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話し合いは前途多難です。

「こいつが王都を守る為に駆り出される? 何の冗談だ?」


 ハン、と鼻で笑ったのはレイファラスだ。

 その言葉に全員が苦笑した。


 クライハルトとアラミーは初対面であったアーファルトとの挨拶を終え、ついでに元魔王だというカミングアウトも終え、三人が狩ってきた魔物と熊を使った料理が並んだ食卓を、定員オーバーである7名で囲んで始まった夕食。


 そこで話題に上がるのは先程と同じ王都の警備に請負人が駆り出されるであろうという件だった。

 それを鼻で笑ったレイファラス。そうしてその話は終わった。

 当人である筈のリオは我関せずで食事をしており、彼女の意見がレイファラスと同じだと言うことを示していた。

 残りのメンバーにとってもそれが全ての答えであり、それだけ確かめられればこの話題を深掘りする必要もないので、話題は次の物へと移る。


「そういえば、あの魔族は何で王都に来たのかな? 直ぐに帰ったから、侵略とかが目的じゃないでしょう?」


「侵略と言うよりは、何かを探している様な感じだったな」


 リオの言葉に"遠視"で間近から魔族を視たレイファラスが答える。

 

「探すって、いったい何を?」


「……」


 リオの問いに答えられる者は居ない。

 魔族についてなど、殆ど何も知らないのだ。

 この国において魔族とはただ、自分達の平和な暮らしを脅かす脅威でしかないのだから。

 故に、皆の視線が自然とこの場に居る唯一の魔族であるアーファルトへと向けられた。


「……あいつの探し物が何かなど俺にも分からん。が、少し調べたい事が出来た。暫く来ることは出来なくなるが……まぁ、大丈夫だな」


 アーファルトが一同を見渡し、最後にリオへと視線を向けて言えば首肯で返される。それに満足した様に笑ったアーファルトが早速とばかりに席を立ち出ていった。

 それを見送った一同は結局解決しなかった疑問を取り敢えず後回しにして、次なる話題へと話を進める。

 

「まぁ、一番の問題は魔族(あいつ等)が何の障害もなく王都まで来れちまったって事だな」


「本当にね。まったく、領土線を監視している人達は何をやっているのかしら? ねぇ? 隊長さん?」


「なんだよエミュリル、俺の隊の奴等が悪いってのか? あぁ?」


「あら、私そんな事一言も言ってないわ。ただ、何をしてたのかなぁって疑問に思っただけよ。いやねぇ、直ぐ喧嘩腰になるんだから」


「うっせぇよ。だいたい空から領土線を侵しに来るなんて想像も出来ないだろうが。気付いたとしてもどうしようもねぇ。そもそも、問題は気付く気付かないじゃねぇんだよ」


「クライハルト様の言うとおりです。エミュリル様、問題は魔族が何の障害もなく王都まで来てしまえる方法を有しているという事なんですよ」


「分かっているわよアラミーさん。ちょっとした軽口の応酬だから気にしないで」


 真面目に話題を軌道修正しにきたアラミーに苦笑しながらエミュリルはでも、と言葉を続けた。


「魔物を使役している魔族(彼等)がその力を借りて領土を越えるなんてこれまでに無いことよ」


「これまでにないからこれからもないとは言いきれないけどな、エミュさん。実際に今日、それが起こったんだ」


「分かってるわ。不思議なのは、どうして魔族(彼等)は今までそれをしなかったのか、という事と、どうやって魔物を使役しているのか、という事よ。甘味である程度の魔物なら手懐ける事が出来るっていうのはリオちゃんが実践して証明してみせてくれたけど、それと望んだ通りに動いて貰うのとは訳が違うし……」


 分からない事ばかりだと頭を悩ませる一同に対して、リオがソロリと手を挙げる。


「あー、あの、使役というか、何と言うか……魔物に頼み事を聞いて貰える様にする方法、私知ってるかも……?」


 全員の視線がリオへと向いた。

 足元で寝ているラピスと、窓辺で毛繕いをしているニギを見たリオに彼女の言いたい事が分かったトニックとエミュリル、そしてレイファラスがあ、と声を上げた。


「もしかして、名前か?」


「うん、そう。魔物に名前をつけて、魔物自身がそれに応えたら彼等は名前をつけた相手に従属する事になるんだって」


 気付いた三人を代表して聞いてきたトニックの言葉に頷いたリオがアーファルトから聞いた事を話す。


「……成る程なぁ」


 リオの話を聞き終えたクライハルトが溜め息と同時に呟いてそのまま机に突っ伏す。


「従属ですか。魔族と魔物にそんな関係が成り立っているとは……新事実もいいところですね。どうしましょうか?」


「どうすると言っても、こちらに打てる手は無いだろう。いまさら魔物と従属関係を結べる程に心を通わせろと言ったって応じる者など居ないだろうしな」


「それにそんな時間もねぇ。俺達は一週間後には出立だ」


 未だ机に突っ伏したまま発せられたクライハルトの言葉に一同は押し黙る。

 何か手を打つにも一週間では短すぎた。


「取り敢えず、王都の警備を強化する様に王に進言するしかないでしょう。まぁ、いちいち進言しなくとも今日の件で嫌でも強化されるでしょうけど。クライハルト様、明日の会議はサボらないで下さいよ」


「へいへい」


 トニックの言葉にやる気なく返事をしたクライハルトがやっと机から顔を上げる。


「後は、何で魔族は今まで魔物の力で侵略を行わなかったかって事か……まぁ、戦場では魔物を従えて一緒に戦ってた訳だから、本当に()()()()をやらなかったんだよな。空から攻められるんなら、一気に王都を叩いた方が早い。それをちまちまと少しずつ地上から侵略していって何の意味があるんだ?」


 クライハルトの問いに再び沈黙が降りた一同の前にドン、とエミュリルがカットした果物を盛り付けた皿を置いた。


「難しい話はここまで! 考えても分からない物はいくら考えても分からないんだから、後はアーフが何か情報を仕入れてくれる事を願うしかないわ。魔族の事は私達の中じゃ彼が一番詳しいんだから」


 ごもっともな意見に従う事にした一同は、取り敢えず瑞々しく美味しそうな果物たちに手を伸ばし、舌鼓を打つことにしたのだった。

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