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2ヶ月で変わりました。

 ガァガァと頭上で声が上がった。

 二度旋回したニギが右手の方へと飛んで行くのを確認して私は正面へと視線を戻した。


「ラピス、ルビーを連れて右へ。ニギが案内してくれる」


 私の言葉にラピスともう一匹、"ルビー"と呼んだウルフが駆け出す。


「ベリルとジェットはさっきの三人を追って。まだそう遠くには行ってないなずだから」


 言えばまた二匹、ウルフが駆け出した。


「アメジストはここで待機ね。その人達の見張りをお願い」


 最後まで残っていたウルフが頷いたのを確認して私も森の中へと駆け出す。


 レイ様達が旅立って2ヶ月。

 ほんの少しの変化と、変わらない平穏の中で私は過ごしていた。


 一番の変化は私に従属する魔物が増えた事だろうか。

 とは言っても、先程名前を呼んでいた四匹のウルフが増えたくらいなのだけれど。


 そう、増えたのだ、四匹。


 ある日ラピスが連れて来た四匹のウルフはずっと、ずーっと、家の前に座って私が名前をつけるのを待っていた。

 最初はその意図が分からなかったけれど、ラピスが必死に何かをアピールするものだから、こちらも必死にその意味を解読しようとした。

 元々言葉の通じない精霊達とは身振り手振りで意志疎通していたのだから、魔物のラピスともそれが出来たのは必然だろう。……というよりは、日頃の鍛練の賜物か。はたまた慣れか。

 まぁ、なんにしろ何とか彼等の意図を汲み取った私は最初は断った。

 ラピスやニギの時とは違うのだ。彼等に名前をつけるというのがどういう事かはよくよく理解していた。

 なのに、彼等は頑として動かなかった。前述した通り、ずっと、ずーっと、家の前に居座ったのだ。

 雨が降ろうが、風が吹こうが、飢えで腹が鳴ろうが、だ。

 これに私の方が根負けした。

 結局名前をつけてあげれば、ちぎれんばかりに尻尾を振りながら元気よく応えてくれたのである。


 赤い瞳と赤茶の毛を持つ子がルビー。一番足が速い。

 緑の瞳と灰色の毛を持つ子がベリル。木の根などに躓いてよく転けそうになっているおっちょこちょいの子だ。

 紫の瞳と白い毛を持つ子がアメジスト。一番体が大きい。

 黒の瞳と黒の毛を持つ子がジェット。一番小柄だけれどその分身軽だ。


 そんな四匹はラピスが先頭に立って纏めてくれている。

 アーフが居てくれたら彼等の関係性や、どうして名前をつけて貰いたかったのか分かるのだろうけれど、残念ながら彼はあれから一度も姿を見せていない。

 心配ではあるけれど、私より確実に強い人の心配をいつまでもしていられるほど私には余裕はないので、まぁ、大丈夫だろうと思う事にした。


 さて、私は今ラピス達と一緒に請負人の仕事をこなしている。

 王都近くの村に最近出没し始めた盗賊団の捕縛だ。

 レイ様達が旅立ってからほぼ毎日様々な依頼をこなして大分自分の実力に自信がついてきたので、ルビー達に名前をつけてからは彼らとの連携をとるために皆でこなせる盗賊の捕縛や魔物退治などの依頼を請ける事が増えた。

