短編10作目 記念作品
「夏ホラー」という企画小説の参加作品です。「夏ホラー」で検索すると他の作家さんの作品も読めます。どうぞお楽しみください。
ここにそのまま書き込んでだいじょうぶなのかな……?
たぶん、大丈夫なんだろう。だって、「短編10作目 記念作品」ってタイトルになってるし。
えっと……。
読者の皆さま、こんにちは。
いつも「さすらい物書き」の小説をお読みいただき、ありがとうございます。
あ、やばい。こんな風に書いたら誤解を招きますね。
すいません。わたくしは、さすらい物書きではありません。
友人、というか代理というか、とにかく別人です。
さすらい物書きさんの、「小説家になろう」サイト様での短編作品が今回で10作品目を数えるということで、“記念作品”と銘打ってなにか特別な作品を書こうとしていたらしいのですが、すごく張り切ってたのに、本人、突然失踪してしまいまして。
わかりにくいですよね、すみません。
今朝、さすらい物書きさんからメールがあったんです。メールは、「なんかオレの代わりに書いて投稿しておいてくれ」といった内容でした。あ、そのあとに続けて、「小説家になろう」の作者IDとPASSが書いてありました。
どんな事情があったのかわかりませんが、作家が他の人に自分の名義で作品を書かせるなんて、わけが分かりませんよね?
もともと無責任なところがあるというか、肝心なところで逃げ出す癖があるというか、そんな人なんですよ、あの人。
あ、悪口書いたら陰口になっちゃいますね。やめとこう。あとで仕返しされても困るし。
だけど、……ううん……、なにを書けばいいんだろう……?
あ、そうだ。指定があったんだ。ちょっと読んでみよ。なになに……
「夏ホラーフェアという企画に参加する。だからホラーを書いてくれ。以上」
…………
……ホラー?
ホラーなんて急に書けるわけないじゃん! なに考えてんだろうあの人!
てゆーかあの人って、ホラー小説なんて書いたことあったっけ?
……ない。
あいつ……、自分が書けないからヒトに押しつけたなぁ……!
“ホラー”かぁ。わたし怖い小説とか映画とかそこまで詳しくないからなぁ。
あ、『着信アリFINAL』は知ってる。テレビの予告編で見かけたけど、面白そうだったな。あの人は映画館行って観たみたいだけど。
さすらい物書きさんはけっこういろんなホラー映画とか観てるみたい。なんか前「ジェイソン萌え〜」みたいなことも言ってたし。「ジェイソンはホラー映画界のアイドル的存在なんだ」とか、意味がよくわかんないこと言ってたな。ジェイソンって、あのホッケーマスクのヒトでしょ? あんなのが好きなんて、変わってる。
だけど、ああいうスプラッターホラーの方が可愛げがあるとか怖くないって言ってた気持ちはなんとなくわかる気がするんです。
さすらい物書きさんが怖いと思うのは現実の死とか、暴力とか、虐待とか、戦争とかだって話してたことがあったんです。実際の事故や病気なんかの死に比べれば、フィクションの中の死は祝福されてるんだとかも言ってました。もとは誰かの受け売りらしいんですけど、今は持論なんですって。
着信アリに話もどしますけど、ああいう電波的なものを伝わって人を殺しちゃうっていうか、結局インターネットとかパソコンの中に悪霊的な存在がいて人々に災いをもたらすってパターン、最近は多いですよね。やっぱりこれだけ携帯電話やパソコンが当たり前になってくると、高速道路を全力で走る老婆とかより現実的になってきてるんですね。車と併走するおばあさんなんて、今聞いたらギャグですもんね。
あ! 思い出した。……怖い話。よし、この話を書けば、いちおうジャンルを「ホラー」ってしてても言い訳はつくかもしんない。……怒られるかもしれないけど。
えっとですね。
インターネットにまつわる恐怖伝説です。いや、もっと限定的に言ってもいいかな。「小説家になろう」ってサイトにまつわる噂話なんですけど……。
このサイトは、今から数年前に開設されて、今では登録作家数4,900人以上の巨大小説サイトになってますけど、実は、信じられないような話があるんです。
作り話じゃないですよ? だって、わたしは実際にその事件を体験した張本人の関係者なんですから……。
小説家になろうが開設されて、1年近くが経ったときの頃でした。その頃、新星のごとく現れた、アマチュアとは思えないすごい作品を書く作家さんがいたんです。
その作家さんが書かれる作品はどれも面白く、感動的な文学作品や切ない恋愛モノもあればとても笑えるコメディーもあり、アクションSFあり、大河長編作品ありと、とにかくいろんなジャンルでランキングの1位を独占してたんですって。
そんな人聞いたことない、って思ったでしょ? 話の続きを聞いてください。
その人気作家さんが、今度はホラー小説の連載を開始するということになり、実際インターネットとかで題材を取材してたんですって。
