二、
俺の名前は剣山零時だ。高校二年生・・・・半年ほど前に魔法使いとなり、魔法使いには二種類いることを知った。そして、半人前という名目上、俺には師匠がいる。
「零時、今日も特訓よ!」
「へ〜へ〜」
今日も月が出ている下で俺たち二人は近所の公園、対峙していたのだった。お互いに腕には魔力の結晶の剣を作り出している。
先ほども述べたとおり、魔法には二種類あるらしい。
一つ目は普通の魔法。
とくにこれには名前など使われておらず、二種類目の古代魔法よりも扱いが簡単で使用者の精神状態などで威力が変わるらしい。
欠点としては一つの魔法を使用しているときはほかの事に意識がなかなか向けることが出来ないということだそうだ。
そして二つ目、俺が使うことが出来るのが古代魔法。
これはかなり前に使用者が死んでしまっており、これは絶えたらしいのだが最近、それを遣うことが出来るものたちが少数ながら、いるそうだ。いわば絶滅危惧種に位置づけられているといっていい。古代魔法は普通の魔法よりも扱いが難しく、精神状態よりも元からの素質でその威力が変わってしまうらしいのだが、何かをすればその威力が上がるそうだ。
さて、説明はこのくらいにして集中しないと・・・
「でやぁぁぁぁああ!!」
元気よく俺の胴を薙ごうとしてくる相手に対して俺は足にまるで天使の羽が生えたかのように飛び退る。
「逃げてばっかじゃ勝てないわよ!」
燃えるような瞳を俺に向けながら俺の師匠……セレネ・ルーナは出していた魔力を消してすぐに左手で威力の高い火の玉を俺に飛ばしてくる。
「く、勝つも何も決闘じゃないんだから・・・・」
俺は飛んできた火の玉を水の剣で切り落としてさらに間合いを広げる。遠距離の魔法を使用しない俺にとっては少々、つらい間合いではあるが、これは相手であるセレネもそうである。大体、セレネの指導の下で半年間練習をつんできた割には伸びていくのは近距離戦、増えていくのは擦り傷きり傷である。そろそろ遠距離の攻撃魔法を使用したいものだなぁ・・・
「ほら、ぼさっとしてると隙を突かれるわよ!」
普通の魔法使いであるセレネは一つの魔法しか使用できないのだが、いかんせん、彼女の師匠である人物からは
「セレネ自身もコントロールが出来ていない!」との指摘をもらっており、飛んでくる火の玉の大きさは日によって変わる。ちなみに今日の大きさは・・・
「きょ、今日は何かいいことでもあったのかな?」
俺の大きさの二倍ぐらいはある大きなものになっていた。
「真面目にしない弟子にお仕置きよ!」
にやりと笑うセレネに俺は白旗の準備をしようとして・・・・
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「あ〜あ、髪の毛がこげちまった・・・」
月が見える自室から俺は月を眺めていた。月はいいねぇ・・・心が洗われるようだ。見ているだけで飽きないし、きっと月ではウサギたちが餅つきを飽きもせずに毎日毎日やっているにちがいない。きっと、地球のウサギとは違って前足で餅をついているはずだから・・・マッチョなウサギに進化するんだろうなぁ・・・・
「零時、いつまでぼぉ〜っとしてるのよ?休憩時間はとっくに終わってるわよ?さっきから手が進んでないわ!」
「はいはい・・・・」
月を見ていた俺の横からセレネが顔を突き出してくる。体を動かした後に頭を動かすのは少々おいたが過ぎると思うのだが、師匠の言うことは絶対なので反対は禁止なのである。
「きちんとやっておかないといざって時に役に立たないわ!」
「わかってますって・・・」
いましているのは魔法についてのお勉強・・・・ではなく、普通に高校の勉強をしている。半年間の間に俺はセレネのほうがテストの点数がいいことを知り、これは教えてもらえば俺もいい点をとることが出来るに違いないと思って教えをこいたのだ。だから、普段は機械の絵をかいている時間を少々割いて勉強を教えてもらっている。
