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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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特製! ヴィヴィッドでカラフルでデリシャスなスープ

「皆揃ったね。じゃあ入ろうか」

 5人はハツ釜亭の店内に入ってウェイターに座敷を案内された。5人がちょうど収まりそうなくらいの広さだった。

 靴を脱いで座敷に上がってしばらくすると店員が来てオーダーを取り始める。学生証を見せて年齢確認をした。

 ライネンテ王国では16歳からの飲酒が許可されている。学院の入学可能年齢は14歳からなので、エレメンタリィ4年目ともなれば全員が酒類を飲める年齢になっている。

「じゃあ~あたしは六角ウサギの紫スープ煮と、新酒のヴァルナぶどう酒で!」

「私は……王国ヒトデのホワイトスープ漬けステーキと、新酒のトロピカルミックスをお願いします」

「僕は八ツ釜特製・魚介スープのスパゲッティと、オレンジジュースで」

「私もオレンジジュースで。あとラーグホウレンソウの水色コトコト煮を」

「俺は大王クラゲの激辛赤ソース煮と古酒のドラゴニカを水割りで頼む」


 さすがにスープが売りな店だけあって、みんな何かしらスープを使った料理を注文した。スープ料理以外の料理もあるのだが、ここにくると誰でも大体スープ料理を注文するという。

 スープを使わないメニューもそれなりにあるのだが、誰もがスープを頼むのは種類が豊富なために、毎回スープ料理でも飽きないためだとか言われている。

 常連によるとスープを使わないメニューの中でもとっておきの隠しメニューがあるらしいのだが、実際に誰もそのメニューを食べているのを見たことが無いために、半ば都市伝説と化している。


「なんだ、おめーらお子様はいつも新酒かぁ。古酒の良さがわかんねぇとはなぁ。哀れなモンだぜ。ファイセルとリーリンカに限っちゃ酒でさえねーじゃねぇか」

 ザティスが肘を低めのテ-ブルについて不満そうにぼやいた。

 ――ミナレートでは主に新酒しんしゅと呼ばれる酒が好んで飲まれている。

 この酒は体内の血中濃度が一定以上になると成分が体外へ蒸発し、飲み過ぎても吐き気や頭痛、酩酊、意識障害、二日酔いなどが起きる可能性が低いのが特徴だ。

 程ほどに酔うことが出来る酒として都会を中心に流行っている。一方、従来の酒は最近では古酒こしゅなどと呼ばれ、新酒では味わえない強い酔いの感覚がある為に古酒は古酒で根強い人気がある。

 田舎などでは酒と言えば未だに古酒の事を指し、新酒を取り扱っていない酒場も多い。


「あたし古酒は相変わらず気持ち悪くなるからダメだわ。都会に出てきて新酒からお酒に入ったクチだし」

 ラーシェはそこそこ飲むほうだが、古酒を飲んでいるのは見たことがない。新酒で十分間に合っていると言ったところだろうか。

「私は古酒好きですけど、外出先では飲まないようにしてますね」

 ザティスが古酒の話題にくいつく。

「おっ、どんな古酒が好みだ?」
「先ほどザティスさんが頼まれたドラゴニカは喉が焼けつくような感じがして好きじゃないですが、ランテアとかプルールあたりの古酒は割とサッパリとしたのどごしで好きですよ」

 一方のアイネは隠れ酒豪で、飲みすぎるとベロンベロンになるので家でしか古酒は飲まないという。たまに打ち上げで飲んでいるのを見かけるが、ひどく酔う気配はなくちょっとやそっとの量ではビクともしない。

 ベロンベロンになるといいつつザティスよりはるかに酒に強いのではないだろうか。ちなみに自宅には古酒が常備してあるらしい。

「それにしてもおめぇらだよおめぇら。もうすぐミドルだってのにいつまでもジュースなんか飲んでたら興ざめだぜ」

 ザティスはファイセルとリーリンカを指差してまたぼやいた。

「まったく、お前はそうやって打ち上げのたびに同じ説教をしてるぞ。まだ酒も飲んでないうちから絡んでくるんじゃない。酒自体が嫌いな奴だっているんだ。少しは考えろ」

 リーリンカが至極当然なツッコミを入れた。

「へいへい……」

 ザティスは懲りずにファイセルの方に向き直って話題を振ってきた。

「で、ファイセルのぼっちゃんは何で飲まないのかな?」
「いや、一時期飲んでみたこともあるんだけど、お酒で酔っぱらう事の何が楽しいのかわからなくってね。それ以来、全然飲んでないや」

