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魔物は従属するそうです。

 請負人の登録をしてから3日後、私は初めての依頼を遂行するために王都から1日程馬で駆けた所にある森に来ていた。

 依頼内容は薬草の採取。依頼レベルはD。

 依頼レベルというのはその依頼の難易度の事だそうで、E~Sまでで分けられているそうだ。


 今回は、レイ様、トニックさん、エミュさんの三人が間近に迫った魔王討伐隊の出立に向けての最終調整で不在の為、アーフが一緒に来てくれていた。

 因みに、私が一人で馬を駆ける事はレイ様に禁止されているので、乗り合い馬車で1日半かけて森の近くの村に行き、そこから歩いて森まで来ている。


「……ねぇ、アーフ」


「ん?」


 指定の薬草を採取しつつ後ろをついて来るアーフへと目を向ける。

 正確には、彼と共について来るウルフ一匹と、そのウルフの背に乗る頭が二つある烏へ、だ。


「彼等は獣牙の森を出て大丈夫なの? 縄張りとかあるんじゃないの?」


「こいつ等に縄張りは()()関係ないさ」


()()?」


「あぁ。こいつ等はお前に従属しているからな」


「従属?」


「お前はこいつ等に名前をつけただろう? そして、こいつ等はそれに応えた。その瞬間、こいつ等はお前に従属する事となった」


「名前をつけただけで?」


「それが魔物達の理だ」


「そんな……だって、そんなの知らなくて。従えるつもりでつけた訳じゃ……」


 そうだ。彼らを従えたくて名前をつけた訳じゃない。

 ただ、この2匹は他の魔物()達より人懐っこくて、私と一緒に過ごす時間が長かったから、エミュさんが名前は無いのかと聞いてきたのだ。

 それを聞かれて初めて、私は彼らに名前をつけるという考えに至った。


 それまで、彼等と私の関係はあくまでも同じ領域で暮らす隣人であり、後から来て、しかも彼等より力でも数でも劣る私がほんの自衛の策として彼等の好物を作り、それを気に入って更にある程度心を許してくれたモノ達だけが私の小屋に入り浸っていたというのが現状だったのだ。

 名前をつける、というのは、それが人であろうがなかろうが、家族になるという事で、もう他人ではなくなるという事で。


 けれど、まぁ、2匹くらいならと、名前をつけたのだ。

 つけてしまったのだ。


「……どうして?」


 アーフは応えたと言った。

 私のつけた名前に彼等が応えて、だから従属する事になったと。


 だからこそ、私は問う。

 何故、と。


 何故応えたのか。

 つけられた名に応える事さえしなければ、彼等は私に従属する事などなかったのに。


「こいつ等が望んだ事だ」


「え?」


 ウルフの頭を撫でながらアーフが言う。

 

「従属すれば、こいつ等はその相手の為に動ける様になる」


「どういう事?」


「魔物は本来、自分たちの為にしか動けない。野生の生き物の本能か、それともこれも理故か。どちらにせよ、こいつ等はその者をどれ程大切に思っていようとも、その者の為には動けないのだ。この前お前が魔物に襲われた時、こいつ等はお前に従属していなかった事を悔やんでいた。お前の為に己の牙を、爪を奮えなかった事を嘆いていた。だからお前から名を与えられた時、こいつ等は歓喜した。俺にわざわざ報告に来る程にな」


 ガァガァ、と頭が二つある烏が頭上で三回旋回して私の肩に止まった。


「ニギ……」


 クゥン、と鼻を鳴らしたウルフがすり寄って来る。


「ラピス……」


 二匹の、計三つある頭をそれぞれ撫でて私は笑った。

 そこにどんな思いがあるかは分からない。

 私はアーフではないから、魔物の言葉は分からない。

 それでも、彼等が望んで受け入れた事であると言うのなら、別にいい。

 望んで私と共に居てくれるというのなら、それでいい。


「改めて、これからよろしくね」


 言えば返ってくる返事がとても愛しいのだから、それだけでいい。

◆ニギ(仁義)


 頭が二つある烏。普通の烏より倍ほど大きい。

 リオが獣牙の森に来てクッキーで魔物の餌付けをし始めた時から居る。

 詳しい種類は不明。

 仲間も回りに居ない様なので、群れや縄張りを作って行動するタイプの魔物ではないのかもしれない。

 リオが初めてクッキーの材料が無くて嘆いた時に一番最初に材料を採って来てくれ、それ以降も定期的に材料を差し入れてくれる事から『じんぎ』と言う漢字を当てて"仁義(ニギ)"と名付けた。

 因みに蛇足だが、向かって右の頭が"ニ"で、左の頭が"ギ"である。

 


◆ラピス


 フォレストウルフのメス、2歳。

 獣牙の森に元々棲んでいる魔物の一種。

 十数頭からなる群れを作って自分たちの縄張りの中で生活している。

 リオが餌付けを始めて暫くしてから数匹の若いウルフ達と小屋に住み着いた。

 縄張りの範囲内なので時々群れに帰るだけで特に問題もなかったが、リオの事が気に入った為、他のウルフよりも距離を縮めていた。

 白と銀の毛は柔らかく、リオの一番のお気に入りはフサフサの尻尾。

 腹を枕にさせてくるんで寝せてやるととても幸せそうな顔をしてくれるので、最近のマイブームになりつつある。

 群青色の深い青色の瞳をしているため、ラピスラズリからとって名付けられた。

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