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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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シークレット・ウィスパー

アレンダはニタニタと笑いながら愉快でしょうがないといった様子だ。その表情のまま皮肉ぶって言い放った。

「ラルディンのヤローはなぁ、お子様にばっかに熱心で家内の派閥争いにキョーミが無かったんだよ。それに愛想をつかせて屋敷を去ったウルラディールの連中もいるくらいだ。いくら腕っ節が弱くても世渡りが出来ねぇんじゃ救いようがねェ。オジョーサマが死んでもウルラディール家はエッセンデルが運営してくから心配せずに死ねってんだよ!!」

「チッ!! ルーブ爺、いや、ルーブの奴めッ!!」

 してやられたといった表情でサユキは片目をつむり、歯を食いしばった。サユキには心当たりがあった。もし、今回の暗殺計画を企画するものが居るとすればルーブに間違いない。

 サユキの予測が当たっていれば自分たちは彼の計画の最後に残った目障りな邪魔者となっているに違いない。

 レイシーの母であるマーネは早くして亡くなっている。そのため、本来は母方の家の影響が強く出る事は無いはずだった。

 しかし、お抱え執事として招き入れられていたマーネの実父、ルーブ・ブラハ・エッセンデルの存在が大きく響いた。おそらくルーブは裏でエッセンデル派を屋敷の中心に持ってくるように長年かけて工作活動していたのだろう。

 ラルディンがレイシーの教育に夢中になっていれば、エッセンデル派の権力と発言力を増していくのは容易いことだっただろう。

 ルーブはウルラディール派の重役や武士達を買収したり、恐喝したり、暗殺したりとかなり強硬な手段をとったに違いない。そうでなければここまで都合よく組織を一色に染める事ができるはずがない。

 レイシーは突然の出来事の連続にぼんやりしていたが、尊崇していた父が侮辱されたのを耳にして我に返った。そして聞き捨てならないとばかりにアレンダに声を張り上げて言い返した。

「何人たりともお父様を侮辱することは許されないわ!! 例えアレンダであっても!! 発言を即刻取り消して頂戴!」

「は? 何必死になちゃって。馬鹿じゃね? あ、ここで残念なお知らせですが、ラルディンの屑はちょっと前に死んだんだなぁ。さっきの小鳥がその速報だよ。ラルディンの首はとったって書いてあったぜ」

「嘘……ウソよ……うそ……」

 レイシーはそれを聞くと目を見開いて頭を抱えながら首を左右に激しく振った。サユキは傍からこれを聞いていて、最初はレイシーの戦力を削ぐアレンダの虚言かと思った。

 だがウルラディール親子を根絶やしにするならそばにいるよりは離れていた時のほうが都合が良い。レイシーを海外へ誘いだしたということはすなわち既にラルディンの暗殺も秒読みであってもおかしくはない。

 思い返してみれば、出発近くになって何人かの重役がまとまって議会や出張で留守になったように記憶している。恐らく、最後のウルラディール派であった彼らももうこの世には居ないだろう。

 しかし、そうだったとしてもラルディンを殺せば諸々の問題が出てくるはずだ。先程からアレンダの口が軽いのを突いてサユキは探りを入れてみた。

「馬鹿な事をおっしゃい!! いくらエッセンデル派が大部分を占めたとはいえ、当主殺害など許されるはずがないわ!! 当主を失ってはウルラディールの家を維持することは不可能じゃない!!」

 サユキはこの頃にはもう心の切り替えが出来ていて、最悪の状況を想定して動いていた。我を失っているように見せかけるため、思いっきり腕を横に振りぬいた。

 そして怒号のように声を絞り出し、アレンダに対して怒りを織り交ぜたような態度を作った。

「おうおう必死だなぁ。冥土の土産に教えてやるよ。もし、ラルディンのヤローにアニキが居たとしたらどうする? 何らかの事情で、そいつがラルディンに監禁さていたとしたら? 非人道的に監禁されてたりすりゃ当然ラルディンを殺す理由にはなるわなァ?」

「ありえない!! ラルディン様に兄弟がいらっしゃるなんて話は聞いたことはないわ!!」

「ハッハ!! バーカ!! 当たり前だろ。実の兄弟なんて存在しねーんだよ!! ラルディンのニセの兄をでっち上げて担ぎあげて、ウルラディール家の実権を握ろうってわけだ。傀儡武家の完成だよ!!」

「おい、アレンダ、お前ちょっとダベりすぎだぜ」

会話を聞いていた船乗り風の男が2人の会話に口を挟んできた。それを聞いたアレンダは額に青筋をたてんとする勢いで激昂した。

「おいてめぇ、ふっざけんじゃねぇよ!! 誰に向かって口聞いてンだ、あぁ!? アタシが直々に暗殺計画のメンバーに取り立ててやってんの忘れてんじゃねぇだろうなぁ!? よぉ、おい聞いてんのか屑!! この暗殺が成功したらアタシはルーブ様から参謀として取り立ててもらえると約束をしていただいてんだよ!! その気になりゃてめぇらの首を切るなんて朝飯前だって事忘れてねぇだろうな!? 背中から刺されたくなけりゃもっとアタシを敬うこったな!!」

