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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偏愛シリーズ

神様の偏愛

作者: リック

「大体、お前達は精霊としての自覚がなさすぎる。人間を導くものとしてもっと毅然とした振る舞いは出来ないのか?」


 火の精霊であるサラマンダーは平行世界たる精霊世界で仲間達を相手に静かに怒っていた。というのも、ここ数百年、自分含め四人しかいない仲間のうち三人が、年若い少女を誘拐のような形で連れ去り、婚姻していたからだ。これが人間だったら非難轟々だったろうに。能力のある存在のせいでなあなあとなってはいるが、恥の概念があるなら耐え切れない話のはずだ。


「……好きで精霊やってるわけじゃない。意味、分かるよな?」


 しかし、火の精霊のそんな文句は、うち二人に真っ向から返された。まず水の精霊が不満を隠しきれない顔で反論する。


「そもそも、どうして地上に出る際は特定の場所にしか出ることが出来ないようにされてるのか、呪いみたいな対策まで完備されてるのか……」


 土の精霊も不快感を露にした。それをおろおろしながら気のいい風の精霊が諌める。


「過ぎたことだ、三人ともそういがみ合うなよ」


 しかしそれが返って二人の逆鱗に触れた。


「もとはと言えば、そこのバカ(火の精霊)が『火のない世界で人間達が凍えて可哀相だ、自分が手伝おう』 と人間界に降りたのが原因だろうが!」

「居なくなられたら困るものだから、人間も知恵を絞り生贄を捧げ、一人でやってればいいものを芋づる式に捕らえられて強制的に一部が地上に留まることになった……屈辱極まりない」


 水と土の精霊はタッグを組んで火の精霊を責めだした。さすがに押し黙るサラマンダーを、風の精霊は最終手段を使って宥める。


「でも僕達はそんな人間から伴侶を貰ってるよね?」

「それとこれとは別だ!」

「比べる話じゃない!」


 風の精霊にとって、この反応はもちろん計算済みだ。続けて次の台詞を述べる。


「僕達を違ってあいつ(サラマンダー)は独り身だから……色々つらいんだよ。察してあげようよ」


 一番えげつない台詞を吐いた風の精霊のおかげで、火と土は怒りが大分収まった。同時に生暖かい目で火の精霊を見つめる。見つめられた精霊は、引きつった顔で三人を見ていた。


「うん……それなら仕方ないか」

「独りぼっちは、寂しいもんな……」

「バ、バカヤロー!!!」


 せっかく二人の怒りが静まったというのに、サラマンダーは怒りもしくは羞恥で顔を真っ赤にして地上に戻っていった。


 からかって気が済んだ二人の精霊は、火の精霊の気配が完全に消えたのを確認してから、風の精霊に問いかける。


「……で、何かあった?」

「急に集合かけて、おまけに会うなり説教。何かあるんだろう? 地上ではお前が一番近かったよな? シルフ」


 二人の問いかけに、風の精霊は結論から入る。


「彼も恋をしたみたいだよ。ただ、その相手というか、経緯がちょっと問題で……」


◇◇◇


 それは十年に一度の視察で起こった。管理者たる王家の人間があれこれ調査し、関係者に聞きまわって、最後に精霊に感謝の意をこめて儀式を行う。

 事件はその最後の段階で起こった。儀式の内容は精霊ごとに異なる。火の精霊のところでは、火を司るものらしく、厳選された木にその地で起こした火を灯すという習わしだった。


 サラマンダーはその最中、群れている人々の中にいる「彼女」 をじっとを見ていた。


「うー?」

「だめよ、静かにしてなさい」


 聖火の近くに立つ、村人の一人である母親に抱きかかえられた赤ん坊だ。敬われるべき存在として、距離を保つのも必要だろうと考えていたから、人間とはこの視察でしか会っていない。なので、半ばお祭り扱いのこの儀式に連れてこられた赤ん坊は、酷く珍しい生き物に思えた。

