挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

79/184

可愛らしい配達員?

 ともかく、こういう前例の話は昔からシリルの街に暮らしているご老人方が詳しいだろうと踏んでアシェリィは公園を見回した。

 木陰の低めな石垣の上に座っているお婆さん2人と目があったので意を決して語りかけてみた。2人の老婆は顔を見合わせたが軽く自己紹介をするとすぐに、にこやかな表情になってこちらを見返してきた。

 「アルマ村から」と言っただけで明らかに老婆達の人当たりが良くなった。彼女の聴きこみはその一言だけで円滑に進んだ。恐らくシリル住民にもアルマ村の学校焼失の件は知れ渡っているのだろう。

 そこはかとなく同情の目で見られている気がしたが、気にかけずに話を続けた。早速、本題である”前例”について尋ねてみることにした。

「んいや~、嬢ちゃん。神童つってもな、全員が全員オルバ様に弟子入りしたわけじゃないんよ。特に、魔術と関係ない才能の持ち主はオルバ様を探す必要がないという場合もあるでの。最近じゃサプレさんちのミルミテールちゃんとかじゃな。あの子は小さい頃から頭のきれる娘じゃと有名での。あんたさんと歳は近いんじゃないかね。彼女は……」

 白髪の方の老婆は目をつむりながら感心した様子で首を振りながら神童の1人について語り始めそうになった。それを見た隣のパーマの老婆がそれを遮って話の方向を変えた。

「これこれヌメさん。お嬢ちゃんは”オルバ様に会った前例”を聞いておるじゃないか。そうさな……今のオルバ様は10年程前に先代のオルバ様から”創雲”の称号を引き継いだ者がやってるわ。先代のオルバ様とは違ってあまり後進の育成には熱心でないみたいで。今の代になって魔術師としての弟子をとったのは1人だけなんじゃ。彼もさっきヌメさんが言ったサプレ家の子なんだけれど」

 それを聞いたヌメさんと呼ばれた老婆はまたもや瞳を閉じてあれこれと物思いにふけっているようだった。

 「ん~」と間の抜けた声を出しながら記憶をたどっているようだ。もう1人の老婆が前例の核心について話そうとした時、ヌメさんは目を開いた。

「あ~、4年前に珍魚コパガヴァーナを釣り上げた。ファイセルじゃな。確か、あやつも先代がコパガヴァーナの塩焼きに目がなかったという情報を頼りにしたんではという噂じゃったな。もっとも、まだその頃は代変わりして間もなかったでの。果たしてその方法でオルバ様を呼び出せるかは誰にもわからんかった。だがあやつはやり遂げたんじゃ」

「そうだねぇ。何だかんだで今のオルバ様の弟子入りに成功したのは彼しかいないね。今まで数えきれないほどの子供たちがポカプエル湖に釣りに通ったもんだけど、あれ以降に釣れたという話は全く聞かないね。今どき、オルバ様に会うためにコパガヴァーナを釣るなんて言ったら馬鹿にされるだけだよ。もうポカプエル湖に通う人なんてほとんどいないし」

 結局、あのあと色んな人に前例や手がかりについて聞きこみをしてみたが、どれも今ひとつ決め手にかける情報だった。大抵の条件は人助けで、町長の家の前で出会った悪ガキ達の知っていたのとあまり差のない内容ばかりだったからだ。

 地道な人助けを軽んじるのは如何なものかと思ったが、少しだけ悪ガキ達の気分もわかった気がした。

 そもそも、本命情報であるコパガヴァーナ釣りさえ難易度は高めなものの、それほど特別な課題には思えなかった。

 他にはグナマ海峡を完泳、王都のアロマ効き大会で優勝、絶滅危惧種ムクロアゲハの繁殖、野良ゾンビ1万匹退治、街を作って都市に発展させる、亜空間に行って帰ってくる、リッチとして転生など、どう考えても無理難題であるものも多かった。

 だが、コパガヴァーナ釣りが前例だったように、逆に言えばチャンスは身近なところに潜んでいるとも考えられる。

 だが、やはり具体的な見当は全くつかなかった。前例にすがるとするならばコパガヴァーナを狙うのが筋のように思える。

 だが先ほどの話によれば、もはやそれはやりつくされた方法であり、今となってはオルバ様探しと結びつけるのが難しい程に陳腐なアプローチとなっているらしい。

 アシェリィはぼんやりと考えながら来た道をメインストリートの方へとぼとぼと歩いて帰った。目の色を変えてオルバ探しをしている他の子供たちはピンと来ないかもしれないが、マナボードをもらった体験からするにオルバは意外と細かく1人1人の活動を見ているらしい。

 故に、アプローチの1つとして人助けをするのは捨てたものではない。人助けは積極的に買って出るべきだななどと考えた。

 彼女はとぼとぼとボロい板を抱えながら街中をあるいた。マナボードに乗ればあっという間に街中を移動できるのだが、これだけ乗りこなせる子供はそうそう居ないのでとても目立ってしまう。

