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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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かつての挑戦者達

 一体なぜシェアラ姉がこんなに切なそうな表情をしているのかアシェリィには心当たりがなく、彼女は思わずぼんやりとした。そうしている間にシェアラ姉が声をかけてきた。

「そう、まだ13歳なのね……。本来なら今頃、村の学校に通っているはずなんでしょうけど……噂は本当だったのね」

 その言葉を聞いて一気にその場が辛気臭くなった。教会が無償で校舎を再建してくれるという話を知っているのは町長くらいのもので、まだシリルの人達には知れ渡っていないという事にアシェリィは今気づいた。

 気の毒に思われて続けるのもなんだか微妙なので、アシェリィは学校再建の件を4人に伝えた。

 それを聞いた面々は腫れ物にさわるような思いをせずにすみ、元のムードに戻った。その直後、カレンヌがアシェリィに向けて素朴な疑問をぶつけてきた。

「ん~、でもさ、話を聞くに青空授業はやるんでしょ? 学校いかんの?」

 カレンヌは口に出した後にしまったといった感じの顔をした。アルマ村は貧しい家庭が非常に多いという話をよく聞く。共働きでもシリルの一人分の年収に届かない家も珍しくないらしい。

 彼女が学業を疎かにしてまで出稼ぎに出てきたという可能性が高い。カレンヌは己の迂闊さを悔いたが口から出てしまったものは引っ込められず、もう遅かった。彼女が頭を下げて謝ろうとした時、予想外の反応があった。

「う~ん、私、今は”オルバ様探し”が課題になってて、授業よりそっちを優先するように先生に言われてるんです。人助けするのが近道だと聞きましたので、郵便配達を手伝うというのはその活動の一環なんです」

 それを聞くやいなや、クラッカス以外のシーポスのメンバーたちは大きな安堵の溜息を吐いた。

 これでもし「学校に行きたいけど能力のせいで出稼ぎに出されている」などと言われでもしたらどんな反応をしていいかわからなくなってしまう。

 だが、”オルバ様探し”の話題もそれはそれで雲行きの怪しいものだった。黙りこくったメンバーに向かって不思議そうな顔でアシェリィが声をかけた。

「……? 皆さん、どうかしたんですか?」

 メンバーは各々がなんとも言えないなんだか沈んだ表情に変わっているのがアシェリィにも感じ取れた。

 何かまずい事をいったのかもしれないが、これにも特に心当りがない。彼女は少し焦りつつ彼らの反応を待った。少ししてウェイストが重い口を開いた。

「まぁ、自分らで言うのも手前味噌だけど、シーポスのメンバーはシリルの中ではトップクラスの腕前を持ってる。だけど僕も、シェアラ姉も、クラッカスも、カレンヌもオルバ様を見つけることが出来なかったのさ」

 気まずい雰囲気が流れだした。言われてみればこれだけ実力のある人達なのだ。オルバ探しに加わっていてもおかしくない。

 しかし、4人いても誰も手応えがなかった事を考えると、レンツの話していたオルバに会えるのは10人に1人いるかいないかというのは本当らしい。だが、沈黙を破るようにカレンヌが後頭部で腕を組んで、視線を泳がせながら言った。

「とはいっても、実際にあたしの同期でオルバ様の弟子になってリジャントブイル行った奴がいるから、あたしらの年代以降はそこまで絶望視してないけどね。ま、でも半端に出来るくらいじゃやっぱダメだわ。そいつはもうあなたくらいの歳にはぶっ飛んでたし」

 もしかしてそれは前に公園で聞いたコパガヴァーナを釣り上げた少年の事ではないかとアシェリィは考えた。メモはとっていなかったので、名前はうろ覚えだった。首を捻って考えながら名前を口出してみた。

「ファン……フィン? フォンセラさんでしたっけ?」

「ハズレ~。似てそうで似てない。”ファイセル”だよ。でもその様子だと例の武勇伝は聞いてるみたいだね。全く、コパガヴァーナなんてぶっちゃけ実在するかどうかさえ怪しい魚を釣りに湖に通うとか正気の沙汰じゃないよね。アイツは一見、常識人に思えてどっかズレてんだよ」