 ファイセルは飲酒になんの楽しみを見いだせないといった表情でそう言った。

「酔っぱらう事の何が楽しいって……そりゃ酔う事自体が楽しいに決まってんだろ。かーっ、ファイセルさんは哲学的でいらっしゃる」

 ザティスは大げさに掌を額に当ててやれやれといった感じに首を左右に振った。

そうこうしているうちにテーブルに料理と飲み物が届き始めた。

「では、今回のリーグ模擬戦の優勝を祝って乾杯しよう! 今回もみんなよくやってくれたね。クラス代表を目指して二学期も頑張ろう!! 乾杯―!」

 全員がグラスを軽くぶつけ合って打ち上げが始まった。テーブルに笑顔が満ちる。食事をしながら雑談に花が咲いた。

「最終戦のブレードダンサーはマジで厄介だったわ。剣の軌道が全く読めなくってさ~」

 ラーシェが身振り手振りを交えながら対戦相手の厄介さについて説明する。

「またまた~、そんなこと言ってあっさり剣をへし折ってたじゃないですか~。殆ど攻撃も避けて、あんな浅い傷だけなのが信じられないくらいですよ。あっという間に傷をふさげましたし」

 アイネは今回の模擬選でもラーシェが派手に暴れた事について改めて驚いているようだった。

「まぁ対刀剣類は十八番だからね~。あのくらいで深い傷負ってたらやってられないよ」

 ラーシェは腕まくりをして得意げに語った。普通、格闘をメインに戦うファイターは大なり小なり治癒前の刃物傷などが肌に残っている場合が多いが、ラーシェの肌はほとんど無傷だ。話の通り、その俊敏性から攻撃をほとんど避けている様がうかがえる。

「いや~、それにしてもこの間、コロシアムでウィザードをコテンパンにのしてやったのは中々痛快だったぜ」

 ザティスが上機嫌でそう語った。

「お前未だにウィザード連中に八つ当たりしてるのか……意外と陰湿なんだな」

 リーリンカは侮蔑するような目をしてザティスにそう言い放った。

「陰湿とはなんだ陰湿とは! 過去の自分との決別と言ってもらおうか」
「どうだか」

 ザティスはそれっぽい理屈をこねるが、正直これはファイセルもただの八つ当たりだと思っている。二人の言い合いをよそに、ファイセルは魚介スープのスパゲッティを味わっていた。

(ふむ、イカとエビのプリプリがたまらないな……クラゲとヒトデの風味が混ざってこれも中々…)

 食事に熱中しているファイセルの着ている制服を見て、アイネが声をかけた。

「ところでファイセルさん、今回の模擬戦でまたずいぶん学生服の上着に傷がつきましたね」

 ファイセルは食事を食べるのを止めて、自分の制服を改めて見てみた。あちこちが解れていて、雑に縫われた跡がいくつかある。遠巻きに見ても目立たないが、同じ座敷に座っているとさすがに目につく。

「名誉の負傷ってとこかな~。一応、デカい傷は繕っておいたけど、近くで見たらボロボロだよ。新品に買い替えてもいいんだけどこいつは2年の時から使ってて愛着があるからね」

「裁縫か……お前その様子じゃあんまり裁縫得意じゃないだろ?」

 制服をみたリーリンカはすぐに雑な縫い目に気づいたようで、一目で裁縫が得意でない事を見抜かれてしまった。

「え?バレた?やっぱ服屋に持って行って縫ってもらうかな。でも学生服は素材が特殊だからお店に修復を依頼すると割と高めになっちゃうんだよね。2万シエール近くかかることもあるし」

