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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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凍てつく心に触れるのは

 クラリアはブロンドがかった茶髪と肩からかけたタオルケットをゆらして半身をを軽くテーブルの上に乗り出した。

「私はクラリー、貴女はレイシー……なんてどうかな? レイシェルハウトもステキな名前なんだけど、女の子っぽくないね。なんていうかカッコイイ騎士みたいな名前で。せっかくそんなに可愛いらしい見た目をしているならあたしはそっちのほうが似合うと思うんだけどなぁ~」

 レイシェルはそう指摘されて初めて自分の名前について考えた。そしてそんな事を今まで考えたことはないという事に今更気付かされた。

 レイシェルは思わず眉間にシワをよせて食器を置き、物思いにふけり始めた。しかし、間髪入れず別の話題をクラリアが振った。

「ねぇねぇレイシーちゃん! 東部ではウサギさんとか、カエルさんとか、ムシさんも料理して食べるってホントなの?」

 俯きがちに思いを巡らせていたレイシェルは顔を上げた。聞くまでもない当たり前の事をなぜ彼女が質問してきたのかと不思議に思いながらレイシェルは首を縦に振ってその問に即答した。

「え、ええ。食べるわ。それがどうかして?」
「えええええええええ!? ホントに食べるの!? 特にムシさん!!」

 即答に即答で返されてすぐにレイシェルはハッとしてテーブルの上の料理を眺めて具材を確認した。ウサギやカエルは見た目だけではわからないとしても、東部では当たり前のように食べられている虫類の料理が一切無かったのだ。

「レイシーちゃんもしかして西部にはあんまり来たことがないの? 西部はラマダンザの食文化の影響が強くてウサギさんやカエルさん、ムシさんは食べないんだぁ……。噂には聞いていたんだけれど、本当だったんだね~。ちなみにムシさんにはどんな料理があるの?」

 クラリアの言うことは図星だった。これが初の対外戦で、しかもレイシェルが西部に来るのは初めてだった。おまけにパルフィーのせいでほとんど道中で料理店などに寄ることが出来なかったので、全く食文化の変化に気付かなかったのも無理は無い。

 その様子を見ていて思わずサユキとアレンダは微笑ましく思い、レイシェルとクラリアのやりとりを見守った。

「ソウリョバッタとグレムベジタブルのソテー、ブラウンワームのスライスフリット、ハヤアシアリの塩味カッペリーニ、ナユタオオムカデの姿煮、キョジンダンゴムシの……」
「あ~……もういいよ……美味しそうな料理ばかりね……」

 クラリアははっきりと拒絶反応はしなかったものの、明らかにゲンナリしていた。だが、こういった状況で無闇に相手の食文化を否定しないというところにクラリアの人柄というか性格が出ていた。

 ところどころ勝手に話を進めるきらいはあるが、決して相手を不快にさせたり、傷つけるような発言をしなかったのだ。

 サユキは最初は不躾な娘だなと思っていたが、話を聞いていく内に彼女がレイシェルに対して優しく、気遣いしているのに気づいた。

 これも今までレイシェルと同年代には居なかったタイプだった。押し掛け気味の態度を取りつつも相手の出方を見た上で反応を返すという相手を引き立てるような性格をしていた。

 段々ペースに乗ってくるとレイシェルもまんざらではないと感じ始めたようで、レイシーと呼ばれても戸惑うことはなくなっていった。

 普段、同年代に話す機会が滅多に無かったレイシェルにとってこれは特別な経験だった。彼女はたとえ他愛のない会話だったとしても今まで経験したことがないくらい楽しかった。

 あれやこれやと話題が変わったが、クラリアも汗を拭きながら熱心にそれに応じてあっという間に時間が過ぎた。

 会食が終わる頃になって、レイシェルは「この関係も今日限りのものなのだろうな」と虚無感を感じていた。皆、近づいてくることはあってもどうせ結果的には遠ざかっていってしまう。

 いつもと同じことだと彼女は諦観していた。するとクラリアがこちらに手を差し出してきた。

「私達、”友達”だね!! レイシーちゃんが帰ってからも文通しようよ。そしたら遠くても繋がっていられるよ!!」

 クラリアはタオルで手を拭うと再びテーブルの上に軽く身を乗り出して手を差し出してきた。お世辞にも礼儀が良い振るまいとはいえないが、心温まるようなやりとりに誰もそれを咎めること無かった。