 アシェリィはそれを聞いてファイセルという少年がどんな人物なのか興味が湧いてきた。前に話を聞いた時は相手が一般住民だった。

 そのため、そこまで詳しく彼のことを知らない様子だったが、カレンヌは話からするに彼女は彼の同期らしいので踏み込んだ話が聞けそうだった。

「そのファイセルさんはどんな特技の持ち主だったんですか?」

 それを聞いたカレンヌは指先をのばして額に当て、目をつむり、首を左右に振りながら語りだした。まるで思い出しながら彼に対して呆れているような素振りだった。そのままなんとも言えない表情のまま、彼について語りだした。

「C.M.C……クリエイト・マジカル・クリーチャー……っての? 物体に魔力を吹き込んで操る魔術だね。生き物みたいな動作を吹き込むことが出来るんだけど、変な物ばっか生み出してたなぁ。例えば”無限水切り石”とか”ネズミを食べる筆箱”とか……。特にアイツは布類の魔法生物の生成が得意でさ。ネクタイを剣にして剣が得意な奴と模擬戦したりしてたなぁ。もう無茶苦茶だよ」

 その後もファイセルに関する情報や武勇伝の話は続いた。

 割と学科も出来る方だったという事、それなりにルックスはいいという事、お人好しが過ぎる事、、何食わぬ顔をして変なモノで魔法生物を生成する事、良くも悪くもマイペースな事、女心に酷く鈍感な事などが挙げられた。

 アシェリィの中で少しファイセルに関してのイメージが固まっていった。

 確か、カレンヌは彼がリジャントブイルに行ったと言っていたはずだ。リジャントブイルと言えば、アシェリィの読む冒険譚にもしばしば登場する有名な魔術の名門校である。

 幾多の偉大な魔術師を輩出してきた学校であるはずだ。アルマ村では滅多に話題にのぼる事はないが、国内屈指の名門校である事は誰もが知っている。

「アイツは元々、光るものを持ってたけど、オルバ様に稽古をつけてもらって一層磨きがかかったのは間違いないね。当時は死ぬほどアイツの事を羨んだけど、今思えばアイツだからそこまで行けたのであって、あたしじゃあそこまで伸びなかったと思うよ」

 そう言いながらカレンヌは腕組みをしながらガッツ君の横腹に寄りかかった。何だか彼女は何かをやり遂げた時のような満足気な表情をしていた。ウェイストがその様子をみて付け加えた。

「ここにいる皆は残念には思っていても後悔はしていないのさ。ベストを尽くした結果がこうだったまでだからね。それに、本当の最前線でオルバ様を探した子供達にその経験を未練がましく語る人はほとんど居ないよ。実力のなかった連中ほどよく吠えるんだけどね。やりきった人達はカレンヌのように素直に成功者の実力を認めることが出来るわけだよ」

 それを聞いたカレンヌはウェイストの方をなんだか気に食わ無さそうな表情で見た。そしてよく言うよと言わんばかりに首を傾けた。また目をつむり脱力したかのように肩をだらりと落としながらガッツ君に背を預けながら彼女は言った。

「いや、実力を認めるも何も、あんなの見せつけられて才能の差を感じない方がおかしいって。学校にいるときはライバルの1人だと思ってたけど、修行を終えて帰ってきた時にはもう別次元の実力だったし。もうそこまでいくと誰一人としてアイツが選ばれたことに関して文句をつけられなかったし。一体オルバ様に何を教わったらああなるのか聞いてみたいもんだよ」

「はいはーい。昔話はそこら辺にしましょう。私達が今、出来る事はアシェリィちゃんがオルバ様探しを成功させられるように影ながら応援することでしょ。私達の結果とアシェリィちゃんには何の関係もないのだから」

