ピンチ
「じゃあ行きますよぉ〜」
桃山がひゅっ、ひゅっと注射器を投げつけてくる。それは正確にまっすぐ飛んで来たが、砂時が針を出してそれを叩き落とした。
「あららぁ〜?」
「気分乗ってるとこ悪りぃが…俺は女とはゲームをするつもりはねぇ。降参してくれねぇか?」
すると桃山は薄ら笑いを浮かべながら、不思議そうに首を傾げた後、にっこり笑って相手を即座に変えた。
「じゃあこっちの患者さんからいきましょうねぇ〜」
「そう言う意味で言ったんじゃねぇよっ」
慌てて砂時が言うが、桃山はかまわず注射器を番長に向かって投げた。
「むっ」
それに反応し、迫り来る注射器を氷付けにしたが、1本だけ、1本だけの注射器の針が番長の胸部に突き刺さっていた。中に入っていた液体は、すぐに番長の体内へと送り込まれる。
「ちっ。小ざかしいまねを…」
注射器を払いのけながら、番長は憎らしげに呟いたが、さすがに辛いらしく、すぐに地面に膝をついてしまった。
「ば、番長…! しっかり! 大丈夫…?」
桜が即座に番長に駆け寄り、顔を覗き込む。番長の額にはたくさんの汗の粒が浮かんでおり、何かを耐えているようだった。
「番長?」
「あ、姐さん…! 俺は良いからあの女を」
見ると桃山は今度は注射器ではなく、銀色に光るメスを手に常備していた。
「さぁ〜。次は手術の時間ですよぉ〜」
「桜! 番長は俺に任せてお前は相手してろよ」
砂時の声に桜は桃山から距離を測る。
しかし桃山はにぃ、と笑うと車椅子をがらがらと押しながら突進して来たではないか。
さすがに死人(しかも血まみれ)が乗った車椅子が迫って来るというのはいただけない。その迫力に桜は背を向けて走り出した。
「待ってぇ〜」
「いやあー! き、キモい! 怖い!」
「逃げてどうすんだよ」
車椅子に乗っている死体は、がたがたと動いてまるで生きているようだ。
桜は振り返りそれを見てしまい、走る速度を上げた。
「だめ! 車椅子は走っちゃ駄目なんだよぉー!」
「待ってぇ〜」
「車椅子の利用者さんに不快な思いをさせる行為はいけないんだってばっ!!」
場違いな解説をしながら桜はジャングルジムの頂点へと追い詰められた。
「こっちからいきますよぉ〜」
「おっと!」
桃山は車椅子から手を離し、メスを手にしたまま登って来るではないか。
「ち、超能力は使えないしどうしよう…!」
「駄目もとでも良いから使ってみろって!」
番長を抱えた砂時の声が聞こえた。さすがの砂時でも怪我人を抱えてでのゲームは出来ない。
下には桃山がいる。
桜は決心を固めた。
「いくよ!」
そう自分にも気合のを入れて桃山に指先を向けた。
「サイコキネシス!」
すると回りに異変が、起こらない。
またしても失敗したのだ。桜が絶望的な表情で登ってきた桃山を見上げた。
「うふふぅ〜。これで終わりですよぉ〜」
そう言ってメスを構えた時、突如、異様な空気が辺りを包み込んだ。
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