 できるだけ使わないほうが色々と都合がいいとレンツ先生からアドバイスをもらっていた。

 その日はシリルへ1人で出てきた初めての1日だったので、早めにシリルからアルマ村へと帰った。午後3時頃には村に着き、無事に村人たちに迎えられた。帰りに長老の家に寄るように言われたので寄ってみると長老が待っていた。

 初日の感想と報告をするように言われたので、アシェリィは今日の出来事をかいつまんで長老に話した。すると長老は満足気に封筒を引き出しから取り出してひらひらと振った。

「人助けについてなんじゃが、より多くの人を助ければきっとオルバ様が認めてくださる可能性も高くなると思う……というのは建前なんじゃが、お前さんに頼み事がある。今日の様子を見るに、お前さんは毎日シリルへ通っても問題無さそうじゃ。そこで、長い事、欠員じゃったアルマ村~シリル間の郵便配達員をやってもらいたいと思う。急な話でなんじゃがどうかね? お給料もそれなりに出るのでの!」

 長老がひらひらと振っている封筒はどうやら郵便局への推薦状のようだった。もし、この頼みを受ければ不定期だった村への手紙や郵便物のやりとりがよりこまめに行えるようになる。

 アルマ村にはシリルに親類や友人が居たりする者も多い。その割には配達の頻度が低かったので、手伝えば大きな助けになることがすぐにアシェリィにもわかった。

 それに、これは人助けの中でもかなり貢献度の高い部類に入る。別にそのあたりの損得勘定は意識しなかったが、これはあらゆる面でいい影響を及ぼしそうだった。

 特にこれから色々と活動していくにあたって自由に使える軍資金は必要である。そのため彼女はこの依頼を二つ返事で受けた。

 次の日に早速、紹介状を持って彼女はシリルの郵便局を訪れた。封筒をカバンから取り出して受付に見せるととすぐに局長室へ通された。局長は相変わらず朝からせわしなく書類を書いたり、ハンコを押したりして忙しそうだ。

 アシェリィが部屋に入ってからもしばらく作業を続けていたが、視界に彼女が入ったからか、すぐに顔を上げてこちらを見つめてきた。

「あ、ああ!! すいません、おまたせしてしまいましたかね? 局長室においでになったという事は何か大事な御用がおありですね? まま、腰掛けて下さい」

 局長は慌ただしくアシェリィにソファーに座るように促した。とりあえず一息つくといった感じで局長もテーブルを挟んだ向かいのソファーに深く腰掛けて目をつむり、大きく深呼吸した。

 そして姿勢を正して聞く態度に移った。背筋をピンと伸ばして両指を組みながら立て肘を低いテーブルに付いた。アシェリィはそれを見てカバンから紹介状をとり出した。

「ほぉ……これは……」

 局長は封をそばにあったペーパーカッターで切って開け、中身の書類を読み始めた。局長がすらすらと視線を流れるように文字を目で追っていくと彼の表情が段々と明るくなってきた。疲れが吹き飛んだといった様子でアシェリィに声をかけてきた。

「長老さんのお手紙、受け取りました。貴女、アーシェリィー・クレメンツさんをアルマ~シリル村の配達員として推薦すると言った内容でした。どうしてもここの辺りは配達員が不足してしまいましてね。お願いできるものなら是非、配達員として働いてくださるとこちらも助かります」

 想像通りの内容の手紙だったのでアシェリィは決めていたとおり首を縦に振って頷き、返事を返した。それを見た局長はまたソファーに深くもたれかかって安堵のため息をついた。問題だった懸念事項が解決して心からホッとしたといった様子だった。

「これでようやく気兼ねなく長老さんと接することができますよ。あぁ、そうだ。あと、配達員に推薦されるということは今はお暇なのですか? もしお時間があるならばシリルの郵便配達のヘルプ……出来れば正規で入っていただけると非常に助かるのですが……もちろんお給料は上乗せしますし、まずはお試し程度で構いません。いかがでしょう?」

 予想外の範囲まで話が大きくなってきたため、アシェリィは少し身構えた。しかし、この頼みは村への郵便のやりとり以上に大きな人助けである。人助けの実績という点ではこれ以上のものは中々ない。

 しかも、他の若者たちに配達員の立候補者が居ないということはアシェリィの能力が頭ひとつ抜けていることをアピールするにはうってつけだった。

 彼女は少し考え込んでいたが、結局、シリルでの配達員の依頼も承諾することにした。

 その旨を局長に伝えると局長は感謝の言葉とともに深く頭を下げた。あまりに長い時間頭を下げているのでアシェリィはたじたじになり、頭をあげるように局長に促した。

 きっと年端もいかない少女に業務を任せるという事に負い目も感じているのだろう。局長から強い感謝の念が伝わってくる。実際にはまだ何もしていないが、これだけでもうだいぶ人助けをした気分になった。