いつもと同じように今日も終わると思ったのだが・・・
「・・・零時、今度の日曜日ちょっと会ってもらいたい人がいるんだけど・・・大丈夫?」
唐突にそんなことをセレネが尋ねてきたので俺は首をかしげたのだった。
「日曜日?ああ、大丈夫だと思うけど?母さんだって何もいってなかっただろ?」
「・・・それなら日曜日のお昼に駅前に行ってくれないかな?私、その日ちょっと用事があって・・・」
非常に浮かない顔をしている。しかし、それを見せまいと努力をしているらしく、その顔には苦渋の色がにじみ出てきている。そして、顔には
「うう、また師匠に呼び出されちゃった・・・・死んだらどうなるのかしら?」という疑問が書かれていたのだった。
「はぁ、またあの人からのお呼び出しか・・・骨は拾ってやるからがんばれよ!」
「そ、そんなぁ・・・わかったんなら何か慰めの言葉をかけてよ!」
「・・・墓は大理石と花崗岩、どっちがいい?ああ、花崗岩ってのは白と黒の・・・」
「し、死なないから大丈夫よ!ちょっとお皿を割っただけ!」
セレネと俺は同じ場所でバイトをしている。三人で一組の班分け制なのだが、この前俺が熱を出してしまったときにセレネは何かをしでかしてきたらしい・・・・
「何枚割った?」
俺の予想では十七枚ほどかと思ったのだが・・・・
「さ、三十枚ぐらいかな?」
「それってちょっとか?お前のちょっとは三十か?俺のちょっとは一枚か二枚だぞ?お前は『ガムちょっとちょうだい』といったら三十枚ももらうのか?」
俺がそういうとセレネは顔を真っ赤にして反論してきたのだった。
「う、うるさいわね!誰のせいでお皿を割ったと思ってるのよ!」
「俺?俺がお前に『皿を割れ〜皿を割れ〜』というようなテレパシーでも送ったと思ってんのか?皿の処理をいつもしてるのは俺だぞ、俺。心配こそすれ、お前に皿を割って欲しいとは思ってないぞ」
「違うわよ!私は熱を出してた零時が心配だっただけ!あ〜もうっ!気分が悪いから私はもう寝るわ!」
一気に捲し上げたあと、俺のベッドに入り込んでそのままいびきをかき始めたのだった。驚愕している俺は目を何度かぱちぱちやった後に恥ずかしいような感じに陥って部屋を後にしようとしたのだった。
「・・・零時のバカ!」
扉を閉めるとき、そんなセレネの寝言が聞こえてきたのだった。
「・・・すまん、セレネ」
俺は寝ているセレネにそういうとさっさとその部屋から逃げ出したのだった。
言付けられたとおり、日曜日俺は昼時に駅前の『桃の銅像』の前に立っていたのだった。
結局、あの日の次の日からセレネは出かけたままであり、相当セレネの師匠であるそる師匠にお叱りをうけているようだ。まぁ、そんなことよりきちんとあたりを見てやら無いと・・・・今、辺りではカップルたちがどこかに言ったりしている光景が目に映っている。俺は暇だったのでねじを取り出すとそれを手の中で転がし始めた。なんだか変な人物が先ほどから視界の端に映っているのがうっとうしいな・・・・
ねじをいじり始めて約一時間・・・俺の手にねじの跡がしっかりと残った時間ぐらいに一人の女の子が俺に話しかけてきたのだった。
「あの、すみません・・・」
そちらのほうを見ると巨大なねじが立っていた。
「!」
いや、よくよく見ればそれはねじを両手でふぅふぅ言いながら持っている女の子だった。銀髪に目は青い。外国人さんのようなのだが、流暢な日本語を話しているところを見ると意外と日本にいる日が長いのかもしれない。
「・・・おかしいですね、姉さんは『ねじを見たらうれしそうな顔をする人』っていってたんですけど・・・」
小首をかしげている相手に俺は少々
「ああ、まだ残暑が残ってるから頭をやられたのかな?」と思いながら話しかけたのだった。
