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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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これまたちんまいのが……

 次の日の朝、アシェリィは朝5時に起きた。彼女は早起きは苦手ではなかったので難なくこの時間に目覚めることが出来た。起きて居間に行くと既に両親は既に起きていた。

 ライラマのローブ職人は朝早く活動する。大抵の職人は毎朝6時には作業を開始するのだ。三人で朝食をとった後、アシェリィは玄関に立てかけてあったボードを拾い上げて笑いながら両親に出発の挨拶をした。それに両親が笑顔で返すと彼女は風にのるようにボードで駆け出していった。

 今日が初出勤ということでアシェリィは緊張していたが、なるようにしかならないと腹をくくってシリルへの街道を急いだ。通い始めた頃は休憩をはさみつつ、二時間半かかるところだったが、最近は随分と時間が短縮されて二時間ちょっとでシリルへと到着できるまでになっていた。

 7時をまわったあたりのまだ人が少ない街中を颯爽とボードで滑走していった。そのスピードに思わず、すれ違う人達は目を取られていた。

 郵便局に着くと玄関前の階段に1人の青年が座っていた。それを見てアシェリィは郵便局の前でマナボードのお得意のトリック、ピックアップを決めて急停止すると同時にボードを跳ね上げて空中でキャッチし、鮮やかに着地した。

「おおっ! お見事!! 君が新人のアーシェリィーさんだね? 僕は配達員の1人、ウェイスト・ベルジアって言います。一応、僕が配達の現場指揮を任されていてね。よろしくお願いしますね」

 ウェイストがお辞儀をしたのでアシェリィもそれに返した。顔を上げて青年のほうを見ると指先に金ピカに光る小さなトカゲのような生き物が止まっていた。

 しっぽを振りながらクルクルと指の周りを回っている。ウェイストは長い群青色の髪をかきあげながらこちらを見返してきた。とんがった高い鼻が特徴的な青年だ。かなり大人びた雰囲気を醸し出している。20歳前後といったところだろうか。

「あぁ、僕が業務を伝えるように連絡を受けています。君はちょっと見た感じ、直接配達するタイプの能力だね。僕はこのヤモリ達を使役して郵便物を届けているんだ。とは言っても基本的にいつも本部の前に待機してて、主に配達員同士の連絡や連携の役割を担当しているかな。一応配達も手伝ってるけど、他の人に比べたらあまり配達量が多いとは言えないね。ちなみに今は出払ってるけど僕以外に3人の配達員がいるよ」

 ウェイストが身振り手振りでそう伝えると郵便局前の路地の向こうからパタパタと何かが跳ねるような音が聞こえてきた。かなりの速度で接近してくる気配を感じる。

 2人が振り向くと獣にまたがった少女が路地の曲がり角をドリフトするようにショートカットしてこちらに真っ直ぐ向かってきた。獣は長い耳を振って後ろ足で路地を蹴って駆け抜けてくる。どうやらウサギの一種のようだ。

「よーっす。これで北西部の配達が半分ってとこかな。お次は?」

 そう言いながら少女は大柄な男性の身長ほどの大きさはある水色のぶち模様のついたウサギから飛び降た。そしてウサギを丁寧にグルーミングし始めた。

 その間にウェイストは地区ごとに仕分けされた郵便物の入った大きな箱から手紙を取り出して、一通一通、地図にかざしていた。真っ青な色をしたニンジンをウサギの口につっこむと少女はこちらに気づいたようだった。

「お、あなたがウワサの新入り? あたし、カレンヌ・メンフェスっていうんだ。よろしく。綺麗な緑色の髪の色してんね~。女の子っぽくていいなぁ。あたしなんてこんなんだよ」

 そういうとカレンヌと名乗った少女はグローブをした手をオーバーオールで拭いてから手を差し出した。アシェリィはその手を握り返して彼女のほうを見た。

 クセッ毛がかったダークブラウンの髪をしている。遠くからでは自分と同じくらいだと思っていたが、よく見ればかなり大人びた顔つきをしていて、ウェイストとそう歳は離れていないように思えた。

「あたしの配達方法は見ての通り、このランページ・ラビットのガッツ君に乗っての郵便配達。気性が荒くてここまで飼いならすのは結構大変なんだけど、乗りこなせさえすれば早いし、突進力はあるし最高の用心棒だよ。ほら、ここここ。額の部分が平たくて石みたいに固いんだ。岩だって砕けちゃうぜ。そういや、あんたの特技は?」

