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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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"シーポス"の面々

「そうだな、まずは我々……僕からかな」

 ウェイストはそう言うと、階段の下へ降りて皆から見える位置に立って自己紹介を始めた。

「僕はウェイスト。歳は今年で22。一応、今は”シーポス”のリーダーってことになってるね。あ、”シーポス”ってのは腕章のC-P.O.Sをそのまま読んだだけなんだけど、スタッフの中でも現場の配達員に限定した呼称なんだ。つまり僕ら4人と君のことだね」

 ウェイストは片腕を広げてメンバーの3人に向けた後、アシェリィの方を見た。何を言おうかとすこし考えるような素振りを見せた後、自己紹介に移った。

「僕の特技はさっきも言ったけど、この金色のヤモリ達、G・ゲッコーズを使役する事かな。彼らはあまり重くないものなら運べるし、壁を伝って移動できるから人間が通れない道も問題ないね。あとは手数が多いから細かい取りこぼしとか、広範囲で情報を集めなきゃいけない時とかに役立つかな」

 ウェイストはそう言って腕を前に突き出した。金色のヤモリが指先をクルクル回っている。壁に何やら張り付いているように見えたので、アシェリィが目を凝らすと多数のヤモリがペタペタと彼の背後に集結しつつあった。

 別にアシェリィは爬虫類が苦手ではなかったが、流石にこれだけゾワゾワと集まってくると気分のいいものではない。

「ハハ。ま、ヤモリ使いなんてそんなもんだよね。残念ながら昔っからあまりいい印象は持たれてないんでね。慣れっこさ。んで、指に乗ってるこいつが”コマンダー”。彼を通して全体の群れを指揮しているんだ。ただ、欠点もあってね。コマンダーは音波でやりとりしているから音が反響する密閉された室内や洞窟とかでは指令が届かないんだ。だから残念な事に入り組んだダンジョンや洞窟ではせいぜい目に見える距離くらいでしかG・ゲッコーズを使えないんだよ。まぁ開けたところならこれだけ遠距離までやりとりできるんだから、それほど不便に感じることもないんだけど」

 ウェイストが軽く指を振ると蜘蛛の子を散らすようにゲッコーズ達は散開していった。普段はこうやって街中に潜ませておいて必要なときに呼び出してくるのだろう。

 配達の時、地図で見ただけで少なくとも十数匹は居たのでまだどこかに潜んでいるはずだ。ぼんやり考えているとウェイストが続きを語りだした。

「まぁ見たらわかると思うけど、今はこの郵便局の正職員として勤務しているんだ。僕はアーシェリィーさんみたいな感じで始めて、いつのまにか正社員さ。お給料が滅茶苦茶良いんで文句はないけど、もうちょっと色々と冒険してみたかった感じはあるかな。地位は上がるかもしれないけど多分、このままずっとここ勤務だろうしね」

 その発言にアシェリィは内心で同意した。安定を好む人にとってはこの職業はうってつけだったが、冒険や旅を好むアドベンチャー精神旺盛な人にとってはまるで足枷のような環境にも思えた。ウェイストがどこか寂しげな表情をしたのがとても印象的だった。

 彼自身の印象としては高い鼻に長めの髪と初対面時は尖った感じのする男性だと思っていたが、細かい心遣いのできる心優しい青年だなと今は思える。

 若干強面で損をしているような気もするのだが……。メンバーの自己紹介は続いた。

「次は私かしらね。私はシェアラ。この中では一番お姉さんだから、シェアラねえって呼ばれているわ。歳は……ふふふ。ご想像におまかせします。私はウェイスト君より先輩なんだけれど、結局、郵便局には勤めて無いわね。何度もお誘いを受けているのだけれど……」

 シェアラはゴンドラに乗ったまま上半身をこちらにむけて乗り出した。ゆったりとしている服を着ているが、スタイルがいいのが一目で分かった。

 出るとこはくっきり出て、へこんでいるところはくっきりへこんでいる。色んな意味で大人の女性だとアシェリィは思った。彼女の身の回りには居ないタイプの女性だった。

「本業は一応、保母さんなんだけれど、お給料をもらうどころか、逆に赤字なのよね……。保育料は皆払ってくださるんだけど、家の経済状況からお腹を空かしてる子が結構いるの。私、そういうの放っておけなくて、つい食べ物を買い込んで持って行ってしまうのよ。普段は忙しいから朝のこの時間だけ参加できるこの仕事はうってつけなの。郵便局さんからの配慮もあっておかげさまで生活には困ってないわ」

