無
「桜ぁ。最近高山君とかなり仲良いよねぇ?」
「え? そ、そうかな?」
「そうだよぉ! 変なあだ名なんかで呼び合っちゃってさ。前の人(砂時)と二股かけてるわけ?」
にやにやしながら美奈が言ってきた。
昨日のデッドゲームのせいでぐったりしていた桜ががばっと起きた。
「そんなわけなじゃん!」
「むきになる所が怪しいんだよねぇ…。桜、昔から嘘つくとき必ずきょどるから」
「嘘じゃないってば!」
そういえば最近学校では番長といる時間がかなりあるような気がする。
番長は桜を慕っているわけで、それで2人で一緒にいることが多い。番長が怖いから誰も近寄って来ないのだ。だから2人は付き合っているとか、そんな噂が広がりつつあった。
「実はあたしも高山君ちょっと好みなんだよね」
「えっ! そうなの?」
「何ていうかぁー超ワイルドじゃん?」
「ワイルド越してると思うけど」
「それでいてちょっと女の子には親切な所もあるでしょ? 落ちた消しゴム拾ってくれたり、力仕事は全部引き受けてくれたり。あの顔に巻いている包帯もかっこよくない?」
桜は熱っぽく語る美奈を見て溜息をついた。
「姐さん」
「へっ?」
いきなりぬうっと現れた番長に桜は飛び上がった。
「た、高山君っ。い、今の話聞いてた…?」
美奈が真っ赤になりながら番長に言った。
「は?」
その様子だと聞かれていないらしい。美奈はほっとしたように安堵の溜息をついた。
「何か用?」
「生徒指導部の三浦が呼んでいた。生徒指導室に来いと」
「え、何だろう?」
桜は座っていた椅子から立ち上がると首をかしげた。
「姐さんに何かするようなら俺が…」
「せ、先生絞めちゃだめだよ。ちょっとあたし行って来るね」
そして美奈に、番長と仲良くね、と先ほどの仕返しで耳打ちをすると急いで教室を出て生徒指導室へと向かった。
生徒指導部の三浦は嫌味な女性教師でちょっとずれた生徒を見つけると、生徒指導室に呼び出し、生徒を徹底的にしごくという非情さを持った、ある意味有名な先生であった。
何か自分が校則を乱しただろうか?そう疑問を浮かべながら生徒指導室のドアをノックした。
「入りなさい」
感情のない声が聞こえてきた。
「失礼します」
思わず桜は緊張してゆっくりとドアを開けた。
生徒指導室は無機質な倉庫みたいな所だ。妙に誇り臭いのも桜は嫌っている。そしてその指導室の中心には先生と生徒が向かい合うように椅子が2つあった。そこに三浦はどんと構えて座っていたのだった。桜はぺこりと礼をして椅子に腰掛けた。
「あの…何か?」
「分かっているくせに。とぼけるのは良くないことですよ」
思い当たる節が見つからない。黙っていると三浦は静かに溜息をついて薄い紅を引いた薄い唇を動かした。
「異常に男性との交流が多いようですね」
「は?」
「高山京一とのこと。奇妙なあだ名で呼び合っているようですね。それと街中で別な男性と喫茶店に入った所を目撃した生徒がいます」
砂時のことだ、と桜は心の中で思った。
「我が学校では男女交際は禁じられているはずですが?」
「違います。彼等とはただの友人です」
「本当ですか? 自分に嘘をついてはいないですか?」
わずかに眉をひそめながら桜は黙っていた。
「先ほど高山京一とここで話をしました。もう彼と付き合うのは止めなさい。校内でもよからぬ噂がたっており、先生方も非常に困っていますよ」
「どうしてですか?」
「彼があなたにとってよからぬ影響を与えるからです」
番長のこと何も知らないくせに、と桜は叫びたくなったがぐっとそれを堪えた。
「それと町で会っている男性とも縁を切りなさい」
「…」
砂時とは親友だ。
それは出来ない。
「全く…親がいないから、異性への接し方が分からないようですね。これだから困ります」
親と桜とどちらのことを言っているのだろうか。おそらく両方だろう。どちらにしろ、桜の勘に触ったのは言うまでもなかった。
「何も知らないくせに勝手なこと言わないで下さい」
「え?」
反論されるとは思っていなかったのだろう、三浦は目を丸くして桜を見つめた。
「何も分かっていないくせに。他人のくせにあたしに指図しないで下さい」
「せ、先生に向かって何と…」
「先生も口は謹んでください。そうでないと、あたし何するか分かりませんよ。正直自分の力が抑えられない時が多いので」
超能力を無意識に使っているらしく、三浦の背後にある資料等がわずかにかたかたと浮いて音をたてた。
桜は身をひるがえすと指導室を出ようよドアを開けた。そして振り返って呆然としている三浦に、
「じゃあ、失礼します」
とだけ言うと足早に教室へと戻って行った。
妙に腹立たしい。また力を使ってしまいそうだったので、抑えるのが必死だった。そしてようやくいらいらが収まった時、やっと教室へと入った。
「姐さんご無事で…?」
「え? う、うん」
心配そうに番長が1番に桜に声をかけてきた。
「何でもないよ」
そう言って桜はいつものように微笑んでみせた。
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