 小さな身体に手、触ったら音のしそうな丸い頬、むずかる仕草。利用されている身であっても、無垢な存在には心癒された。

 だから、少しだけ触ってみたいと思っただけだったのだ――自分の正体をうっかり失念して。


 右手に触れるか触れないかのところで、赤ん坊の服に火がついた。儀式の最中は、火の化身そのものになって聖火に宿っているのを忘れていた。


赤ん坊の絶叫と、大人の人間達の悲鳴が響き渡った。赤ん坊は地面に落ち、大人達が毛布でバシバシと叩いて火を消し止めた。


 結果的に儀式は儀式は中断され、再開なく終わった。赤ん坊は生きていたが、右半身に大きな火傷痕が残った。呆然とするサラマンダーに、救護棟に赤ん坊が連れられて呆然と一人佇む、あの母親の独り言が届いた。


「何て、何てこと……」


 姿を現して土下座でもしようか――それだけのことを自分はしたのだから。しかし次の言葉で、『冷たい』 を知らないはずの火の精霊の心が凍る音がした。


「せっかく可愛く産んだのに、何よあの火傷。あれをこれから何十年も育てろと? 痛い思いして産んで何の罰ゲームなんだか……。火に手を伸ばすとか本能から狂ってるわね。頭に何か障害でもあるのかしら。こんな面倒くさい子って分かってたら産まなかったのに」


 とんでもないことを、自分はしてしまったのだ。本当に、あってはならないことを……。関わった人全てを、自分が狂うほど傷つけたのだ。


◇◇◇


 赤ん坊の名はカナンといった。少女は後遺症も残ることなく育っていったが、右半身、特に目に付くのは顔の右半分の、醜い火傷痕だけは残った。そしてそれは格好の苛めの対象になった。


 あるものは堂々と「変なの」 と言った。またある者は隠れて「私じゃなくてよかった」 と言った。一番多かったのは、引きつったケロイドを道ですれ違う際に驚いて、二度見しにわざわざ追いかけて前に立って確認し、「うわぁ……」 という顔をして去る者だった。そんな境遇でも、親は粗悪品としてカナンを気にもかけない。


 それでもカナンがぐれなかったのは、事故の張本人のサラマンダーのおかげという皮肉。学校から帰ったカナンは、いつものように家の台所で夕飯の準備のために火をつけた。顔を見るだけでメシがまずくなると家族が言うので、一人早目に食べることにしているのだ。そして火をつけた途端、彼が現れた。


「今日は、何を?」


 雄雄しく美しい精霊様だとカナンは思った。毎日現れる時は少しだけうっとりしてしまう。しかし聞かれてるのだから用件を早く済まさねば。


「あの……教科書を」


 苛められてるカナンは、ボロボロになった教科書を差し出した。


「任せて」


 サラマンダーがそっと破れた教科書に触れると、それはすぐに元のように――いや、元のよりも美しくなって返ってきた。さすが世界を創った神様のお一人だとカナンは感じざるをえなかった。彼は物心つく前から人目を忍んで度々自分の前に現れ、こうして何くれと世話を焼いてくれる。実の親以上に……。


「私のために、毎日ありがとうございます」


 カナンは深々とお辞儀をして感謝の意を述べた。しかしそれを彼は苦しそうな顔でやめさせた。


「そんな事はしなくていい。元々、僕のせいなんだから」

「でも……あれは事故、私のせいだって」

「違う。僕が手を伸ばしたからだ。だからそのせいで困る君に手を貸すのは当たり前のことだよ。さあ、今日は何をして遊ぶ?」


 カナンにとってサラマンダーは親のようでもあり、兄弟のようでもあり、友人のようなものでもあった。そして最近は……彼ほど優しい人、自分を見てくれる人はいないと感じていた。

 でも彼が優しくしてるのは罪悪感からだし、自分はこんな容姿。うぬぼれてはいけないと思っていた。


 そんな風に(いびつ)な関係だった二人だが、いくら隠れて会っているつもりでも、いつかはばれるものだ。


 ある日、水を飲もうとしたカナンの親が逢瀬を目撃。それを村長に報告した。火の精霊の管理を任されているこの村の村長は、サラマンダーが人間に友好的なのもあって、かなり欲深い人間だった。


