普通じゃないのは
桜は入り口にいる黒スーツの男達を無視して、林の中まで入ると、大きな木の前で立ち止まった。
「信じらんないっ。」
悔しそうにそう呟くが、一気に虚しさが襲ってきて、泣きたくなってきた。
「長谷川桜。」
背後から聞き覚えのある声がした。
桜は涙で滲んだ視界を晴らすために、ごしごしと手で目を擦った。少し痛かったが。
「・・・あなたは。」
「覚えててくれたっスか?」
そこには口元に笑みをつけた、あの黒スーツの青年であった。
何故か髪が赤色から黒色になっており、それだけで風貌が一気に変わっていたが、そのしゃべり方と人を小馬鹿にするような笑みですぐ分かる。
「女の子1人で何してんスかぁ?危ないっスよ。」
茶化すような口調に桜は再度、怒りとともに熱がこみ上げてきたが、すぐにそれは収まった。そして脱力するように、青年に背を向ける。
「向こう行って。今は話す気分じゃないの。」
「あんたが気分じゃなくても俺はそーゆー気分なんスけどねぇ。」
くつくつと笑いながら青年が一定の距離を保ちながら続ける。
「ねぇ、あんた何者?あの『D』に向かって怒鳴りつけるなんてさ。誰でも出来ることじゃないっス。それに『D』も全然怒ってなかったし、むしろ嬉しそうだった。」
「あたしは別にあなた達のボスのことなんか聞きたくない。その名前が出るだけで虫唾が走る・・・!」
眉をひそめて振り返りながら言うと青年は少し驚いたようだった。
「顔に似合わない発言スね。荒れてるみたいっスけど大丈夫なんスか?次のゲーム、冷静を保って観戦出来るんスかねえ?」
「あたしをそんなに怒らせたいの・・・!」
桜の収まっていた怒りがむらむらと這い上がってくる。
「別にィ。俺、あんたに殺られるようなたまじゃねぇっスし。ここで俺とゲームしてもいいっスよ。」
「・・・。」
桜はじっと青年を睨みつけてから震える拳を何とか抑える。
「あたしは!そんな気分じゃないって言ってるでしょう!もう止めて!向こう行ってったら!」
「ふふん。随分な態度っスねぇ。誰に物を言っているのか分かってないんじゃないんスか?」
「目の前のあんたに言ってんのよ、礼儀知らず!」
そう叫んだ時、青年の穏やかだった瞳に強い光が芽生えた。
そして桜に近づくと、ぐっと手を桜の首元に添えた。
「礼儀知らずは余計っス。」
「う、ぁっ。」
ぎり、と首が締め付けられ、上手く呼吸が出来ない。慌てて青年の手を振りほどこうとするが、力ではかなわない。
「ねぇ、長谷川。ここであんたをゲームオーバーにしたら・・・どうなるか試してみたくないっスか?さぞかし皆びっくりして・・・俺殺されるっスかね?」
くすくすと笑いながら絞める力を強めた。
「・・・は、あっ。」
「苦しそうっスね。ここで謝ったら話してあげますよ?」
青年がにやにやと笑いかけてくる。
桜は何とか絞められている喉から迷わずに声を出す。
「誰があ、んたなんかに・・・っ、謝罪なんかするか・・・っ!」
「ふーん。じゃあ死ね。」
ぎり、と一段と手の力が強められようとしたその時、
「凛太郎!」
「げっ!柚宇先輩!」
その拍子に手が離され、桜は大きく咳き込みながら芝生の上に座り込んだ。
「お前は何をしている?」
明らかに怒っているオーラを見せる平山がずんずんと近づいて来て、青年の頭が力任せに殴りつけた。
「痛ぇ・・・!」
「馬鹿者が。大丈夫か、長谷川。」
自分の安否を心配してくれる平山の言葉に、桜は一瞬安堵の表情を見せそうになったが、はっとして2人を睨みつける。
「・・・あたしに話しかけないで。『D』側の人間とはしゃべりたくない。」
「すまなかったな。」
平山がぐいっと桜の腕を掴んで立たせてやった。
「これは青山凛太郎。何分教育不足でな・・・。許してやってくれ。」
「・・・ちぇっ。」
青山という青年はつまらなそうに舌打ちをしたので、再び平山に頭を殴られた。
「・・・『D』は・・・あたし達みたな特別な能力を持った人間を集めて、何故こんなゲームをしているの?右腕のあなたなら分かるでしょ?」
「・・・目的は郊外出来ない。郊外しようものなら、それがし等の首が飛ぶ。」
平山は自分の首をなぞってみせた。
「真実、もしくは目的を知るためには進まなくてはいけない。それは分かるだろう長谷川。」
「・・・。でも、やっぱり・・・人を平気で殺すような人の目的なんか、きっと知れたものじゃない、と思う・・・。」
「言うじゃないか。」
平山が感心したように笑う。
「だが、きっとお前は『D』の正体を知った時、かなり驚くことだろうと思う。」
「正体?」
「ヒントをやろう。前にもこのようににデッドゲームが行われていたのだ。」
えっと桜は驚いた。
前にもデッドゲームか開かれていた?
「もう行くと良い。」
「で、でも・・・もっと話を聞かせて・・・。」
「話したくないんじゃなかったんスか?」
青山の言葉に、桜は無言で2人の間をすり抜けると、ホールの入り口へと向かった。
「逃げるんスかぁ?」
懲りない青山が桜の背中に向かって叫んだ。
桜はぴたりと足を止めて青山の前まで歩いて来ると、ぐいっと青山のスーツのネクタイを引っ張り、自分の方へ引き寄せた。
「舐めんなくそガキ。」
それだけ言うと桜はすたすたと入り口へ姿を消した。
「ガキにガキって言われたくねぇっス・・・。」
乱れたネクタイを直しながら青山は悪態をついた。
「凛、その態度を少しは改めたらどうだ。後から迷惑をこうむるのはそれがしなのだからな。」
「無理っス。」
にや、と笑いながら言うと平山は溜息をついた。
「それより柚宇先輩。一体どういうつもりなんスか?」
「それはどういう意味だ。」
「どうもこうも・・・何で異常に長谷川に親切なんスか?ありえないでしょ、普通。」
すると平山はふっと笑う。
「普通じゃないのはどちらだ?」
青山は、乾いたようにははっと笑った。
「そういや、さっき長谷川は『D』の考えていることが分からないって言ってたけど、俺は先輩の考えてることの方が分かんないっスよ。」
「礼儀知らずには分からなくていい。」
「そんなぁ。」
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