 カレンヌのサバサバしていて男勝りな感じはどことなくハンナと似ていて親近感を覚えた。アシェリィは地面に立てて手で支えていたボードをパタンと地面に置いた。

 辺りを見回すと道の脇に立つ看板の柱を見つけた。まだ通行人は多くなかったのでトリックを繰り出しても問題なさそうだ。それを確認すると彼女は柱めがけて勢いを付けて加速した。そして速度を維持したまま柱へジャンプした。

 ウェイストとカレンヌは柱に衝突すると思ったが、その予想を裏切って彼女は器用にボードの裏で柱を蹴って跳ね返り、蹴り上げるように宙返りを繰り出した。

 そのまま空中でボードも華麗に回転させ、再び空中でボードに足を着けて着地し、スピードを維持したまま郵便局前の方向へ戻ってきた。サマーソルト・フリップというトリックだった。

「おおおおー!!」
「ヒュ~~~!! やる~~!!」

 郵便局の前の2人は思わず感嘆の声を上げた。2人は満面の笑みを浮かべてアシェリィを迎えた。戻ってきたアシェリィはその視線に思わず照れくさそうに後頭部を軽く掻いた。カレンヌはそんな彼女の肩をつっついた。

「いや~、正直、あんたみたいな”ちんまい”のが来た時は大丈夫なのかなと思ったけど疑って悪かったよ。誰が見てもいっぱしの使い手だってわかるものな。さて、ウェイスト先輩。どう?」

「登録、照合は完了。北西部の配達完了率46%。残りの配達先の分はこれだね」

 そういうとウェイストはオレンジ色の大きな肩掛けカバンをカレンヌに手渡した。彼女はそれを受け取ると早速肩から下げて、ガッツ君にまたがり、2人に向けて手を振った。

「先輩、じゃあその新入りさんをよろしく。私は北西部の続きをやるわ」

「ああ、わかった。まだ東部と北部は手付かずだ。残り2人も戻ってくるとは思うが、今日も10時近くまでかかるだろう。スタミナ切れには気をつけて」

 カレンヌは人差し指と中指を立てて腕を突き出して挨拶のサインを送って再び暴れウサギにしがみついてまだ人気の少ない街中を駆け抜けていった。その様子を見届けるとウェイストが口を開いた。

「さて、いよいよ新人さんにも初仕事についてもらおうかな。何、最初はごくごく簡単な事から始めよう。まずは、そうだね。腕章は持って来ているね? それを腕につけよう。そして、これを」

 そういうと彼は階段から立ち上がり、腕章を付け終わったアシェリィに裏に紋様の刻まれた紙を手渡した。どうやらただの紙では無いらしい。最近どこかでこれに似たような紙を見たような気がするが……。

 彼女はそれを観察したが、特に何の事はない白紙だ。だが、徐々に裏の紋様が光りだした。ウェイストがそれに関して解説し始めた。

「それはね、術網じゅつもうって技術で、早い話が魔法陣のようなものさ。その紙は国の郵便課が作った地図で、普通の地図よりかなり高性能なんだよ。郵便課のは腕章に反応して発動するようになっているんだ。そりゃ地図機能の製作、維持にかかる人件費もタダじゃないからね。関係者しか使えないようになってるってわけ」

 アシェリィが紙の表を見るとシリルの町の地図がくっきり浮き上がっていた。ただの地図ではなく、驚くべきことに拡大、縮小機能まで付いている。

 狭い路地裏にひしめく住所もひと目でわかりやすく確認できるようになっていた。よくよく地図を見ると赤い点や黄色い点、青い点が移動している。

「ああ、それは配達員達の現在位置さ。それを見ることによってお互いの配達エリアが被らないようになってるんだ。さっき見てただろうけど、エリア別の仕分けは僕の仕事。ブロック状に街のエリアを分割してるから地図で他の配達員の担当地域がわかるってわけ。ちなみに、街のあちこちに点在してる金色の点は僕のヤモリ達。移動は遅いけど取りこぼしや再配達を届けるには十分なんだよね」

 ウェイストはしばらく考えを巡らせていた。実のところ、上からアシェリィに任せる仕事の内容についての通達は来ていなかったのだ。どんな仕事から手伝わせるべきだろうかと彼は慎重に考えていた。

 さきほどのボードさばきを見るに、機動力的には問題ないだろうと思えた。しかし、あの速度をどの程度維持できるかはまだ未知数だった。

 アルマ村から出てきていることを考えれば持久力自体はあるかもしれないが、既に行きの分の力を消耗していることになる。

「んー、そうだなー。とりあえず今日は急がなくてもいい事をやろう。実はね、ここだけの話だけれど、その腕章をつけていると街中のポストの回収口を開けることができるんだ。理論的にはどんな怪力の持ち主でもそこは開かないようになってる。というわけで初仕事は昨晩から今朝にかけて投函された郵便物の回収という事にしよう。街中にある26箇所のポストを回って配達物を回収してきて欲しい」