 レイシェルは差し出された手を握り返した。拭いたばかりなのにジトッっとした湿っぽい肌がレイシェルの手に吸い付いた。同時に彼女は自分がいつのまにかポロリと涙をこぼしていることに気づき、慌てて開いた方の指でこぼれる涙をすくった。

 別れたくないがこれっきりで別れなければいけない。そんな気持ちで落胆していた彼女はクラリーの言葉にひどく感銘を受けたのだった。その時、彼女は生まれてきてずっと抱いてきた胸のつっかえのような物が外れたような気がした。

「あれ……レイシーちゃんどうしたの……?」
「な、なんでもないわ。目にゴミが入っただけ。く……ク、クラリー、ありがとう……」

 その様子を見ていたサユキとランカースは2人の間でいざこざなどが起こらなくて本当に良かったとそれぞれ安堵して脱力した。

 バウンズ家側にもレイシェルはキレると恐ろしいという噂が入っていたので、特にランカースは神経質に会食に参加していた。あまりの緊迫感に料理にほとんど手がついていない有り様だった。

 会食が終わるとウルラディール家の者達は応接間に通された。食休みと準備を兼ねてしばらく時間を置いてから親善試合を開始するという旨が使用人から伝えられた。

 外部の者は閉めだされ、部屋に居るのはレイシェル、サユキ、パルフィー、アレンダの4人だけだ。応接間はあまりにも広く、4人居てもスペースが広く余るほどだった。

「レイシー、レイシーですか……」

 サユキが微笑みながらそうつぶやいてレイシェルを見つめた。パルフィーとアレンダもそれを聞いてクスクスと笑った。

 茶化されているように感じたのか、レイシェルは不機嫌そうにスネた態度でメンバーを睨みつけた。単に怒って睨みつけたわけではなく、半分照れ隠しのような雰囲気をしていた。

「なによアンタ達。なんかおかしいワケ?」

 すぐにレイシェル以外の3人は一斉に首を横に降った。3人はその愛称をおちょくったり、馬鹿にするつもりは全くなかった。

 むしろ、その愛称は出来る事のないかと思われていた同年代の友人が出来た事の証だと素直に祝福していた。サユキが一歩前に出て3人の感想を代弁してレイシェルに伝えた。

「レイシー、良い愛称ではないですか。折角ですので、これからは”レイシーお嬢様”と呼ばさせていただきます。レイシェルハウト様でもよろしかったのですが、そちらはやや長いためにお呼びしにくかったので」
「なっ、アンタ、なっ」

レイシーは3人の方を見て、照れからかドギマギしはじめた。その様子はいつもの張り詰めた雰囲気とは異なり年齢相応でとても可愛らしく他のメンバーには思えた。

 レイシーの本質はクラリアの言うとおり至って普通の少女だった。普段の凛々しく険しく、時に見せる狂気は名家の跡取りであるプレッシャーに抑圧されて作られた姿なのだと3人は改めて感じ取った。

 にこやかな雰囲気になったところでアレンダが壁にかかったシックな時計の時刻を確認して、間もなくに控えた本題の親善試合の話をし始めた。アレンダは受け取ったルールの書かれた巻物を広げながら他の3人にそれを伝え始めた。

「えーっとですね。今回の親善試合は1対1の試合を3試合行い、2勝した家の方を勝利とします。ただし、どちらかが先に2敗しても3組全員の試合は必ず行うそうです。戦う順番は先鋒、中堅は自由に決めていいそうですが、大将は必ず次期当主同士で戦うようにとあります。つまり、レイシーお嬢様とランカース様は必ず当たることになりますね」

 アレンダの読み上げるルールを聞いてサユキとパルフィーが順番の相談を始めた。それを見ていたアレンダが2人に申し訳なさげに注意事項を付け加えて伝えた。ウルラディール側からもある提案がなされていたからだ。

「あ、ああ、すいません。これはこちらからの提案なのですが、相手は西部屈指とはいえど、若干私達より格下です。そのためこれは出稽古のようなものでもありますので、ハンデとして誰が誰と当たるか向こうの家が決定することになっています。つまり、サユキ様とパルフィーの順番が入れ替わっても相手は有利な能力を持った選手をぶつけてくるでしょう。なので順番は適当でもかまいません」

