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色々判明しました。

 レイ様とトニックさんが住み始めて1週間。

 色々と判明した事がある。


 先ず、私が魔物達が持ってきてくれた材料を混ぜ合わせて作っていたクッキーだが、実はあれ、人様が食べると物凄く不味いということ。


 毎日の日課で焼いていたクッキーをトニックさんが1つつまんで食べた瞬間にリバースされた程だ。

 アーフに聞いたら当然だと返された。

 曰く、魔物達は確かに甘い物が好きではあるが、人間の為に作られた甘味は好まないそうな。

 魔物と人間の味覚は微妙に違っており、毎日魔物達が持ってきてくれた材料を混ぜ合わせて作る物こそ、彼等にとって絶品となる甘味なのだと。

 しかしそれは人間にとっては物凄く不味い物になってしまう様で、故のトニックさんリバース事件。


 私、おやつに関しては味見というものをしなかったので全く気付かなかった。

 臭いも普通に美味しそうな臭いがしてたし、魔物さん達が美味しそうに食べていたので"美味しい物"だと信じて疑わなかったのだ。

 だけど、最初の3日間は元々この小屋にあった材料で作ったのだけれど……と言ったら、実はその材料もアーフが用意してくれた魔物好みの物だったそうだ。

 因みに、魔物達が持ってきてくれた材料の使い方を教えてくれたのはアーフで、クッキーもその他の私のご飯も最初は全てアーフの指導の元に作られた。

 今にして思えば、あの時アーフは"魔物好みの甘味"と"人間向きの食べ物"それぞれの作り方を教えてくれていたのだ。

 因みに、魔物好みのクッキーを作る材料でも配合を調整すれば人間でも美味しく頂けるクッキーになるという事も分かった。

 要は、入れる物と入れる量の問題なのだ。


 さて次に、実はアーフが元魔王だということ。


 ……もう一度言おう。

 アーフが元魔王だということが分かった。

 元魔王だということが。


 しかもこれ、結構サラリとカミングアウトされた。

 と言うのも、2人が小屋に来て2日目。アーフを見ては何やら考えるという動作を繰り返すレイ様に、そんなに気になる事があるなら直接本人に聞けばいいのではと言ったその数分後、


「アーファルト、お前もしかして魔王ではないのか?」


「あぁ、そうだ。"元"が付くがな」


 といった感じでのカミングアウト。

 しかもその後、


「やはりか。"アーファルト"という名に聞き覚えがあってな。しかし、何故元魔王がこんな所に居るんだ?」


「隠居生活さ。何の邪魔も入らない所でのんびり過ごすのが昔からの夢だったからな」


 やらなんやら話始める始末。


「「……」」


 見事な反射で、"魔王"と聞いた瞬間に素早く剣を抜いたトニックさん。と、彼につられる形で柄に手をかけた私が思わず動きを止めて顔を見合わせてもしょうがない。


 何故レイ様が元魔王であるアーフに警戒も敵対も無く普通に話せるのかというと、実はアーフ、今の魔王より3代前の魔王であり、その頃はまだ人間とは領土争いをしていなかったのだそうだ。

 しかも、アーフが魔王をやっていた頃は寧ろ人間と魔族は仲が良かった。

 だからこそ、"アーファルト"という名は"魔王"として文献に残っており、レイ様が気付くに至ったのだ。


 けれど、いくら3代前の仲が良かった頃の魔王だとしても、それだけでこうも警戒も無く今は"敵"であるモノと接する事が出来るのだろうか、と。

 もしかしたら"元魔王"のアーフだからこそ、"今の魔王"に色々と吹き込んでここまでの領土争いを引き起こした黒幕だったりするのではないか、と。

 そう言ったらレイ様に呆れた顔をされた。


「リオ、アーファルトが魔王をやっていたのは今より数百年前の事だ。"アーファルト"という魔王が主人公の本があっただろう。お前もたぶん読んでるぞ」


「……え、あれ? もしかして、"人間と魔王"の"アーファルト"なの!? けど、それって、この国の建国の話だよ?」


 『人間と魔王』。

 それはこの国の建国の話を綴った物語りだ。

 人間と魔族との領土争いが起こってからは絶版となり、今では滅多にお目にかかれないレア物である。

 私の場合は、レイ様所有の書庫にあったのを読んだので何とか知識として覚えていた。


 数百年前、魔族の住まう地であったこの大陸に人間がやって来た。

 当時、人間が住むには不向きだったこの大陸の一部を彼等の為に拓き、生きて行くのに必要な沢山の手助けをしたのが、その時の魔族の王"アーファルト"である。

 時には人間に自分達の土地を分け与える事を嫌った魔族達を説得し、時には環境に慣れず病に倒れた人間の為に危険を犯して薬草を採りに行く。他にも幾つもの困難や苦難を乗り越えて、そうして"アーファルト"と人間達は種族を越えた絆を育み、彼の助力のお蔭で今のこの国(サラウィン帝国)が出来上がった。