「ふむいいことを聞いた。そうか、あの事故でカナンを気にかけているのか。そうか……。なら、カナンを囮にして、サラマンダーを捕獲し、今以上に精霊の力を人間のものに出来ないだろうか? 大昔はそれで今の世界の生態を整えたときく。我らも英雄になれるかもしれんぞ」


 村人のうち何人かは、「神を殺すつもりか」 と思い上がりを指摘した。しかし村長は人の話を聞かない人間でもあった。


「黙れ! これだから先見の明のない人間は……。大体大昔だって、草や花や木や動物に神がいるなんて考えた者もいたが、全部人間の都合で殺してるじゃないか、何が違う。反対する人間がいてもわしはやるぞ。サラマンダーは一回引っかかった前例がある。今度も上手くいくはずだ。成功したら、ここが世界の中心となるだろう。そうしたらわしが世界の王になれる。さあ反対する人間は出て行け。これから作戦会議じゃ」


 欲に目がくらんだイエスマンだけを残し、村長は計画を立て始めた。反対した何人かは恐れおののき、人のいない水辺、荒地、風の吹く谷などで懺悔した。精霊達のうち誰かの耳に入ることを祈って……。


◇◇◇


「貴女が、カナンさん?」


 そんなある日、朝に顔を洗おうとしたカナンのもとに、美しい少女が水から現れた。


「……本当に酷い火傷痕ね。ああごめんなさい、名乗りもしないで。私はリラ。水の精霊の妻です」


 精霊と聞いてカナンは(かしこ)まった。精霊といえば、サラマンダーのおかげで何となく気安い存在のような気がしてたけれど、目の前の少女は威厳が漂っていて直立せずにいられない。


「サラマンダーも夫に頼めばいいのに。そうしないのは……まあいいわ。来なさい、その傷を治してあげる。水の精霊は回復魔法が使えるのよ」


 突然現れた非日常に、けれど逆らうのも恐れ多く、カナンは黙ってリラの触れるままにされた。


「もういいわ。鏡を見て御覧なさい」


 二、三回顔に触った感触があっただけなのに……と思いながら鏡を見ると、火傷痕があったのが嘘のように可愛い少女の姿がそこにあった。

 あの痕のせいで味わっていた苦労を思うと、涙が零れる。カナンはリラに何度も何度もお礼を言ったが、リラは冷めた顔で別れ際にこう言うだけだった。


「これで貴女は、もっと人間を嫌いになるでしょうよ」


 その時は意味が分からなかったけれど、後になって死ぬほどよく分かった。


「おい、誰だよあの美人! え、カナン!?」


 翌朝うきうきで登校したら、鼻の下をのばした男子や、シンデレラ状態のカナンの恩恵に預かろうとした女子が、一斉に近寄っておべっかつかってきた。


「今までお前を苛めてたのは、好きだったからなんだぜ? 分かるだろ? ほらツンデレだよ」

「カナンちゃん、どうして火傷の痕が治ったの? もしかして精霊様? だったら、私も綺麗になれるように頼んでもらえないかな。私達友達だよね?」


 何ともいえない不快感に包まれたまま家に帰ると、最近家にいない父親の代わりに母親が出てきてこう言った。


「あらカナンちゃん、お帰りなさい。お夕飯出来てるわよ。でもママこれからちょっと出かけるから、一人で寂しいだろうけど、ゴメンね? その代わりに明日は家族でお出かけしましょう。その可愛い顔に似合う素敵な服も買ってあげるからね」


 寒気がした。夕飯? 本当に子供の時しか作ってもらった覚えがないのに。顔が治っただけでこの対応の違い。私って何なの。母が作った夕飯には目もくれず、自分の分を作るためにも彼に会うためにも、真っ先に火をつける。


