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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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沈みゆく船は最高にエキサイティング!

 アレンダの視線を感じ取ったパルフィーは破顔一笑でそれに返した。そうこうしているうちにアサシンがアレンダに詰め寄り始めたのを見たパルフィーは気をそらそうと開いた掌に拳を打ち付けてバチンと音を鳴らした。

 するとこちらにもアサシンが近づいてきた。円状に集まっていた連中はパルフィーとアレンダの2手に分かれて距離を詰め始めた。

「おいおいおたくら、あたしのことを忘れてもらっちゃ困るな~。まずは軽くご挨拶に一発」

 そういうとパルフィーは肩慣らしとばかりに掌底を正面に立っていたガラの悪い細身の男に向けて打ち込んだ。

 男は掌底が体にあたった瞬間、大量に勢い良く吐血しながら吹っ飛んで甲板に血糊をベッタリとつけながら転がっていった。

「おたくら、ほんとにこれでプロの暗殺家なのか? よく今まで命があったモンだな。次に臓物ぶちまけたい奴はどいつだい?」

 パルフィーは腰を落として右手の掌をピンと伸ばし相手に向け、逆の手はくの字の曲げて手首を上にして掌を相手に見せた。

 相手を屠ることを追求した無駄のない美しい所作である。流派の特性から殺気は抑えられていたが、アサシン達にはそれが情け容赦の一切ない暗殺拳である事が一目でわかったようだった。

(それとパルフィー、ここからが重要なのだれけど、この船には没蛇ぼつだのグレェスが乗っているわ……。没蛇のグレェスと言えば海に住む大蛇、シーサーペントの使い手として有名なの。いくつ船を沈めたかわからないから没蛇。こいつは私が編成に組み込んだんじゃなくて、ルーブが万が一に備えて雇ったの。その腕は他の連中とは別格よ。もしグレェスを放っておけばお嬢様達に追いついて、着陸寸前で襲撃するでしょう。だからさっき言ったように、暴風の結晶石で船ごと大ダメージを与える他ないわ。甲板と海蛇の一部は私が引きつける。あなたは船倉へ向かって!!)

 パルフィーは耳をピクピクさせて常人が聞き取れないアレンダの囁き声を拾った。そしてそれを聞くとすぐに船倉への道を塞ぐアサシンを蹴散らし始めた。

 右、左と掌底を放ち、2人を沈め、掌を開いたままの裏拳で背後から迫り来たアサシンの首をへし折って息の根を止めた。そのまま流れるような回し蹴りに繋ぎ、4人目の腹を掻っ捌き、5人目の心臓を抉った。

「あんだこりゃ。いくらアレンダが加減したっていってもこれじゃ張り合いがなさすぎる。プロを名乗るのはどうかと思うな。技を使うまでもないね」

 パルフィーはその後も行く手を遮る相手の息の根を確実に仕留めつつ、どんどん甲板を進んでいった。

 彼女は3分とかからないうちに甲板の端まで移動して船倉へと繋がる階段へとたどり着いた。そして、階段を降りる前にアレンダに向けて手を振り、大きな声をかけた。

「ア~~レンダ~~~~ッ!! な~に今更になって水臭い事いってんだよ。お前一人だけいいカッコさせて海の藻屑にさせるほどあたしはハクジョーなやつじゃねーよ!!」

 そう言い放つとパルフィーは船倉への階段を早足で駆け下りていった。伝えることを伝え終わって、彼女を見送ったアレンダは自分の役割を果たそうと腹をくくった。

 周囲はアサシン達に囲まれていた。彼らはパルフィーの方から聞こえてくる悲鳴や叫びに気を取られてそちらに釘付けになっていたが、それが一段落すると裏切り者のアレンダめがけて矛先を向けた。