ファイセルは苦笑いしながら制服のほつれを指でなぞった。

「私が繕いましょうか?」「私が縫ってやろうか?」

 アイネとリーリンカが同時に答えた。いかにも家事全般が得意そうなアイネと意外にも裁縫は得意だというリーリンカ。そんなのは初耳だが――

「それは助かるな。でも帰省中も上着は使いそうだから後で頼む事にするよ」

 どちらかに頼むかすぐに決めるのが難しかったので、ファイセルは適当に流した。帰省中に使うというのも本当の話であるし。

 自分で帰省と言って思い出したが、他のみんなの予定はどうなのだろうかと疑問に思い、ファイセルはチームメイトに話題を変えて休暇の予定について振ってみた。

「あ、それはそうとみんなは今回の休暇の予定は?僕は2年ぶりに帰省するんだけど」

とりあえず、まずは自分の休暇予定をみんなに話す。ザティスがグラスをこちらに向けながら曖昧な記憶を引き出すようにして聞いた。

「おめぇの故郷ってアレか。南部ラーグ領のシリルだっけか? ドラゴンバッゲージ便を使っても最寄りの街からかなり距離があるんじゃねーか?」

 ――ドラゴンバッゲージ便
国内のいくつかの都市同士を結ぶ乗り物で、大型のドラゴンが運ぶ大きなゴンドラに乗って空を飛ぶ定期便だ。

 値は張るが、庶民が使える中では最も速くて安全な交通手段であり、遠距離旅行する際にはよく使われる。

 王国の魔術局、交通・運輸課が管理しており、腕利きのドラゴンテイマーやドラゴンサモナーを雇って運営されている。両者ともに高等な技術を駆使するため、ドラゴンバッゲージ便の運転手はかなり高給取りらしい。

 基本的に人をゴンドラに乗せるタイプのドラゴンはずっしりとして安定した体の大きい通常のドラゴンだが、速達の荷物などは中型の翼竜、ドレークが運ぶことが多い。

 ドレークに人が乗れない事もないのだが、乗りなれないと激しい揺れや高速な飛行速度で酔ってしまうという。

 ちなみにリジャントブイル精鋭の生身で空を飛ぶ集団、フライトクラブがドラゴンバッゲージ便と競争したことがあったが、通常のドラゴンに比べて小回りの利くフライトクラブの圧勝だったようだ。

 ただ、ドレーク相手だと訳が違い、瞬間速度では勝っても持久力ではかなわず、高速で飛び続けるという面ではドレークには負けている。


 ファイセルは首を横に振ってザティスの方を横目で見ながら言った。

「それがね、前回はドラゴンバッゲージを使ったけど、今回はちょっと寄り道しなきゃだからほとんど徒歩で行くんだよ」

 それを聞いてファイセルを除くその場の全員が驚いているようだった。

「シリルまで徒歩だぁ!?ちょっと寄り道どころじゃねぇじゃねぇか。また酔狂な帰省手段だな。帰省ってよりほとんど冒険だろ」

 ザティスは今にも「バッカじゃねーの」と言いそうな表情でこちらを見ている。

「まぁ寄り道せずに行けばミナレートからシリルまで半月くらいで着くから用事を見積もっても一月はかからずに着くと思うよ」

 その発言にまたもやファイセル以外の全員がその狂い気味の距離感覚に唖然としたようだった。

「あ、あはは……。みんなあんまり長距離旅行とかしないのかな……?」

 ようやくファイセルが場の空気を読んでさすがにこれは常識外れだったかなと思い、それとなくチームメイトにも聞いてみるが首を縦に振る者はいなかった。

「まぁアレだ。帰れる故郷があるだけいいと思うぜ。俺なんか留年しすぎが祟って一族から縁を切られちまったからな。帰る場所はここしかねぇのよ」

 珍しくザティスが寂しげな表情を浮かべた。一気に気まずくなりそうだったのでラーシェがそれを遮るように提案する。

「ま……まぁ、ファイセル君が無事に行って帰って来られることを祈ってるよ。みんなで見送りとかしようか?何時くらいに出るの?」

 ファイセルは顎に手を当てて考え込んでいたようだがすぐに結論を出した。

「旅は初日が大事だからね。気合を入れて朝5時にはルーネス通りの町外への門をくぐると思う。さすがに早いから見送りはいいよ。みんな寝てるだろうしね。で、他のみんなは?」

他の仲間の近況も知っておこうと更にファイセルは事情を聞いて見ることにした。
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