「……カナン、ごめんね」


 現れた彼は、とても寂しそうな顔をしていた。


「本当は、他の精霊に頼めば完治するって知ってたんだけど、しなかった。折り合いが悪いっていうのもあったけど、君と一緒に居たかったから……精霊、失格だね」

「そんな……」

「顔、見せて」


 火の精霊は、カナンの顔を覗き込んだ。しばらく見つめて、感想を述べる。


「綺麗な瞳、芯の強い性格が表れているような顔立ち、本来の君だね……本当なら、とっくに治っていたのに」

「サラマンダー様」

「……ごめん。何が、人を導く者なんだろう。周りに偉そうに言っておいて、僕は……」

「あの、私」

「これで誰も君を苛めたりしない。僕の押し付けがましい役目は終わった。カナン、どうか幸せに」


 精霊の姿は、段々薄くなっていった。カナンは慌てて引きとめようとする。


「待ってください! 嫌です! お別れしたくない! 私あいつらより……!」


 サラマンダーは消えた。あとには一人台所に佇むカナンだけが残った。もとよりほのかな恋慕を抱いていた上に、他人と比べてどれだけ自分を大事にしてくれているか確信した直後だっただけに、絶望感だけが彼女を支配した。腹が減っていたが料理する気にもなれず、母親の作った料理を口にいれる。


 ――三口くらい食べた頃だろうか。急な眠気がカナンを支配した。精霊様とお別れしたのがショックだったから? でもそれにしては……とカナンは感じたが、自暴自棄にもなっていたので、そのまま食卓に突っ伏して寝てしまった。


◇◇◇


 目が覚めたら、頼りないランプだけが明かりの暗い部屋に、縛られて横になっていた。辺りを確認すると、まず村長がいて、興奮のあまり唾を拭きかけながら喋ってくる。


「さあ、火の精霊様を呼べ! 誑かしたのならそう難しいことではないだろう!」


 何を言われているのか分からなかったが、直前の記憶を思い出し、悲しくなりながらも今の私に出来る事ではないと答えたカナンだが。


「しらばっくれるな!」


 治ったばかりの顔を殴られた。呆然としていると、母親が出てきて「何か別れ話みたいなこと言ってたみたいですよ、見てるのバレると困るから止めなかったけど」 と説明した。それが村長をさらに苛立たせた。


「何じゃと! せっかくの計画が台無しじゃないか! ……それにしてもそれなりに見れる容姿だというのに、サラマンダーはブス専か?  身体は……」


 最初かっかしていた村長は、舐めるようにカナンの顔を見たあと、次にべたべたと少女の身体に触りだした。


「ひっ!」


 苛めに慣れているカナンでも、こういう性的な嫌がらせは経験が無かったので、思わず悪寒が走り悲鳴がもれる。


「……肉付きがおそろしく悪いな。十三と聞いているのに、身体は年齢以下に見える。まあでも、これもより若い子のように感じられなくもないと思えば……。計画に加担している人間にも何らかのサービスしないと、失敗の割りに合わないしのう……。女は若いほど良いものだしな」

「それでしたら、どうぞお好きにしてください。私、カナンは産んでないものと思ってますもの。失敗の件で責めないことの交換条件といきましょう」


 村長の気持ち悪い考えに、母親が積極的に加担しているのが信じられなかった。父親も向こうに見えるが、無関心を装っているのか、本当に無関心なのか、予定が消えた事で退屈そうにしていた。


「話が分かる。では若い衆を呼びに行こう」

「じゃあ、私は帰りますわ。すること無いんですもの」


 カナンが恐怖で叫ぶ直前、まさにヒーローのように彼は現れた。 


「――――僕に用事があったの?」


 ランプの炎からサラマンダーが現われたと同時に、カナンを縛っていた紐がチリッと焼けて解けた。自由になったカナンは、今度こそ精霊にしがみつく。後ろから、強く。


「サラマンダー様! お願い私の前から消えないで! 私を真に慈しんでくれたのは、貴方一人です。消えると仰るのなら、どうか私も連れて行って。そのためなら人間なんてやめてもいい……」