 距離もじわじわ縮まり、一触即発の状態となった時だった、アレンダが指を口に加えてピーッ、ピーッっと高い音を2回に分けて鳴らした。

 その直後、船の横っ腹に何かが突っ込んで、船体自体が大きくそして激し揺れて傾いた。アサシン達は姿勢を崩して転げまわったり、甲板から滑り落ちて海に落下したりした。

 アレンダはマストから下がったロープをしっかり握っていたので揺られずにすんだ。アレンダの海の使い魔が船に体当たりをしかけたのである。海に落ちた者が叫び声を上げた。

「うわっ!! ぬわっぷ!! 助けてくれ!! こんな海の真ん中で取り残されたら陸にたどり着けるわけがねぇ!! 誰か、誰か引き上げてくれ!!」

 一瞬で船の周りはハチの巣をつついたような状態になった。海に落ちた者達が上げる救助を求める声を聞いてアレンダは呆れきってため息をついた。

「全く……人を平気で殺すクセに、自分の命は大事でしょうがないのね。いい機会だし、徹底的に水で頭を冷やすといいわ」

 アサシン達を船から大分ふるい落としたが、まだ10人近く甲板に残っている。彼らはすぐに体勢を立てなおして今度こそアレンダに攻撃を仕掛けようとした。それに対抗するようにアレンダも手を打った。

「ガッダス!!」「モルドーア!」

 そう呼ぶと彼女は両腕を顔の高さまで上げてパチンと指を鳴らした。すると、今度は甲板に積まれていた木箱の中から鋭い角の生えた獅子と蛾のような羽の生えた蜘蛛が飛び出した。

 船の甲板に残ったアサシン達にすぐさまその二匹が襲いかかった。獅子は手当たり次第に近くのアサシンを串刺しにして振り回してふっ飛ばし体当たりをぶちかました。蜘蛛の方は空中から白い糸を吹き出して次々に糸にかかる者の動きを拘束していった。

 一方的な攻撃に一瞬で甲板は阿鼻叫喚の様相を呈した。もはやアレンダを攻撃できる状態にある者は居なかった。いくらアレンダがメンバーを選んだからといって、ルーブ側が全く暗殺部隊の編成に関与していないわけではない。

 そのため決してアサシン達が無能の集まりというわけではなかったが、パルフィーとアレンダの戦闘能力はそれを軽く上回った。少女とはいえ、伊達にウルラディールの主力を担っていないというわけだ。

 流石にここまで飼い犬が食らいついてくるとはルーブも想像できないだろうなとアレンダはしてやったりと1人笑みを浮かべた。

 これでパルフィーとアレンダはアサシンの大部分を戦闘不能に追いやった事になる。一騎当千と言っても過言ではない。

 しかし、問題はここからだ。今までの連中とは比べ物にもならない強敵、没蛇ぼつだのグレェスが控えている。このままだと恐らくパルフィーが船倉でグレェスと対峙する事になるはずだ。

 しかし彼女1人では彼に勝つのも、暴風の結晶石を破壊するのもまた困難だろう。何とかしてグレェスの戦力を分散させねばならない。

 アレンダは深呼吸するとローブの留め具を外して海にローブを脱ぎ捨てた。ローブの下からは水着姿が露わになった。

 ホルターネックのトップとボトムの上から美しい刺繍の入ったパレオを羽織った露出が気持ち控えめの水着だ。

 パレオはアシンメトリーで片側が膝の少し上まで脚部を覆っている。色は青を基調とした美しいアクアマリンカラーで統一されていた。

 これが彼女が海戦で身につける勝負水着「デュエル・パレオ」である。無論、肌の露出は通常の装備よりも遥かに多いがその分、強力にエンチャントされて何重にもブレッシングがかかっている。

 一見して脆そうに見えるが、アレンダの装備できる防具の中では頑丈な部類に入る。これを着ると下手な刃物程度では傷がつかなくなるほどだ。それに加え、リング類もはめてアレンダは完全武装した。

 甲板を見渡して邪魔者が居ないのを確認すると彼女は首からかけた小さな木製の笛を吹いた。瓶の口を吹いたような渋い音があたりに響いた。笛を吹いてすぐにアレンダは甲板の縁を乗り越えて海に飛び込んだ。

 すると落下地点に使い魔が先回りして待機していた。水面をペタペタと這う事の出来るトカゲ、アクア・ストライダーにまたがる形で着水した。そして水面を移動しながらグレェスの気配を探った。

 一方のパルフィーは階段を降りて客室のある通路を走り抜けていた。目の前に現れる者を打っては捨て、斬っては捨てて進んだ。やがてその掌や脚は屠ってきた者達の返り血で紅く染まった。

