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小さな花

作者:帚星 千日紅




 むかしあるところに、小さな国と、大きな国がありました。
 小さな国のお姫さまと、大きな国の王子さまは、こいびと同士でした。
 小さな国は貧しくて、あまりものがありません。
 なので、みんな、ものをとても大切にしました。
 ひとつの鞄、一揃いの靴、一個の時計、一枚の服、すべて一つずつ持っていました。
 大きな国は豊かで、ものがあふれていました。
 なので、みんな、たくさんのものを持っています。
 いくつもの宝石、山盛りのお菓子、豪華なドレスは一度も袖を通していないものもあるのです。
 なんてすばらしいのでしょう。

 小さな国のお姫さまは、大きな国の王子さまに言いました。
「あなたは、わたしのたったひとりの、だれよりも、なによりも、あいしている人です」
 大きな国の王子さまは、小さな国のお姫さまに言いました。
「あなたは、わたしがもっともあいしている人たちのなかのひとりです」
 小さな国のお姫さまはとても悲しそうな顔をしました。

 それからしばらく経って、小さな国のお姫さまは病気になってしまいました。
 大きな国の王子さまは、毎日たくさんのおくりものを持って、お姫さまをおみまいします。
「あなたの気に入りそうなものを、たくさん持ってきました。どうぞ元気になっておくれ」
 けれどお姫さまの病気はいっこうによくなりません。

 ある日、お姫さまは言いました。
「ひとつだけ、ほしいものがあるのです。王子さま、どうぞわたしに、いちばん美しい花をつんできてください」
 王子さまはお姫さまのために、いちばん美しい花をさがしました。
 おおぜいの家来が国中をさがします。
 家来たちはさまざまな花を王子さまのもとへ持ってきました。
 王子さまはそれから一輪だけをえらびだすことができません。
「どれも美しい花だ。いちばん美しい花ではなく、これをすべて姫のもとへ持っていこう。そうして、姫にいちばん美しい花を選んでもらおう」
 王子さまは家来たちに大きな花束を何百個と持たせて、小さな国へ向かいました。
「さあ、姫、いちばん美しい花はどれですか」
 お姫さまは弱々しく首を振りました。そして小さな声で言いました。
「わたしの欲しかった花はここにはありません」
 そしてお姫さまは死んでしまいました。
 王子さまは花々に埋もれて、お姫さまの死を嘆きました。

 それから、大きな国の王子さまは、世界中に家来を送りました。
 彼らに下された命令は、世界でいちばん美しい花をさがしてくることです。
 しかし、なかなか見つけることができません。
 これと思うものを持って帰っても、王子さまは、
「いいや、姫の欲しがっていた花は、もっと美しいはずだ」
 そういって、花びらを散らしてしまいます。
 やがて、命令を出した王子さまも死にました。
 けれど、まだ、世界で美しい花をさがしだすことはできません。

 いまでも、家来たちはお姫さまが欲しがった、いちばん美しい花をさがしているのです。




 二

 むかしあるところに大きな国と小さな国がありました。
 あるひ、小さな国に大きな国から使者が来ました。
 使者は王さまにこういいました。
「世界でいちばん美しい花を探し出し、大きな国に献上しろ。さもなくばおまえたちの国はわたしたちの国が滅ぼしてしまうぞ。さあ、世界でいちばん美しい花を見つけるのだ」
 大きな国は兵隊は小さな国の兵隊の何倍も、武器は何十倍もあるのです。
 小さな国が大きな国に勝てるはずはありません。
 小さな国には、ひとりの王子さまがいました。
 王子さまはかしこく、そして勇気がある若者でした。
 王子さまは小さな国の王さまにいいます。
「ちちうえ、わたしがその花を見つけてきましょう」
 王子さまはこう考えました。

 なぜ 世界でいちばん美しい花を さがせなどと いうのだろう?
 まず そのわけを さぐるのだ

 かしこい王子さまは髪を染め、顔を布で隠し、大きな国に行きました。
 大きな国の都は不思議なことにしずまりかえっています。
「どうしたのだ、この国は」
 そこにひとりの老婆があらわれました。
 老婆は王子様にいいました。
「旅のお方、この国から早くでていきなさい」
「なぜですか、おばあさん」
 おばあさんは涙を流しながら語りました。
「お城におそろしいばけものがすみついたのです。ばけものはにんげんを食べるのです。もうこの都にはわたしのような年寄りばかりです」
「それではわたしがそのばけものを退治しましょう」
 王子さまはお城にむかいます。
 お城はあれはてています。
 王さまも兵隊も逃げてしまって、だれもいません。
 ばけものはお城の塔のいちばん上の部屋にいました。
 ばけものはとても醜く、くさいにおいがします。
 王子さまはばけものにいいました。
「おまえは、なぜ、ひとを食べるのだ」
「ひとが、わたしの望むものを隠しているからだ」
「それはなんなのだ」
「世界でいちばん美しい花だ」
 王子さまはすっかり大きな国の使者が来たわけがわかってしまいました。
 大きな国はばけものを追い払うための花がほしかったのです。
けれどみつけることができなかったので、小さな国に使者をよこしたのです。
「なぜ世界でいちばん美しい花がほしいのだ」
「かつてわたしのあいしたひとが望んだのだ。さがしてもさがしてもみつからない。何百年とさがしつづけたがみつからない。ひとがかくしているのだ。わたしのあいしたひとの望んだ花を」
 王子さまは小さな国に伝わる昔話を思い出しました。
 小さな国のお姫さまと大きな国の王子さまのお話です。
 そうです。
 ばけものはかわりはてた大きな国の王子さまなのでした。
 花がみつからない苦しみが、王子さまをばけものに変えてしまったのです。
 王子さまはばけものにいいました。
「あなたはずっと苦しんできたのですね。それではわたしはあなたのために祈りましょう。あなたの苦しみがやわらぐように。あなたのあいしたひとのぶんまで、あなたのために祈りましょう」
 ばけものはそのつぶれた真っ赤な目からぽろぽろと涙を流しました。
「どうして、ひめよ、わたしをおいていったのだ」
 ばけもののからだは涙でとけてゆきます。
 そして、ばけもののからだはすっかりとけてしまいました。
 ばけものがとけたあとには小さな花が咲いていました。
 白い花びらに紫のすじがはいった、小さな花でした。

 王子さまはその花を小さな国にもってかえりました。
 王子さまは大きな国の使者にいいました。
「これがあなたたちがおそれていたものの正体です。こんなに小さくて可憐なものをおそれて、おろかにもわたしたちの国と戦争をしようとしたのです。さぁこれをもって帰るがいい。これがあなたたちの求めていた花だ」
 使者はその花を大きな国へもってかえりました。

 こうしてかしこい王子さまは小さな国を守りました。
 それから大きな国と小さな国のあいだにいさかいがおこることはありませんでした。
 今では小さな国にも、そして大きな国にも、この花がたくさん咲いているのです。


020329


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