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師匠の姉は最強の様です。

「リオ、小屋まで走れるか?」


 視線は魔物から外さずにトニックさんが聞いてくる。


「なんとか」


「よし、なら合図したら走れ。扉を三回ノックして、開けたら即屈め。レイが魔法を発動する」


「分かった」


 頷いた私に満足そうに笑ったトニックさんがグッと足に力を入れたのが分かった。踏み込む準備だ。

 私も息を整えてその瞬間の為に身構える。

 魔物は私より明らかに実力が上のトニックさんに警戒して動かない。

 ピリピリとした緊張感の中、最初に動いたのはトニックさんだった。


「走れリオ!!」


 叫ぶと同時に前に踏み込んだトニックさん。

 彼の声に反応して小屋へ向けて駆け出した私。

 自身に向かって踏み込んで来たトニックさんに対して鋭い爪を振り上げた魔物。


 ギィィィン!と、後ろの方で硬い物同士がぶつかり合う音が響いたが振り返っている暇などない。

 全速力で走ったその先、木製の扉を素早く三回ノックして開ける。


「"灼熱の大地(アースバーニング)"」


 扉を開けて即屈んだ私の頭スレスレを炎の塊が通りすぎた。

 数秒後に聞こえて来たのはクマの魔物の悲鳴の様な声だった。


「レ、イさま……」


 視線を上げた先、扉を開けたその内側で杖を眼前に構えたレイ様が真っ直ぐにクマの魔物を見据えている。


 そろりと振り返った先では、クマの魔物が燃え盛る炎に包まれていた。

 炎に包まれて暴れまわっているクマの魔物の周りも炎が囲み、逃げ道は完全に潰されている。

 火属性の最大上級魔法にあたる炎による広範囲魔法だ。

 威力が抑えられているからクマの魔物とその周り以外に被害は出ていないが、本来なら数十人単位で敵を一掃出来る魔法である。

 

「無事だな」


 クマの魔物に向けていた目を私に向けて、安心した様に呟いたレイ様の言葉に私の涙腺は崩壊した。


「……っ、……ぅ」


「は? お、おい、リオ!? どこか痛いか!?」


 いきなり泣き出した私にレイ様がギョッとして思わず杖を下ろしてしまい、クマの魔物を囲んでいた炎が消える。

 トニックさんが何やら怒鳴っているが、私には届いていなかった。それどころではない。

 きっとレイ様もそうだろう。

 というより、レイ様は自分の魔法が消えた事も、トニックさんが怒鳴っている事も気付いていないのではないだろうか?

 それくらいに彼は慌てていた。


「あぁ、あっちこっち傷だらけだな。痛むか? 直ぐ治してやるから泣くな。リオ、泣かないでくれ」


 ゴシゴシと少し乱暴に私の涙を拭うレイ様が今まで見たことがないくらいに情けない顔をしていて、思わず泣きながら笑ってしまった。

 そんな私にホッと息をついたレイ様の後から綺麗な手が伸びてきて彼のローブを掴んでそのまま後ろへと放り投げる。


「うわ!?」


「へ?」


「はい、レイ邪魔ー」


 ドスッというレイ様の落下音をBGMに彼と入れ代わりで出てきたその人は、何と言うか、レイ様の女版だった。

 

 レイ様と同じ白銀の髪と蒼の瞳。中性的な顔立ちまでそっくりである。

 性別以外で違いと言えば、腰まで伸びているレイ様の長髪と違い、彼女の髪は肩までの長さという事だろうか。

 そんな彼女が、いくら細身とはいえ、一応成人男性であるレイ様を片手で後ろに放り投げたのだ。

 涙など引っ込むに決まっている。


「初めまして。私はエミュリル・カーハンナー。そこのレイファラスは私の愚弟よ」


「レイ様のお姉さん……?」


「エミュって呼んでね。あんな大きな魔物相手によくここまで一人で頑張ったわね。後はあの戦闘狂に任しておけば大丈夫よ。さぁ、傷を見せて治してあげるわ」


「エミュさん!? 戦闘狂って俺の事か!?」


「なによトニック。文句があるならソレを倒してからにしてちょうだい。レイがだいぶ弱らせてるんだから後は楽勝でしょ」


「また無茶苦茶な事を……」


 未だクマの魔物と交戦しているトニックさんからの文句は適当に切り捨てて私に治癒魔法をかけ始めるエミュさん。

 レイ様は後ろの方でまだ腰をさすっている。


「あの、エミュさんも魔法師なんですか?」


「あら、砕けた口調で構わないわよ。そうよ、私は中位魔法師よ」


 銀の糸で刺繍がされたローブを身に纏い、エミュさんが微笑む。


「でも、あの、魔法離宮では見かけませんでしたよね?」


「く、ちょ、う」


「見かけなかったけど……」


「だって貴女が居たのはレイが部屋を与えられてる"赤の離宮"でしょう?」


「赤の離宮?」


「あら、なぁにレイ? そんな事も教えてないの?」


 首を傾げた私にエミュさんがレイ様を振り返った。

 放り投げられた痛みからやっと立ち直ったレイ様が眉間を揉みながらこちらに戻って来る。


「城に長居する訳じゃなかったので、細かなことは教えていません」


「そうなの。なら私が教えてあげるわ!」


 ビシッと人差し指を立て、ウィンクをしながらお茶目に言ったエミュさん。

 けれど忘れないで欲しい。

 私達の後ろではまだトニックさんがクマの魔物と戦っている最中であるという事を。

 エミュさんの顔はレイ様とそっくりだという事を。

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