 それを聞いてアシェリィは手元の地図に目を落とした。わかりやすいポストマークが街中に点在している。街の中心から外れまでかなり広い範囲にポストが置かれているようだった。

 しかし、果たして26箇所もの数のポストの郵便物を持って帰れるのかと不安になった。さすがに郵便局との間をしょっちゅう行ったり来たりするのでは体力が持ちそうにない。

 そんなアシェリィの表情を見てかどうかわからないが、ウェイストが思い出したように何かを引っ張りだした。

「おっと、忘れるところだった。さっきカレンヌが持っていったのと同じオレンジ色のバッグを渡すよ。これも地味にマジックアイテムでね。”グラトニーズ・バッグ”っていうんだけど、入れたものの重さや大きさを一時的に縮める能力があるんだ。ただし、かなり無茶な事やってるからか、あんまり圧縮率は高くない。カレンヌが往復していたのはそういうことさ」

 そういいながらウェイストはバッグをポンポンと叩いてからアシェリィに手渡した。肩からかけると至って普通のバッグにしか思えない。外見が目立つだけでそれ以外は特に変わった点はなかった。

「でもまぁ街中とここの2~3回の往復でポストの中身を全て回収できるとは思うよ。まずはこれで実力だめしといこうか。別にこの結果で君の待遇がどうこうなるわけじゃないから気楽にやってごらん。さて、特に難しい事はないと思うんだけど、質問は何かあるかな?」

 アシェリィは特に質問がなかったので首を横に振ったあと、続けて了解の意を示して首を縦に振った。そして目をつむり、大きく深呼吸してからマナボードに乗った。オレンジ色の腕章とバッグが朝日に映える。

「お~、初日から様になってるね。いい感じだ。じゃあいってらっしゃい!!」

 そう声をかけられた彼女は地図を片手にマナボードを発進させた。地図上の緑色の点が動き出した。どうやらこれが自分のマーカーらしい。早速、道端にオレンジ色のポストを発見したのでその手前でボードを止めた。

 話によればポストの回収口は投入口から見て側面についているらしい。鍵穴も何もなく、どこから取り出すのかよくわからなかった。

 だがすぐに取っ手のような物を見つけて、アシェリィはそこを引き出してみた。するとパカッっと口を開くようにその部分が開いた。どうやらこれが回収口のようだった。

取り出した手紙をバッグに入れていくとバッグからムシャムシャ、クチャクチャ、ムグムグという不気味な咀嚼音のような音がした。本当にこれで大丈夫なのかとアシェリィは疑問に思ったが、かさばる量はあったはずの手紙のボリュームが明らかに減っているのがわかった。

 回収し終えて地図を見えると回収済みのポストマークがグレーカラーに変化していた。ご丁寧に地図の右上に1/26と表示されている。何とまぁ親切な作りの地図だろうとアシェリィは感動した。

 地図を見ると郵便局はほぼ街の中央にあるのがわかった。効率的に回収するならば北東、南東、南西、北西とブロックに分けて回収するのが得策だと地図のおかげでひと目で分かった。

 配達するときも同様なのだろう。ウェイストの話からすれば2~3回の往復で回収しきれるだろうとの事だったので、街の東半分を先に回収しようとまずは北端目掛けて北上することにアシェリィは決めた。

 回収作業は簡単で難なく郵便物回収は進んだ。途中、小包なども回収したが、同じようにバッグの中で小包は軽くなっていた。

 中を覗いても真っ暗で、郵便物や小包がどうなっているかサッパリわからなかったが、これに腕を突っ込んでみるのは相当勇気の居ることなので、あまり気にしないことにして回収を続けた。

 途中、自分の位置表示のすぐ近くに他の配達員の反応があった。一体、どこに居るのだろうと周辺を見渡してもそれらしい人は居ない。辺りを見回していると、女性の声が聞こえた。

 こちらにむけて声をかけているようだった。アシェリィはさらにキョロキョロと見渡して、最後に空を見上げた。眩しい日光に手で光を遮ったが、目を凝らすと風船のようなものが宙に浮いてふわふわと移動していた。

「あっ……あれかぁ……」
「ぉ~ぃ!」

 その風船から声がする。きっとあれも配達員の1人なのだろう。アシェリィは眩しさに片目をつぶりながらも風船の人に手を振り返した。向こうも手を振り返しているようだった。挨拶もほどほどに2人は仕事へと戻った。
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