 シェアラは両手を叩きながら話を一旦区切って、正論かつ建設的な意見をだした。

 それを聞いたウェイスト、クラッカス、カレンヌの3人はぶり返しかけたオルバ探しへの情熱をそっと胸にしまい、シェアラの呼びかけに賛同して物言わず首を縦に振った。ふとマギ・ウォッチに視線を落としたウェイストがつぶやいた。

「おっと、呑気に話してたらもう10時……いや、まだ10時か。解散が11時近くなることも珍しくないから、恐ろしく早く感じるね。もしアシェリィさんが継続して来てくれるようなら毎日こんな感じで雑談をする余裕もありそうだよ。あ、あと、いつも予備のポットが1本余るんだけど、毎回アシェリィさんにあげるよ。慣れるまではキツイ日もあるかもしれない。その時はこれを飲んで。業務中に1本、そして余った1本を解散時に渡すから好きに使って。買うと高いものだから、いざというときの為にとっておくのも悪くない。扱いは任せるよ」

 そう言うとウェイストはクーラーボックスから真っ赤なポットの小瓶を取り出してアシェリィに手渡した。

 それと同時に思い出したようにクーラーボックスの隣に幾つか並んだ箱の中のうちの1つから手紙をグラトニー・バッグに詰め始めた。それほど多くはないが、入れられた郵便物をムシャムシャとバッグは貪った。

「それとアシェリィさん、聞いていると思うけど君にはアルマ村への郵便物を配達、回収してもらう業務も兼任してもらうよ。このバッグを貸すから、その日のうちに村の人達に配ってほしい。届けるのは別に夕方になっても構わないよ。で、村の人達にはシリル、または別の村や街に手紙を出す場合、朝にポストか決まった場所に出したい手紙を置いておくように伝えておくんだ」

 ウェイストはバッグに郵便物を詰め終わり、アシェリィに手渡した。彼女がそれを受け取り、肩からかけたのを確認すると次にウェイストは箱から地図を取り出して広げたあと、指をさしつつ続きを説明し始めた。

「多少遅くなってもいいから、朝にそれを回収してからこっちの業務に合流して欲しいんだ。追加報酬も出るみたいだから頑張って。村全体の地理は把握してると思うけど、地図も貸しておくから使うといいよ。使ってみればわかるだろうけど、とても役立つと思う。それと配達が終わったらC-P.O.Sの腕章は外すこと。腕章をつけてると業務外でも街の人に郵便物を頼まれたりする事があるからね。ただし、さっきも言ったけど地図は腕章が無いと使えない。それも覚えておいてね。何か質問は?」

 アシェリィに任された仕事はそれほど複雑ではないし、思ったよりも簡単だった。そのため今のところは特にわからないことや、悩んでいる事はなく、首を横に振った。

 もっとも”簡単だ”というのは彼女ほど機動力とスタミナがあっての話で、並みのマナ使いではそもそも自力で村から出てくる事自体が難しいのだが。

 ウェイストはその様子を見て軽く微笑んで頷いて返した。すると彼は郵便局を背にしてメンバーたちの方を向き、背筋をピンと伸ばして立った。メンバー達も背筋をピンと伸ばした。

「本日も当局の業務を助けていただき、ありがとうございました。ご苦労様でした!!」

「お疲れ様~」「お疲れ~」「押忍!」「おっ、お疲れ様でした!!」

 終わりの挨拶を告げて一同は解散した。郵便局前の行き交う通りは人の流れが多く、雑多としていた。だが、アシェリィは確かに仕事を終える自分たちに向けられた労いの視線をあちこちから感じ取った。なんとも言えない達成感と高揚感のまま、その場を離れた。

 その日は早めに村に帰り、手紙を配って周った。そして村人に郵便物回収についての連絡をした。

 アシェリィが任されたのはあくまでアルマ~シリル間の郵便配達だったので、村内間の郵便配達の必要はなかった。村人たちは突然の村外への郵便配達の再開に驚きつつも、一様に喜びの表情を見せた。

 郵便を配り終えると彼女はそのまま家に帰って夕方のライラマ摘みを手伝って眠った。
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