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王様には従いません。

 私がこの世界に来て最初に王様達に会った場所。"謁見の間"と言うその場所で、久しぶりに顔を合わせた王様。

 取り敢えずは失礼の無いように見よう見まねの礼をとって頭を下げる。


「お前がリオか?」


「……はい」


 許しを貰って顔を上げ、最初に言われた言葉に僅かな引っ掛かりを覚えた。


「請負人として名を上げている実力者と聞いていたが、随分と若いな」


「……」


「お前を呼んだのは他でもない。王都の警備隊へ入り、その力を国の為におおいに役立てて貰いたいからだ」


「……」


「魔王討伐隊が2ヶ月程前に出陣したのは知っているな? 我が国の実力者を選りすぐって編成した部隊だ。故に今、王都の警備態勢は通常時よりも手薄となっている。以前ならばそれでも十分な警備が行えたが、討伐隊が出陣する直前に魔族がこの王都に現れた。王都に住む者達の不安は大きい。手薄となった警備に不満が出始めるのも当然だ。だから今回、請負人に登録している者達に力を借りて王都の警備を強化する事にしたのだ。お前はここ最近頭角を現した実力者と聞いている。だが、先んじて出した人員募集に名を連ねてはいなかった。だからこうして特別に直接呼び立てたのだ」


「……」


 黙っていればつらつらと勝手に話してくれる王様。

 ため息をつきたくなった。

 確かに人員募集の張り紙を見た。それに多くの人が名前を書いているのも見た。だけどそれだけだ。

 レイ様達と話した様に、何故私が彼等を見返す為につけた力を彼等を守る為に使わないといけないのか。彼等は私に何もしてはくれなかったのに、どうして私が彼等を守る必要がある?


「おい、聞いておるのか?」


 黙り続けている私に王様が聞いてくる。


「聞いてますよ。人員募集の件も知っています。けれどあれは自由参加の筈です。強制力のある物ではなかったですよね?」


「そうだ。だが、名を上げるチャンスだぞ? 王都を守るという栄誉ある仕事だ」


「興味ありませんので」


「なに?」


「名声も、名誉も興味ありません」


「ならば他の者より多くの褒美をとらせよう」


「要りません」


「……ならばお前の望みはなんだ? 何を与えればお前は王都の警備に力を貸す?」


「私の様な一介の請負人ごとき、居ようが居まいが王都の警備にさして違いは出ませんよ。……ただ、そうですね、一つだけ王様にお聞きしたいです」


「なんだ?」


 私からの質問を許す言葉に立ち上がる。ザワリ、と空気が動いたのが分かった。

 謁見の間に居る全員が私の行動に目を剥いたのだ。

 王族の前で許しも得ずに立ち上がるのは不敬だと、レイ様に叩き込まれたこの国の常識にあったのはちゃんと記憶している。

 だからこれはわざとだ。不敬もくそもあるものか。


 だって彼は……この国の一番偉い人物は、


「私の顔に見覚えはありませんか?」


「……ない」


 自分達の都合で行った女神召喚に巻き込まれた私の事など、まるで覚えていないのだから。


「……そうですか。では、これで失礼します」


「待て」


「まだ何か?」


 簡易的な礼をとり踵を返そうとすれば、王様に呼び止められる。


「私と会った事があるのか? もしや、貴族の者か?」


「……」


「それならば家の方に正式な書面を出したい。どこの家の者だ?」


「……失礼します」


「待て!」


 王族の一言で扉の前に居た騎士の人たちが行く手を阻んだ。


「話はまだ終わっておらん」


「終わりましたよ。私は王都の警備には加わらない。それだけです」


「わざわざ呼び立てて、そのような返答で納得して帰すとでも思っているのか?」


「ですから、王都の警備に加わるのは強制ではないんですよね? 何故私の意思をあなたにねじ曲げられないといけないんですか?」


「ならば強制とすればお前も否やとは言えぬのだな」


「残念ながら、それでも私には関係ありません」


「なに?」


「だって、あなたの持つ強制力はこの国の人にのみ有効なんですよね? 私はこの国の人間ではないので」


「どういう事だ?」


「そのままの意味です。さぁ、もうそろそろ帰らせて下さい。……力ずくで帰ってもいいですけど、どうします?」


 私の脅しに応える様に精霊達が風を起こしてくれる。

 私が王様達の事を嫌っていると感じ取った彼等は先程から不機嫌な表情で部屋の中を飛び交っている。

 それぞれが淡く輝いているので、いつでも魔法の発現が可能だろう。

 私の周りを囲む様に風が吹く様を目の当たりにした騎士の人達が僅かにたじろぐ。


「帰らせて下さい」


 もう一度言えば躊躇いながらも道を開けてくれた騎士の人達。


「では、失礼します。あぁ、そうだ王様。勝手に間違えて喚んどいて、顔も覚えてないとか、ふざけんじゃねぇよ!」


「なっ!?」


 突然の暴言に唖然としている王様とその他の人達を尻目に今度こそ踵を返す。

 この国の王様達はどこまで私を馬鹿にすれば気がすむのだろうか?

 あぁ、ほんとうに、もう……


「いつか絶対に見返してやるから覚悟しとけこの野郎……」


 ボソリと呟いた言葉に精霊達が同意してくれるのが嬉しくて、腹を立てていたのに何だか面白くなって笑ってしまった。

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