 それを聞いた2人はまた軽く話し合いを始めたが、そういうことならば通常通り斬り込み隊長はパルフィーが適しているという結論に達し、先鋒パルフィー、中堅サユキ、大将レイシーと順番を決めた。

 アレンダはウルラディール家の情報部から受け取ったバウンズ家に所属する武士のデータリストを見てどの選手がサユキとパルフィーに当てられるか予測を立てた。

 サユキとパルフィーはしばしば模擬合戦や合同演習などに出ているのでそれなりに分析されている。そのため、間違いなく2人の弱点や、不得意とするところを突いたメンバー編成にしてくる事は明らかだった。

 一応データリストは受け取ったものの、アレンダは実際に当たってみない事にはどうにもならないと判断し、リストを閉じた。そして、注意点にひっかからないような案を考え、シンプルにまとめた。

「間違いなく対戦相手はお二人の苦手なところを突いてきます。そこをかばう戦い方をすると防戦一方に陥って長期戦になってしまう可能性が高くなりますので、いっそ押し切るつもりで攻撃重視で行きましょう」

 そしてアレンダは巻物の最後の項目に目をやった。「試合中、味方は一切選手に助言を出してはいけない」というものだ。

これは戦場で見知らぬ相手と対峙したというケースを想定したルールである。親善試合ではしばしば指定されるルールだが、アレンダはこれを見て渋い顔をした。

 今回の場合、弱点を突く前にこちらから相手の弱点を突いていくことが重要である。だが第三者の迅速な分析を伝達出来ないとなれば、当人は攻められながら相手の弱点を探らねばならない。

「そして……味方がなんらかのアドバイスや助言を与えるのは禁止です。私はアナリスト(分析官)として同伴していますが、今回はこのルールのせいで相手の情報収集しかできません。無責任なようで申し訳ないのですが、突破口は自力で見つけてください」

 そう言いながらアレンダは深く頭を下げた。サユキがすぐにポンポンと肩を叩いてきたのでアレンダが顔をあげるとサユキとパルフィーは自信ありありげな表情で同時に頷いた。

 2人とも高い攻撃力を持っているので形勢が不利になっても全力を攻撃に注げば相手もただでは済まない。いざとなれば相打ち引き分けもやむなしと2人は考えていた。

 押し切るとはつまりそういう事である。アレンダはそれを頼もしく思いながらレイシーの方へ向き直った。

「さて、大将のランカース様についてですが……対戦する前に軽く目についてお話されると思います。その前にさきほど、それに関してサユキ様と色々と推測しました。彼は歩行に杖を必要とされていましたし、確かに目が見えていらっしゃらないはずです。しかし、私達一人一人を判別することが出来ておられた……。何かに似ているなと私達は思ったんです」

 アレンダがそう言ってサユキの方を見て頷いた。サユキが話をまとめるべく続きを語り始めた。アレンダもサユキも確信はないといった様子だったが、それなりに推測は確かな段階へとまとまっているらしい。

「そう、まるで安物のマギ・テレスコープに似ているの。マナの濃度を色で表すサーモグラフィーのようなアレですわね。彼はおそらく私達をマナの波長の違いか何かで認識していたのではないかと。そういう意味では単純に濃度で色分けされるマギ・テレスコープの機能とは異なるんだけれど……」

 レイシーは少し考え込んだ後、マギ・テレスコープの機能を思い浮かべながらランカースの視界を想像した。もし2人の推測が確かならば隠しトラップのような呪文をしかけたりしてもすぐにバレてしまうだろう。

 密かに諸々のエンチャントやアタッチを張ることもできない。下手をすれば魔法の発動タイミングさえ見切られる可能性がある。

 弱点があるとすれば彼が察知することの出来ない死角という事になる。だが、なにしろどの程度の死角があるのかはこちらには見当がつかないので、結局レイシーも戦ってみて探る必要があった。

「強いて言うなら、杖を使わないと歩行がに不自由するという点が死角のカギになるかもしれません……。しかし、見ている限りはほとんど盲目とは思えないレベルで周囲の状況を知覚……」

 話し込んでいると応接間の扉がノックされた。ドアを開けると使用人が深くお辞儀をした。どうやら親善試合の準備が整ったらしく、レイシー達を呼びに来たようだ。

 そういえばどこで戦うのか詳細を聞かされていなかったが、使用人の後をついていくと屋敷の入口の方へ向かっている。やがて玄関について扉を開けた。
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