そのときその作家さんが知ったのが、「ネットの消しゴム」と呼ばれる悪霊の伝説でした。
「ネットの消しゴム」……。一見、なんだか可愛らしいネーミングなんですが、これが結構タチが悪いんです。
簡単に言いますと、とある条件がそろったネット作家の作品を抹消してしまう悪霊なんだそうです。
ネット上で自分の作品を公開するアマチュアの作家が、ある程度人気が出てくると、ネット上のどこからともなくこの「消しゴム」は現れてきて、いままでネットで公開されていた作品を、あたかもはじめからなにも存在していなかったかのように偽装してその作品を抹消します。そして恐ろしいことに、読者も作者も、作品がこの世に存在していたことの記憶自体をも抹消されてしまうんです。
だからですね、さきほど言った「小説家になろう」において数年前大人気になった作家さんの作品は、実はあなたも読んだことがあるかもしれないんです。
作品を消された作家さんは、そのことに気づくことはありません。そして、その後の執筆意欲をも消し去られてしまうらしいんです。
どういうパワーで人々の記憶を操るのかは不明なんですが、実際こういうことが起きているんです、この「小説家になろう」において。
だからこのことは、別名「ネット上の神隠し」とも呼ばれています。
では、その「ネットの消しゴム」に狙われる条件というのを、あくまでも噂ですが紹介しておきます。
その一.10ジャンルのどれかひとつででもランキングで「1位」になったことがある。
その二.ジャンル「ホラー」の作品を1作品だけ投稿している。
その三.10ジャンルのうち、5つ以上のジャンルの作品を掲載している。
このほかにも条件があるかもしれませんけど、今のところ判明しているのはこれだけみたいです。
今日も「ネットの消しゴム」は、「小説家になろう」サイトを巡回しながら次の獲物を狙っているかもしれません。ターゲットに選ばれないように、あなたもこれら三つの条件が当てはまらないよう、気をつけられた方がいいかもしれませんよ?
……という、お話でした。内容はさておき、語り口が怖くなかったですよね。すみません。
でも、もとはといえばさすらい物書きさんが悪いんですよ。ホント、どこに行ったんだか。
まぁ、いいか。久しぶりに文章が書けて楽しかったし。
また、機会がございましたらどこかでお会いしましょう。
それでは!
* * *
……いったい、この文章は誰が書いたんだ?
びっくりした。「変わったタイトルの短編だなぁ」と思って開いてみたら、作者名が「さすらい物書き」ってなってるし、勝手にわけわかんない内容の文章書いてあるし。
ちくしょう、せっかくの10作品目だから、気の利いた文学作品かなにかをがんばって書いてみようとか思ってたのに。
…………それよりちょっと待てよ。
夏ホラー用の作品が消えてる……?!
『恋する殺人鬼 体験版』、たしかに書いたはずなのに!!
バックアップとってあったのまで消えてるじゃないか!
なんなんだよまったく!
ひょっとして消したのって、オレの友人とかを名乗るこの女の仕業じゃないだろうな。
……落ちつけ。
今日は8月14日。夏ホラーフェアの締め切り日だ。いまからじゃどうあがいても作品を一から完成させることは不可能だ。
……しかたない。
この『短編10作目 記念作品』をジャンル:ホラーにして投稿してごまかすしかない。見たところネットの神隠しとかっていう恐怖伝説について書いてるみたいだし。
しっかし参ったなぁ。
どうやればネット上の作品とオレのパソコンのデータを勝手に消せるんだ?
「ネットの消しゴム」じゃあるまいし。
…………
…………ん?
ネットの消しゴムって、なんか前、聞いたことがあるような……。
すごい実力を持った若い女のアマチュア作家が、自分の作品を全部燃やされて、非業の死を遂げて、ネット上に残った作品に留まっている作家の霊だか残留思念だかがネット小説を消して回るっていう話……。
なんでいままで忘れてたんだ、この話?
ひょっとしt
* * *
あとがき
いかがでしたでしょうか。わたしの文章のあとに少しだけさすらい物書きさん本人の文章が入ってましたね。なんか途中でいなくなっちゃったみたいですけど(笑)。
だけど、小説を書く人から見ればある意味一番の恐怖って、「自分の作品がこの世から消えてしまうこと」と、「これから先二度と小説が書けなくなること」なのかもしれないですね。
さきほども言いましたとおり、もし前述の条件に合致してしまいそうな作家さんがいらっしゃいましたら、「消しゴム」に狙われないようにするために、とりあえず「ホラー作品」を2作品以上書かれることでしょうね。条件その一は作者では気をつけようがないですし、条件その三は一度越えてしまった人にはどうすることもできませんから。
そういえば……
さすらい物書き先生って、この3つの条件、全部満たしてるような…………。