鍵と少年
校舎に入ると下駄箱付近の掲示板にいくつかの鍵が画鋲で貼り付けられていた。ほかの参加者達は1人ずつそれを手に取って行ったため、桜達は3人で1つの鍵を持つことしか出来なかった。
「放送室の鍵だって」
「放送室? 案内板だと印刷室の隣だな」
学校の案内板を見て砂時が言う。まずは廊下をまっすぐ歩いて職員室へ向かう。それから校長室、印刷室を通り過ぎて放送室の前まで来た。
放送室はドアがガラス製のため、中が透けて見えた。誰もいないようだが、電気だけはついている。
「このくらいなら壊してでも入れそうだが」
「それじゃルール違反だろうがよ。頭使え、現役高校生番長」
またもや砂時が番長に嫌味を言った。後ろで言い合いをしている2人を放っといて桜は鍵を使って放送室のドアを開けた。
「誰かいますか?」
1人でにそう呼びかけて中に入る。
中はきれいに掃除されており、放送で使用される台本や音楽テープ等がきちんと棚に整頓されていた。
「この中に鍵があるのかな。ちょっと2人も喧嘩してないでこっち来てよ」
「後で決着つけるぜこの野郎」
「上等だ」
また2人は言い合いながらも放送室の中に入って来た。
「多分この中に次の部屋の鍵があるんだよ。探そう」
「地道な作業になりそうだな」
言いながらも腰をかがめて次なる鍵を探し始めた。桜は机や引き出しの中、砂時は放送室のレコーディング室、番長は棚を軽々と持ち上げて裏などを探す。
「番長って力持ちだよね。前もすごい力あるなって思ってた。パンチでコンクリート砕いたじゃない」
「そうだったのか?」
初耳の砂時はレコーディング室から顔を覗かせて言った。
「前に屋上でやり合った時があったんだ」
「あの時は俺が姐さんに投げ飛ばされて勝敗がついたんだったな」
番長が熱っぽく語った。
「テメー…そんなに怪力だったのか? こいつの身体投げ飛ばすなんざ」
驚いた様子で砂時が言ったので桜は慌てて首を振った。
「あ、あたしそんな力ないよ。あの時は…番長の身体を持ち上げたっていうか…持ち上がったんだよ。ふわって」
「サイコキネシス…か?」
「サイコキネシス?」
逆に番長が聞いた。
「いわゆる念力だ。こいつは超能力者なんだよ。今はテレポートしか使えねぇがな。それも多分無意識のうちに使った能力だろ」
「多分…」
「テレポートはだいたいコントロールは出来てるから心配ねぇと思うが…」
桜は疲れたように溜息をついた。また中途半端で能力が目覚めてしまった。実は桜は能力を使わないように、または無意識に発揮しないように常に気を張っていたのだ。やっと最近その必要もなくなっていたというのに。
「つらいなぁ…。あたしも砂時や番長みたいにちゃんと能力使いたい」
「姐さん、心配しなくてもそのうち使えるようになる。テレポートもそうだったんだろう?」
「…うん、ありがと」
そう微笑むと番長は礼儀正しくお辞儀をした。
それを砂時は鬱陶しそうに見てから鍵探しを再開する。
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「ここには鍵はないみたい」
「ほかを探した方がよさそうだ」
3人は放送室を諦めて廊下へと出た。
「あ?」
「あ?」
すると門前で出会ったあの少年と、少年を怒鳴っていた女性と鉢合わせした。
よく見ると2人の身体には血がいくつかこびりついており、まだ新しいものだった。そして女性は背中にドリル型のチェンソーを背負っていた。
「その血…」
「…どうしたもこうしたもないさ。いきなり教室のドアを開けたら化け物が襲い掛かってきてねぇ…。あたしの仲間3人は殺されちまったさ」
平然としてものを言うこの女性に桜は少しだけ怒りを覚えた。
「でもこの通りカードは貰ってきてやったからね。あいつらには感謝してるよ」
「…」
少年は黙って女性の後ろに隠れた。
「何だいその顔は…。気に入らないね。試しにあたしと殺り合ってみるかい?」
女性が担いでいたドリルチェンソーを手に取った。
血の気の多い番長はすぐさま戦闘態勢へと入ったが、桜が無言でそれをさえぎった。
「別にあたし達はあなたと戦いたくはありません。あなたみたいな人に時間をかけてられませんからね」
すると後ろで砂時が少しだけ吹き出した。
「ふんっ! 草太! こいつらを片付けておきな! カードも忘れるんじゃないよ!」
「は、はい…」
すると女性はくるりと背を向けて立ち去った。
草太という少年は桜達と向き直るとファイティングポーズをとった。それが子供のお遊戯のように桜には見えてしまった。
「…悪いこたぁ言わねぇ。よしておけ」
「僕…言うこと聞かないと怒られるから! だからあなた達を殺します! ルール違反じゃありませんよ!」
草太は子供なりに凄んでみせた。
「覚悟してください!」
草太は叫び、手にしていた黒手袋を取ると、桜へと突進して来る。慌てて避けると草太の手が白い壁に触れた。
するとがばっとその触れた部分の壁が粉々に砕け散る。
「えっ?!」
「桜! 次来るぞ!」
草太は迷うことなくすぐ体制を変えて桜へ向かってくる。
「姐さん逃げるぞ…」
番長は桜を促すと砂時とともに廊下を走り出した。
「あ! 待ってください!」
「何だあいつの手は!?」
廊下を曲がった所で3人は呆然と立ちすくんだ。
「どうかしたんですか…?」
草太も立ち止まって呆然とそれを見た。
そこには化け物がずん、と居座っていたのだ。黒い身体をして窮屈そうに廊下を歩いている。異常にでかい口が特徴のトカゲだ。血走った目で下にいる4人を見つけると、口を大きく開けて雄たけびを上げた。
―オオオォ………
あまりのでかい音に全員が耳を塞ぐ。
「こんなのありなの?」
桜が言った。
それを見たトカゲは大きな爪を出して、桜めがけて大きく振り上げた。
「あ! 危ないです!」
手袋をはめた草太が叫び、桜に体当たりをする。代わりに草太はトカゲの爪の餌食になり、壁に大きく叩きつけられた。
「草太君!」
「か、はっ」
桜は慌てて草太に駆け寄り抱き起こすと、口から大きく息を吐き出した。叩きつけられた拍子に肺の中の酸素を吐いてしまったらしい。気絶した草太を桜はおぶるとトカゲと向き合っている砂時達に叫んだ。
「逃げよう!」
「駄目だ。逃げようともこのトカゲは追ってくるぜ!」
「先に行け。ここは俺達で食い止める。姐さんはその子供を連れて早く」
番長は壁に手をつくと、ぱきぱきと氷の壁を作り、廊下を遮断した。
「2人とも!」
しかし壁はびくともしない。
「…」
桜は草太を抱えなおすと一目散に廊下を走り出した。
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