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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

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寒村に吹く春風

 マーケットそばの裏通りに鑑定店はあった。彼女が鑑定店を訪れるのは初めてだったが、それなりに目立つ場所に看板が立っているので迷うこと無く到着出来た。店の入口に”ライネンテ鑑定協会認定店 バングリ屋”と書いてあった。

 軒下には長老が持ってきていた中でも大きめの瓶などの骨董品がいくつか置かれている。重厚感のあるドアを開けて店に入ると長老が店主に頭を下げて何やら頼み込んでいた。

「頼みます。そこを何とか。あと20万シエール程度上乗せしてもらえませんかの」
「そうは言ってもなァ、持ち込んだ品は確かに骨董品ではあるがさほど市場価値はねェんだよな。村の伝統品みたいだけどよぉ、大切なモンなら無理に売らねぇほうがいいんじゃないかね? これじゃいくら盛っても30万がいいとこだぜ。おっと、お客さ……こんな店に嬢ちゃんが何の用だい」

 アシェリィが見ても事態が思わしくないのが見て取れた。もしかしたら骨董品は大した値段では売れないのではないかという想像しうる最悪のケースだった。

 これには思わず父、バルドーレも困惑した。いくら価値が無さそうだとはいえ、一応村に伝わる品ではあるのでもう少し高く値がつくと思っていたというような様子だ。

「そこをなんとか!! 村の学校の再建のためには前金が50万シエールは必要なんですじゃ!! あと20万、なんとかなりませぬか!?」
「ちょっと待った、勘違いしないで欲しいがこちとらチャリティーじゃねェんだ。ウチにもウチの懐事情がある。おいそれと20万も盛れるワケがねぇ。それに、そんな娘っ子で同情を引こうとするのは卑怯ってモンだ!!」

 交渉の決裂を危惧したバルドーレが2人の間に割って入った。アシェリィは建築物の相場には詳しくなかったが、学校を元の規模で再建しようとするならば50万シエールでは全然足りないことくらいはわかっていた。

 大事にしてきたアンティークを売ってさえその程度の値段にしかならないのだ。一体全体何年かかれば建設費を支払う事が出来るのだろうと彼女は不安に思った。

 同時にこれでは大工ギルドに愛想をつかされるのも致し方ないことだなと子供ながらに悟った。

 結局、骨董品は鑑定店の店主側の価格設定で30万シエールでの売却が成立した。言い合っていた様子からしても、これでもかなり店主側に譲歩してもらったほうだった。

 長老は全部で100万シエール前後は堅いだろうと思っていたらしく、思わぬ結果に酷く落胆していた。もっともそんな妙な自信を持っていたのは長老だけで、これを運んだ多くの村人達はさほど高くは売れないだろうと懐疑的に予想していたのだが。

 しかしそんなことを長老の前で口走るわけにも行かず、皆黙っていたのだ。一行は鑑定店から出た。

「はぁ……この30万シエールと取ってあった村の非常用財源の金額ではでは大工ギルドのツケの分を返すのがいいところじゃ。この金額で大工ギルドが校舎建築へと動いてくれるとも思えん。どうしたもんかのう……」

 長老は立ち止まって頭を抱えて考えこんでしまったが、そうしていても仕方がないのでとりあえず大工ギルドに行ってみようとバルドーレは促した。

 長老は同意したが、その前に近くにある郵便局に立ち寄ってから行こうと2人を誘った。実はアルマ村には郵便局からの郵便物の配達が無い。配達員など人出の問題から配達区域県外なのである。

 そのため、村宛の郵便物は郵便局の預かった物をこうやって街に出てきた者が受け取り、村に持ち帰って配る仕組みになっていた。

 少し歩くと長老は杖を持ち上げてある建物を指した。通りに面したある程度大きくオレンジ色に塗られていて目立つ建物だ。ここがシリルの郵便局で、アシェリィは何回かバルドーレに付いてきて立ち寄ったことがあった。

 大きさは割と大きく、村長の家や学校くらいの大きさはあろうかという建物だ。

そのまま3人は郵便局に入っていった。中では局員達が手紙や積み荷の仕分けに追われている。下働きは一般市民からの雇用がそれなりに居る。

 だが役職持ちは皆、魔術局の郵政課の所属で各地の郵便局に配属されていると学校で習ったことがあった。受付を済ませるとすぐに局員が来て、2人を局長室へと案内してくれた。

 窓口で村宛の手紙を受け取ればそれだけで用事は済むのだが、今回は長老が久しぶりに街に出てきたということもあって、局長へと挨拶することになった。

 案内されて局長室に入ると局長というには見た目の若い青年が椅子に座っていた。若いながらいかにも仕事のできる人物といったイメージの男性だ。忙しげにメモをとっていたが、2人が部屋に通されるのを見てすぐに椅子から立ち上がってお辞儀をした。

「長老さん、お久しぶりです。毎度、村人の方々にはご足労おかけいたしております。して、今日はなにか御用ですか?」

 本来は郵便局にアルマ村まで配達地域を広げてもらうように依頼する権利が長老にはあった。だが、シリルの郵便局は街もそれなりに広く、郵便物も多いので慢性的な配達員不足に陥っているという内部事情も長老は知っていた。

