ファンタジーショートショート:勇者募集します
「このままではいかん!この国は滅びるぞ。」
そうやって嘆いているのはこの国の王であった。どうにかこうにか真っ当に国を治めてきた王からしてみればここ暫くの出来事は嘆くに値するものばかりであった。
いきなり国の直ぐ隣に魔王が名乗りを上げたのだ。ちなみにをその場にあったはずの国は滅び全て魔王の支配下にあった。そして次はこの国が標的であり、さぁ降伏しろと通達してきたのだ。
「隣の国はわが国を上回るほどの軍事大国であったのにそれをあっという間に滅ぼしてしまうなど…」
「このままではなす術も無く蹂躙されてしまう。何かいい案は無いものか。」
そうやって王が思案していると側近の1人が何かを思いつき王に進言した。
「王様。勇者を募集しましょう!」
こうして城下町のあちこちに”勇者選考会 勇者求む!”という立て札が置かれた。募集条件はあっさりしたもので、”倒した実績を提出出来る者。武道大会で成績を修めたもの。我こそはと思うもの老若男女問わず”
この立て札を見た腕自慢の輩が、早速実績を求めてあちこちのモンスターを倒し始めた。そして勇者選考会当日
「集まっておるのぅ。」
王もホクホク顔で言う。
「まさかここまで集まってくるとは思いませんでした。」
考案した側近もまさかと言った表情。それもそのはず100人からなる我こそ勇者だ!という者達が集まっていたからだ。
「まぁどんなモンスターを倒してきたのか、話を聞いて選考せねばな。」
王は早速勇者選考会を始めることにした。
「まずは見てくれ!俺が1人で倒した獲物だぁ!」
と言う割にはこの近辺でよく見かけられるオオカミやウサギ、スライム等のモンスターを出してくる者が大半であった。王はため息と共に落選の判を押す。
「まぁこの近辺の自警団であれば問題ないのだがなぁ。」
とそこへ真っ赤な毛並みが特徴の大きな猪を獲って来た者が現れた。
「これは、南の平原に住むというヌシではないか!こやつ火の塊になりながら突進してくるというがよく倒せた!」
その倒した張本人は
「何のことはありませんぜ!この斧で真っ二つでさぁ!」
王はその者をとりあえず保留としておいた。まだまだ選考会は始まったばかりなのである。
またある魔術師は
「ここより北の山脈に住む龍の王を倒してまいりました。」
とその角や逆鱗と思われる鱗を携えてやってきて王を唸らせる。
「まだまだこの国にも実力を持つものがおったようだ。」
王はご機嫌である。
「王様!この城にも魔王のスパイが入り込んでたぜ!」
と二刀流の剣士が魔王の配下である魔人の首をごろごろっと見せることもあった。
「中々実力の持つものが多くて嬉しいのだが選びきれぬな。」
王の呟きに側近が答える。
「しかしそれも贅沢な悩みかと。先ほどの猪を倒した者と龍の王を倒した者。それと魔人を倒した者辺りが有力株でしょうな。」
とそこへ1人の青年が現れた。
「まだ選考会やってっけ?俺一番遠い村から来たもんでおそくなっちまったんだ!」
王はもうあの剣士を勇者にしようと考えていたのだが、その村人のキラキラした目に惹かれ
「折角あの一番遠い隣国に接している村から来てくれたんだ。いいだろう。で、何を倒したのかね?」
そう聞くと村人は嬉しそうに
「あの隣の国に居ついた魔王ってやつだ!」
と魔王の首をごろんと転がして見せた。その場が一瞬で凍りついた。
「た、確かにやつの首で間違いないな!」「えぇ密偵が掴んだ魔王の肖像に間違いありません!」
混乱していた。
「しかし、どうやって!」
王は村人に問いただす。
「いんや、俺達の村一番隣の国に近いでしょうよ?んでその魔王軍とやらがしょっちゅうちょっかい掛けてくるもんだから、勇者選考に丁度いいと思って狩って来たのよ。俺なんか昔から力も人以上あるらしくて、そうゆうちょっかいも全部俺が何とかしてたんだぁ。」
「因みに、武器は…?」
「鍬と鎌だぁ!」
王は脱力した。
「確かに、何のために勇者募集なんて書かなかった。でも今直面している危機からしてみれば察してくれるものと…!」
王はその言葉を呟くだけで精一杯だった。
その後その村人が勇者認定されたものの、倒すべき目標も居なくなってしまった為認定証を交付しておめでとうで終わってしまった。それでも村人は大喜びで帰っていった。
「王様お気づきですか?」
全て終わった後側近が王に耳打ちした。
「これで隣国は滅び、そして自国の目の上のたんこぶであった猪や龍の王。そして最悪の敵である魔王も滅びました。これでこの地は全て我らの物になりますぞ!」
こうして立て札1つでこの国はその地全てを治めてしまったのだ。