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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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コレ、あくまで試合だかんな

 パルフィーの技が決まると同時にまたもや槍が耳をつんざくような爆音を立てたが、一気にバウネが後方へ吹っ飛んでいったので、またもやパルフィーはは音の影響を受けなかった。

 試合会場は横長になっており、その中央の両端にベンチが配置されていた。両家の者達が首を動かしながら会場の横端へと飛んで行くバウネを目で追った。

「チッ!! なんて馬鹿ヂカラなのさッ!! このスピードで突っ込んだら骨がボキリと折れンだろォ!?」

 バウネは屋敷の壁に背中から衝突するのを避けようと、空中で交差している槍の構えを解いた。そして両腕を上げて軽く"くの字"に曲げて、槍を後ろ向きに突き出した。どうやらそのまま背中から壁に突っ込む気らしい。

 パルフィーは相手の前面ががら空きになったのを見過ごさず、すかさず全力でバウネめがけて走りだした。パルフィーも左右の腕を曲げて額に掌を重ねて突撃技の型をとった。

「突明衝!!(とつみょうしょう)」

 そう叫ぶとパルフィーは走る速度に突進のスピードを上乗せして、バウネの胸部めがけて猪のように向かっていった。加速速度は十分だったが、こちらの攻撃が当たる前にバウネの槍が壁に突っ込んだ。

 槍は壁に張られた障壁を突き破って屋敷の壁に穴を開けた。同時に激しい衝突音が中庭全体に響き渡った。その音はあまりにも大きく、それが耳に入った途端、パルフィーの突進の速度が鈍った。

 その瞬間をバウネは見逃さなかった。槍は彼女の身長よりもだいぶ高いところに刺さり、槍を握っている彼女はまるで磔にされたかのように槍にぶら下がった姿勢になっていた。

 このままでは突明衝の両手を重ねた掌底が胸部に直撃する。バウネはとっさの判断で体をよじり、後ろに反って勢いをつけた後、宙を蹴りあげて逆上がりするような軌道で突撃してくるパルフィーを見事にかわした。技を当て損なったパルフィーは壁めがけてそのまま突っ込んだ。

「あぶねッ!!」

 彼女はそうつぶやきつつ、跳ぶと同時に壁から槍を引きぬいて跳び、山なりな軌道を描いた。跳びつつも体を捻って体の向きをパルフィーの方へ向けながら着地した。

 常人ではあり得ないバネのようなしなやかな体の動きにウルラディール家の面々は驚嘆した。着地すると同時にバウネは槍をパルフィーの背中めがけて突き出して攻守逆転の形になった。

 バウネの槍が刺さった後には穴が空き、パルフィーの打ち込んだ掌底でも屋敷の壁は抉れていた。どうやら障壁があるとは言っても申し訳程度のものらしい。

 パルフィーの重い掌底が壁に決まると同時に屋敷の一角が振動し、屋敷の中が騒がしくなったのがわかった。すぐに背後からの殺気に気づいたパルフィーはすぐに壁に向かって体を密着させた。

 そのまま、すぐさま振り向いて壁を背中につけた。かなりの速さで槍の先端が迫って来るのを目視しつつ、ピョンピョンと軽く横っ飛びをしてそれをかわしていった。体格の割には軽いフットワークだ。

 槍の一撃目がパルフィーを捕らえ損ねて壁に直撃した時だった。今までの音色とは違う嫌な感触を感じて彼女は思わず耳に蓋をするように押さえて苦しげな表情を浮かべた。

 さきほどはある程度距離を置いて聞いていた音だが壁を槍で突く音というのは近距離で鳴らされると酷く不快な音だった。バウネはパルフィーが大きく反応したのを見て弱点を音程を特定しつつあった。

「そらそらそらそらッ!! アンタが嫌いなのはこの音だねぇ!? そろそろ仕掛けるで!!」

 バウネはパルフィーめがけて連撃を放つと同時に強弱をつけて屋敷の壁を突き、最もパルフィーが苦しそうにする加減を見極めていた。パルフィーは槍の直撃こそ避けているものの、不快感の高い音の連続にたまらないといった感じだった。

