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最近安島の様子がおかしいんだが

作者: 月月月

 安島がおかしい。

 安島というのは、高校に入ってからできた私の友人だ。安島は、よく不整脈を起こしてしまう私を、労わってくれる優しいヤツだ。それでもって艶やかな黒髪を持っている素晴らしい黒髪男子高校生だ。

 その安島が10月の中頃から、様子が変である。顔が赤かったり、こちらが肩を触ったりすると、ひどくうろたえたりする。苛立ったようにというか、熱っぽいような瞳でこちらを見つめることも多かった。気になり出してから二ヶ月、それは今でも続いている。

 そこで、私は察した。

 ……安島は、更年期なのではないか。最近は、若年性更年期というのも増えていると聞く。いささか十代では早すぎるような気もするが、顔が赤くなるのもイラつきやすいのも熱っぽいのも更年期の症状に当てはまった。そう、きっと安島は更年期なのだ。

 私が不整脈をなかなか打ち明けられなかったようにきっと安島も悩んでいるはずだ。不整脈以上に、更年期というのは年を取ってから患うイメージがあったから、例え私と安島の仲と言えど、言い出せないに違い無かった。

 私は決意する。

 安島に悩みを、聞いてみよう。


 放課後、早速私は話がしたいと安島を空き教室に呼び出した。空き教室にしたのはできるだけ人目につかない方が、話を聞かれる心配もなくていいと思ったからだ。

 空き教室はかなり夕日が眩しかったので、すぐに日も落ちるだろうが一応カーテンを引いておいた。

 ただ、今の向かい合わせの状況を見るに、空き教室はダメだったかなと内心ちょっぴり後悔する。心臓のどきどきはいつもの不整脈だが、二人っきりになるとなおさら躊躇にそれが現れるのだった。


「……え?」

「だから、安島は何か私に隠し事をしていない?」


 安島は目を見開いて、一瞬言葉に詰まった。でもすぐに立て直して、からりと笑った。


「僕が? まさか」

「違うね」


 言外に誤魔化すな、という意思を伝えると、安島は目線を彷徨わせた。動揺、丸わかりである。

 唾を飲み込んだようで、ごくりと喉仏が動いた。セクシーだと感じてしまった自分に、今はそんなことを考えてる場合じゃないと活を入れる。


「じゃあ、赤塚は俺がなんの隠し事をしてると思うのさ」

「な、なにって……私が言ってもいいの?」


 開き直ったのか、ずい、と距離を詰めてきた安島に、かなり動揺した。なんだか体中沸騰したみたいで落ち着かない。


「言って」

「そ、」


 耳元で囁かれて、猫ではないがぶわっと毛が逆立ったような気がした。冷や汗が、背中を伝い落ちる。

 安島の目が、熱に浮かされたみたいにゆらゆらと揺れている。


「そ?」

「それだよ、それ! 熱っぽくなったり、顔赤かったり、安島のそれって」


 気持ちを落ち着けるように息を吸う。


「それって……若年性更年期なんだろ?」

「は?」


 なんか、温度が下がったというか、肌寒いような。さっきまでの熱がこもった室内から一変、本来の冬が近いことを思い出させる、そう、寒さと言って良い空気が部屋に漂っていたのだ。夕日が落ち切ってしまったのだろう。


「じゃくねんせいこうねんき?」


 気温に気を取られていたが、安島の言葉に引き戻される。

 そこで、なにいってんだお前、という底冷えするような視線に気づいた。


「何? じゃあ赤塚は俺が顔赤いのも熱っぽいのも、その若年性なんちゃらの所為だと思ってるんだ? へぇ、そうなんだ」


 なんでか知らないが、悪寒が体を這いずり回った。それに安島はかなりイラついているように見える。つまり、私の予想は外れている可能性が高いというコトだった。かなり私は動揺した。

 安島は、ほおに触れられるほど近くにいて、それにも動揺した。

 恐る恐る、訊ねる。


「……違った?」

「違うね」


 きっぱりとした否定が帰ってきて、自分は間違いを犯してしまったのだといたたまれない気分になった。


「ごめん、こう、貶すつもりとかじゃ無かったんだ。ただ、私も不整脈とかいろいろあるから、それで」

「そう」

「安島が困っていたら、力になりたいってそういう一心で」

「うん」


 頷いた安島は、微笑んでいた。私は顔に血が集まるような感覚に陥った。

 ふと、気づく。あれ、なんか部屋の気温が戻ったような気がする。夕日が落ちたから部屋の温度が下がったわけではないのだろうか、もしかして、空調が壊れてる?


「赤塚、俺の力になってくれるの?」

「もちろん。私に出来る事があれば」

「あるよ」


 即答だった。恥ずかしさと罪悪感とで、藁にもすがる思いで安島を見つめる。目があってやっぱり心臓はばくばくと動いたが、今はそれどころでは無かった。

 友人として、できる限りのことをしなければというも思いで、私はいっぱいだった。


「俺の恋人になってほしい」


 ……コイビト?故意?鯉?

 …………恋人?


「こいびと」

「うん」

「恋人」

「そう」


 このスペシャル理想の男子高校生である安島と、私が恋人に。


「え、や、待て」

「今日呼び出されたのは、告白されるかもしれないって、俺がどれだけ期待したと思う? そしたら、若年性更年期とか言い出すし、そこまで人を観察しといてなんなのさ、そんなに俺を振り回したいかっ」

「いや、そんなつもりは全く」

「知ってる。知ってるよ、赤塚が全然そんな気ないっていうか、気づいてないってことくらい。不整脈とか、馬鹿だろ」


 なぜここで不整脈なのだ。しかもナチュラルに罵倒された。


「言っちゃうけどね、俺から言わせてみれば、赤塚の不整脈ソレは、恋、です」


 しばらく、頭が真っ白で、その言葉は脳に入ってこなかった。

 あ、と気づく。すとん、と胸のつかえが取れたようだった。


「そうか、これが、恋……」

「鈍感すぎて、どうしようかと思った」

「それで、安島のも、恋……?」

「言わせんなよ恥ずかしい」

「いや自分で言ったじゃん」


 気の抜けたやりとりに、ふたりして笑った。


「ところで、返事は?」


 安島の意地悪な問いかけに、口を閉じる。

 なんか、私はいっぱいいっぱいだったのに、安島は余裕のようでムカついた。さっきまで、あんなに様子がおかしかったのに。


「これからも、よろしく」


 すねたように言うと、それじゃわからない、と返される。

 告白を受けたこともしたこともないのに、そんな、どうすれば。

 途方にくれると、しびれを切らしたように、安島が私の頬を撫でた。


「好きって、いって」


 吐息がかかる、ほぼ0距離。


「好き」


 条件反射のように、その言葉を口にする。


「うん。俺も好き」


 爽やかに笑った安島に私も笑う。

 二人の距離は、0になった。


 こうして不整脈も安島の様子がおかしいのも解決した。

 ただ、しばらく不整脈は続きそうだった。




いきぬきたんぺんに、くぎりをつけた。


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