「・・・・あの、俺に何か用があるんじゃないのか?」
「ああ、そうでした!実は、人を探していてですね・・・・機械好きでお兄さんのような髪形をしていて調子に乗ると付け上がるような人物を知りませんか?名前は剣山零時って言うそうです。ええと・・・このように・・・・」
そういってねじをあっという間に消して俺ののど元に魔法の剣を突きつける。
「・・・・魔法を使うことが出来るそうなんです・・・」
「・・・あんたがセレネが待つはずだった招待客か・・・剣山零時って言うのは俺だよ」
俺は両手を上げて降参のポーズをとって相手に名乗る。こいつはすげぇ・・・・犯罪者だ!くしゃみをしたらあっという間にお陀仏だ・・・
「よかった、すぐに見つかって・・・」
「でもよ、あんたがくるはずだったのは一時間ほど前だったじゃないのか?俺はセレネにそういわれたぞ?次の電車だって後五分後にこの駅につくし・・」
「ええ、私も一時間ほど前から探してました・・・自己紹介が遅れましたね、私の名前はセレン・ルーナっていいます。あなたのお世話になっているセレネ・ルーナの妹です。よろしくお願いしますね」
差し出された右腕を俺は掴むことなく、その場から離れた。
「・・・・さすがですね・・・」
右手じゃ友好的な態度を示しながら左手にはしっかり魔力の剣が握られていたりする。つまり、握手をしていたらぐさりとさしていたに違いない。
「握手を求めてきても相手はもしかしたら左手であなたを狙ってきているかもしれません。今後も気をつけてくださいね」
「・・・疑心暗鬼になるようなことはやめて欲しいなぁ・・・」
「さ、今度は大丈夫ですよ。あなたを狙っている人物たちからあなたを守るのが私の役目ですからね。とりあえず姉さんのところに案内してください」
この危ない女の子の姉がセレネならばそれはそれで納得行くような気がする。うん、この少女は間違いなくあの妹さんに違いない。
「あ〜わかった。じゃ、とりあえず俺の家に行くからついてきてくれないか?」
「わかりました。それではいきましょう」
こうして俺とセレンは歩き出したのだった。
「姉さんはどうですか?」
歩き出して数分、彼女はそのように尋ねてきた。
「どういう意味だ?」
「同居しているというのは聞いたんですけど、どのような生活をおくっているんですか?」
「同居って・・・まぁ、そうだろうけど・・・」
悩んでいる俺に彼女は身を乗り出してきて俺の顔を覗き込む。
「甘い生活ですか?この前、姉さんから電話があったんですけどとても嬉しそうでしたよ?」
「何かしたかな?俺?」
「朝とか起こしてもらっているんですか?」
「ま、まぁ・・・・」
セレネが起こしてくれるから結構遅刻などはなくなったのだが・・・まぁ、それはいいや。
俺がそう考えているとセレンは小難しそうな顔をしながら
「・・・・むぅ、これは脈ありのようですけど・・・まだまだですね。とりあえず姉さんにがんばってもらわないと・・・」
そんなことを呟いていたのだった。
「ただいまぁ」
「おじゃまします」
二人して家に帰ってきたのだが、家の中には誰もいないのか静かだった。
「・・・鍵をかけずに外出は危ないことにも気がつかないのか?大体だな、そんなことをしても泥棒さんだけが喜ぶんだぞ?鍵は閉めるためにあるんだ」
「いや、泥棒さんから見たら鍵は破るためにあるんですよ?」
「・・・・それはいいや。とりあえずなかに入ってくれ」
セレンを中にあげて俺はお茶をセレンの前に出したのだった。彼女はお茶菓子をおいしそうに食べてお茶を品なく一気飲みして湯飲みを
「がちゃん」と置くと俺のほうを見てこう尋ねたのだった。
「・・・私の部屋はどこですか?」
「・・・は?」