というお話し。


 今の魔族と人間との関係からはとうてい信じられない物語り。

 けれど、本当にアーフがその物語りの中の"アーファルト"だとすれば、彼はいったい……


「何歳なの、アーフ?」


「数えるのはもう大分前に止めたな。まぁ、軽く500は超えている筈だ」


「そうだよね、だってこの国の建国が525年前だった筈だから、それより前から魔王ってことは、それ以上いってるってことだよね。……てか、本当にアーフがあの"アーファルト"なの?」


「まぁ、確かに俺はこの国を建てるのに協力したな。まさかそれを綴った物語りがあるとは思わなかったが」


 そう言ったアーフに、どうやら本当に彼があの"アーファルト"である様だと理解した私は同時に納得した。


 彼が物語りの"アーファルト"と同一人物ならば、私が思った様な"敵"やら"黒幕"やらはあり得ない。

 だって彼は……"アーファルト"は、人間と共に生きる為に魔王を辞めたのだから。


 『人間と魔王』の中で"アーファルト"は人間の娘と恋をする。

 そして物語りの終盤、無事に人間の国(サラウィン帝国)が出来上がったのを見届けた"アーファルト"はその人間の娘と生きる為に魔王を辞めた。


 その後の事は書かれてはいなかったけれど……


「それも本当の事?」


「……"ウェミリ"という名でな、穏やかで優しい奴だった」


 そう言ったアーフは懐かしそうに、けれど何処か悲しそうに笑った。


 領土争いが起こったのはアーフの後の魔王になって200年程経ってからだそうだ。

 その魔王は前回の女神召喚でこの世界に来た女神様に倒され、そして今の魔王になりまた同じ様な事が繰り返されている、と。


 もうちょっと平和主義な魔族を後見に選べばよかったのにと言ったら、人間が領土を広げ過ぎたのもいけないと返された。

 曰く、そもそも最初は人間と魔族の領土はちょうど半分ずつだったのだ。

 それが人間の数が増えるにつれ、魔族の土地であった森を拓き、木々を焼き、建物を建て、勝手に領土を広げていった。

 元々全ては魔族の土地であり、人間は魔族に土地を分けて貰ったに過ぎないのに、その恩を忘れ、自分勝手な暴挙に走る人間にくれてやる土地など無い、と魔族も反撃に出たのが争いの始まり。


 どちらも愚かだったのだ、とアーフは笑った。

 同じ言語を持ちながらも話し合う事を忘れた愚かな者達、と。


 だからアーフはどちらかに肩入れすることもなく、ただただずっと見ていたそうだ。

 それが、人間をこの大陸に迎え入れ、土地を分け与えた自分の果たすべき使命なのだと。


「止めようとは思わなかったの?」


 魔族も人間も、きっとアーフにとっては大切な者達であろうに、何故、双方が傷付け合うのを見ているだけにしたのか。


「これもきっと必要な事なのだろうと。どちらかが滅びるか、もしくは両方とも滅びるか。何にしても、この争いに何らかの形で決着がついた時、人間も魔族も後悔し、悔やみ、嘆き、悲しみ、憤り、そして思うのだろう。"繰り返してはいけない"と。そう思える様になるまで、好きなだけ争えばいいのだ。どの様な結果になろうとも、きっとこれから先の時代の為にこの争いは必要な事なのだろう。だから俺は止めなかった」


 そう言えるアーフは、きっととても強い存在なのだろうと思った。

 後、紅色の瞳は"魔族"の証だそうで、だからアーフはレイ様とトニックさんが来た時に瞳の色を変えていたのだそうだ。

 私に出会った時に言っていた瞳の色を怖がらないどうのこうのと言うのはそういう事だったのだ。


 そして最後に、この国では"訳あり"の女性が髪を短くし、それ以外の女性は最低でも腰位の長さの髪だということ。

 切る長さにより"訳"は変わってくるそうだが、私の様に肩につくかつかないか位の長さは"出戻り"もしくは"未亡人"の女性を表す長さだそうだ。

 なのでアーフが改良した魔法陣(改良した事はアーフが元魔王だと分かった時点で報告済みだ)で街まで行くと、色んな人に哀れみの視線や言葉を貰う事となった。

 どうしてこのような習慣が根付いたのかは知られていないが、まぁ、惚れた女性が後で訳ありだと知るよりはましなのではないか、と男性陣3人が言うのでそれも理由の1つではあるのだろう。

 まぁ、理由などどうでもいいのだけれど、身に覚えの無さすぎる誤解に辟易した私は、最近はローブを被って出掛ける様になってしまった。


 こうやって、私はきっと"現実"のこの世界の事を少しずつ知っていくのだろうな、と。

 そんな事を思いながら、レイ様とトニックさんと暮らし始めて日課になった早朝のランニングに精を出す今日この頃であった。

主人公の『』が読みにくいとのご意見を頂きましたので、この章から「」に変更しています。

これより前の章も少しずつ手直ししていく予定です。

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