 彼女がそんな事をぼんやり考えていると局長がなにやら棚を探りつつ話し始めた。

「毎朝6時から配達は開始しているんですが、アーシェリィー様は遠方からの通勤ですので、7~8時に局に到着して頂いてかまいません。お恥ずかしながら実際のところ、今の人員で配達が終わり切るのは11時近くになってしまうのです。ですからその頃に来てもまだ配達員達はせわしなく局と配達先を行き来しているはずです。……あった、これだ」

 そう言いながら局長は棚からなにかを取り出して手に持ち、振り向いて再びソファーに座った。手に持った布のような物を丈の低いテーブルの上に置いた。

 アシェリィはテーブルに目を落とした。どうやら腕章のようだ。鮮やかなオレンジ色の帯の上下に白いラインが入り、”C-P.O.S”と白文字で書かれていた。

「これは……? 腕につけるワッペンみたいなものですか?」

 局長はにこやかに笑いながら腕章を手にとって広げた。

「”Cilil-Post.Office.Staff”……つまり、シリルの郵便局員の証です。社員証みたいなものですね。アーシェリィー様はシリルの出身でないのでよくわからないかもしれませんが、シリルでは結構この職業は高く評価されていまして。腕章を付けて街に出ると街の方々の反応が変わるほどです。もしかするとオルバ様探しにも一役買うかもしれません」

 アシェリィは一言も局長に対してオルバ様探しの話をしていなかったが、局長はすっかりお見通しと言わんばかりだった。腕章を差し出してきたので彼女は試しに腕に通してみた。するとちょうど上腕の辺りで腕章がシュッっと絞まり、腕周りにフィットしてピッタリのサイズになった。

「いいですね。良く似合っております。どうです? 実際に付けてみるとだいぶ目立つでしょう? 人混みで見かけてもすぐにわかるはずです。この視認性は他の配達員との連絡や連携にも役立つんです」

 言われてみれば郵便局と同じカラーリングであるオレンジ色の腕章は非常に目立つ作りとなっていた。

 同時にこれをつけるということは一種のステータスであると聞いて、職員としての責務を負うことになるのだなと少し心配になってきた。その少しこわばった表情を見てか、局長はフォローを入れた。

「そうですね、長老さんの推薦状があるとはいえ、まだ実際に貴女の能力を拝見しておりません。あくまでヘルプ……いや、試用期間としますので、失敗やミスを気にする必要もありませんし、責任を感じる必要もありません。私が任せたのですから、何かあれば全て私の責任です。新たな挑戦に取り組む若者がビクビクするような姿は見たくありませんからね。いいですね、思いっきりやってみてください!」

 しばらく黙りこくっていたアシェリィに局長はそう声をかけた。若者とは言ったが局長もどちらかといえば若者である。そのため、まるでその発言は彼自身の気持ちを代弁しているような気もした。

 こんな若いうちから局長を任される彼の気苦労がひしひしと伝わってくる。とにかくなんでもやってみるべきという事は間違いなかったので、アシェリィは穏やかな表情で頷いた。

「では、早速で悪いのですが明日、鼠閣下の月の9日から貴女を配達員として任命します。さきほど言ったように、7~8時までに郵便局に到着してくれればいいので、その時に追って業務内容を説明します。初日ですからごくごく簡単なところから始めましょう。では、よろしくお願いしたします」

 局長はまた深くお辞儀をしたのでそれにアシェリィもお辞儀で返した。郵便局でだいぶ長いこと話し込んだ気がしていたが、まだ昼までにはだいぶ時間がある。アシェリィは昼食を家でとろうと昼前にシリルを出た。

 昼過ぎに村へと着き、今日の出来事を長老に伝えた。長老は街の配達員まで任されるとは全く思っていなかったらしい。推薦状にもあくまでシリルからアルマ村間と書いただけだったと伝えられた。よっぽどシリルの人材は不足しているのだろうと長老と2人で話した。

「ほぉっほ!! その歳でその腕章。なんとも不釣り合いじゃのう。なんとまぁ可愛らしい配達員さんじゃわい!!」

長老はそうやってアシェリィを茶化したが、人助けという点では順調なスタートを切った事を彼は喜ばしく思っていた。

 その日の夜、クレメンツ家の団欒の場でアシェリィは今日あった事を両親に話した。村長からの推薦状で郵便局で働くことになった事やシリルの街の賑やかさ、街の景観の美しさなど目を輝かせて彼女は語った。

 一方の両親は突然の報告の連続で内心戸惑っていたが、レンツから「今後、お宅のお嬢さんの活動に関してちょっとやそっとの事では驚くべきではありません。最終的には家を出て独り立ちし、オルバ様の修行を受けるのがお嬢さんの目的なのですから」と釘をさされていたので深くは追求しなかった。

 両親の気持ちを知ってか知らずか、アシェリィはこれから待ち受ける出来事に胸を躍らせていた。まるでシリルが冒険譚の旅立ちの街のように思える。

 長いこと病床に伏せていて思うように動けなかった反動か、彼女の冒険心は一気に燃え上がった。両親もそれは痛いほど知るところなので、ここまで彼女が活発的に動き出すのもやむない事だなとある程度の理解を示した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