「私の部屋です。あなたを助けるためにいるんですから場所をいただかないと・・・ああ、押入れの上とか屋根の上とかは駄目ですよ?きちんとした部屋が欲しいですね」
お茶菓子が歯の間に詰まったのか知らないが、爪楊枝を口に入れている。
「・・・お前、ここに止まるのか?」
「ええ、駄目だといっても私は住み着きますよ?家の前で猫にえさをあげると猫は何度もその家に来ます。それと一緒ですよ」
そういってにやりと笑った女の子に俺はため息をつきながら電話を取り出したのだった。
「あ、もしもし母さん?あの〜非常に申し上げにくいことなんだけど・・・ほら、セレネが家に下宿してるでしょ?明日からその妹さんがきていいかどうかたずねているんだけど・・・・あ、食費とかは自分で出すそうだからさ・・・どうかな?あ〜いいの?本当にいいの?普通はここでおかしいって思わない?え、娘が出来たようでうれしいだって?・・・・とりあえず、家に帰ってきて詳しく話すよ」
そこまで言って俺は電話を切ったのだった。
「どうでした?」
せんべいをかじっている小娘を見下ろしながら俺は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。そして、考えた。
「なぜだ?何故俺の母さんたちはどこのものかわからない人物をこうもあっさりと止めるんだ?」
「それはどう考えても姉さんが築き上げてきた信頼が大きいんだと思いますよ?どうです?この家で姉さんは何かしているんじゃないんですか?」
俺はセレンにそういわれて考えてみる。
「そうだな・・・それはあるかもしれん。夕食はセレネだし、俺の弁当を作ってくれているのもセレネだ。洗濯物は俺が取り込んでいるけどセレネのほうががんばってるな」
「そうでしょうね。どうです?姉さんは既にこの家の住人といっても過言ではない・・・」
「いや、お前も既にこの家の住人だろうがよ?」
「・・・た、確かに下宿人というのはそんなものでしょうね。と、とにかく!あなたは姉さんがいないと既に何も出来ないのではないんですか?」
セレネがいなくなったら・・・どうなるだろう?
「そうだな、セレネがいなくなったら・・・・」
「ただいまぁ!零時、セレンに会えた?」
俺は元気よく帰ってきたセレネをちょっと眺めて・・・
「あ〜おかえり。どうだった?」
「どうだったも何も・・・角が生えてたよ」
「赤い角か?赤い角つけて三倍のスピードでやってきたのか?」
「いや、もっとすごかったよ!中央に赤い角で左右に鬼の角が生えてた!」
興奮しているセレネにセレンは咳払いした。
「ごほん!姉さん、久しぶりです」
「あ・・・セレン・・・久しぶり」
「さ、零時さん姉さんもいるんですし・・・先ほどの続きを言ったらどうですか?」
「言うも何も・・・・何を言うんだ?」
俺はそういってしらばくれて逃げた。どこに?二階だ。それ以外に考えられんからな。セレネの顔を見て喜ぶ自分がいるのは事実なのだが、それはそういう感情ではないはずだ。
「まったく、恥ずかしがり屋なんですね」
「?」
一階には不思議がるセレネとため息をはくセレンが残されていたのだった。
その夜、俺は外で頭を冷やしていた。知恵熱である。
「・・・・予測できない人物が来たな・・・」
呟き、夜空を俺は仰いだ。あの二人は今頃仲良くお風呂にでも入っているだろう。
「・・・はぁ、古代魔法ねぇ・・・」
「古代魔法がどうかしたのかしら?」
「!」
その場から飛びすさみ、声のしたほうをにらみつける。
「誰だ?」
「誰?そうね、レルファルと覚えておいてちょうだい。あなたが剣山零時よね?」
「そうだが?それがどうかしたか?」
さて、どうしたものだろうか?黒いフードをかぶっているところを見るとこれは『古代魔法振興会』のものだと思うのだが・・・・セレネからは
「この地域ではそこまで衝突が起こってないわ」とか言ってんだが?
