針人間対音催眠術師
桜がモニターを見て番長をつついた。
「ねぇ、あの人・・・。」
「知っているのか、姐さん。」
「・・・あたし達の学校の先生じゃない。」
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「俺は高校で音楽教師をしちょる。おまんも名乗るぜよ。」
「俺は宮元砂時。喫茶店の店主だ。」
教師という言葉に砂時はまた驚かされたが、負けずに自分も店主だとはりきって言った。
「そげなえばることないき。おかしい奴じゃな。」
くすくすと口元に手を当てて柳川は笑う。
「そんなこといいから早くやろうぜ。」
「あ、その前に。」
「何だよ。」
うんざりしたように砂時が先を促す。
「砂時といったか。できればリタイアしてもらえんかえ?」
「は・・・っ?」
その言葉に砂時はぽかんと口を開けた。
「俺も無駄な戦いはしたくないにき、リタイアしてくれんかのぅ。」
「冗談で言っているのか?」
「冗談じゃないき。」
にこ、と笑って柳川は続ける。
「早う答えを出すぜよ。」
「んなの決まってんだろ。ノーだ。」
「まことかや?」
仕方なさそうに柳川は言うと、その場にあぐらをかいて座った。そして背中のギターを持ってくると、指を弦に合わせてぎゅん、と弾いた。
「ああっ?」
その音を聴いたとたんぐらりと砂時の視界が歪み、砂時もその場に膝をついた。
「テメッ・・・。一体何して・・・。」
「下らんこと気にすな。俺の音、しゃんと聴け。」
再びギターの音が耳に届いたと思うと、今度は完全に身体の自由が利かなくなった。それどころか、うまく声も出せない、何も考えられなくなってしまう。
ふと、再び耳に軽快な音楽が流れてきた。すると硬くなっていた身体が宙に浮いた気分になった。
(これが催眠術か・・・!あんにゃろ音で催眠術をかけんのかよ・・・。ふりこがないから油断してたぜ・・・。)
『何も考えんでええ。俺の音だけに集中するぜよ。』
音楽とともに柳川の声が聞こえてきた。
『ええか・・・。リタイアしとーせ。』
(リタイアしろってか・・・。そりゃ出来ねぇ・・・。)
『そのまんまじゃあ、しんどいじゃろ。』
柳川の声までも軽やかな音楽のように聴こえてくる。
砂時はそれを必死で振り払い、別なことをぼんやりしてくる頭で考えた。
『手を上げてリタイア言えばええ。』
そして自分が手を上げそうになっていることに砂時は再び驚いた。
(だめだ!ここでリタイアしたら・・・!!)
びっと手先から針を出すと、迷うことなく自分の足に突き刺した。
ずぶっと音がして、足を細い針が貫通する。
「うっ!」
その痛みでいくらかは意識がはっきりしてきた。
『何しゆうが?』
くすくすと笑い声が聞こえた。
(・・・やばい。これじゃあ・・・本当にリタイアしちまう・・・!)
『早ようリタイアせぇ。』
(うるせー・・・。日本語しゃべれ馬鹿野郎・・・!)
『立派な日本語じゃきに。』
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「あの子どうしちゃったの?」
「全然動かないが・・・やられてしまったのではないのか・・・?」
「砂時・・・!」
桜達はモニターに釘付けになっていた。
「あの男何なの?全然緊張感がないじゃない。」
「柳川先生はね、学校でも有名な人なの。奇想天外なこと急に言い出すしね、怖い人でも誰も逆らえない、いわゆる変人なんだよ。」
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『こないえこじな奴初めてじゃ。したくはなかが・・・仕方ない。』
ばあん、と今までの音楽が一変し、激しいものと変わった。
「うぐっ?!」
針が勝手に飛び出し、砂時の足を再度貫いたのだ。
『おまんがリタイアせんのがあかんのじゃ。』
「く・・・っ、そ!」
また勝手に針が飛び出たままの手が動き出し、砂時の首筋に針先が当たった。ちくりとした痛みとともに、針が食い込んだせいで、少しだけ血が垂れた。
『主の能力で死にたくはなかろう。リタイアしとーせ。』
(俺は・・・だめだ!)
その間にもぐぐ、と針は首に食い込んでくる。
必死にそらそうとするのだが、音楽が嫌に耳にもぐりこみ、砂時の意識を持っていこうとする。だんだんと頭に靄がかかってくる。本当に意識を失ってしまったら、柳川の操り人形になり、ゲームオーバーに、あるいはリタイアされてしまうだろう。
『砂時!』
ふいに少女の声が砂時の耳に届いた。
『砂時!しっかり!』
(あ・・・?桜か・・・?何でお前ここにいるんだよ?)
『違うよ!あたしの超能力!これ・・・テレパシーっていうんだよっ。あたしは砂時の声が聞こえるし、砂時もあたしの声が聞こえるでしょう?でも回りの人はあたし達の会話は聞こえないの。』
確かに、薄れる意識の中で桜の声だけははっきりと聞こえた。少しだけ変声機を使ったように聞こえるが、今はそんなことどうでもいい。
(しっかりしようにも・・・身体が動かねぇんだよ・・・。)
『大丈夫!柳川を良く見て。何が見える?』
(あ?野郎を見たって何も得なんかねぇぜ。)
『ちょっと真面目に聞いてよ!柳川はギターを使って自分の力を使ってるの?あたしの言いたいこと分かるよね?』
砂時はいつものようににやっと笑ってみせた。
(女に助けてもらうなんざ俺も男ぶりが落ちたな・・・。)
『馬鹿。あたし、いつも砂時に助けてもらってるんだから。恩返しだよ!』
それを境に桜の声は聞こえなくなってしまった。やはり限界があるのかと、砂時は1人納得していた。
砂時はふんばって自分に向けられている針を自力で引っ込めた。
「む?」
柳川は音に逆らう砂時の動きに首を傾げた。
そして砂時はよたよたしながら立ち上がると、懐から煙草を取り出すと口に咥えた。
その瞬間、砂時の身体全体から長細い針が肌、服を突き破り、柳川を狙っていた。
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