 そんな少女の懇願を――サラマンダーは歓喜していた。ずっと内心恨まれているのではと思っていたのに、両想いだった。ファンファーレが頭の中に聞こえた。


「せ、精霊様! あの、これは……」


 しかし、そんな気分に浸っていると、水を盛大に差される。こいつらだ。


「……今、何をしようとしていた?」

「そ、その、ただの少女が精霊が会うなどとは驕りも甚だしいので、説教を」

「乱暴しようとしてたように見えたけど?」

「誤解です!」

「精霊にそういう嘘が通じると思う?」


 といっても完全体ではないので、かまをかけた部分もあったが、単純な相手は本性を表した。


「……ここまでか、やれ!」


 村長の立場を利用して集めた武器である弓矢構えた兵達が背後に居た。彼らは照準を迷い無くこちらに定める。よく訓練されているようだ。この件がなくても、国に謀反を起こすつもりがあったのかもしれないなとサラマンダーは思った。


「知っていますぞ! 貴方は完全ではない! 足手まといを抱えたままこの場を乗り切れますかな!」


 背後のカナンが情けなさの余り泣いたのが、濡れた感触で分かった。精霊はふと思った。


 カナンは被害者だ、悪くない。

 村人が全部悪い。

 悪い人間を罰するのは神の端くれとして当然のこと。

 そして悪い人間が口で言っても聞かないなら……。


「……歯向かうと? その覚悟はある?」

「何を今さら! これも人間が繁栄するため! 大人しく死んでいただきます!」


 最終的に殲滅にいたっても、それは仕方の無いことだ。よく言うだろう、悪いことしたら地獄へ行くと。ここが地獄なんだ。


◇◇◇


 数時間後、草一本残さず焦土と化した村で、精霊と少女は泣きながら抱きあっていた。


「カナン……ごめんね。仕方のなかった事とはいえ、君の故郷を……」

「いいんです……だって私のためなんでしょう? 嬉しいくらいです。それより私のためにこんな事までしてもらって……」


 二人は抱きあいながら、お互いに何の遺恨も無いことを確認した。それが分かると、並んで精霊の世界へ旅立っていった。


◇◇◇


 その頃、水の精霊とリラの間では痴話喧嘩が行われていた。


「リラ、何で無断でサラマンダーの想い人のところへ? そりゃあ、あいつは精霊一人間寄りなやつだけど……」


 気があるからカナンを治したのではないか、と疑ったウンディーネから遠まわしに探られる。しかしリラは笑って否定した。


「逆に不安があるから治したのよ?」

「不安?」

「だって、一回罠にかかった前例があるんでしょ? サラマンダーさん。それでまた何かあったら溜まったものじゃないから。貴方達、ただでさえ恨みを買ってるし。もう何百年も貴方と過ごした私としては、この生活が今さら脅かされるなんて冗談じゃない。たまには地上に出てみるものね。有益な情報が入るから。ふふ、それにしても真面目な人ほどふっきれると危ないとはよく言ったものね」


 そんなリラを、嫁が小悪魔属性を身に付けてさらに可愛いと水の精霊は惚れ直した。


◇◇◇


 あの火の精霊の災厄の日から数十年、とある村に、あの事件の生き残りが居た。当時、神を捕らえることに反対していたその若者は、家の瓦礫の下、老父母に埋もれるようにして唯一無事だった。今は老人となって、孫に囲まれて慎ましい暮らしをしている。

 ある日、どこからか精霊に祖父が縁が深いと聞きつけた孫の少女は、おじいちゃんにその事を尋ねてみた。


「おじいちゃん、精霊様のことおしえて」


 孫に聞かれた老人は、ずいぶん昔のことだろうに、大して考える様子もなくぽつりと一言だけ呟いた。


「この世界の精霊は、みんなあたまおかしい」


 孫の少女は、普段とても穏やかで優しい祖父が死んだ目で吐いたまさかの暴言に、軽くトラウマになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 偏愛シリーズ一作目以降も出ている水の精霊夫婦が好きです。 嫁になる際には人間の暮らしへの未練のない状態だった他のお嫁さんとは違い、あった未練を他人の為に捨てて嫁になった感のあるリラさんが開き…
[一言] 身も蓋も無いおじいちゃんの一言に吹き出しそうになるのを堪えるのが大変でした。(外で読んでた) 悲劇と喜劇って紙一重ですね! いつも個性的なリック様の作風が好きです。 これからもどうぞ筆の赴…
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