「私と一緒に来てくれないかしら?」
「何故?」
「簡単なことよ、優秀な後輩を見つけては部活に勧誘する先輩と同じような心境ね。あなたのその非常に強い力は『古代魔法振興会』をもうちょっと活発にすることが出来るのよ。勿論、あなたにもそれ相応の場所が与えられることでしょうね」
それに対する俺の答えは・・・・
「はっ、どうせ嘘に決まってらぁ!『気をつけよう、甘い言葉ときれ〜な姉ちゃん』絶対に罠だと言い切ってみせる!」
そう断言すると相手はちょっと驚いたような表情を見せた。
「あらら、そういわれるとは思わなかったわ。まぁ、罠でもなんでもないことは覚えておいて欲しいの。お近づきのしるしにこれを・・・」
「おいおい、俺がもので釣られる男とでも思っているのか?」
「この黄金のねじを・・・」
「・・・いただこう・・・まぁ、『古代魔法振興会』も別に悪い組織ってわけじゃないからな」
「じゃ、私はこれで・・・あ、それと・・・」
さらに近づいてきた相手が俺を抱きしめた・・・その事実に気づいた俺は当然のように驚いた。
「な、何を!」
「牽制って思っといて・・・じゃあね」
レルファルはそういって俺から離れ、消えた。そして、俺の目にはいなくなった彼女の向こうに・・・・
「セ、セレネ!?」
「れ、零時の馬鹿ぁ!何よ、あの女は!もう知らない!」
「ちょっと、ちょっと!待ってくれよ!」
走り出したセレネを俺は追いかけないといけなかったのだった。しかし、追いつけないのは単に俺が足が遅いだけなのだろうか?
「は〜くしょい!」
家から閉め出された(否、追いつけなかった)俺に待っていたのは寒い夜だった。今日は空気が澄んでいるのか普段よりもお星様が俺の頭上であざ笑うかのように光っている。
「・・・夜風ってこんなに体に染みるんだな・・・」
鼻水をすすりながら俺は体を動かすことにしたのだが・・・・どうにも、寒いと何もやる気が起こらなかった。
「ふふっ、寒そうね?」
「・・・レルファルか?」
「名前を覚えてもらってて光栄だわ」
いや、まぁ・・・あってまだ三時間ほどしかたっていないので忘れる馬鹿はいないと思うのだが?
「何かようか?」
暖かそうなコートを睨み付けながら俺は家の前に立っているレルファルに警戒する。
「そんなに寒いのなら私のコートを貸してあげましょうか?大丈夫、私厚着してるから・・・・どうかしら?」
「そうか?それならお言葉に甘えて・・・・」
俺はレルファルの目の前に立って震える右手をまるで天使のようなレルファルに差し出したのだった。
「あらら・・・あなた自身が冷えているのならコートを着ても意味がないんじゃない?」
「根性で暖かくするからいい」
「それより・・・ほら、これなら暖かいでしょう?」
「・・・・」
俺は黙るしかなかった。なぜなら、彼女は俺を抱きしめたからだ。三時間前にあったばかりの女性に抱きしめられるとはまったく思わなかった・・・・いやいや、そういえば三時間前もこんなことがあって・・・・
「・・・零時、そんなに私に見せ付けたいの?」
魔王の声が後ろからしたような気がした。いや、気のせいに違いない。殺気を感じた瞬間、俺の首根っこがつかまれ、後ろに引っ張られた。そのまま地面にぶつかるかと思ったのだが、なんだか柔らかな感触が後頭部にあたった。
「せ、セレネ?」
「・・・あなた、私の弟子にちょっかいを出さないでもらいたいんだけど?」
頭の上のほうから声がしているので俺が今いる位置は・・・・いや、考えないようにしよう。今はそういうことを考えている場合ではない。
「・・・ちょっかい?何を言っているのかしら?これは正式な取引よ」