 それを聞いたカレンヌが釈然としないといった表情で後頭部で両腕を組んだ。そして足元の小石を蹴飛ばしながらぼやいた。

「ったく、シェアラ姉はお人好し過ぎんだよな~。その気になれば魔術師も目指せただろうに。それにあれじゃ保育園じゃなくてまるで孤児院だよ。クレなんとか会なんて何の足しにもならないね」

 思わずカレンヌは無遠慮に本音をぶちまけたが、シェアラは顔色一つ変えず、腹をたてることもなく、物腰柔らかに言い聞かせるように彼女をたしなめた。

 アシェリィは険悪な雰囲気になったのではと少し気になったが、観察するにこの言い合いは日常茶飯事のやりとりらしい。

「こらこら。カレンヌちゃん。滅多な事を言うもんじゃありませんよ。教皇様直々にお招きしてくださったのだから、ありがたく頂戴しないと。それに、孤児院はもっと苦しい思いをしているわ。これでもシリルはまだマシな方なのよ……」

 少しの間、なんとも言えない沈黙が続いたが、すぐにシェアラがこちらをちらりと見て、余計な心配をかけないように気を利かせ、ニコニコしながらこっちに手をひらひら振って続きを話し始めた。

「ああ、えっと。特技の紹介かしら。私の特技は”熱風”を操ることよ。肉体エンチャントとか、普通の魔法とかは苦手なんだけど、とにかく熱風を生み出すことに関しては並の使い手には負ける気がしないわ。ただ、長いこと『一体この力を何に使えるか』って事を掴むのに時間がかかったわ。ほら、ラーグって年中春でしょ? だから寒い時に活躍ってわけでもないし……。確かにケンカの仲裁とかには役立ったけど、私のやりたいことではなかったわ。そんな時、運良く気球での郵便配達を試験運用しようとしていたココにスカウトしてもらったのよ」

 そう言いながらシェアラは頭上を見上げて気球を指さした。彼女は特に力を込めている様子がないが、気球は重りだけを大地に下ろし、ゴンドラは宙にふわふわと浮いている。

 てっきり、腕を真上にかざしたりして熱波を放出するのかと思ったらそんな事もないらしい。もし予備動作なしで熱気をぶつけられたら、ひとたまりもないだろうとアシェリィは思った。

 彼女の印象はとにかく女性らしいということだ。初めて会うのにまるで母親のような慈しみと寛容さを感じた。博愛を重んじ、自己犠牲をも厭わないポリシーを持つ強い女性でもある。

 どんな女子でも一度は彼女のような素敵な女性になれたらと夢見るのではないだろうか。そう思いながらぼんやり彼女の話の続きを聞いた。

「そういうわけで、あまりスピードは出ないけれど、重たかったり、大きかったり、壊れやすい配達物は私が担当してるの。重いものと、大きい物はクラッカス君と分配なんだけど。ね? クラッカス君」

 シェアラは例の巨漢の方を向き直って自己紹介の流れを彼に投げた。それを受けて今までほとんど喋らなかった彼が口を開いた。

 シェアラの方をしばらく見た後、アシェリィへと視線を移した。鋭い視線に迫力というか威圧感を感じた。

「押忍、自分、クラッカス・デーンっス。以後よろしくたのんます」

「ホラ~、アーシェリィーちゃん怖がってるじゃんよ~。もっと愛想よくしなきゃ!!」

 カレンヌがクラッカスの尻を叩くようにすかさずツッコミを入れた。クラッカスは背後に立っているカレンヌを振り向いて軽くあたまを掻いた。そしてまたアシェリィの方を向いて片手を頭に添えたままお辞儀をした。

「あ、スマセン。押忍」

それだけ言うと彼はまた何も言わなくなった。さきほどのシェアラとカレンヌの時よりも長い沈黙が続いたが、誰も気まずそうな表情を浮かべなかった。

 沈黙というか自然な間である。きっとこれもいつものやりとりなのだろうとアシェリィは察した。

 もしかして見慣れない自分が来たので無口になっているのかと思ったが、こちらを気にしている様子は全くなかった。彼は極端に口数が少ないが、コミュニケーションが苦手というわけでも無さそうだ。

 他のメンバーからしっかり信頼されているのが感じ取れる。どこで意思疎通しているのかはよくわからなかったが。

「じゃあ最後にあたし! 花も恥じらう18歳! カレンヌ・メンフェスでーす! この中では一番歳下……いや、アーシェリィーちゃんが入るなら二番目に若いって事になるのかな……へへ、先輩っていい響きだなぁ」

