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師匠達がやって来ました。

 魔法陣から現れたお二方は私の前に仁王立ちされていらっしゃる。


「リオ、お前この2週間何してた?」


「何って……ここで普通に生活をしてました」


「普通に生活をしていて何故、2週間も転移魔法が発動しなかったんだ?」


「あー、それは……」


 レイ様の問いに私の後ろで傍観を決め込んでいるアーフへと目を向けた。

 そこで初めてアーフの紅色の瞳が青色に変わっている事に気付いた。


「……あれ? アーフ、貴方その目……」


 そう呟いた私の周りで精霊達がアワアワと飛び回る。

 必死に伝えられたジェスチャーから読み取るに、彼の瞳の色については触れるなと言っている様だ。


 何故かは分からないけれど、兎に角彼は自身の瞳の色が紅色であるというのを2人に隠したいみたいなのでその意を汲み取る事にした。


「その者は?」


 アーフを見たまま動きを止めた私を不審に思ったのか、レイ様が聞いてくる。


「あぁ、彼は……えっと……」


 紹介しようとして言葉に詰まってしまった。

 そもそも私も彼については殆ど何も知らないのだ。

 何をどう紹介しろと……


「アーファルトだ」


「「……」」


「あー、えっと、彼には初日に魔物に襲われて死にかけた所を助けて貰いまして、それからも度々様子を見に来てくれてます」


「「「……」」」


「……」


 お願いだから、男3人睨み合う様な感じで黙らないで欲しい。

 間に挟まれた私が居たたまれない。

 精霊達も心配そうに周りを飛び交い、住み着いている魔物達も窓の外から此方を伺い見ている。


「怪我は?」


「へ?」


 不意にトニックさんが聞いてきた。


「初日に魔物に襲われて死にかけたと言っていただろうが。怪我はもういいのか?」


「あ、それもアーフが治してくれたから大丈夫だよ」


 頷いて返せば良かったと笑ってくれる。

 そんな私達のやり取りを見ていたレイ様が小さく息をついて近づいて来た。


「まぁ、色々と聞きたい事はあるがリオが無事だったのならそれでいい。こんな所で2週間、よく頑張ったな」


 ポン、と頭に乗った手に思わず目を見開く。


 あぁ、そうだ。

 彼等は……彼等だけは、優しかったのだ。

 ずっと、優しかったのだ。

 厳しい事を言われても、キツい事をさせられても、それでも彼等は優しかった。

 私が躓き転び踞っても、立ち上がるまで待ってくれていた。

 手を貸してはくれなかったけど、置いて行く事は決して無かった。

 他の誰かが無謀だと嘲っても、彼等だけは信じていてくれた。

 不器用な程に、それでも彼等は優しかった。


 それが、こんなに嬉しい事なのだと、離れてからやっと気付けた。


「こんな所でも住んでみると悪くないよ」


 この世界に来て初めて、心からの笑顔で私は言った。

 そんな私に僅かに目を見開いたレイ様とトニックさんが、それでも笑顔でそうかと笑ってくれたのがどうしようもなく嬉しく感じた。


ーーー

「確かに魔物は甘い物が好きだと書いてあった文献があった気がするが……」


「まさかそれを実践してしかも成功させるなんて、お前、けっこう凄い奴だったんだな」


 レイ様とトニックさんが危険な人間ではないと判断した魔物達(同居人達)が中に入って来て思い思いの所で寛ぎ始めたのを目にして唖然と動きを止めた2人に事のあらましを話せば感心した様に言われた。


「この森に居る魔物の大半は凶暴性が少ない種類みたいでね、だから成功したんだろうってアーフが」


「お前は魔物について詳しいのか?」


「詳しいという程ではないが、まぁ、知識はある程度あるな」


「住まいはどこなんだ?」


「この近くの小さな村に住んでいる。ここには食糧の調達で度々足を運んでいた」


「それで偶々(たまたま)リオに出くわしたのか?」


「あぁ。最初は見捨てようとも思ったが、生きると聞かなくてな。しょうがなく拾った」


「あぁ、コイツは無駄にしつこい所があるよな」


「それに中々諦めない」


「確かに」


「ねぇ、それ誉めてる? 貶してる?」


 初めて満席になった四人掛けのテーブル。

 のほほんとした午後の一時であるのだが、ふと冷静に今居るメンバーを見てみると実はとんでもなかったりする。


 片やこの国最強の魔法師。

 片や戦闘狂集団の副隊長。

 片や精霊が見える実力者。

 片や異世界からの訪問者。

 そして周りを囲む魔物と精霊。


 この面子で国取り出来ないかな、と半ば本気で思ってしまった。


「聞いていたか、リオ?」


 ボーっと話している3人を眺めていれば、不意にレイ様がこちらに顔を向けた。


「へ? ……えぇっと、」


「聞いて無かったな?」


「スミマセン」


 今度はちゃんと聞いとけと念押しされて話が戻される。


「1ヶ月後、女神を筆頭にした魔王討伐の軍が編成される事になった。私とトニックもそのメンバーに選ばれるだろう」


「だから、今日から1ヶ月間俺達は此処に泊まり込んでお前に最後の指導を行う」


「最後って……」


「幾ら私やトニックがずば抜けた実力を持っていても、指揮をとれないのなら同じことだ」


「俺やレイは全ての誘いを断って来たが、結局最後にメンバーを決めるのはあのミサカとか言う女神様だからな。上位魔法師のレイと戦線先駆隊である俺が討伐メンバーに選ばれる事は間違いない。が、その中で魔法師達の指摘を任せられてるのがお飾り上位魔法師のハリウィン・ライクラルで、騎士の指揮は温室育ちの国王守衛隊隊長のルルナス・アイランだ。指揮官がダメだと戦は負ける」


「私達のどちらかか、クライハルト様が指揮をとれるのならまだ希望はあるが、今回の魔王討伐の任は失敗に終わるだろう」


「それが分かってて行くの?」


「私達もこの国の人間なんだ。幾ら王に忠誠が無いとしても、だから滅んでしまえとは思えない。少なくとも、死んで欲しくない者達が数人は居るからな」


「そう言う事だ。因みにお前もその中の1人だぞ」


「え?」


「当たり前だろう。だから部下達に全部の仕事を押し付けて此処に来たんだ。もし、私達が居なくなったとしても、リオ1人で生きていける様に」


「……」


 喉元に競り上がって来た感情の塊をグッと拳を握る事でやり過ごす。


 あぁ、私は彼等に何を持ってして貰ったモノを返す事が出来るのだろう。

 何も持たない私が、彼等に出来る事は何だろう。

 闘う術を教えてくれた。

 この世界で生きる術を与えてくれた。

 けれど私は何も返せないのだ。


 無力だと。

 救いようが無い程に無力だと思った。

 死地へ赴く彼等に教えを請わないといけない程に私は無力で、自分の事に手一杯で、何とも情けない。


 けれど、だからこそ、彼等が教えてくれる全てを私のモノにしよう。

 1つも余すことなく身に付けて、1ヶ月後に旅立つ彼等が何も心配せず自分の身を守る事だけに集中できる様に。


 それが、私が出来る只一つの事。

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