 そうこうしているうちに私は結構有名になっていた様で、今回の依頼主はわざわざ私を指名してきたのだ。

 本来なら数人の請負人とチームを組んでやる依頼の様だけれど私の事情を知っているワンザルトさんが気を回してくれて一人で依頼を請けている。


 森の中を走っていれば、ガァ、と小さな鳴き声と共に私の肩にニギが止まった。


「ニギ、ご苦労様。ラピスとルビーは無事に敵のアジトに着いた?」


 私の問いに勿論だと言わんばかりに頷いたニギ。

 精霊に頼んで偵察して来て貰った情報によると盗賊団は二十人程。森の中にある古城を根城にしている。

 アメジストに見張りを頼んだ五人はその盗賊団の見張り役だ。三人だけ逃がしてしまったのでベリルとジェットに捕縛を頼んだ。

 ニギには敵のアジトの場所の特定と案内を頼んで、ラピスとルビーがニギの案内で今、そのアジトへ突撃をかましている最中だろう。

 私はと言えば、


「これでよし、と」


 古城を中心に東西南北にそれぞれ描いた計四つの魔法陣。バレない様に森の中に木々を避けながら描いたから時間がかかってしまったけれど今、最後の一つが完成した。


「さぁ皆、力を貸してね!!」


 言って目の前にある魔法陣に魔力を注げば淡く光りだす。

 他の魔法陣も同じ様に光っている筈だ。


「四方結界"捕縛"発動」


 言って注ぐ魔力を魔法陣が堪えうる最大限にまで上げれば魔法陣の輝きも増す。

 古城を囲む四方の森の中で上がった光の柱が水色の膜を広げて繋がり古城を囲った。

 

「ふぅ。成功だね」


 息をついて肩に居るニギへと笑いかければガァ、と上機嫌な声が上がる。


 これは魔法陣を使った応用魔法だ。

 無属性魔法である魔法陣を発動する時に風と雷と水の魔法を加えたのだ。

 因みに四方に描いた魔法陣はレイ様に教えて貰った結界用の魔法陣だ。私の家に実用実験も兼ねて使われている魔法陣と同じ物で、アレには無属性魔法しか使われていないけれど、私が許したモノしか立ち入れない様に意味の込めた文字で描かれている。

 今回の魔法陣にはそれに加えて私が許したモノしか出てこれない様に意味を込めた文字で描き、ついでに発動させる時に風と雷と水属性の魔法を使った。

 無属性魔法だと目視出来ない結界も、水の膜を張ることで目視出来る様にし、結界から出ようとその膜に触った人には雷魔法による雷撃と風魔法による風の刃が襲いかかる。

 勿論水の膜は無属性魔法の結界と上手いこと混ぜているのでそうそう破れないし、雷撃も風の刃も威力は抑えてあるので気絶くらいしかしないけれど、今回の依頼は捕縛を目的としているのでこれで十分だ。