「カレンヌちゃん、クラッカス”先輩”にあんな態度をとっているのだから、先輩面するのはやめなさいね」

「へーい」

 話を聞くにどうやらクラッカスの方が彼女より先輩らしい。彼の発言自体が少ないので言われなければ全くわからない。話の腰を折られたカレンヌはやれやれとばかりに首を振ってから気を取りなおして続けた。

「ゴホン。特技は~、まぁさっき紹介したからだいたいでいいよね。ランページ・ラビットっていう種類のウサギのオバケみたいなのを乗りこなすよ。こういうと他の動物も調教できるのかってよく聞かれるんだけど、あたしはこれしか扱えないね。ガッカリされる前に言っとく。でもランページ・ラビット、通称R2に賭ける情熱は誰にも負けないよ。この相棒、ガッツ君は子供の頃からの相棒だし」

 その言葉を理解したのかどうかはわからないが、ゴンドラの脇に待機していたぶち模様の巨大なウサギは耳をピコピコ動かした。つぶらな真っ黒い瞳でヒゲを揺らしている。どうやら今はリラックスモードなようだ。ウェイストが付け加えた。

「R2だけっていうとアニマルテイマーって言うには物足りないかもしれないけど、実際R2の調教難易度ってかなり高いんだよ。常識的に考えて街中で郵便物を運ぶなんて仕事はまず任せられない。とにかく気性が荒い動物だからね。まぁじゃじゃ馬とじゃじゃ馬は惹かれ合うって事なのかな……」

「ちょっ、先輩、今の発言は何気に失礼じゃないですか?」

「またまた~、新入りさんの前でいいカッコしようとしたって無駄だよ。どうせすぐにボロが出るんだから……いや、もう出てるか」

 思わずカレンヌ以外の全員が笑いが漏れた。ここで可愛い子ぶるならプクッっと頬でも膨らますところなのだろうが、彼女は目線をそらして小声で「チッ」っと舌打ちした。

 彼女は元気いっぱいタイプのムードメーカーで、アシェリィにとっては割と見慣れたタイプの少女だった。会った当初はハンナと似ていると思っていたが、こうやって見ているとやや毒気付いているのを感じた。

 自己紹介もいよいよ残る自分だけとなった。ウェイストが皆に見えやすい彼の隣へ来るように手招きをした。どう挨拶するかの心構えを全くしていなかったので、かなり緊張してきた。

 ガチガチになりながら階段から立ち上がってぎこちない歩きでウェイストの脇に立った。思わず握った拳にはかすかに汗をかいていた。どう切り出そうと考えているとウェイストが助け舟を出してくれた。

「彼女が今日から急遽加わってくれることになった配達員見習いのアーシェリィー・クレメンツさんだよ。昨日、局長から依頼されてすぐの着任だから慣れないこと、わからないことだらけだろう。だから皆、丁寧に接してあげて欲しい。まぁ心配するまでもないと思うけどね」

 彼がそうメンバーに告げると他の3人は揃って深く頷いた。そして視線がアシェリィに集中した。ウェイストが場の雰囲気を和ませてくれたのでだいぶやりやすくなって、アシェリィは自己紹介を始めた。

「アルマ村から来ました、アーシェリィー・クレメンツです。皆からは『アシェリィ』って呼ばれてます。歳は今年で13になります。特技は……えっと、マナボードです。最高速度はまだまだですが、持久力はあるほうだと言われます。トリックの練習もしてて、これが結構面白いです。体を動かすのも好きですが、冒険譚とかの本を読むのも好きです。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします!」

 アシェリィが深くお辞儀をするとシーポスのメンバーたちは暖かく拍手で彼女を迎え入れた。彼女の紹介を聞いてメンバーたちがあれこれと話し始めた。

「へ~、アルマ村出身ってマジだったんだ~。ってことはシリルまで来てから回収作業!? うわーきっつ~。さすが13歳、若いわ~」

「うん、そうだね。到着した直後にポット渡そうかと思ったんだけど、余力がありそうだったんでそのまま実力確認ついでにぶっつづけで回収作業をやってもらったのさ」

「うわ~エっグ~」

 二人のやりとりを余所に、シェアラがゴンドラから半身を乗り出して、心配そうな顔つきでアシェリィを眺めた。彼女はなぜこんな表情で見つめられるのか心当たりが無く、キョトンとした。
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