「取引?そんな方法で何を・・・・」
「方法も何も、あなたが方法と思っている状況を作り出したのはあなたよ?あなたが剣山零時を家の中に入れてあげていればこんな状況になっていなかったと私は思うわ?ま、そうしたとしてももっとすごい状況になっていたかもしれないけどね」
そうやって含み笑いをしている相手にセレネはカチンと来たのか指を鳴らした。右手で俺を思いっきり引き寄せて左手には炎が現れていた。
「・・・・さっさと帰ってよ」
「そ〜ね〜今日のところはあなたに免じて帰ってあげるわ。じゃ、剣山零時・・・・私はどんなことがあってもあなたを見捨てないわ。それだけは覚えておいてね」
そういって彼女は闇をまとって消えたのだった。
「・・・・・反省してる?」
「・・・・はい、してます」
残された俺たち二人・・・・夜空の真下で俺は頭を下げていた。
「・・・・まぁ、今回は多めに見てあげるけど・・・・」
「しかし、よくよく考えてみたら何故俺はセレネにここまで言われるんだ?」
「何かいった?」
「いえ、それは師匠の空耳かと・・・・」
「さ、家の中に入るわよ。あ〜あ、体が冷えちゃった」
セレネは俺の手を引いて家の中に入ったのだった。玄関の電気は既に消えており、俺がつけようとするとセレネはその手を制して俺を抱きしめたのだった。
「!」
「・・・・・」
何も言わないセレネのせいで俺はおかしくなるかと思った。今まで冷え切っていた体に何故か熱が帯びてきて・・・・顔なんか真っ赤だろう。
「・・・・零時、これで寒くないでしょう?」
「あ、ああ・・・・」
「ま、まぁ・・・私も暖かくなれたし、さっさと寝るわよ。明日も学校があるからね!」
俺はそういって足早に去っていったセレネの後を間抜けのように追いかけたのだった。
次の日、俺は何故か俺の隣で寝ていたセレンに尋ねたのだった。
「・・・おいおい、何で俺の隣で寝てんだ?こんなところをまた見られたら・・・」
「大丈夫ですよ。これは姉さんが私に言ったことですからね」
「本当かよ?」
「本当ですよ」
そんなやり取りをしているとセレネがやってきた。
「・・・・零時、何してるの?」
「何してるのって言ってるぞ、お前の姉ちゃん」
「・・・節操ないのね?そんなにこの世に未練が無いのかしら?」
「なぁ、俺はお前の姉ちゃんが魔王に見えてきたんだが・・・これいかに?」
「・・・私が来たときは手もつけなかったくせに・・・」
「病院連れて行ったほうがいいんじゃないのか?俺の目には赤黒く見えるぞ、お前の姉ちゃん・・・・」
「姉さんも朝から元気いっぱいでいいことですね♪」
朝っぱらからごめんこうむりたい残虐ファイトの後、俺はセレンに事情を説明してもらった。
「・・・確かにそういったけど誰も隣で寝てとはいってないわ!」
「え、違うの?」
「違う!それなら私が・・・じゃなくて!セレンが守るといってくれたから私はてっきり部屋の前にいるかと思ったのよ!」
「でも、零時さん寝てるとき私を抱きしめてくれたよ?」
「零時ぃ!」
「寝てたんだ!寝ていたんだぁ〜ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんだかおかしい連中も加わってきたようなのだが、俺は昨日の夜見せてくれたセレネの一面を大切にしたいと思った。
「・・・セレネ、落ち着け!その一面は俺には必要ない!笑って、笑って?」
「笑えないんじゃぁぁぁ!!」
はっきり言うが、セレネの妹は危険人物だ。
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