 まるで転げまわるかのように頭を抱えながら壁沿いに回転して槍の攻撃をかわしていった。しめたとばかりに攻撃しながらバウネが詠唱を始めた。

「音の波の女神の眷属に呼びかける。我、汝が欲するならば魔の糧を分かとう。その引き換えとして汝の主に背き、しばし摂理をねじ曲げる悪悪戯を働け。小遣いが欲しければ恐れるな。そして気づけ。それが汝の本来の欲する物であるということを!! ワイルド・エコーズ!!」

 詠唱が終わった直後の一撃が壁に刺さった瞬間、今までの倍以上の音量の衝突音が響いた。しかもその音があちこちに反響して何重にも音が重なった。

 まるで輪唱のようにある音が始まってしばらくするとまたその音が響き、しばらくするとまた響き始めるという繰り返しだ。

「出……た!! お……エン……す!!」

 アレンダがなにか言ったようだが音にかき消されてなにを言っているのかよく聞こえない。レイシーもサユキも耳をそばだててアレンダが何を言ってるのか聞き耳を立てた。アレンダもよく伝わっていないのがわかったようで、更に声を張り上げて二人に話しかけた。

「音を反響して増幅させる音のエンチャント呪文です!! 我々でさえこれだけ耳が痛いのです!! 聴覚の敏感なパルフィーが苦手な音域にこれを組み合わされて受けているとすれば、気絶してもおかしくありません!! この試合展開は予測していた最悪のケースです!!」

 ウルラディール家の一行は手に汗握ってパルフィーを見守った。バウネの連撃は隙を作る事なく続いていた。両手がふさがっているにも関わらず、パルフィーは鮮やかな回避で直撃を避けていた。

 だが音によるダメージは甚大で、深刻な状況に陥っているのが誰から見ても明らかだった。パルフィー自身はめまいがして体の平衡感覚は怪しくなり、激しい頭痛にも襲われていた。あまりの苦痛に思わず彼女は叫びだした。

「う、うぐぐ、ぎにゃ、ぐにゃゃあああああああああああああああああああああッッッ~~~!!!!」
「あー、これでも失神しねーかぁ。こりゃ苦しいなァ~。なぶっているようで悪いんだケドー。この勝負、もらったよ!! ダメージを後々長引かせたくなけりゃとっとと降参スンだね!!」 

 パルフィーは何とか現状を打破しようと歯を食いしばって耳から手を離し、素早く側転してバウネの連続攻撃から脱出した。そのまま轍圧闇を決めてバウネと距離を取った。

 連続攻撃からは逃れられてしまったが、バウネは慌てることなく壁を突き続けた。ワイルド・エコーズの効果もあって、距離を置いても衝突音が和らぐことはない。

 パルフィーは遠くなる意識の中、両手の掌を頭上に構えた。思わずバウネはそれを見て手を止めた。なぜだか自分が優位に居るにもかかわらず、じわりと冷や汗をかくのを感じたのだ。

「その試合、そこまでッ!!」

 その様子を見ていたサユキがとっさに試合会場に駆け寄り、手を振り下ろして二人の間に割って入った。向かい側でその声を聞いたランカースもすぐに反応し、試合会場中央に向けて問いかけた。

「ウルラディール家、一回戦目を棄権とみなします。よろしいですね?」
「ええ。パルフィーは棄権します」

 サユキはランカースの問いに即答した。ランカースはそれを聞いて頷くと大きな声で試合終了を宣言した。バウンズ家側のベンチはその結果を受けて歓喜の声やら、棄権という試合結果への困惑の声が入り混じってざわざわとした。

 それでもこのような試合展開はバウンズ家の計画通りだったようで、まんまと思い通りにパルフィーを封じ込められてしまった。

「一回戦目、パルフィー様、対、バウネの試合はパルフィー様の棄権により、バウネの勝利とします!!」

 パルフィーを心配してサユキが近寄ると両手を上に構えたままのパルフィーが納得行かないとばかりにサユキを横目でジロリと不満げに見下ろした。未だに掌は掌底の形を崩さず、頭上から振り下ろそうと構えていた。