 そのため、この2人が顔を合わせるときは配達地域の話題は出さないという暗黙の了解があった。

 本局で荷物を仕分けたりするスタッフには特別な技能が必要とされないが、迅速にかつ多くの家庭に手紙を配る配達員にはスキルが要求された。

 さすがに街中でウィールネールを乗り回すわけにも行かず、なんらかの移動補助魔法の使い手か騎乗できる動物使い、使い魔などを駆使しないと配達員が務まらないのだ。

 この要求される能力の高さ故にシリルだけではなく、王都やミナレートなどの発展した都市以外の町や村では配達員が不足する傾向にあった。

「いやぁ、何、久しぶりじゃから少し顔を出してみただけじゃよ。これといって用事があるわけでもない。最近の調子はどんなもんかなと思っての」

 局長は額の汗を拭いながら再び椅子に腰掛けて大きくため息をついた。誰が見てもハードな職務に忙殺されているのが見て取れた。一息ついてから郵便局の現状について解説しだした。

「本当に忙しいですね。猫の手も借りたいほどです。ご存知とは思いますが、特に配達員不足が深刻でして。ギリギリの人数で配達を回している状態なのです。他の街や村の郵便局にもヘルプを要請しているのですが、どこも同じような状態で」

局長は眉を顰めながら東部、そして南部の配達員不足について憂いた。普通ならば自分の仕事で精一杯というところだが、彼の視点は国全体の郵便、運輸などの広いスケールに及んでいた。出来る人間だからこその悩みである。

「最近は学生バイトなどを積極的に導入しており、レベルの高い学園のある北部と西部ではだいぶ余裕が出来たようです。しかし、南部、東部にはそういった学園がないので中々苦労しております。しかし……長老さんのほうも大変なご様子で。学校が焼け落ちてしまったと言う話はシリルにも伝わっております」

 長老はそれを聞くとやれやれといった素振りで頭を掻いた。呆れ果てたような様子でその言葉に答えた。

「はぁ……シリルの街中にまで伝わっているとな……どうせ資金不足で再建が滞っているという話も伝わっているんじゃろう。ほんに情けない事じゃて……」

 そう長老が言い終わると背後のドアがノックされた。局長が入るように許可を出すと局員がアルマ村宛の郵便物をまとめた箱を両腕に抱えて部屋に運び入れた。さほど大きくもなく、中身もそれほど重そうには思えなかったのでアシェリィにも持ち運び出来そうな箱だった。

「毎回すいません。これが今回の分です。よろしくお願いします」

 局員がお辞儀をすると局長も申し訳なさげに深く頭を下げた。それを見た長老はすぐに局長に顔をあげるように声をかけつつ、箱の中身を確認し始めた。

 たまにではあるが長老が街に出て来ている時は長老への手紙があった場合にすぐ対応できるよう、受け取ってすぐに郵便物を確認するようにしていた。

 長老は箱のなかの重なった手紙をかき分けていたが、自分宛ての手紙があったようでそれを取り出した。同時にその中で目を引く一通に関心の目を向けた。

「お、レンツ先生からじゃ。局長さん、少し失礼しますじゃ」

 長老は封筒の中から手紙を取り出した。ルーンティア協会公式の封筒に入った魔紙の手紙だ。長老は目を細めながら手紙を読んでいたが、徐々に顔に喜色を浮かべていった。

 クレメンツ親子は興味深そうに長老と手紙を見つめていたが、長老が内容を報告するのを待った。

「2人とも朗報じゃ!! レンツ先生の熱心な要請によって、ルーンティア教会が焼失した学校再建の資金をある程度援助してくださるようじゃぞ!! 来月の鼠閣下の月の頭にはレンツ先生が帰られて、それと同時に教会の方が状況の確認に来られるそうじゃ!!」

 それを聞いてその場にいた全員が喜びと安堵の感情の入り混じった笑顔を浮かべた。長老は思わず額を伝う汗を腕で拭って大きく息を吸ったり吐いたりしていた。

 クレメンツ親子も再建に望み薄だった現状を打破する吉報に向かい合って喜んだ。あまりにも強い緊張や責任感から開放されたからか、長老は後ろによろけるようにバランスを崩した。それをすかさずバルドーレが支えた。

「長老!! 大丈夫ですか!? お体の具合でも……?」
「い~や、あまりの出来事に脱力して腰が抜けてしまっただけじゃ……。歳はとりたくないもんじゃのう」

 長老は流し目で背後のバルドーレを見つめながら手をヒラヒラと振った。すぐに持っていた杖をしっかりと床について、自力で起き上がった。

 本当にただ一時的に腰が抜けただけのようで、バルドーレにもアシェリィにも特に体の調子が悪いようには見えなかった。

 訪ねてからずっとバツの悪そうにしていた局長だったが、最後の最後でいい方向に流れが変わったので彼も他人事とは言い切れない程度には安堵しているように思えた。

 後に仕事も詰まっているようだったし、これ以上無駄に時間をとらせるのも考えものだと思い、3人は笑顔の局長に挨拶をして郵便局を出た。

 どの程度、教会が建設費を負担してくれるか現段階ではわからなかったので、今日のところは大工ギルドには寄らず、そのままウィールネールの引く荷車に乗って3人は帰宅の途へと就いた。

 帰り道では各々が充実感に満ちた様子でいた。早く村人へとこの良い報せを伝えたいとその場の皆が思っていた。荷台に積まれた箱の中で手紙がサラサラと音を立てていた。
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