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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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戦い、傷つけ合い深まる絆

 ランカースはあまりの体力の消耗に思わず片膝を突いた。それを見たレイシーはワンドを肩にポンポンと当てながらツインテールの髪をかきあげた。

「あんな挑発にのると思って? リブートもワザとやったのよ。流石に呪文を反射されるとは思わなかったケド。やっぱりバリバリの攻撃呪文の攻めの姿勢から地味な妨害系の呪文に繋げてくるのは予測できなかったようね。アナタの苦手な魔法や、アナタの”視界”はおおむね把握したわ。あとはどうやって幕を引くかだけれど……」

 ランカースは刀を地面に突き立てながらなんとか態勢を立て直した。こう何度も上級呪文をモロにくらいつつ、ろくな回復呪文も無しに喰らいついてくるのは対戦相手のレイシーから見ても賞賛に値した。

 クラリーの手前もあり、今となっては彼を無闇に傷つける気が起きなかった。かといって、ただでは彼を屈服させることは出来ないようにも思えた。

 余裕の姿勢を長いこととっているとランカースが刀を鞘に収めて腰を深く落とした。

「もはやここまで。最期の力、ここに集結せり!!」

 そういうとランカースは光弾を避けていた時より更に速く駆け出して全力疾走してきた。最後の力を振り絞った後先を顧みない突貫は恐ろしく速く、レイシーは不意を突かれた。

 どうやらすれ違いざまに剣戟を浴びせようとしているらしい。あっというまにレイシーは彼の射程圏内に入った。そう認識した瞬間、鞘から剣が抜き放たれ、キラリと刃が光った。

「ウィン・ダ・ボイド・エアリアル・エクステンドッ!!」

 レイシーは素早くそう詠唱すると垂直方向に跳ね上がるようにふわっと体が宙に浮いた。ランカースは一瞬動きが止まったが、すぐに目標を捕らえて上空めがけて斬りつけた。

 刃はレイシーの服の上に着た肩掛けの胸の部分を切り裂いたが。服には届かなかった。とは言え本当に直撃まではあと少しというところで間一髪だった。

「もらったッ!!」

 レイシーはランカースの頭上の真上に位置どった。彼女は斬撃に全く怖気づくこと無く、それとほぼ同時にワンドを真下に振りぬいて呪文を詠唱した。

「コネクト・ウィン・ダ・ボイド!! 宿主の選定!! コール・エナジードレイン・パラジッター!!」

 するとワンドから無数のツタがワラワラと伸び出した。同時にランカースの足元に移動させたウィン・ダ・ボイドの陣からもツタが吹き出すように生えてきた。

 そして上下のツタは瞬時に繋がって、彼を包み込んだ。刀でツタを斬るのは容易なはずだが、彼の反応は遅れ、刀を持つ手は拘束された。

 レイシーはそれを目視してランカースと刺し違うようにして着地した。彼女がすぐに立ち上がって振り返ると肩掛けがハラリと地面に落ちた。それを見た彼女は思わず舌打ちをしながらランカースへと目をやった。

 陣から出るツタと空中から放ったツタがまるで窮屈な鳥かごのように彼を包んでいた。腕や足にもツタが巻き付いており、身動きが出来ずに居た。

「ヘタに暴れないのが身のためね。今度のはさっきのと違って、積極的に体力を吸いとるわ。ワタシが解呪しない限りはカラカラになって利用価値が無くなるまで離れないから」

 ランカースは万策尽きてカゴの中で力なくうなだれ、腕と脚もだらりと力なく垂れた。抵抗することもなく、黙ったまま首を縦に振って降参の意思を示した。

 限界まで追い詰められているのは見るからに明らかで、もはやツタに抱えられているような状態だ。レイシーは見かねてバウンズ家のベンチに声をかけた。

「お、お嬢様。み、見事でした……。弱点を見事に見抜かれてしまいましたね……」
「フン。自分であれだけペラペラ喋ったのによく言うわ。とんだ”慢心”ね。アナタが黙ってれば少しは違ったでしょうに。ま、結局アタシが勝つんだけど」