「何も棄権するこたなかったろ!? あのまま行けば間違いなくアタシが勝ってたぜ!!」

 サユキはため息をついて上に掲げられたパルフィーの両手を見つめた。そして、やれやれといった様子で試合は既に終わったのだと言い聞かせて、手をひらひらと下に向けて振ってパルフィーに手を降ろすように促した。

「そういってもアナタ、鼓膜を破る気満々だったでしょう? アナタの耳は普通の人とは構造が違って、治療に手間と時間がかかるの、わかっていて? それに、もしアナタが鼓膜を破って感覚が狂った状態で戦っていたら、加減が聞かずに間違いなく相手を殺していたでしょう」

 パルフィーはそれを聞いて反論する余地がなく、ムスっとしながら手を下ろしてうなだれながらベンチへ歩いていってしまった。サユキはまたため息をついて、その後を追ってベンチへ戻った。

 二回戦の準備を両家がしている間、ランカースが一回戦を振り返るべく試合会場の中心へと前へ出た。途中、バウネとすれ違ったが彼女は優位だったにも関わらず声が震えていた。

「バウネ、よくやってくれたな。弱点を突いても勝てるか怪しい相手だった……」
「ランカース様……アタイ、下手すっと死んでたかもしんねぇ……アイツから確かに一瞬感じ取れたなんともいえねェ不気味な闘気、あんなのは未だに感じたこたぁねぇ……しかも、アイツ、両手を上げた時、あんだけ苦しんでたのに……笑ってやがったんだ。試合にゃ勝ったが、勝負にゃ負けたってヤツだな……」
「本当によくやってくれた。ゆっくり休め……」

 額に大汗をかきながら震えていたバウネの肩を叩きつつ彼女とすれ違い、ランカースは試合会場の中央に立った。

「えー、本来ならば実力の近い格闘の選手をぶつけるのが礼儀かと思ってはいたのですが、残念ながら我家にパルフィー様に匹敵する格闘家は居りません。正直、純粋な力比べでも、格闘技でもパルフィー様に勝つことのできる者は我家には居ないと思いました。今回の人選は苦汁の選択だと言うことをご理解ください。それでは、準備が終わり次第、第二戦目を開始したいと思います」

 そうランカースが言って少し経つと両家から準備の完了を伝える声がかかった。それを聞いて彼は会場の中心から後退りした。

 バウンズ家からは全身鎧のフルプレートメイルと半身をすっぽりと覆う大きな盾を持った大男が歩いてきた。パルフィーよりやや小さいくらいの身長だろうか。

 盾の周囲には刃や突起がついており、武器としても転用できそうだった。それに対し、ウルラディール家からは特に装備品を持たず、一見して丸腰に見えるサユキが会場中央へと進んでいった。2人は向き合うと軽く言葉を交わした。

「失礼だが、か弱そうなお嬢さんだ。だが真剣勝負は真剣勝負。悪いが手加減は一切せんぞ」
「見てくれで判断するなんてナンセンスね。本当は手の内を明かすのは気が向かなくて、適当に戦って勝敗はどっちでもいいと思っていたわ。だけれど、妹分をあそこまで痛めつけられているし、ここで勝たないと我家の敗北確定ですからね。こちらこそ容赦しないわ」

 サユキはそう言うと帯の中に指を入れて扇子を抜き取って優雅に広げた。舞を踊るかのように取り出した扇子を手首を捻って軽く素振った。

 ピシャッっと手に扇子を打ち当ててたたんだり、広げたりを繰り返して手に慣らしているようだった。やがて折りたたむと再び帯の中に扇を潜ませた。

当然、この対戦でもウルラディール家側が弱点を突かれる人選が予想された。しかしそんな状況にも関わらず、レイシーとアレンダは落ち着いていた。
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