 まだ実験段階の魔法ではあるけれど、レイ様と私が二人で研究した初めての魔法でもある。

 レイ様達が帰ってくる迄に実用できるまでにしておきたいと、色々試行中なのだ。


「お、出てきた出てきた」


 ニギの頭を撫でながら待つこと数分。

 古城から悲鳴をあげながら出てきたのはボロボロな格好をした数人の男達だ。


「な、なんだよこれ!?」


「魔法か?」


「はぁ? こんな魔法見たことねぇよ!」


「それより早く逃げねぇと!」


 古城を囲んでいる結界に驚き足を止めた男達だったが、直ぐにまた駆け出して結界へと手を伸ばす。

 途端、


「「「ギャアァァァ!!」」」


「な、な……なんだよ、これ!?」


 上がった悲鳴と狼狽える声。

 雷撃と風の刃に三人倒れ、残ったのは八人である。


「あれ、四人足りない? ラピス達が中で倒したのかな? って、ニギ?」


 結界の外で男達を見ながら言えば、肩に止まっていたニギが鋭い声を上げて飛び出す。


「うわぁ!?」


「あー、取り零しが居たのか……」


 ニギが向かった先、私が居る場所からほんの十数メートル離れた所で男の驚きに満ちた声が上がった。

 私より先に気付いたニギが一番近い場所に居た男へ攻撃したのだ。

 男の顔目掛けて爪を立てるニギ。そんなニギを狙って別の男が刃を振り上げるがそれは勿論私がさせない。


「私の家族を傷つけないで下さいよ、っと!!」


 背に担いでいた弓矢でニギを狙う男の手を貫く。残念ながら狙いが外れて足へと命中してしまったけれど、まぁ、いい。弓矢はやっぱりちょっと苦手だ。


「この小娘がぁ!!」


 もう一人、別の男が横から飛び出して来たけれど、その存在は精霊達によって知らされていた。

 特に慌てる事もなく腰に下げていた片手剣を使って応戦する。


「舐めてんじゃねぇぞっ!!」


 もう一人、今度は背後から襲いかかって来たが焦る必要はない。

 古城からラピスとルビーが出てきたのは先程確認した。

 馬で一日の道のりを半日で駆けてしまうと言われるフォレストウルフの中でも俊足のルビー。

 古城からここまでの数百メートルなんて一瞬だ。


「ギャッ」


 予想通り駆けつけたルビーによって体当たりをくらわされた男の短い悲鳴とドシャッと地面に倒れる鈍い音が背後から聞こえた。


「ありがとう、ルビー」


 それに笑顔でお礼を述べ、私の背後で起こった出来事を見て未だに呆けている目の前の男へと蹴りを一発お見舞いする。

 ぐうっ、と呻いて尻餅をついた男へ電撃をくらわせて気絶させればお仕舞いだ。

 ラピス達が古城から追い出した男達はラピスが、ニギが対応していた男と私が足を射ち抜いた男はルビーが、それぞれに気絶させてくれている。

 

「よし、じゃあ全員集合よろしく、ラピス」


 言えば綺麗な遠吠えを披露してくれるラピス。私達の集合の合図だ。

 きっと数分もしないうちにそれぞれ気絶させた男達を引きずるなりなんなりしながら、皆この場所に集まって来るだろう。


「全員縛って、結界解いて、魔法陣消してから村に知らせに行って、騎士の人達と戻って来て……帰るのは明日になるかな」


 私が使った魔法陣の応用はまだ世間には知らせないでおこうとレイ様と決めた。

 今この時期に知らせてしまえば、嫌でも魔族との戦いに巻き込まれるだろうからと。

 なので、せっかく描いた魔法陣は見つからない様に綺麗に消してしまうのだ。

 少し面倒だけれど仕方ない。この国のお偉いさん達に利用されるなんて真っ平ごめんだ。


「ラピス達は先に帰っててもいいよ?」


 言えばフン、と不服そうにそっぽを向かれた。

 そんな彼女に苦笑する。


「分かった、一緒に帰ろう」


 とっても寂しくなって、少しだけ賑やかになった私達の家に。

◆ルビー


 フォレストウルフのメス、2歳。


 ラピスと共にリオの所に住み着いていた若いウルフの一匹。

 赤い瞳と赤茶色の毛を持つ。

 ラピスも入れた五匹の中で一番の俊足。

 頭の上の毛だけがクルンと跳ねているのがチャームポイント。



◆ベリル


 フォレストウルフのオス、1歳半。


 ラピスと共にリオの所に住み着いていた若いウルフの一匹。

 緑の瞳と灰色の毛を持ち、四肢の先だけ靴下を履いているみたいに毛が白い。

 木の根に足をとられて転んだり、余所見をしていて木にぶつかったり、足を滑らせて斜面を滑り落ちたりと、なかなかのドジ。



◆アメジスト


 フォレストウルフのメス、1歳半。


 ラピスと共にリオの所に住み着いていた若いウルフの一匹。

 紫の瞳と白い毛を持つ。

 ラピスも入れた五匹の中で一番体が大きい。

 右耳は立っているが左耳は垂れていて、リオが時々左耳を立てようと触ってくれるのが嬉しい。残念ながら立つ事は無いだろうと思っているが好きにさせている。



◆ジェット


 フォレストウルフのオス、2歳。


 ラピスと共にリオの所に住み着いていた若いウルフの一匹。

 黒い瞳と黒い毛を持つ。

 ラピスも入れた五匹の中で一番小柄だがそれ故に俊敏であり、音も殆どしないので不意打ちの攻撃などが得意。

 毛がくせっ毛なのをちょっとだけ気にしていたけど、そのお陰で一番長くリオにブラッシングして貰えるので今は気に入っている。

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