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猟はお手のものです。

「成る程、それでレイもあなた達もこんな時に帰って来たのね」


 人数分の飲み物を出しながら、当たり前の様にそこに居たエミュリルが苦笑した。


「こんな時ってどういう事だ、エミュさん?」


「王都に魔族が現れてる時にって事。まぁ、あなた達なら気にせず帰って来るだろうとは思っていたけど、まさかアラミーさんとクライハルトまで来るとは思わなかったわ」


「おい、何でアラミーにはさん付けで俺は呼び捨てなんだ?」


「あら、そんな事で目くじら立てるなんて、戦線先駆隊の隊長様はなんて心が狭いのかしら」


「あぁん?」


 笑顔のエミュリルとこめかみに青筋を立てたクライハルトが睨み合う。

 この二人は何故か顔を合わせると必ず言い合いを繰り広げるのだ。昔、二人の間で何かあった様だが本人達がその事について一切話さないので、結局何があったかは分からないままである。

 そんな二人の言い合いなど慣れた様子でスルーして、トニックとアラミーは周囲を見渡していた。


「あの、レイファラス様はどちらに?」

「なぁ、リオとアーフはどこだ?」


 綺麗に重なった問いかけにエミュリルとクライハルトの言い合いも止む。


「あぁ、三人なら夕飯の食材を調達しに行ったわ」


「てことは今日は上手く行けば魔肉が食えるのか」


「そうね。まぁ、最低でも鹿肉くらいは食べられるわ」


「いや、レイとアーフがついてんだ。最低でも熊肉だろ」


「確かに」


 そうのほほんと話ながらお茶を啜るエミュリルとトニックに驚きを露にしたのはクライハルトとアラミーである。


「おい、おいちょっと待て。あの嬢ちゃん狩りに行ってんのか?」


「ええ、そうよ。どうしたの? そんなに驚いて」


「いや、どうしたのって……ここは獣牙の森だぞ?」


 クライハルトの言葉にエミュリルとトニックは首を傾げた。

 そんな事、言われるまでもない事実である。

 何故彼はわざわざそれを口にしたのだろう?


「おい、お前等まで感覚鈍らせてんじゃねぇよ。獣牙の森は騎士団の奴ですら好んで立ち入らない場所だぞ? 魔物の密集地だ。一般人は立ち入り禁止の危険区域だ。そんな場所で、いくらレイやそのアーフとかいう奴がついて行ってるとは言え、狩りに出るなんざ、嬢ちゃんの実力じゃあ自殺行為だ」


 リオへの心配からだろう。その声音に僅かな怒りを混ぜてエミュリルとトニックを嗜める様に言われたクライハルトの言葉。

 それに二人は揃って納得した。

 クライハルトの抱いているリオのイメージは、彼女がまだ城に滞在していた時で止まっているのだ。

 生き抜く術を学び、必死に足掻いていたあの頃で。

 まぁ、今もその頃とやっている事は大差ないのだが、彼女の実力はその頃と比べ物にならない程に上がっている。


「大丈夫ですよクライハルト様。あいつはちゃんと強くなっています。俺とレイが直々に鍛えているんですから」


「いや、だけどな、」


 トニックの言葉に再び何か言い募ろうとしたクライハルトの言葉を遮る形で扉が開かれた。


「ただいま! って、あれ? クライハルトさんにアラミーさん?」


 ウサギに似た魔物を三匹ほど手に持ったリオがクライハルトとアラミーの姿を認めて目を見開く。


「あー、久しぶりだな、嬢ちゃん……」


「……お邪魔しております」


「あ、はい、お久しぶりです。いらっしゃい」


 リオが持っている魔物に視線を向けながらクライハルトとアラミーが挨拶する。

 それに戸惑いながらも応えたリオにエミュリルが寄って来て笑顔を向けた。


「お帰りなさい、リオちゃん。今日の収穫はソレ?」


「あ、エミュさんただいま。これの他に後は熊を一頭狩ったよ。レイ様とアーフが外で捌いてるよ」


「そう。リオちゃんが全部狩ったの?」


「熊はちょっと手伝って貰ったけどね。着替えてくるね」


「ええ。調理は任せてちゃうだい」


 手に持っていた魔物をエミュリルに渡して奥へ姿を消したリオ。

 そんな彼女を見送ったクライハルトとアラミーが揃ってトニックを振り返った。

 二人に視線を向けられたトニックはどこか誇らしげな表情だ。


「強くなってるでしょう、あいつ」


「あぁ、驚いた。纏っている気配からして違うじゃねぇか」


「あれは魔法の方もかなり使えるのでは?」


「そうでしょう。魔法はレイに教わっているから俺は詳しくないですが、まぁ、結構な使い手でしょうね。後はあいつ自身が経験を積んで自分の実力に自信を持てる様になれば完璧なんです」


「だから請負人に登録をして少しずつ依頼をこなして行って経験を積ませるつもりだったのよ」


 でも、とエミュリルは言葉を切った。

 思い出されるのは先程の王都の件である。


「王都に魔族が現れてしまったのだから王都の警備を強化するのは自然の流れよ。けれど今のこの国にそんな余力なんてあるわけがないわ」


「まぁな。今のこの国の主力は魔王討伐隊に入れられてる」


 犠牲の数を少しでも減らす為に魔族との無駄な争いを避けながら、魔王軍を直接狙い魔王の討伐を果たす。

 今回の魔王討伐隊はソレを目標にしているが故に進軍するには少数といえる人数で編成されている。

 だがしかし、少数だからこそ、選ばれた者達はここサラウィン帝国の実力者ばかりであった。


「俺の隊の奴等も二百人程は残して行くが、そいつらだって領土線の守備をしている奴等との交代要員だ。そもそも戦線先駆隊(俺達)の専門外である王都の守備に回せる程の戦力は元々俺達には存在してねぇよ」


「そこで声がかかるのが請負人って訳ですね」


 アラミーの言葉に全員が頷く。


「国の戦力を補う為にたびたび請負人達には協力してもらってきたから、今回もそうなるだろうけど、それにあの子が駆り出されないとは言いきれないわ」


「この国の王やその周りの奴等を見返す為に身につけた力を、ソイツ等を守る為に使うなんざ、俺が許したってレイが許さないだろうし、そもそもリオが嫌がるだろうな」


「けど、今のリオちゃんの実力なら、声がかかるのは確実よ」


 誰からともなく吐き出された溜め息は重い。

 何はともあれ、話し合うにも全員が揃ってからだと、エミュリルは夕飯の準備にかかったのだった。

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