「す、すま、すいません……」

 船乗りは怯えた表情を浮かべて後ずさった。それを横目で見たアレンダは気に食わないとばかりに甲板につばを吐きかけて大きく舌打ちした。

 そしてゆっくりとレイシー達に視線を戻すとまたもや笑みを浮かべて口を開いた。

「何やったって無駄な抵抗だぜ。てめぇらの弱点は熟知しているからな。いくら手に負えねぇ化物みたいな強さだからって、弱点と手の内が全部バレてるなら話は別だ。殺って殺れねェこたぁねェ!! さて、そろそろおっぱじめるとするか。……おい、てめえら!! とっとと構えやがれ」

 アレンダがそう号令をかけると船に乗っている人々はそれぞれ武器を取り出して戦闘態勢に入った。

 この船にはてっきり一般人ばかりがが乗っているのだとレイシー達は思っていたが、実際は乗っている客のほとんどがアサシンだった。暗殺を生業としているだけあって、殺気を殺すのは朝飯前といったところか。

 トランプをしていた紳士たちは何処かからダガーや剣、棍棒など物騒な得物を持ち出してきていた。意外なことに仲睦まじい老夫婦も魔法用の杖を取り出して殺気を放っている。

 船乗りもそれらと同じだ。子供まで弓矢を握っており、まさか親子連れまでもが暗殺者であるとは予想できなかった。今回の海外遠征は最初から、全て、ルーブ爺に仕組まれていたというわけだ。

 レイシーは強いショックを受けて茫然自失でぼんやりしていたが、相手が武器を取り出したのを見て体が反射的に戦闘態勢を取った。人を殺めたくはないという感情とは裏腹に体に刷り込まれた戦闘の血がたぎった。

 相手にはアレンダも含まれている。見るからにアレンダは本気だ。手加減をすればこちらが殺されかねない。彼女は無言のまま激しい葛藤に苦しんだ。一方のサユキは覚悟を決めて構えた。

 レイシーとサユキが臨戦態勢に入った次の瞬間、2人は何者かに首根っこの服を掴まれてひょいっと宙吊りにされてしまった。振り向くとそこには彼女らを掴んで持ち上げたパルフィーが屈託のない笑みを浮かべていた。

 いつのまにか彼女は2人の背後に回り込んでいたようだ。彼女の思わぬ行動にレイシーもサユキも反応することができなかった。

「ちょ、パルフィー!! 何をするの!! 離して頂戴!!」

「やーだね。アレンダは『アタシの言う事を聞くならいつでも腹いっぱい高級料理食わせてやる』って約束してくれたかんな。ご当主が死んだんじゃお嬢についてってもおいしいご飯をたらふく食べられるとは思えない。あたしは海軍レーションだけでこき使われるような扱いはゴメンだよ」

「パルフィー……」

 サユキはそれを聞いてうなだれた。確かに屋敷に属していない者について行ってもパルフィーが満足に食事を取ることのできる可能性は非常に低い。彼女はバウンズ家の遠征の時の事を思い出した。

 普段は明るい彼女が空腹になればメソメソ泣くほどである。空腹は彼女にとって拷問そのものだった。それを考えると彼女が食べ物で買収されるのも仕方がない事だとサユキには思えた。

「よーし、いいぞ。大食いのクソ亜人。いまから数えるから、0になったらその2人を甲板の真ん中に放り投げろ。流石にフル装備に魔法強化を加えたそいつらといえど、空中での集中攻撃の後の立て続け後の一斉攻撃に耐えることは出来ん。ウィン・ダ・ボイドも空中では発動できんしな。……いくぞ!!」