 バウンズ家の控えの救護班がこちらにやってきたのを確認するとレイシーはピッピッっとツタを切るような動作を見せて解呪した。ツタから開放されたランカースは救護班に抱きかかえられてベンチへ運ばれていった。それを見たバウネがハッっとした様子で大きな声を上げた。

「え、あ!! ランカースお坊ちゃん対、ウルラディールのお嬢様の大将戦はお嬢様の勝利だ……でした。この親善試合は2勝1負でウルラディール家の勝利だ……です」

 この試合結果にウルラディールのベンチは湧いた。同時にやれやれと胸をなでおろすような安堵感にも包まれた。得意げな笑みを浮かべてワンドをクルクルと回してホルダーに収めながらレイシーが戻ってくる。それを見てパルフィーがサユキとアレンダの方を向いて首をかしげた。

「なぁ、結局、お坊ちゃんの弱点ってどこだったんだ? 足元だけじゃなくて頭上もお留守だってとこ?」
「そうね。そんなとこかしら。アレンダはどう思って?」

 そう聞き返されてアレンダは手元のデータリストに追記しつつ分析をまとめ始めた。戦いを思い返すとランカースは前方だけでなく、背後も見えているような挙動を何度かしていた。

 どんな風に見えているのかはサッパリわからなかったが、それでも彼が360度の視界を持っているのは間違いない。

 彼の盲目が先天的なものか、それとも後天的なものかはデータリストに載っていなかったが、さしずめ通常の視界と引き換えに得た彩られた視界といったところだろうか。

 しかし、杖を持たないと歩行できないという点からまず足元は手薄である事は誰にでも予測できた。レイシーもそれはわかっていたはずだ。

 もっとも、当然そう簡単に弱点を突かれるような戦い方をするわけがなかったので最初から足元から奇襲をかけるわけにもいかなかったのだが。見える弱点が手薄なわけがなく、もし足元を狙おうものならば激しい反撃を受けるのは必至だろう。

 他に思い当たる節といえばまばゆい光を放つ雲の魔法への反応だろうか。雲自体よりは光に弱いようだなとアレンダは考察した。きっとあまりにもマナの波長が強いと色の判別が出来なくなるのだろう。

 リブートが通用しなかった事から、慣れの問題もあるらしく何度も通用する手ではないのではと彼女はペンを走らせた。

 勝負を決する鍵となったのはその後に放った雲の妨害魔法だった。あの呪文は決して速くはないし、その気になれば頭上で切り裂くことも可能だったはずである。

 だが、彼は頭上から襲う雲には迎撃なり、回避なりの対処が出来なかった。このことから、彼の視界は横に長く、縦に短いのではないだろうかとアレンダは結論づけた。

「おそらく、彼は360度の視界を持っています。ですが、足元と頭上が死角なのです。恐らく彼の視界は横に長く、縦に短い……のではないかと。ファントム・レイ・チェイサーから逃げ切った点の説明がやや怪しいのですが、あれはきっとギリギリ視界に入っていたのでしょう」
「でもさァ、見るからに魔法の先読みが出来てたのに、最後の呪文は何で先読みできなかったんだ?」

 パルフィーが抱いた疑問に対してアレンダは上目遣いで考えつつ、頬をポンポンとペンでつついた。少しして考えがまとまると彼女はデータリストのファイルをパタンと閉じて、ペン尻をパルフィーに向けて突き出しながら語り始めた。

「えーっとですね。レイシーお嬢様がウィン・ダ・ボイドの拡張詠唱でジャンプしてくるというのはランカース様にも予測できたはずなのです。彼は跳ぶ軌道を読んでそれを反映させた斬りを前方上方にむけて放ちました。死角とはいえど、先読みしているのでお嬢様に刃が直撃する……はずでした」
「挟み撃ち……かしら」

 サユキが顎に手を当てつつアレンダの方を見た。アレンダはその通りと言わんばかりにウインクしつつ頷いてペン尻をサユキに向けた。

 ノリだったとはいえ思わず目上のサユキに対して無礼な態度をとってしまった気がして、アレンダは軽くお辞儀して両手を握り膝の上のデータベースの上に置いて謙虚な姿勢をとった。

