看護師
桜は考えていた。
きっとあの男とどこかで会っている。だからあんなに懐かしい気持ちがしたのだ、と。
砂時と番長は考えている桜を振り返りながら同時に溜息をついた。
「もっと緊張感つーやつを持ってもらわねぇとな…」
「馬鹿者。貴様もだ」
番長が砂時を方をちらりと見てぴしゃりと言う。
「ねぇ! 今回のゲームのことなんだけど!」
いきなり桜が後ろから声を張り上げたので、2人は同時に足を止めて振り返った。
「カードをいっぱい集めて次のゲームに参加するんでしょ?」
「あぁ」
「第3次予選と第4次予選が続けてくるわけだな」
やれやれ、と首を振りながら番長が言う。
「一体どれだけの人が参加するのかな」
「さぁ。何せ世界中の能力者達がここらに集められてるわけだ」
「おそらく軽く数百人は越えるのではないだろうか」
「そんなにか」
砂時の出した煙草の煙を嫌そうに手ではらいながら番長が続ける。
「だが…ここ以外の場所でもゲームが行われているかもしれないな」
「何だかお先真っ暗だなぁ」
「今さら言ってもしょうがねぇだろ。おら、さっさと先に進むぜ」
背中を押されながら桜は前へと進み始めた。
しばらく歩くと古びた小さな公園があった。ジャングルジム、鉄棒、シーソーといった何ともいえない寂しさの感じさせる場所だ。
「ねぇ、あの人参加者の人かな」
桜が指差す方向には1人の女性がジャングルジムの小脇に立っていた。後ろ向きで顔は見えないが、白いナース服姿の女性で看護師らしい。
しかし、その服には血らしき血痕が点々とついている。3人は思わず身構えた。
「あらぁ〜? また患者様が来たわぁ〜。先生どうしますぅ〜?」
太い注射器を持った看護師がゆっくりと振り向いた。
黒髪を振り乱し、目はぎらぎらと血走っている。やはり服には血がたくさんこびりついていた。
「デッドゲーム参加者ですか?」
「えぇ〜。そうですよよぉ〜」
持っている注射器を押すと、針先からぴゅっと透明な液体が飛び出した。
「先生〜。どう治療いたしましょうかぁ〜?」
その看護師は車椅子を押していた。それと一緒に振り向いた時、桜達は一瞬目を疑った。そこには白衣を着た医者が座っていたのだが、座っているというより、乗っているの方が正しいのかもしれない。その医者は下半身がなかった。
「あぁ〜先生〜。指示してくれないと治療が出来ませんよぉ〜」
腹部から下は何かで切断され、でろでろと切断部から肉片や内蔵等が飛び出ている。車椅子はその医者の血で真っ赤に染まっていた。医者は目は虚ろで空を見上げており、口からは泡を吹き出し、手はだらしなく垂れ下がっている。
「そいつもう死んでんだろ」
砂時がすかさず突っ込む。
すると看護師はにやぁ、と嫌な笑いを浮かべた。
「そうでしたぁ〜。先生はあたしが殺しちゃったんでしたぁ〜」
「あの医者も参加者だったのか」
桜はその医者の顔に見覚えがあった。
1週間前くらいでニュースに出ていたのだ。患者のカルテを偽造し、多額な治療費を騙し取っていた、いわば詐欺師だ。
「先生が悪いんですよぉ〜。あたしを殺そうとするからぁ〜。だから塩酸を身体中に投与して苦しめて殺してあげたんですよぉ〜。下半身はお行儀がとっても悪いので、メスでゆっくり切断して、どこかに捨てて来てしまいましたぁ〜」
さらりと、そんなことを言う看護師に桜は眉を潜めた。
「あたしは桃山美紀ですぅ〜。大学病院の看護師ですぅ〜。能力は完全違法の薬を造ることですぅ〜。一応看護師なので、人に有害な薬を造るなんて造作ないんですけどねぇ〜」
死んだ医者を乗せた車椅子をからからと押しながら3人に近づいて来る。
「あなた達もすごくお行儀が悪いですねぇ〜。悪い子にはお注射しましょうねぇ〜」
小さな子供をあやすような声を出しながら注射器をさらに取り出した。
「分かるりますかぁ?人間を針で刺す時って…すごく快感なんですよぉ。あの皮膚を突き破ってぶすりと手に伝わってくる感触…」
すると砂時は露骨に嫌そうに顔を歪め、ぼりぼりと頭をかく。
「桃山とか言ったかテメー。俺ァ…全身針人間だが…刺した時に快感なんぞ感じねぇぜ。むしろ不快…」
「あららぁ〜? おかしいですねぇ〜。じゃああなたにはこれを注射しましょ〜ね〜」
桃山は太い注射針を取り付けた注射器を取り出す。中にはたっぷりと透明な液体が入っている。
「砂時! 気をつけて、あれ! ドラッグだ!」
「何だと?」
「まさか…あの女もドラッグにはまっているのか?」
番長の言った通りらしい。
よく見ると桃山の腕にはたくさんの小さな痣があった。きっと無造作に針を刺したのだろう。痣が青黒く変色していた。
「さぁ〜診察しましょうね〜」
桃山の楽しげな声が公園に響き渡った。
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