 船で戦い始めて彼女が殺めた人数は両手では数えきれないほどになっていた。向かうところ敵なしといったところだが、客室のあるフロアは入り組んでいた。一体どちらに階下への階段があるのかわからない。

 彼女がが迷っていると途中で大きく船が傾いて揺れた。常人ならば壁や天井に打ち付けられるところだったが、彼女は持ち前の反射神経で天井に手をついたり、壁を蹴ったりしてやり過ごした。その時、パルフィーは閃いて独り言をつぶやいた。

「あっ、そうだ。これ、床ぶち抜いちゃえばいいんじゃね?」

 そう言うと彼女はすぐに天井に向かってジャンプし、思いっきり天井を両腕で突っぱねた。その勢いでかかとに重心を集中させて床を蹴りぬいた。

 作りのしっかりした船だからか床板は分厚かったが、彼女の全力の貫通力の高い蹴りに耐えることは出来ずに床に穴が空いた。パルフィーの目論見は成功し、床を踏み抜いて最下層である船倉のフロアに着地した。

 船倉は薄暗く、光源は天井から吊るされたいくつかのランタンがゆらゆら揺れているくらいであった。客室のフロアのように物が多くあるわけではなく、固定された貨物が積みっぱなしになっていた。

 それとマストの支柱が甲板から船倉まで達しており、船倉にその柱を支える土台が組まれていた。それが3基、船の中心の一直線上に並んでいた。

 客室と違って、この階層にはアサシンの気配は無かった。だが、今までと全く違う、圧迫感のある何者かの気配がする。

 そのプレッシャーを感じ取ったパルフィーはゴクリとつばを飲んで身構えた。その場でぐるりと一回転して相手の位置を探ったが、敵はまだ尻尾を出さない。

 見回してみて肝心の暴風の結晶石は船の後部、船尾の方に確認できた。大きさは人の身長ほどで、鮮やかなパステル・グリーンに発光している。石の中を白い風のような筋が渦を巻いてクルクル巡っているのが遠目からでも見えた。

 アレンダはパルフィーにしかあれは破壊できないと言っていたが、どうやって破壊すべきなのだろうか。そうこうしているうちに誰かが声をかけてきた。

「おやおや、随分と可愛らしいお嬢さんが迷い込まれになったようですね。こんなところに迷い込むとは運のないお方だ……。いや、貴女からやってきたのならばそれは自業自得、でしょうか」

「お前が没蛇ぼつだのグレェスだな!! 姿を現せ!!」

「まぁまぁ、そんなに慌てずに。邪魔者もいないわけですし、じっくりお手合わせを楽しもうではないですか。いや、邪魔者……一応、邪魔者は居ますね。小動物程度で私の愛しい子どもたちに対抗しているようですが、時間の問題でしょう」

 落ち着いた男性の声が船倉に響いた。発言が紳士的なだけあって、ともすると本質を見失いそうになるが、このグレェスは乗り合わせた船は客船だろうがお構いなしに必ず沈めると言われている凶悪な男である。

 彼の取る態度はうわべのものであって、内面にはドス黒い血が流れているのは間違いなかった。

「ゴタクはいい。あたしと殺り合うのが怖くて出てこないのか?」

 パルフィーが挑発するとしばらくの沈黙の後に応答があった。

「可愛らしいと言いましたが、それに不釣合いの血まみれの手足……何とも勇ましいものですね。私事ですがね、よく”臆病者”と呼ばれるんです。没蛇ぼつだなんて二つ名もありますが、それとひっかけて”怯懦きょうだのグレェス”なんてアダ名もあるくらいでして……貴女を見ていると体が震えるくらいですよ。ではなぜ臆病者と呼ばれるのだと思います?」

「知らないよ。第一、あんた、さっきから姿を現さないじゃないか。だから臆病って言われるんじゃないのか?」

 パルフィーは警戒状態を保ったままグレェスとの問答に入った。もっとも彼女自身は対してこの会話に興味はなく、海上でで襲撃を受けているであろうアレンダの事が気がかりだった。

 グレェスが時間を稼いでいるのは明らかで、戦力はアレンダに集中してしまっているだろう。何とかして本体を見つけて叩けないものかと彼女は思慮を巡らせた。
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