「そ、そうです……。ゴ、ゴホン。斬撃を受ける直前、お嬢様はウィン・ダ・ボイドの展開陣をランカース様の足元に向けて移動させたのです。彼は反射的にこの陣を追っていたのでしょうが、足元に入ってしまえば陣の行方はわかりません。気づいた時にはお嬢様の位置も、陣の位置も彼の先読みのした場所から移動してしまい、どちらも見失ってしまったのです。後は死角を上下から挟んで仕掛けられて決着が付きました」

 そうやりとりしているうちにレイシーがベンチへ戻ってきた。レイシーはニヤリと笑って歯を見せた。ウルラディール家の面々に向けて、語るまでもないと誇らしげに握った拳を突き出した。

 その表情から疲れの色は隠せなかったが、親善試合に勝利したという達成感から一皮向けた感があった。パルフィー、サユキ、アレンダとそれぞれ拳を打ち付け合いながら彼女の、そして家の勝利を喜び合った。

 試合が終わると中庭はもう滅茶苦茶で飛び散った屋敷の破片や、地面の凹凸などとても貴族の屋敷とは思えない光景になっていた。ランカースは障壁を張ってあるから大丈夫だとは言っては居たが、今となっては全く説得力がなかった。

 窓が割れていないだけいくらかマシという程である。ベンチの障壁も正直、いつ崩壊してもおかしくないような状態だった。特にレイシーの魔法の威力の見積もりは完全に甘かったと言わざるをえないだろう。

 応対が不可能になったランカースに変わって屋敷から当主のジーベスが現れた。肩にかけたタオルを揺らしながらちょこちょこと彼の脇にクラリアが付いてきていた。

 ジーベスは中庭を見回して大きくため息をついた。ここまで屋敷がボロボロになれば誰だってそんな反応をするに決まっている。サユキとアレンダは申し訳なさげに縮こまった。ジーベスはひらひらと手を振りながらレイシー達に声をかけた。

「見事。実に見事であった。中庭のこの有り様はこちらの不手際だ。そちらが気にすることはない。親善試合の体を保ちながら加減してもらったのは助かった。むしろ礼を言いたいくらいだ。幸い、息子もバンディカも酷く重症というわけではない。……まぁバンディかは当分動けないだろうがな。晩餐と今晩のために2つ寝室を用意してある。長旅と親善試合でさぞ疲れていることだろう。ゆっくりと休むといい」

 そういうとジーベスは足元の瓦礫を避けながら足早に屋敷の方へと去っていった。クラリアはそのままそこに残ってこっちを見つめている。

 親善試合とはいえ、実の兄を傷つけたのだ。彼女に嫌われたのではないかとレイシーはビクビクしていた。だが彼女にかけられたのは意外な言葉だった。クラリアは彼女に駆け寄って手をとった。

「うわ~!! すっご~い!! レイシーちゃんって滅茶苦茶強いのね!! 私、あんな魔法見たの初めて!!」
「そ、その……貴女の兄さんを傷つけてしまって……」

 申し訳なさげにレイシーが目線をそらすとクラリアはニッコリとわらってレイシーと繋いだ手をゆらゆらと揺すった。その手はじっとりと濡れていたが、人肌の温かみを感じた。

 彼女は心がほんのり暖かくなったのを感じた。もしかしてこれが優しい気持ちというものなのかもしれないなどとなんとなく思った。

「私、武士ってのはよくわからないけれど、武士とか武家って戦って、傷つけあっても絆は深まる。きっとそういうものでしょう? レイシーちゃんが気に病むことなんて何一つないのよ。さ、また東部のお話を聞かせてよ!!」
「ク、クラリア……クラリアってば……」

 クラリアは戸惑うレイシーの手を引っ張って屋敷へと向かっていった。思わず笑みを漏らすレイシーを見て、ウルラディール家の面々はなんとか丸く収まったなと安らかな気持ちになった。

 向かい側のバウンズ家のベンチにはもう誰も居なかった。3人も賑やかに談笑しながら荒れた中庭を後にした。
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