 それを聞いてレイシーとサユキは吊られながらも投げられる先の方を見つめた。甲板の真ん中を空けてアサシンが円状に取り囲んでいる。

 パルフィーが投げた直後から弓や魔法で攻撃し、落下した直後に近接武器で袋叩きにするつもりだろう。

 並の戦士ならともかく、相手は殺人のプロである。攻撃力はかなり高いはずだ。アレンダの言うとおり、あのど真ん中に放り込まれたらタダでは済まない。

 可能ならばパルフィーの拘束から逃げ出せればいいのだろうが、服の襟を握る力が半端ではなくて息苦しいような状態だ。

 おまけに彼女の長い腕の先に吊るされているため、抵抗しようにも本体まで攻撃が届きそうにない。2人はもがきながら集中攻撃に対してのせめてもの対策をとった。

「さーん!!……」

「……護身の法衣……クレリカル・ディフェンシング……」

「にーい」

いわおの神々よ、我が肉体に宿りて、暫し御身の如き堅牢なる体躯を我に与えたもう。我、魔持ちて汝に与えうるものなり!! 神岩硬身しんがんこうしんの術!!」

「いーちッ!!」

「……ゼロッ!!」

アレンダの指示通り、パルフィーは0のカウントと同時に2人を放り投げた。ただし、甲板の真ん中にではなく、上空めがけて垂直に思いっきり高く投げあげた。

「!?」

「!!」

 放り上げられた2人は何が起こったのか一瞬わからなくなった。だが遠く下の船の甲板から透き通るような高い音程の指笛が海原に響き渡るのが確かに聞こえた。

 2人は船の遥か上まで舞い上がった。軌道の頂点に達してそろそろ落下し始めるかといった時、空の向こうから巨大な赤いワシが猛スピードで2人めがけて突っ込んできた。

 身構える間もなく、2人はワシの爪に鷲掴みにされて、そのままその場からさらわれた。ワシの鋭い爪が体に食い込むかと思いきや、その赤いワシの爪には掴んだものを傷つけないようにグローブが付けられていた。

 これは恐らく、いや、間違いなくアレンダの飼い慣らしているワシだ。ワシはそのまま風に乗ってスピードを上げて船のある海域から急速離脱した。

「これは……アレンダ……?」

 レイシーは無意識につぶやいた。アレンダがもし自分たちを本気で殺す気で居たのならこんなまどろっこしいマネはしないはずだ。それどころか、自分たちを逃がしてくれている。

 パルフィーもいつの間にこの作戦を知っていたのか定かではないが、息の揃った連携プレーだった。思わずサユキは思いきり叫んだ。

「アレンダーーーーッ!! パルフィィィーーー!!」

 自分たちが生き延びて逃げていることは他の誰にも知られてはならない。ということは彼女らはたった2人で船中のアサシンを口封じのために全滅させる気でいるに違いない。

 初めから捨て身の覚悟していたとしか思えない。レイシーはワシの鉤爪からくの字に吊られていたが、我に返ったように顔を船の方に向けてサユキと同じように2人の名を叫んだ。

 同時にレイシーのかぶっていた帽子は風に煽られて海へと吹き飛んでいき、まとめていた赤い髪が風になびいているのが船上からも見えた。。

 パルフィーは真っ赤なオオワシにさらわれていくレイシーとサユキを見送ってアレンダの方を向き直った。

「いや~、にしてもアレンダにゲス役は似合わね~なぁ~。あたしはいつバレるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだけど」

「よく言うわ。パルフィーだって裏切ったって割には『ご当主』とか『お嬢』とか言ってたじゃない。普通、見限った人間を敬うような言動はしないでしょ。でも貴女の耳が良くて本当に助かった。あれだけの距離があってもローブの中でつぶやいた言葉を拾えるんですもの。作戦も上手くいった……といいたいところだけど……」

「おい、アレンダ、どういう事だ!? てめぇ、裏切りやがったな!!」

 呑気にマイペースな会話しているように見える2人に髭面の男が食って掛かった。

「裏切る? 別に私は心からルーブに忠誠を誓った覚えはないです。まぁ、上っ面では出来る密偵を演じていたけれど。それに、どうせこの暗殺計画のリーダーを私に任せてきたのは、どうせ私が使い捨ての鉄砲玉に過ぎないからでしょ。計画が成功した時点で私が生き残っていた場合は内情を闇に葬るためにあなた達の誰かが私を刺す……そうでしょ?」

 予想外の出来事にアサシン達は困惑し始めた。一応、暗殺計画のリーダーになっていたアレンダが突如として暗殺対象を逃がしたからだ。所詮は金で雇われただけの烏合の衆である。混乱しているこの機を逃す手はないと思い、アレンダはすばやくパルフィーに囁いた。

(パルフィー、聞こえる? この船には動力源として”暴風の結晶石”が積まれているわ。もし、この暴風石を破壊できればすべてを切り裂くような強力な竜巻が発生する。そうすればお嬢様への追撃を妨害したり、この事情を知ってる者を文字通りバラバラにして口封じすることができるわ)

 アレンダは俯き加減で少しの間、ささやきを止めたが決心したように続けた。

(本当は貴女も逃がしてあげたかったのだけれど、この頑丈な結晶石を自力で破壊できるのは貴女くらいしかいないの。気休めだけれど、基本的にこの船のアサシンは私が選んだメンバーばっかり。こうなることは予測していて、パルフィーと相性が悪い相手はこの船にはいない。だから強行突破でもなんとかなると思うの。貴女の命を私に預けて……って言いたいところだけど、実際は”私に頂戴”ってことになってしまう。ごめんね……)

そう囁くとアレンダはパルフィーの顔をじっと見つめた。
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