、長谷川桜様。『幻覚視』、長瀬冬夜様。お2方の意思により、引き分けといたします。』
桜は内心ほっとして『D』の声を聞いていた。
「何故だ?」
長瀬が桜に言う。
「2人ともリタイアする必要はないってことだよ。こんな言い方したくないけど、『D』の言った通り、これはゲーム。クリアもゲームオーバーもあれば、絶対ドローもあったと思うの。それがゲームのルール。問題ないでしょう?」
「そこまで考えなかったな。」
相変わらず無表情のままだったが、その声は感心を帯びていた。
「じゃあ・・・また、ね。」
「縁があればまた会うことかもしれんな。」
そして2人のゲームはそこで終わった。
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「ただいま。」
「よう、テメー何を言い出すかと思ったらドローかよ?全然考えたことなかったぜ。」
砂時が複雑な表情で言った。
「それよりもあの長瀬とか言う奴と何話してたんだ?」
「あたしあの人に絶対に会ったことあるんだよ。だから懐かしい感じがしたんだ。」
すると桜はあることに気づいた。
「ねぇ、番長はどこ?」
「あぁ・・・。あの野郎、いきなりモニター見て絶叫しやがってよ。ドラッグが回ったらしいぜ。今は外で涼んでるぜ。」
「えっ!嘘!そんなに悪かったんだ。」
砂時がヤレヤレと首を振った。
「とにかくもうここには用はねぇんだ。おら、さっさと行くぞ。」
「あ、先に行ってて。」
「あん?別にいいけどよ。」
桜は苦笑しながら砂時の背中を押してホールから姿を消すのを確認した。
「あの・・・それどけてもらえます?」
そして今自分の背後に潜む影に桜は緊張した声で言った。
するとすぐ後ろからくすくすと笑う声が聞こえてきた。
「ただの子供だと思って油断してたわぁ。」
黄色い声が桜の耳のそばで囁くように聞こえた。それにぞわっと背中に悪寒が走る。桜は緊張したままゆっくりと後ろを振り向くと、長身の女性がそこに立っていた。
きれいな顔立ちの女性だが、どこか激しさも感じる。片手には女性に不似合いな真っ赤な剣が握られていた。
「物騒な物を持ってますね。しかも鉄臭い・・・。」
「うふふ。」
女性がにやっと笑ってその剣を握りつぶすと、パシャッと一気に弾けて床にぽたぽたと落ちた。まるで血のように。
「あたしは叶静香。液体なら何でも操れる力を持ってるわ。」
「今のそれ・・・誰かの血で出来てるんでしょう。」
叶はまたくすくすと笑った。
「可愛いわね、あなた。ねぇ、あたしと一緒に来ない?あんな男達とは別れて。」
「折角のお誘い、すみません。あたしはあなたと行く気はないですから。」
きっと睨みつけると、女性はますます面白そうに無邪気に笑った。
「まあいいわ。今日の所は見逃してあげる。でも・・・。」
叶は笑みを浮かべながら腰のかがめて桜の耳元で囁いた。
「でも次は逃がさなくてよ。」
またぞわりと悪寒が走る。
桜は叶を睨みつけてから手を振り払うと、急いでホールを後にした。
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